骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-05-26 16:50


JBが魂(ソウル)を叫ぶ!ブッチャーズが衝動を爆発させる!ラストは切ないロマンが心に染みる2作

音楽家・松本章が音楽映画『ジェームス・ブラウン』『ソレダケ / that's it』を紹介
JBが魂(ソウル)を叫ぶ!ブッチャーズが衝動を爆発させる!ラストは切ないロマンが心に染みる2作
左:映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』ポスター ©Universal Pictures ©D Stevens 右:映画『ソレダケ / that's it』ポスター © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

繊細で強いJBの姿に心が動かされる
映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』

梅雨前になり湿度ムンムンで、気持ちがジメジメしていた時に映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』(テイト・テイラー監督作 出演:チャドウィック・ボーズマン ネルサン・エリス)を鑑賞したのです。

お話は、あらゆるジャンルのミュージシャンからリスペクトされ、現在でも影響を与える、「キング・オブ・ソウル」等の数多くの異名を持つ音楽家ジェームス・ブラウンの破天荒な人生・希望・挫折を描いているのです。

映画『ジェームス・ブラウン』より ©Universal Pictures ©D Stevens
映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』より、ジェームス・ブラウンを演じるチャドウィック・ボーズマン ©Universal Pictures ©D Stevens

ドキュメンタリーではなく伝記映画なのですが、ドキュメンタリーを観ているぐらいジェームス・ブラウン(以下JB)役のチャドウィック・ボーズマンの演技が素晴らしかったのでした。ライブシーンでのJBのダンスも、動きのキレも凄く、モノマネやソックリ以上でJBと血が繋がっている様に見えたのでした。青年時代から中年以降を描いているので、その時代により体型も見た目も変わるけど、ライブのパフォーマンスのスタイルも変わり、会話の何気ない仕草とか、無数にあるJBを演じる為の演技を染み込ませてるのでした。歌声は吹き替えなのだが違和感はなく、数々のライブシーンには、自然に体がリズムに乗って熱中できたのでした。

映画『ジェームス・ブラウン』より ©Universal Pictures ©D Stevens
映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』より ©Universal Pictures ©D Stevens

悲惨な少年時代から偶然ボビー・バード(ネルサン・エリス)に出会い音楽活動を始めて行くのですが、ボビーの支え方は尋常ではなく、JBの才能に心底惚れ込んでいたのです。黒人差別が激しい時代に白人マネージャーを雇い、様々な問題が起こるのですが、ボビーの理解力とマネージャーの支えにより成功を掴んでいくのでした。ボビーと出会っていなければJBの伝説も無かったかもしれないと思ったのです。

バンドメンバーとの練習の時に「全ての楽器はドラムなんだ」と言うシーンは、JBの創ったファンク・ミュージックの核になるところで、凄くシンプルなのですが、リズムを重視するアフリカ音楽に影響があるのかもしれない。独特のノリ、リズムに乗るJBのダンスは彼の心臓の鼓動で、それを感じるからあの音楽ができたのかもと思ったのでした。

映画『ジェームス・ブラウン』より ©Universal Pictures ©D Stevens
映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』より ©Universal Pictures ©D Stevens

歌詞もシンプルで「俺はセックスマシーン」と連呼してたり「気持ちいいーー」って繰り返したり、シンプルというか素直というか、本音をぶつけているのでした。

自らの信念を貫くというシンプルなJBの生き方は、不器用だけども、自分を曲げずに貫き、無茶苦茶な時もあるのだけど、繊細でもあり強いJBを観られたのでした。JBが観てる側に話しかけくれる演出があるので、映画を観てるというというよりJBが目の前にいる感じになり、ライブシーンも体験しているような感じなのです。笑えたり、乗ったり、驚いたり、呆れたり、しんみりしたり、心がいろんな方向に動く、あっと言う間にエンドロールだった凄い作品だったのでした。

bloodthirsty butchers☓石井岳龍監督
疾走する初期衝動が奇跡的に融合
映画『ソレダケ / that's it』

JBの生き様に心がファンクしたのですが、気温の暑さに負けそうになるので、もっと自身を熱くせねばと思っている時に、映画『ソレダケ / that's it』(石井岳龍監督作 楽曲:bloodthirsty butchers 出演:染谷将太 水野絵梨奈)を鑑賞したのです。

お話は、戸籍を奪われた地下社会で暮らす大黒砂真男-ダイコクサマオ-(染谷将太)は、裏社会の調達屋、恵比寿大吉-ヱビスダイキチ-(渋川清彦)の財布と予期せずハードディスクを奪う。その中には、地下社会の売買用個人情報が詰まっている。大黒は恵比寿に監禁され、風俗嬢・南無阿弥-ナンムアミ-(水野絵梨奈)も捕まっていたが協力して脱出し、知人の猪神楽彦-イノガミラクヒコ-(村上淳)に助けを求めるが、謎の追っ手に捕まり監禁される。謎の極悪ギャングのボス千手完-センジュカン-(綾野剛)の拷問で大黒の過去の宿命が明かされる。もがき苦しんでも抜け出せない負の連鎖の先で大黒は、宿命の対決を決意する。

