骰子の眼

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2015-06-25 22:07


セイウチ人間より辛くない!想像力で現実は変わる!『Mr.タスク』『天の茶助』Wレビュー

ケヴィン・スミス & SABU、音楽家・松本章がユーモラスでファンタジックな両監督の新作を分析
セイウチ人間より辛くない!想像力で現実は変わる!『Mr.タスク』『天の茶助』Wレビュー
写真左:映画『Mr.タスク』 ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved. 写真右:映画『天の茶助』 ©2015『天の茶助』製作委員会

役者の演技・人間味が荒唐無稽な面白さだけに終わらせていない
『Mr.タスク』

思考が低予算になり現実に負けそうな時に映画『Mr.タスク』(ケヴィン・スミス監督・脚本作/出演:ジャスティン・ロング、マイケル・パークス)を鑑賞したのです。

お話は、ポッドキャスト番組の取材で、カナダを訪れたウォレス(ジャスティン・ロング)は「自分が体験した不思議な話を聞いてほしい」というカナダの謎の老人ハワード(マイケル・パークス)へインタビューに行くのです。「セイウチに命を助けられた」という信じがたい老人の話を聞いている最中、眠り込んでしまうウォレス。それは彼を“セイウチ=Mr.タスク”として人体改造するために老人が仕掛けた、恐るべき計画の始まりだった……。一方、友人のテディ(ハーレイ・ジョエル・オスメント)と恋人のアリー(ジェネシス・ロドリゲス)がウォレスの足跡をたどっていた……。

映画『Mr.タスク』より c2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

人間がセイウチになれるか?その思いを強く持つ人が、他者をセイウチに改造したらどんな世界が広がるのか?こんな突拍子もないアイディアを映画化したホラー映画なのです。

この奇妙な物語のアイディアのきっかけは、監督がインターネットで「セイウチスーツを作ったから自宅のプールでそれを装着し餌をやらせてくれたら、部屋の入居代は不要」という広告を監督が読み、想像を膨らませ脚本を書いたのです。

映画『Mr.タスク』より c2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

静かな狂人の家で、老人の狂気の夢(セイウチ化)に巻き込まれるウォレスを描くだけなら、しつこく老人の倒錯したセイウチ化への計画とセイウチ化されたウォレスとのある種願望を叶えた生活(性的なものを含め)を描いたのかもしれない。しかしこの映画は、人体改造の恐怖は描くが、その合間にブラックユーモアを交え、単なるホラーでない不思議な感覚の映画になっている。後半のアリーとテディーがウォレスを捜索する時に協力してくれる泥酔探偵は老人を調べていくのですが、独特のユーモアで映画の空気も変わりホラーパートと絶妙なバランスで成立しているのでした。

映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved
映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

セイウチ化のシーンは特殊メイクががんばっているので、あの手作り感が好きな人はかなりツボにはまるのです。映像で出た瞬間は何故か笑ってしまったのです。それから、セイウチ化したウォレスと老人が戯れる様なシーンがあり、そこも何故か笑ってしまったのです。想像を超えるから笑えるのかもしれないのですが。

面白い以外に意味のなさそうなアイディアを、物語にしてホラーとユーモアが絶妙に混ざった映画にする監督の手腕に驚いた作品なのでした。想像の世界を構築する役者の演技・人間味がこの映画の世界を荒唐無稽な面白さだけに終わらせていないように感じたのでした。

ラストシーンで落ち込んだのですが、ウォレスが結果としてとった正義の行動は、ある意味英雄だけれども、悲哀を強く感じたのでした。

まさにチャンプルー、運命と人生を変える事の力強さを描く
『天の茶助』

セイウチ人間の哀愁を感じて考え込みすぎたので、映画『天の茶助』(SABU原作・脚本・監督作/出演:松山ケンイチ、大野いと)を鑑賞したのです。

物語は、天界では無数の脚本家が、下界の人間達の「シナリオ」を書いていて、人間達はシナリオどおりに運命を全うしているのです。茶番頭の茶助(松山ケンイチ)は脚本家たちに茶を配りながら、人の運命に興味を持ち、口のきけない清純な女性・新城ユリ(大野いと)に惹き付けられる。

そのユリが事故で死ぬ運命に陥ってしまったことを知る茶助。ユリを救うにはシナリオに影響のない天界の住人・茶助が自ら下界に降り、彼女を事故から回避させるしかなかった……。

映画『天の茶助』より c2015『天の茶助』製作委員会
映画『天の茶助』より ©2015『天の茶助』製作委員会

SABU監督が原作の小説を書き、自ら脚本と監督を務めるファンタジックな作品。冒頭の天界での無数の脚本家のやり取りが、実際の脚本を作り上げる思考錯誤を感じるシーンから始まり、登場人物の過去を語るシーンは、脚本の登場人物のキャラクター設定を読んでいるようだったのです。これは映画の脚本を書いているからできる物語の設定なのだと感じたのです。茶助が降り立つ地上は沖縄なのですが、綺麗な海や亜熱帯の密林のような山間部でなく、なんでもない地方都市の町並みの商店街で、昭和の匂いが強く残っているのでした。しかしながらエイサーが賑やかに音楽を奏で踊っているので、沖縄のエキゾチックな不思議な空気を感じるのでした。白塗りの静かなエイサーは初めて見たので強く印象に残ったのです。

