骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-06-26 21:06


映るのは車中のトム・ハーディのみ、至極のサスペンス『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』

平凡な男の人生最大の決断を描く密室劇、撮影8日間で完成させたスティーヴン・ナイト監督語る
映るのは車中のトム・ハーディのみ、至極のサスペンス『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

平凡な男がある夜突然ふりかかったトラブルを解決しようと四苦八苦する姿を、ハイウェイの車中86分間というワンシチュエーションで描く映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』が6月27日(土)より公開される。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『チャイルド44 森に消えた子供たち』と主演作が相次ぐトム・ハーディが、同僚や家族との電話を通じて緊急事態に対処する建設会社の現場責任者アイヴァンを演じている。

今回は、監督&脚本作『ハミングバード』のほか、デヴィッド・クローネンバーグ監督『イースタン・プロミス』の脚本を手がけたことで知られるスティーヴン・ナイト監督が制作の経緯について語ったインタビューを掲載する。

どこにでもいるような男に、
どこにでも起こるようなことが起きる

──今作はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

2012年の終り頃、処女監督作『ハミングバード』の仕上げの作業にかかっていた時だった。余分な要素をすべて捨て去った、基礎だけで物語を構成したらどうなるか。大勢の人を部屋に入れて灯りを消し、スクリーンに映るものが何であれみてもらうのはどうかという考えがあった。

映画を作るときに考えるのは、登場人物が辿る遍歴や、心の軌跡といった事柄だが、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』では、それらすべてを要約した核だけにしたかった。今回の作品における遍歴とはまさに主人公が物理的に移動することであり、軌跡とは本当に彼が置かれている状況の変化を表している。ひとりの人物の仕事、家族、妻の話から始まり、旅の終わりまでリアルタイムで進む。そして最後に、彼には何も残らないというような話だ。

映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』スティーヴン・ナイト監督
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』スティーヴン・ナイト監督

それから『ハミングバード』で、アレクサ(デジタルシネマカメラ)を使用して動いている車から撮ったカメラテスト映像にインスパイアされたことも、この作品のコンセプトが誕生した要因だった。心を奪われた、夜の街や道路が美しくて、何時間も見ていられると思った。それがきっかけで、一台の車の中だけで全てが起こる話を撮れないかと考え始めたんだ。

そのアイディアを基に、私は2012年のクリスマスの間に脚本を書き上げた。どこにでもある悲劇のようなものになってほしかった。どこにでもいるような男に、どこにでも起こるようなことが起きる。カーチェイスやエイリアンの侵略はないけれど、巻き込まれた人たちには大きな悲劇となる、という物語だ。

映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

──ビルの建設と人生の崩壊に直面する主人公のアイヴァンというキャラクターはどこから生まれたのですか?

その過ちが……もしそれを過ちだとするのであればの話だが……ある人の人生をいかに完全なる崩壊へと導くのかをこの作品は探求する。その崩壊はビルの取壊しや破壊に似ていると思った。この平凡な男が非常に現実的かつ堅実的な仕事をしていたというアイディアがとても気に入ったんだ。

実は、何年も前のことだが、ビルの建設現場で働いていたことがあるんだ。コンクリートが届く時には、全てを準備万端にしておかなければならない。間違った場所に流してしまったら大惨事だからね。それから、アイヴァンのキャラクター造形にために、ロンドンブリッジに建てられた高層ビル・シャードの現場のシニアプロジェクトマネージャーの話も聞いた。

トム・ハーディは自分が格好よく見えすぎることを嫌っていた

──主人公にトム・ハーディを起用した理由は?

様々な候補が挙がったが、私としては、トム・ハーディが一番だと思っていた。そうしたらこの映画のために2週間時間を作ると約束してくれた。

トム・ハーディはスクリーンに映るとすぐに観客の目を引き付けることのできる俳優のひとりだ。観客は、ハーディが頭の中で考えていることをみてみたいと思うんだ。彼はとても複雑なリアクションや感情の表現にとても卓越していて、必要な時はその表現を続けてくれるし、不要な時にはやめてくれる。演技のタイミングをわかっていて、それがとても素晴らしい。

トム・ハーディは怪物でも悪魔でもない、ただの普通の男だ。髭があることで、より普通の男の印象が増した。トムは自分が格好よく見えすぎることを嫌っていた。アイヴァンをウェールズなまりをしゃべる男にしょうというのは彼のアイディアだったが、そのなまりはとてもニュートラルなので、アイヴァンという役にとてもぴったりだった。都会の威張った口調がなくてよかった。

