骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2015-06-23 21:20


ALSと闘いながら完成させたグラッツァー監督生前インタビュー『アリスのままで』

若年性アルツハイマー患者を演じるジュリアン・ムーア、アカデミー受賞作
ALSと闘いながら完成させたグラッツァー監督生前インタビュー『アリスのままで』
映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.
  

若年性アルツハイマーと宣告された50歳の言語学者の葛藤と、彼女の家族との関係を描く映画『アリスのままで』が6月27日(土)より公開となる。主人公のアリスをジュリアン・ムーアが演じ、本年度のゴールデン・グローブ賞ドラマ部門とアカデミー賞の主演女優賞に輝いた。

リサ・ジェノヴァのベストセラー小説を原作に脚色・監督したのは、実生活のパートナーでもあるウォッシュ・ウエストモアランドとリチャード・グラッツァー。グラッツァー監督は2011年にALS(筋委縮性側索硬化症)と診断をされながらも本作品の製作に取り組み、現場では、i-Padを用いてスタッフやキャストへの指示を出しながらの撮影となっていた。グラッツァー監督は4年間の闘病の末、米時間の3月10日に63歳で亡くなった。今回は生前のグラッツァー監督、そしてウェストモアランド監督のインタビューを掲載する。

コミュニケーションがうまくできなくなった後も、人格は失われない

──最初にリサ・ジェノヴァの原作を読んだとき、どのように感じられましたか?

 

ウォッシュ・ウェストモアランド(以下、ウェストモアランド):説得力があり、リサ・ジェノヴァの率直で偽りのない文章は感情的にも理解しやすかった。読み続ける中で、これを映画にするならば、この快活さと遠慮のなさをそのまま生かすべきだと悟った。

映画『アリスのままで』監督
映画『アリスのままで』ウォッシュ・ウェストモアランド監督(左)、リチャード・グラッツァー監督(右)

──ALSと闘いながら映画を作るのは大変でしたか?

リチャード・グラッツァー(以下、グラッツァー):しゃべれない状態で映画を作るというのはとても興味深かった。発する単語を慎重に選ばないと舌を噛むから。 自分の意見の内容が制作のスピードを落とす価値があるかどうかを判断しながら進めなければいけなかった。ウォッシュがいて自分は本当にラッキーだと思った。

──今作のテーマであるアルツハイマー病が進行しても、人格は失われないと思いますか?

 

ウェストモアランド:『パーソナルソング』という、iPodと音楽を使った治療についてのドキュメンタリーがあるけど、その映画には、緊張病の人が健常者のような状態に戻る様子の映像が収められている。もう何年もコミュニケーションができなかった女性が、歌を歌い始める映像はとても有名だ。それこそがこの映画でも伝えたいことなんだ。コミュニケーションがうまくできなくなった後も、人格は失われない。この映画は、良い意味でぼくの心を乱した。撮影が終わった後、涙が出たよ。

──アリス役のジュリアン・ムーアが素晴らしかったです。

ウェストモアランド:考えれば考えるほど、完璧な配役だと思えた。ジュリアンなら溢れんばかりの知性と、複雑さを要する言語学教授という難しい役どころはもちろん、病気が進行した後の無力さ、単純さまでも表現できる。ジュリアンがいれば、衰えていくアリスのすべての面を完璧に描写できるだろうと思った。ジュリアンの演技を観ていた時、彼女が出演した映画『Safe』(邦題『ケミカル・シンドローム』)を思い出した。トッド・ヘインズが監督した映画で、その作品と本作は、両方とも人々と距離ができて孤独を経験するキャラクターの話なんだ。

映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.
映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

──本作は、ご自身の経験との共通点が多いようですね。

ウェストモアランド:撮影の準備のために、ロサンゼルスにリチャードを置き去りにしてニューヨークに行った。そして、ニューヨーク入りした彼に会ったときには、リチャードは2本指でタイプが出来る以外は、腕や手を動かせなくなっていた。この作品をやることになった時、この映画で語る内容は、ある意味、ぼくらの実際の人生に起きていることとオーバーラップしていると思った。家族が感じることや、リチャードのサポートを通して経験することとかね。だから、本作を作ること、この映画で伝えたいことは、ぼくらにとってとても意味のあることだったんだ。

──アレック・ボールドウィンの出演はジュリアンのお陰だそうですね。

ウエストモアランド:アリスの夫役候補としてリストアップした俳優に次々と当たっていたとき、ジュリアンが「アレックにきいてみますね」と言ってくれた。本作は、彼がこれまで見せたことのない側面を見せたと思う。彼は、コメディものや、ヘビーな役ではなく、今回のように自分の人生や家族に悩まされる平凡な男を演じたいと思っていたと話してくれた。アレックは本当に素晴らしい仕事をしてくれたんだ。

映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.
映画『アリスのままで』より、アレック・ボールドウィン(左)とジュリアン・ムーア(右) © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

クリステン・スチュワートとジュリアン・ムーアの演技は
魔法を見ているようだった

──アレック・ボールドウィンが演じた夫ジョンは、病気が進行した妻アリスと距離を置くようになりますが、それについてどう思いますか?

