骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-05-29 18:52


平成生まれラッパーOMSBとBim、マンションの一室に広がる宇宙と日常『THE COCKPIT』

『Playback』三宅唱監督が「フレッシュであり続けること」伝える新作を語る
平成生まれラッパーOMSBとBim、マンションの一室に広がる宇宙と日常『THE COCKPIT』
映画『THE COCKPIT』より ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

村上淳主演で中年俳優の逡巡をモノクロ映像により描いた映画『Playback』が話題を呼んだ三宅唱監督の新作で、ヒップホップ・アーティスト、OMSB(オムスビ)とBim(ビム)の楽曲制作過程に密着したドキュメンタリー映画『THE COCKPIT』が5月30日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開される。SIMI LABとTHE OTOGIBANASHI'Sという、ヒップホップ・シーンで人気を集めるユニットのメンバーとして活動するふたりが、仲間たちとマンションの一室で共同制作を行い、新曲を完成させるまでを、トラックやリリックの創作プロセスと日常の風景とを交え描きだしている。

今回は三宅唱監督のインタビューを掲載する。

ラッパーたちの仕事のなかにある「身体」

──まずこの映画を作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。

もともとヒップホップやブラックミュージックが好きだったのですが、映画をつくるようになってから次第に、好きな音楽であるということを越えて、ラッパーたちを同じ時代の作り手としてもっと注目するようになり、大きな刺激をもらっていました。憧れにも近いのですが、かれらのようにものをつくってみたい、かれらは日々どのように音楽をつくっているのだろうか、普段どういうスタイル、どういう態度で生きているのだろう、と。

映画『THE COCKPIT』三宅唱監督
映画『THE COCKPIT』三宅唱監督

今回、愛知芸術文化センターから「身体」というテーマでの作品制作依頼を頂いたとき、いま言ったようなことがすぐに頭に浮かび、ラッパーの楽曲作りの過程を撮影させてもらおう、とスタートしました。かれらが仕事をする時間には、きっと見応えのある「身体」があるはずだし。YouTubeなどにもたくさんのビートメイキング映像はあるのですが、もっとじっくりちゃんとみたいというか、映画の視点、映画の時間感覚によって、それを捉えてみたいと考えました。

映画『THE COCKPIT』より  ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho
映画『THE COCKPIT』より、OMSB ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

──なぜOMSBとBimというふたりのラッパーを撮ろうと思ったのでしょうか?

彼らの音楽が好きで、ライブやイベントによく行っていました。一ファンとして。Bimくんは染谷将太くんの映画に出演していたこともあり、彼に紹介してもらってもともと友人だったのですが、OMSBくんには今回はじめて声をかけてさせてもらいました。ふたりは同じSummitレーベルに所属していますが、クルーは違います。同じステージに立つこともありますが一緒に曲はやっていなかった。この映画のなかではじめて一緒に曲づくりをしてもらえないか、というオファーをしました。ふたりは年齢もすこし違い、ラップのスタイルも違うのですが、自分に自信を持って自分のやりたいことをやりぬく、という方向性は共通している気がするし、そうやりぬく強さが魅力で、もちろん、やっていることそのものもかっこいいです。

映画『THE COCKPIT』より  ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho
映画『THE COCKPIT』より、bim ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

──三宅監督にとってはじめてのドキュメンタリーでしたが、それについての心構え、あるいは不安などはありましたか?

ドキュメンタリーであれ劇映画であれ、一緒に仕事をする被写体の魅力を最大限にひきだすことが自分の役目なので、やることは同じだとそこはシンプルに考えていました。もちろん、自分のせいで、かれらの魅力がすこしでもマイナスになったとしたら、それは最悪の事態なので、不安というか、責任や緊張はいつも感じます。

今回は自分にとって念願の企画だし、本当に大事だと思っている音楽、尊敬しているアーティストとの仕事なので、単純に楽しかったです。愛知芸術文化センターの越後谷卓司さんが自由にやらせていただいたことも励みになりましたし、今回ごく少数のスタッフ、現場にいた松井と淳哉さんのふたり、整音で入っていただいた黄永昌さんが企画にノッてくださったことも大きいです。

映画『THE COCKPIT』より  ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho
映画『THE COCKPIT』より ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

撮影現場の楽しさをストレートに伝えたい

──この映画は本当に映っている人が魅力的です。実際に撮影をしている最中、その辺りはどうおもわれたでしょうか?