映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

──たった8日間の撮影期間で、しかもハーディとの撮影はその内6日間だけだったそうですね。

頭から終わりまで映画全体を毎晩撮影するというやり方は、役者に都合が良くて、ハーディーはとても気に入っていた。役者は、役に入り込むために長い時間を欲しがる。通常、映画を撮る時、ここのセリフを言って、次はここのセリフを言ってとなるので、とても難しい。でも、今回のやり方だと、役を掴む時間がある。

『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』の撮影は、8週間も拘束するようなものではない。現場に行って、撮影に取り掛かって、終わらせて、帰る。人というのは、ゴールが見えるとその短期間で全てを出し切るもので、演者から素晴らしい演技を引き出すことができた。

──スクリーンに映るのはトム・ハーディのみですが、ルース・ウィルソンやオリヴィア・コールマンなど、電話の声として出演する俳優陣も豪華ですね。

この作品の夢のキャストリストを作っていたけれど、結果ほぼみんな揃えることができた。車に一人で乗って運転していると、ある種の“孤独感”がある。車に一人で乗っている時、人は奇妙な行動をとる。ひとりで歌ったり、独り言を言ったり。その瞬間の孤独を捉えたかった。電話の向こう側の声が孤独の中に入り、その人の人生が変わるというようにしたかった。

アイヴァンの妻カトリーナを演じるルース・ウィルソンは見事な演技をみせてくれた。カトリーナの声がすると、カトリーナの顔が浮かんでくる。彼女のいるベッドルームや子供たちなど家庭の状況までも想像できる。

トムを含めて全ての役者に「演劇だと思ってやって欲しい。何か問題が起こったら舞台の上にいると思ってその場で対処するように」と伝え、彼らは見事にやってくれたよ。

映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

──そして、夜のハイウェイを走る車を捉えるハリス・ザンバーラウコスのカメラも素晴らしかったです。

アイヴァンの乗るBMWに、3台のRED EPICデジタルカメラ(フル解像度で1秒間に1~120フレームをキャプチャ可能な5Kセンサを搭載する次世代デジタルカメラの先駆け)を様々な場所に取り付けた。37分間記録可能なメモリーカードを使用し撮影した。

私はザンバーラウコスが撮影した映像に興奮した。私は『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』を、音量を消して見ても映し出される光や動き、夜の高速道路に見入ることができるようなものにしたかった。ハリスが撮った映像はとても自然に見える。本当に素晴らしい仕事をしてくれたよ。

(オフィシャル・インタビューより)



スティーヴン・ナイト(Steven Knight) プロフィール

1959年、イギリス・マールボロー出身。大学で英文学を学んだ後、広告代理店やラジオ局でコピーライター、プロデューサーとして働く。TV向けの脚本を数多く手がけ、国際的に大ヒットした「クイズ$ミリオネア」にも参加。長編映画の脚本としては2作目となる、スティーヴン・フリアーズ監督の『堕天使のパスポート』(02)でアカデミー賞、BAFTA、ヨーロッパ映画賞で脚本賞にノミネートされ、英国インディペンデント映画賞を受賞。続くマイケル・アプテッド監督『アメイジング・グレイス』(06)、およびデヴィッド・クローネンバーグ監督『イースタン・プロミス』(07)でも数々の賞にノミネートされる。『イースタン・プロミス』は、カナダのジニー賞で最優秀脚本賞を獲得し、BAFTAで最優秀英国映画にノミネートされた。また、2012年には、ジェイソン・ステイサムを主演に迎えた『ハミングバード』で、「長年の夢だった」という監督デビューを果たす。本作は『ハミングバード』に続く、監督2作目となる。




映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』
6月27日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より © 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

夜のハイウェイ。アイヴァン・ロックはある場所へと車を走らせていた。妻カトリーナとの間に二人の子供に恵まれ、建築現場監督としてのキャリアも評価され、順風満帆な生活を送っている。大規模なプロジェクトの着工を翌日に控え、その夜は家族と一緒にサッカー観戦をする予定だった。しかし、一本の電話が人生のすべてを賭ける決断を迫る。愛する家族、仕事仲間、そして過去に一度だけ関係を持った女性──。刻一刻と彼を取りまく世界が崩壊へと向かう中、なんとか大切なものを守ろうとするアイヴァンだったが……。ハイウェイの果てに待つのは、破滅かそれとも希望なのか──。

監督・脚本:スティーヴン・ナイト
製作総指揮:ジョー・ライト
出演:トム・ハーディ、ルース・ウィルソン、オリヴィア・コールマン
撮影:ハリス・ザンバーラウコス
編集:ジャスティン・ライト
2013年/イギリス・アメリカ/英語/86分/STEREO/シネスコ
原題:Locke
日本語字幕:安本熙生
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

公式サイト:http://www.onthehighway.net/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/オンザハイウェイ/739535839499167
公式Twitter:https://twitter.com/locke_jp


▼映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』予告編

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