ウェストモアランド:ジョンは、愛人ができたとかそういうのではなく、自分のキャリアを重視してしまった。劇中、彼はどこかに出かけているか、電話に出ているか、ほかの部屋で仕事をしているかだ。彼自身、自分のキャリアと家族との間で人生を揺さぶられているのを見て取れる。アリスとの結婚生活は、ピンポンのラリーと一緒だった。

冒頭彼は、「これまで会った中で、最も美しく、頭の良い女性」という言葉でアリスを賞賛する。ところが、病気の進行と共に、アリスの知性が失われていくのを目の当たりにする。それによってジョンは、結婚生活を保つのがどんどん難しくなってしまっていった。だからジョンは、愛人を作るのではなく、人生に刺激を与えてくれる仕事に打ち込むようになってしまっていった。ジョンが、キャリアアップとなる新天地にアリスを連れて引っ越そうと思った時、彼は、アリスはもう自分がどこにいるのかさえ分からないのだから、どこに行こうが構わないと思ってしまったんだ。でも、我々観客は、娘のリディアと同じように考えた。「アリスはここ、慣れ親しんだ自分の家にいるべきだ。この家で彼女をケアすべきだ」とね。

映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.
映画『アリスのままで』より、クリステン・スチュワート(右)とジュリアン・ムーア(左) © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

──それでは、アリスの次女を演じたクリステン・スチュワートとの仕事はいかがでしたか?

グラッツァー:クリステンとの仕事は、まるでマーロン・ブランドと仕事をしているみたいだった。思いやりがあり、勇敢で正直。彼女は絶えず自分を疑うので、自分がどんなに素晴らしいかに気づく最後の人なんだ。だから彼女は天才なんだと思う。

ウェストモアランド:クリステンとジュリアンが台本の読み合わせを初めてした時、まるで魔法を見ているようだった。私とリチャードはふたりとも「ケミストリーだ!魔法だ!」って思ったよ。

(オフィシャル・インタビューより)



リチャード・グラツァー、ワッシュ・ウェストモアランド プロフィール

グラツァーはヴァージニア大学で英語の博士号を取得する。ウェストモアランドは1966年、イギリス生まれ。ニューカッスル・アポン・タイン大学で政治学を学ぶ。ふたりで『Quinceanera』(06)を監督、サンダンス映画祭でグランプリ(審査員大賞)と観客賞の同時受賞を果たし、世界的に注目される。他にもヒューマニタス賞やインディペンデント・スピリット賞を始め多数の賞を受賞する。続いて、製作を務めたエイズ活動家ペドロ・ザモラの伝記映画『Pedro』(08)が、トロント国際映画祭とベルリン国際映画祭で上映され、TVでビル・クリントン大統領に紹介される。二人で監督を務めたその他の作品は、デボラ・ハリーがゲスト出演したゲイ・ムービー『ハードコア・デイズ』(01/05日本公開)、トロント国際映画祭で上映された、ケヴィン・クライン、スーザン・サランドン、ダコタ・ファニング出演の『The Last of Robin Hood』(13)などがある。




映画『アリスのままで』
6月27日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他全国ロードショー

映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.
映画『アリスのままで』より © 2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

50歳のアリスは、まさに人生の充実期を迎えていた。高名な言語学者として敬われ、ニューヨークのコロンビア大学の教授として、学生たちから絶大な人気を集めていた。夫のジョンは変わらぬ愛情にあふれ、幸せな結婚をした長女のアナと医学院生の長男のトムにも何の不満もなかった。唯一の心配は、ロサンゼルスで女優を目指す次女のリディアだけだ。ところが、そんなアリスにまさかの運命が降りかかる。物忘れが頻繁に起こるようになって診察を受けた結果、若年性アルツハイマー病だと宣告されたのだ。その日からアリスの避けられない運命との闘いが始まる──。

監督・脚色:リチャード・グラツァー、ワッシュ・ウェストモアランド
出演:ジュリアン・ムーア、クリステン・スチュワート、アレック・ボールドウィン、ケイト・ボスワース、ハンター・パリッシュ
製作:パメラ・コフラー
製作総指揮:クリスティーン・ヴェイコン
撮影:デニス・ルノワール
編集:ニコラ・ショードゥルジュ
音楽:イラン・エシュケリ
原題:STILL ALICE/2014年/アメリカ/101分/5.1ch/ビスタ/字幕翻訳:松岡葉子
配給:キノフィルムズ

公式サイト:http://alice-movie.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/alicemovie0627
公式Twitter:https://twitter.com/Julianne201506


▼映画『アリスのままで』予告編

レビュー(0)


コメント(0)