骰子の眼

cinema

東京都 世田谷区

2015-06-03 17:23


大林宣彦監督も嫉妬した!東京学生映画祭受賞の中村祐太郎監督と山元環監督に聞く

グランプリは片田舎の若者たちの衝動描く『雲の屑』準グランプリは釜ヶ崎で撮影『ゴロン・バタン・キュー』
大林宣彦監督も嫉妬した!東京学生映画祭受賞の中村祐太郎監督と山元環監督に聞く
第27回東京学生映画祭でグランプリと観客賞を受賞した中村祐太郎監督作『雲の屑』より

5月29日から31日にかけて北沢タウンホールにて第27回東京学生映画祭が開催された。東京学生映画祭は過去に青山真治監督や園子温監督など、現在日本映画界で活躍している映画監督や映像クリエイターなどを輩出している学生映画のコンペティション。今回のゲスト審査員には大林宣彦監督、深田晃司監督、俳優の古舘寛司さんらが名を連ねた。計16作品(アニメーション部門8作品、実写部門8作品)がノミネートされ、実写部門では中村祐太郎監督作品『雲の屑』がグランプリ・観客賞を共に受賞した。

中村祐太郎監督は2013年の第25回東京学生映画祭で『ぽんぽん』でグランプリを受賞、「MOOSIC LAB 2014」でも『あんこまん』で審査員特別賞を獲得しており、今、インディペンデント映画で注目されている若手監督。今回の受賞結果を受けて中村監督は「これからの作品でも僕は愛が大事だということを訴えていきたい」と語った。『雲の屑』に対し、深田監督は「中村監督から自分は嫉妬深いという話があったが、嫉妬深さでは僕も全く負けない自信がある。そしてこの作品には本当に嫉妬をした」「グランプリは審査員の総意ですぐに決定した。彼の作品が一つ頭抜けていたと思うのはまずは一つに総合力。どこをとっても隙のない完成度。次に一般論ではない監督独自の世界観が魅力的」と絶賛。

第27回東京学生映画祭
第27回東京学生映画祭審査員の大林宣彦監督(左)、深田晃司監督(中)、古舘寛司さん(右)

準グランプリは山元環監督作品『ゴロン・バタン・キュー』。この作品に対し、大林監督は山元監督の作品のテーマ性と演出家としての技量を特に称賛した。「もしもあなたがもう少しはやく生まれてこの作品を撮っていたら、鈴木清順や大島渚に影響を与えていたかもしれない」「今、山元君に対して殺したいくらい嫉妬している。自分がインディーズ時代の頃、大島渚に自分の作品をけちょんけちょんに貶されたことがあるが、彼と仲良くなってから、あれは大林君の才能に嫉妬して、今のうちに殺しておかないといけないと思ったんだよといわれたんだよね」。これに対し、深田監督は「では彼らも殺しておかないとですね(笑)。でも、それでも立ち上がってくるのが抜きん出てくる人」と語った。

授賞式後、大林監督は「今日はみなさんの映画を観ていて、単なる映画好きで映画を作っているのではなく、今を生きている人たちで未来の日本をどうしていかなくてはらないかを、この暗闇の中で懸命に考えて、光を当てようという気持ちがみえた。尊敬する先輩、例えば『世界の黒澤』とかを目指すかもしれないけれど、第二の黒澤も第二の小津もだめだ。芸術家はオンリーワン。僕は中村監督は日本のウディ・アレンみたいな映画を作るなという期待をしているが、第二のウディ・アレンではなく、第一の中村になれよ」と、これからの映画界の未来を担う若手監督たちに熱いメッセージを贈った。

『雲の屑』は2015年公開予定だが詳細は未定、『ゴロン・バタン・キュー』は劇場公開未定となっている。

第27回東京学生映画祭
第27回東京学生映画祭授賞式より

【第27回東京学生映画祭・受賞結果】

■実写部門

グランプリ・観客賞:『雲の屑』中村祐太郎監督
準グランプリ:『ゴロン・バタン・キュー』山元環監督
Filmarks賞:『たちんぼ』横山翔一監督
役者賞:山元駿(『ゴロン・バタン・キュー』)

■アニメーション部門

グランプリ:『GYRØ』円香監督
準グランプリ:『眠れぬ夜の流れ星』若林萌監督
観客賞・Filmarks賞:『息ができない』木畠彩矢香監督




【グランプリ受賞】

中村祐太郎監督『雲の屑』

映画『雲の渦』
映画『雲の渦』より

虐めっ子、虐められっ子と対照的な二人が、上京したものの何も得るものがなく、同時期に地元へ帰ってきたところから物語ははじまる。窮屈な片田舎での若者たちのリアルなカーストや彼らの衝動と虚無感を描いた作品。

監督:中村祐太郎
多摩美術大学 卒業制作
2014年/95分


中村祐太郎監督インタビュー
「ライバルと意識しているのは第一線の方」

中村祐太郎監督
中村祐太郎監督

──この作品を作ったきっかけは?

卒業制作に取りかかる際に、いろいろとあったけれども僕を理解して共に映画を作ろうと脚本を書いてくれた友人がいたからです。

──この作品に込めたメッセージはなんですか?

さりげなく愛です。

──作品のなかで、性や暴力描写が印象的でしたが、それを執拗に描いた意図は?

僕の作品は今はまだ学生映画と言われているけれど、ライバルと意識しているのは第一線の方。そのプロの方の作品とどちらが満足度が高いかと比べたときに勝ちたいから、性や暴力描写だってプロに負けないようにやりたかった。将来この映画が紹介されたときに、学生の映画として観られるのではなく、むしろ「この頃の映画の方がおもしろいね」と言われるぐらいがいいんですよ。全身全霊でやっていきます。

──中村監督の俳優としての演技も評価されていましたが?