映画『ソレダケ / that's it』より © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.
映画『ソレダケ / that's it』より、大黒砂真男役の染谷将太 © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

bloodthirsty butchersと石井岳龍監督とのコラボレーションで始まった映画なのでしたが、ボーカル・ギターの吉村秀樹が2013年に亡くなり、映画は一度流れるのですが、石井監督が新たな脚本を書き上げ内容も全く違う今作になったのでした。

bloodthirsty butchersの楽曲の威力は凄まじく、爆音のギターサウンドは映画を観ていて、感覚を狂わせ映像の衝動が大きくなるのです。

激しい衝動が爆発する映画なのですが、機動性のあるカメラで疾走シーンは――たぶん役者が自撮りしてると思うのですが――不思議な映像になっていたり、モノクロの映像を効果的に使ったり、手書きの絵をCGで処理しないでアクション的に見せたり、苦しむどん底の大黒・南無阿を屋上から真上で撮ったり、繊細に構築された石井監督の独特の世界があるのでした。

映画『ソレダケ / that's it』より © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.
映画『ソレダケ / that's it』より、恵比寿大吉役の渋川清彦 © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

時代設定も近未来なのか、パラレルワールド的な世界になっていて、石井ワールドが全開なのでした。奇妙で面白い長いセリフ回しがあったり、室内シーンが多かったので、脚本だけを読むともしかしたら演劇的な室内劇的な映画、登場人物が少ないので、もしかしたら身内のイザコザの小さな話と思うのかもしれないけれども、作品はそんな事は感じさせないのでした。それは、石井監督の映像表現と役者の抑圧・束縛に対する高まる感情・情熱がヒリヒリと疾走し、bloodthirsty butchersの楽曲で解放されてるからなのだと思いました。

映画『ソレダケ / that's it』より © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.
映画『ソレダケ / that's it』より、猪神楽彦役の村上淳 © 2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

見過ごされそうな小さな思い・感情を詞に託し爆音で表現するbloodthirsty butchersの楽曲と石井監督の、とにかくその先へと疾走する初期衝動が奇跡的に融合したのでした。ラストシーンは、その先を明らかにするまで諦めずにいく突き抜けた強さと、破壊衝動ではなく小さな再生の希望を感じたのでした。

結論!両作品とも音楽が重要な役目を担っているのでした。『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』は、ソウルが踊り、『ソレダケ / that's it』は、パッションの詰まった奇跡の作品なのでした。両作品ともラストが心に染みて、心で泣ける。なぜだか切ないロマンを感じたのです。

(文:松本章)



【映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』を観て思い出したキーワード】
・カーリーン・アンダーソン
・ブーツィー・コリンズ
・映画『ブルース・ブラザーズ』(ジョン・ランディス監督)
・ジャッキー・ロビンソン

【映画『ソレダケ / that's it』を観て思い出したキーワード】
・映画『kocorono』(川口潤監督)
・eastern youth
・Dinosaur Jr.
・映画『エロス+虐殺』(吉田喜重監督)
・映画『トゥルー・ロマンス』(トニー・スコット監督)
・映画『汚れた血』(レオス・カラックス監督)
・映画『仁義なき戦い』(深作欣二監督)
・映画『爆裂都市』(石井岳龍監督)
・映画『勝手にしやがれ』(ジャン=リュック・ゴダール監督)
・マジックリアリズム

(文:松本章)



■松本章(まつもとあきら)プロフィール

1973年生まれ、大阪芸術大学映像学科卒。東京在住。熊切和嘉監督作品、山下敦弘初期作品の映画音楽を制作に係る。これまでに熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』、内藤隆嗣監督『不灯港』、山崎裕監督『トルソ』、今泉力哉監督『こっぴどい猫』、内藤隆嗣監督『狼の生活』、吉田浩太監督『オチキ』『ちょっと可愛いアイアンメイデン』『女の穴』などの音楽を担当。
現在、新たに音楽を手がけた吉田浩太監督の新作『スキマスキ』が公開中。




映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』
5月30日(土)よりシネクイントほか全国公開

監督:テイト・テイラー
出演:チャドウィック・ボーズマン、ネルサン・エリス、ダン・エイクロイド、ヴィオラ・デイヴィス、オクタヴィア・スペンサー、ティカ・サンプター、ジル・スコット、クレイグ・ロビンソン
脚本:ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース
エグゼクティブ・プロデューサー:ピーター・アフターマン、トリッシュ・ホフマン、ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース、ジョン・ノリス、アンナ・カルプ
プロデューサー:ブライアン・グレイザー、ミック・ジャガー、ビクトリア・ピアマン、 エリカ・ハギンズ、テイト・テイラー
撮影:スティーヴン・ゴールドブラット
音楽製作総指揮:ミック・ジャガー
編集:マイケル・マカスカー
配給:シンカ/パルコ
原題:GET ON UP
2014年/アメリカ=イギリス/カラー/139分
公式サイト:http://jamesbrown-movie.jp/




映画『ソレダケ / that's it』
5月27日(水)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

出演:染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳/綾野剛
監督:石井岳龍
楽曲:bloodthirsty butchers
脚本:いながききよたか
製作:『ソレダケ / that's it』製作委員会
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
2015年/日本/カラー/1:1.85/3ch/110分
公式サイト:http://soredake.jp/


▼映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』予告編

▼映画『ソレダケ / that's it』予告編

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