映画『天の茶助』より c2015『天の茶助』製作委員会
映画『天の茶助』より ©2015『天の茶助』製作委員会

茶助を助ける為に地上で出会い味方になる登場人物の設定はかなり過剰な設定で、その人物を主役に映画が撮れそうなぐらい波瀾万丈なのでした。波瀾万丈すぎて茶子は特に笑えたのでした。天上からの脚本の変更を文章で説明するのはややこしいのですが、スムーズにテンポよく進んでいきクスクス楽しめるのでした。茶助役の松山ケンイチが天使の羽を付けるのですが、髪型がパンチパーマで、その羽の付け方に安心して笑えたのでした。真面目に日本人が天使の羽を付けると似合わなくて滑稽な感じがするのですが、パンチパーマに天使の羽は不思議とすんなり観れたのです(西洋キリスト教圏では出ないアイディアかも知れないけれど)。しかしながら違和感無くその後も観れる(少年的なひたむきさも違和感がなかった)ので、松山ケンイチは不思議な魅力があるのだと感じたのでした。

映画『天の茶助』より ©2015『天の茶助』製作委員会
映画『天の茶助』より ©2015『天の茶助』製作委員会

撮影・照明も工夫されていて、現実からファンタジーになるシーンは光も色もロマンチックであったり、茶助の疾走シーンはいろんな工夫が凝らされた力のある映像だったのです。

映画のクライマックスで、救済に関する非常にシリアスな問題と迫る個人の運命・エイサーなど、まさにチャンプルーなクライマックスの後の静寂のシーンを観て、この映画はラブストーリーだったんだと思い出したのです。それぐらいユーモアに溢れていたのでした。

いろいろ詰まった入り組んだ作品なのですが、テーマは非常にシンプルで、運命と人生を変える事の力強さを楽しめたのです。監督の強く、優しい思いを感じたのでした。

結論!両作品とも想像力あふれる作品なのですが、『Mr.タスク』がホラーなファンタジー、『天の茶助』はロマンチックなファンタジーで、両作品ともユーモア(『Mr.タスク』はブラックユーモアだけど)が絶妙に織り込まれており、映画の引用も効果的に使っており、映画愛を感じたのでした。現実は、厳しく残酷なのですが、溢れる自由な想像力で心は刺激を受け、より良い想像力で現実が少し変わればなーと思ったのでした。セイウチ人間より辛くない!より良い思いで現実は変わる!!

(文:松本章)



【映画『Mr.タスク』を観て思い出したキーワード】
・映画『死霊のはらわたII』(サム・ライミ監督)
・映画『ザ・フライ』(デヴィッド・クローネンバーグ監督)
・映画『狼男アメリカン』(ジョン・ランディス監督)
・映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(ロバート・ロドリゲス、 サラ・ケリー監督)
・映画『悪魔のいけいえ』(トビー・フーパー監督)
・小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(メアリー・シェリー著)
・TV『仮面ライダー』

【映画『天の茶助』を観て思い出したキーワード】
・映画『素晴らしき哉、人生!』(フランク・キャプラ監督)
・映画『ベルリン・天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース監督)




(文:松本章)

■松本章(まつもとあきら)プロフィール

1973年生まれ、大阪芸術大学映像学科卒。東京在住。熊切和嘉監督作品、山下敦弘初期作品の映画音楽を制作に係る。これまでに熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』、内藤隆嗣監督『不灯港』、山崎裕監督『トルソ』、今泉力哉監督『こっぴどい猫』、内藤隆嗣監督『狼の生活』、吉田浩太監督『オチキ』『ちょっと可愛いアイアンメイデン』『女の穴』『スキマスキ』などの音楽を担当。




映画『Mr.タスク』
7月18日(土)より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント(レイト)ほかにて公開

監督・脚本:ケヴィン・スミス
出演:ジャスティン・ロング、マイケル・パークス、ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジェネシス・ロドリゲス
2014年/アメリカ、カナダ/102分
字幕監修:高橋ヨシキ
原題:Tusk
提供:パルコ、ハピネット
配給:武蔵野エンタテインメント

公式サイト:http://kibasan.jp/

映画『天の茶助』
6月27日(土)より全国ロードショー

監督・脚本・原作:SABU
出演:松山ケンイチ、大野いと、大杉 漣、伊勢谷友介、田口浩正、玉城ティナ、寺島進
2015年/日本/105分
配給:松竹メディア事業部/オフィス北野

公式サイト:http://www.chasuke-movie.com/

▼映画『Mr.タスク』予告編

▼映画『天の茶助』予告編

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