頼まれたら俳優として参加したりもするけど、絶対に監督の方が楽しい。僕は絶対に監督としてやっていきたいです。

──今後の展望は?

明日(6月1日)が新作『アーリーサマー』のクランクインなんです。以前、僕の全作品を上映してくださった名古屋のシネマスコーレさんの企画で、中村区の助成金を頂いて映画を撮影することができるんです。「燃えろ!インディーズシネマスコーレ」です。

今後の展望としては、『なにわ友あれ』(南勝久著)という漫画があるんですけど、これを近々実写化できるようにがんばりたいです。




中村祐太郎 プロフィール

1990年、東京都大田区出身高校時代に映像作品の自主制作に目覚め、多摩美術大学に入学。2015年卒業。自身の劇映画作品1号である『ぽんぽん』(2013)が多数の劇場、映画祭で上映され、続いて『すべてはALL-NIGHT』『あんこまん』と意欲作を発表する。またその活躍は、雑誌「AERA」等に取り上げられる。役者としても、園子温監督作『TOKYO TRIBE』(2014年)に出演するなど活動している。卒業制作『雲の屑』が第27回東京学生映画祭でグランプリを受賞。現在、次回作『アーリーサマー』を撮影中。




【準グランプリ受賞】

山元環監督『ゴロン・バタン・キュー』

映画『ゴロン・バタン・キュー』より
映画『ゴロン・バタン・キュー』より

大阪淀川河川敷。ブルーテントを建てて暮らしているあたると元日雇い労働者の佐々木さん。過酷ではあるが二人笑って生きている。ある日、自転車が壊れて困っている女性・とのこと出会う。そこにあたるの父・常弘の手によって壊されるあたるたちの家。住みどころを失くしたあたると佐々木さんはどうやって生きていくのか──。

監督:山元環
大阪藝術大学 卒業制作
2015年/54分


山元環監督インタビュー
「釜ヶ崎という街の雰囲気を出せた」

山元環監督
山元環監督

──この作品を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

高校生の頃たまたま釜ヶ崎という街を通り、日雇い労働者で溢れる街の空気感の違いを肌で感じ、いつか撮りたいという思いを持ち続けていたからです。撮影するに当たって、実際に釜ヶ崎に泊まり込み、ホームレス救済事業に参加するなどし、街の空気感を味わってから脚本を書きました。『ゴロン・バタン・キュー』は音が悪いんですけど、これは撮影してはいけない場所でカメラを隠しながら撮影していたからなんです。撮影しているすぐそばがヤクザの事務所なんですよ。ちなみにその地区にはヤクザがいっぱいいるんです。音響部は遠くの方でポールにもたれかかって煙草を吸うふりをしながら録音していました。知り合いには、「毎日0時に必ず電話するから、もし自分からの電話がなかったらそのときはよろしくね」と声をかけていたんです。でも逆にその汚い雑音が街の雰囲気をだせていたかなと思うんです。

──映画制作を目指したきっかけは何ですか?

とにかく映画を見続けている時期がありました。元々洋画が好きだったのですが邦画も観てみようということで西川美和監督『ゆれる』、豊田利晃監督『青い春』、山下敦弘監督『リアリズムの宿』を立て続けに観て「あ、邦画ってすごく面白いな。俺も日本人やから日本の映画撮って生きよう」と思ったのがきっかけです。

高校生の時にお遊び程度で映像に音楽つけただけの作品や、僕と双子の弟で現在役者の山元駿と双子の20分くらいのドラマなどを高校の授業内で撮ったりもしていました。

──大学を卒業されてから、今後はどのように映画制作を?スタッフはどのように集めるのですか?

正直、大阪藝大の面白い奴らはみんな留年しているんですよ(笑)。やろうっていったら集まってくれる仲間がいます。この映画祭で賞をとったことで何かアクションが起こればと思っています。

──今後の展望は?

30歳までには映像だけで一本立ちしていけるようになりたい。そうでなくても続けているでしょうね。これしかやりたいことがないので。このような場で評価してもらえる空気を一度味わったら……もう映画の特権だと思うんですよね。普通の会社員ではなかなかこんなこと経験できないじゃないですか。もう明日にでも映像で一本立ちできるようにがんばりたい!next、nextで映画作ります。ちなみに次はおもろ映画を撮ります。おもしろい武器の双子の山元駿(『ゴロン・バタン・キュー』主演)がすぐ隣にいるので、これからも双子タッグでやり続けます。

──大林監督に「もしもあの時代なら山元監督の作品は大島渚に影響を与えていたのでは」と言われていましたが?

客席の人、みんなクエスチョンついてましたけどね(笑)。だけど、大林さんのような大監督にそんな言葉を頂けて本当に嬉しいし、自信に繋がります。観てくださる人の解釈で、自分の解釈の範疇を越えて勝手に映画が歩き出す感じがもうたまらなくおもしろいです!





山元環 プロフィール

1993年1月、大阪府出身。大阪藝術大学に入学。2015年卒業。在学時に『タートルネック』(現在編集中)を制作。続いてネコグスパブリッシング「人生」のミュージック・ビデオを制作。卒業制作『ゴロン・バタン・キュー』が第27回東京学生映画祭で準グランプリを受賞。


(取材・文:代田紗智子)



▼映画『雲の屑』予告編

▼映画『ゴロン・バタン・キュー』予告編

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