骰子の眼

cinema

2015-06-17 23:50


カンヌ国際映画祭のキーノートでNetflixサランドス氏が語る世界戦略

今秋日本でもスタートするNetflixによって映画鑑賞のプラットフォームが大変革?!
カンヌ国際映画祭のキーノートでNetflixサランドス氏が語る世界戦略
カンヌ国際映画祭公式YouTube動画より、Netflixキーノートの会場

今秋日本でもサービスがスタートする、アメリカの動画配信サービス・Netflixのコンテンツ部門代表テッド・サランドスが、先日開催されたカンヌ国際映画祭でキーノート・スピーチを行い、映画界への参入を発表した。

Netflixは反・映画館ではない

Netflixは人気ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などで知られる、アメリカで最大手の定額制見放題のストリーミング配信サービス。カンヌ国際映画祭の期間に行われたサランドスのキーノートは、冒頭に、映画祭ディレクターのティエリー・フレモーが「みなさん、この企画はカンヌ国際映画祭の企画の一つです」と、Netflixのヨーロッパ映画業界参入に疑心暗鬼の関係者が集まった客席に向けて牽制するところから始まった。

このキーノートのなかで、サランドスは「Netflixは反・映画館では決してない、観客により良い選択を提供したいだけだ。例えば、週末に映画を観に行く時、恋人と映画館に行くか、それとも自宅のテレビでくつろぎながら映画を観るか、選択肢が増えることだ」と強調。サンダンス国際映画祭で彼らが1,200万ドル(約14億円)で購入したキャリー・フクナガ監督の新作『Beasts of No Nation(原題)』などの作品は、映画館と提携し同時公開を目指したいが、全てのNetflixの映画はいつも世界配信をプレミアとする予定だと説明している。

Netflixテッド・サランドス
カンヌ国際映画祭公式YouTube動画より、Netflixのコンテンツ部門の代表テッド・サランドス

エンターテイメントはネット中心へ

サランドスは「劇場公開を除き、エンターテイメントを楽しむ方法の全ては、インターネットに変わった」と発言。Netflixはこれまでの映画界の劇場公開のモデル、つまり最初に劇場で公開し、その数ヵ月後、数年後にVOD、DVDそしてテレビで発売・放映される流れはユーザーの欲求にそぐわず時代遅れだと指摘している。

さらに、マレーシアで撮影された『Marco Polo(原題)』など、「Netflixオリジナルのドラマは、他社が権利を持つコンテンツよりもより、自由にできるので効率的」とし、ビジネス面でより強化していきたいと述べた。

作品選びの基準は「データ重視の勘」

投資する映画作品はどのように選んでいるのか、その基準については?という質問に対しては「我々は『データ重視の勘』(data driven hunches)を使う」と、世界のユーザーの視聴データを利用したアルゴリズムとスタッフの直感の両方を使うと回答。例えば本年放映予定のアダム・サンドラー主演作『The Ridiculous 6(原題)』については、「アメリカのコメディは他の国では流行らない、と言われているが、彼がこれまで作った20作品はすべて世界の様々な地域で上映されている」と語っている。

ワインスタインも擁護
「Netflixは既存の放送局の独占に対する『目覚まし』だ」

サランドスはNetflixの世界進出については「我々は映画についてもそれぞれの地域に応じた編成を行う」と述べた。「アメリカ以外の国では、20パーセントの視聴が米国ではない国のコンテンツだ」と指摘したうえで、既にアメリカやスペインでは各国語のテレビ・シリーズが放映されているように、英語以外での映画製作の構想もあるとし、「新たなオリジナル番組の多くが配信される2016年までに我々は完全にグローバルになる。なのでどの国の権利も手放すつもりはない」と述べた。

海賊版配信が問題となっている中国マーケットについては、「別の運営方法を考えている」と、現地のパートナーとして、アリババの創業者ジャック・マーが関っているWasu Mediaと協力し参入する計画をたてていることを明かした。

「Netflixはヨーロッパ映画の味方だ」

他の多くのヨーロッパの放送局のようにヨーロッパ映画の製作に補助金を出さないNetflixの指針を踏まえ、フランスのジャーナリストが「Netflixのビジネスモデルはヨーロッパの映画産業を破壊するのではないか」という質問に対し、サランドスはフランスでNetflixの映画製作が可能になれば現地のスタッフを起用することになるといった効果があり「Netflixはヨーロッパの映画のエコシステムを発達させるはずだ」と反論。そこで、客席の最前列にいたアメリカの独立系最大手の配給会社ワインスタイン・カンパニーのCEO、ハーヴェイ・ワインスタインも立ち上がり、客席に向かってNetflix擁護を始めた。「みなさん、アメリカで一番ドキュメンタリーを買い付け配信しているのはNetflixだ。また英語以外の映画を買い付け配信しているのもNetflixだ。ヨーロッパの皆さんが恐れる存在ではなく、味方になるはずだ。フランス映画が配信されると、アメリカの3,700万人の契約者のうち100万人が観る。Netflixのヨーロッパへの進出はフランスのTF1やイギリスのBBCのような既存の放送局の独占に対する『目覚まし』だ」と語った。

ハーヴェイ・ワインスタイン
テッド・サランドスのキーノートで、会場の最前列から客席へ向かって話すハーヴェイ・ワインスタイン

もちろん、その裏というか擁護するのには意味があり、2013年にNetflixとワインスタイン・カンパニーは業務提携を発表し、Netflixでは2016年よりワインスタインの作品が独占配信される。劇場公開をワインスタイン・カンパニーが請負い、Netflixが公開即日配信する、業界で言うところの「デイ・アンド・デイト」で行うというのだろう。ワインスタインの擁護発言の後にカナダの業界関係者が「カナダではNetflixのサービスが始まる前に同じ議論が起こったが、ローンチしてから時間が経つものの、心配することはなかった。だから、ヨーロッパのみなさんも心配することはない」と述べていた。日本には秋にローンチすると言われているので、さてどうなるか。