一流のラッパーたちにこういうのも失礼ですが、まず、自分の好きなことに熱中している人の姿は、それだけで美しいと見惚れました。また、5人ともが互いにリスペクトしあっていることが、あらゆるやりとりからみてとれるので、近くにいて、とても幸せな気持ちになります。それにとにかく、自然体で、ユーモアセンスが抜群なので、同じ部屋でずっと一緒にすごす時間が本当に楽しかったです。

映画『THE COCKPIT』より  ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho
映画『THE COCKPIT』より ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

──三宅監督の思う、ヒップホップの魅力を教えて下さい。

音楽のジャンルとしてどうというのは、こればっかりは好みによると思うのですが、ぼくはあらゆるラッパーを尊敬しています。というのも、フレッシュであり続けることと、音楽への歴史にリスペクトをもつことが、矛盾せずに同時にかれらのなかにあるからです。どちらが欠けてもだめ。これは、音楽に限らず、映画など、どのジャンルにおいても重要なことだとぼくは考えています。それをヒップホップから教わりました。

映画『THE COCKPIT』より  ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho
映画『THE COCKPIT』より ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

──編集には時間がかかったのでしょうか?あるいは編集で気に留めていたことはありますか?

2014年の3月に撮影し、すべての作業がおわって最終的な形になったのは11月です。その間、べつの制作も並行していたので中断もありますが、ほぼ毎日、数分でも素材をみたりはしていました。それまでは、パソコンでの編集作業があまり好きではなかったのですが、映画に映っているOMSBが絶え間なく手を動かしている姿をみているうちに、自然とこちらもやる気がでてきたので、毎日なにかすることが楽しい時間でした。

とにかく撮影現場は充実していたので、その楽しさがストレートに伝えたいと思っていました。もちろん、現場と映画はちがうので、そのまま全てをスクリーンでみたからといって、現場と同じ感覚になれるわけではない。映画ならではの時間感覚をつかまえたいと考えました。

最終的に64分になったというのは、今回劇中で完成した曲「Curve Death Match」とも大きく関係しています。軽快さや遊び心、開放的なノリ、エンターテイメントがあって、映画もそうあるべきだと考えました。尺としてもふらっと観にきやすいサイズの映画だし、終わったあとに晴れ晴れしい気持ちになってもらえると思います。

──最後にこの映画に関心がある方へメッセージをお願いします。

映画館の客席もコクピットです。64分の音楽と映画の旅を楽しんでほしいです。また、これはヒップホップにフィーチャーした映画ですが、そう特化したことでむしろ、ヒップホップや音楽、映画に限らない、いろんなものづくりに共通する喜びを感じてもらえると思います。ものづくりの喜びだけでなく、生きることそのものの喜びもぼくは感じます。とにかく元気が湧いてくる映画なので、ぜひ、多くの方に観てもらいたいです。

(オフィシャル・インタビューより)



三宅唱 プロフィール

1984年札幌生まれ。初長編『やくたたず』(10)ののち、2012 年劇場公開第1作『Playback』を監督(ロカルノ国際映画祭イン ターナショナルコンペティション部門正式出品)。同作で高崎映画祭新進監督グランプリ、日本映画プロフェッ ショナル大賞新人監督賞を受賞。ほかに『無言日記/201466』(14)など。




映画『THE COCKPIT』
2015年5月30日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開

映画『THE COCKPIT』ポスター
映画『THE COCKPIT』より ©Aichi Arts Center, MIYAKE Sho

監督・編集:三宅唱
出演:OMSB、Bim、Hi'Spec、VaVa、Heiyuu
撮影:鈴木淳哉、三宅唱
整音:黄永昌
プロデューサー:松井宏
企画:愛知芸術文化センター
制作プロダクション:PIGDOM
協力:SUMMIT、CREATIVE DRUG STORE
配給:PIGDOM
(64分/カラー/1:1.35/2014/DCP)

公式サイト:http://cockpit-movie.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/thecockpitmovie
公式Twitter:https://twitter.com/thecockpitmovie


▼映画『THE COCKPIT』予告編

『THE COCKPIT』公開記念パーティ
〈LIVE in THE COCKPIT〉

映画出演者たちのDJほか、ゲストDJには中原昌也(Hair Stylistics)。そしてOMSBとBimが映画のために作った曲のお披露目もあり!映画内でしか聴けず、リリース予定もない曲のため、生で聴けるのはこの日だけ!?

日時:2015年6月10日(水)開場22:00
会場:恵比寿BATICA(渋谷区恵比寿南3-1-25 ICE CUBE1F/2F)
料金:当日2,000円
『THE COCKPIT』映画半券お持ちの方:1,000円
『THE COCKPIT』鑑賞券セット:2,500円
出演者:
[DJ]
OMSB(SIMI LAB)
Hi’Spec(SIMI LAB)
Bim(THE OTOGIBANASHI’S)&VaVa(Creative Drug Store)
中原昌也(Hair Stylistics)
[映像]
三宅唱
[LOUNGE DJ]
MOBA&DJ地雷
hrmc&mulla
and more…

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