フランスでは映画館保護のためテレビ放送に規制があるのでNetflixは脅威ではない

映画祭中、映画を世界に販売しているセラーに話を聞くと「Netflixから買いたいというオファーがあるが、彼らは全世界の権利を買うので、彼らに販売したらそれで終わり、ぼくらはまだテリトリーごとに映画の権利を販売する形を維持しているけど将来はどうなっているかわからないね。プロデューサーとしたらNetflixに売れれば制作費を上回っていれば、それで上がりだから」と答えた。

一方、フランスの配給会社の社長は「フランスでは映画館を守るためにウインドウ期間の規制があって、DVD、VODが映画館での上映から3ヵ月後、HULUや Netflixのような定額制のSVODに関しては36ヵ月=3年後でないと配信できないという規制がある。すでに昨年の9月にローンチしてサービスを開始しているが、TVはCanal+など有料テレビ局であれば劇場公開から10ヵ月、無料放送であれば22ヵ月で放送できるので、Netflixはフランスでは全く影響力はない」と言っていた。

ヨーロッパに拡大するNetflix

カンヌ国際映画祭での発表以降も、Netflix関連のニュースが連日報じられており、楽天が買収した動画配信サービスWuaki.TV.を持つスペインに加え、イタリアとポルトガルで10月にサービスがスタートすることが決定。現在ヨーロッパでNetflixは、デンマーク、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、フランス、スイス、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルク、イギリス、ドイツでもサービスを行っている。

MapGlobalReach
Netflix公式サイトより、世界でNetflixを導入している国の一覧

そして、ブラッド・ピットがプロデュースと主演を担当し、『アニマル・キングダム』のデヴィッド・ミショッドが監督を務めるアフガン戦争をテーマにした映画『War Machine(原題)』を、ピットが代表を務める制作会社プラン・B・エンタテインメントと共同製作することも発表。Netflixは今作に3,000万ドル(約37億円)を出資し、配給権を獲得しているという。

日本はフジテレビが「テラスハウス」制作

日本では秋のサービススタートを前に、6月17日、フジテレビが日本で初めてNetflixにオリジナル番組を制作し提供し世界の視聴者に届けると発表した。第1弾として、リアリティー番組『テラスハウス』の新シリーズと、新作の連続ドラマ『アンダーウェア』をNetflixで先行配信の後、地上波でも放送。フジの動画配信サービス「フジテレビオンデマンド」でも配信する予定だという。

テラスハウス
フジテレビ公式サイトより、『テラスハウス』新シリーズの告知

ギャガも新レーベル「ギャガ・プラス」立ち上げを発表

また、今回のカンヌ国際映画祭では、日本の映画配給会社ギャガの代表取締役会長兼社長CEO依田巽氏も記者会見を行い、新たな配給レーベル「ギャガ・プラス」を立ち上げることを発表した。ヴァラエティ誌の報道によると、依田氏は会見のなかで、これまでとは異なる配給モデルを構築していきたいと説明。同誌は、イランのアナ・リリー・アマポアー監督による『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』や グアテマラのハイロ・ブスタマンテ監督『Ixcanul Volcano (Ixcanul) 』といった単館系の作品について「公開と同日にダウンロード販売も行っていきたい。我々はオンライン配信は劇場興行にダメージを与えると思っていない。普段あまり映画館に行かない人も含め、より多くのオーディエンスに届けるための方法だ」という依田氏の談話とともに、青山シアターという自社のVODサイトを持つギャガが映画館と配信を同時に行う「デイ・アンド・デイト」をスタートさせると報じている。

(文:浅井隆 構成:駒井憲嗣)

【ハリウッド・レポーターによるNetflix会見の記事】
Netflix's Ted Sarandos Heckled at Cannes: "You Will Destroy the Film Ecosystem in Europe"(2015.5.15)
http://www.hollywoodreporter.com/news/cannes-2015-netflixs-ted-sarandos-795857

【ハリウッド・レポーターによるNetflixのヨーロッパ進出を伝える記事】
The Challenges Netflix Faces During Southern Europe Expansion(2015.6.8)
http://www.hollywoodreporter.com/news/challenges-netflix-faces-southern-europe-800903

【インディワイヤーによる『War Machine(原題)』製作発表の記事】
Netflix Acquires David Michôd's 'War Machine' Starring Brad Pitt(2015.6.8)
http://www.indiewire.com/article/netflix-acquires-david-michods-war-machine-starring-brad-pitt-20150608

【ヴァラエティによる「ギャガ・プラス」ローンチを伝える記事】
Cannes: Japan’s Gaga Plans to Launch New Distribution Label (2015.5.15)
http://variety.com/2015/film/news/cannes-japans-gaga-plans-to-launch-new-distribution-label-exclusive-1201497592/

【47NEWWS】フジ、米動画配信向けに番組制作 ネットフリックスに(2015.6.17)
http://www.47news.jp/CN/201506/CN2015061701001347.html

■Netflix日本公式サイト
https://www.netflix.com/jp




【関連記事】
米動画配信トップのNETFLIX今秋日本でも開始(2015.6.8)
http://www.webdice.jp/topics/detail/4587/




▼【カンヌ国際映画祭公式YouTube】NEXT: In Conversation with Ted Sarandos

キーワード:

Netflix / ネットフリックス


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