映画『チャッピー』より © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
『第9地区』『エリジウム』のニール・ブロムカンプ監督の新作『チャッピー』が5月23日(土)より公開される。舞台となるのは2016年、ブロムカンプ監督自身の出身地である南アフリカのヨハネスブルグ。街を統制するロボット警官隊を開発する街武器製造会社のエンジニア・デオンは、自分自身で感じ、考え、成長するAI(人工知能)を持つロボット・チャッピーを開発するが、犯罪に利用しようと目論むギャング・グループに誘拐されてしまう。チャッピーを育てよう四苦八苦するギャング・グループとディオンとの関係に、デオンを疎ましく思う同僚の科学者ディオンが加わる物語のなかで、ブロムカンプ監督は「果たして人間の心はAIと置き換えることができるのか?」というテーマに挑んでいる。
人工知能を搭載し高い戦闘能力を持つロボット・チャッピーに、同じ南アフリカ出身でブロムカンプ監督の前2作にも出演した盟友シャールト・コプリーが扮し、チャッピーを創造するデオンを『スラムドッグ$ミリオネア』のデーヴ・パテル、そして武器製造会社の重役を『エイリアン』のシガニー・ウィーヴァー、ディオン役を『ウルヴァリン』のヒュー・ジャックマンが演じている。また、生まれたばかりで言葉もままならないチャッピーの両親代わりとなるストリート・ギャングのカップルとして、南アフリカ出身のラップ・グループでハーモニー・コリンの短編作品『Umshini Wam』にも出演するダイ・アントワードのメンバー、ニンジャとヨーランディが自身の名前で登場している。
今回は2017年公開予定の『エイリアン』シリーズ新作を監督することが決定しているニール・ブロムカンプ監督のインタビューを掲載する。
知覚と意識はいかなるものにも宿る
──本作はどのようなきっかけで作ることになったのですか?
この映画を作ろうと思った理由を説明すると、僕は二つのことを描く映画を作りたいと思ったんだ。一つは、知覚と意識がいかなるものにも宿るものだという考え。特に未来においてね。そして今のような生物学的姿をした僕ら人間が、自分たちとは異なる、そうした知覚を持った存在に対してどう反応し、どう対処するのかということに興味があったんだ。また、その存在が自分自身をどう捉えるだろうか、ということにもね。ということで、この映画は、そうしたアイデアと、僕がいつも“ポップコーン・ファクター”と呼んでいる要素とが融合したものになる。今言った二つのテーマを、ポップコーンを食べながら夏に観るにふさわしい、スピード感のある、アクション映画にしたんだ。
映画『チャッピー』のニール・ブロムカンプ監督 © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
──人工知能を持つ主人公のロボット、チャッピーの原点について教えてください。2004年に監督が作った、ロボットが登場する短編映画『Tetra Vaal』まで遡るのでしょうか?
そうとも言えるが、それだけではないんだ。2003年、僕は視覚効果の世界でVFXアーティストとして仕事をしていたんだが、監督業もしたいと思っていた。それで南アフリカで架空のロボティクス企業のちょっと変わったコマーシャルを作ったんだ。日本やアニメからかなり影響を受けたもので、面白半分で作った、『チャッピー』とは別物だった。そして『エリジウム』の脚本を書いていた2010年から2011年頃、ちょうどデビューして大きな話題となっていたダイ・アントワードをよく聴いていた。脚本を書きながら彼らの音楽を聴いていたので、それが何となく頭にあって、どこからともなく湧いてきた『チャッピー』のトリートメント(物語の概略)を書いたんだ。あるバンドに育てられたロボットというアイデアで、かなり完成形に近いところまでいっていた。今回の映画とそれほど違わないものだったよ。
映画『チャッピー』より、自らの名前でストリート・ギャングを演じるダイ・アントワードのニンジャ © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
映画『チャッピー』より、チャッピーを育てるギャング役、ダイ・アントワードのヨーランディ © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
そしてその後で、自分が作った短編映画『Tetra Vaal』に登場したロボティクス会社の社名を使うことにしたんだ。なぜかというと、物語の舞台が南アフリカだったし、ロボットのデザインも何となく短編映画のロボットを元にした感じだったからね。あの短編映画は確かに『チャッピー』と関連があるけれど、起源というわけではないんだ。とはいえ、今回はリアルなロボットにしたい、突然どこからかレーザービームが発射されるなんて過度な機能は持たせたくなかった。
──今回、長編第1作『第9地区』の舞台、故郷ヨハネスブルクに戻って撮影を行ったのはなぜですか?
アメリカを舞台にすることを検討していたんだが、ユニークな感じがあまりしなかった。この映画のテーマは、かなりリアルな形でヨハネスブルグと結びついているんだ。
──アクションシーンの撮影は楽しかったですか。大がかりで派手なシークエンスですが、撮影はいかがでしたか。
スリリングだよ。僕はヘリコプターが大好きでね。ヘリコプターがたくさん飛んでいると楽しいんだ(笑)。実に楽しい。それにアクションの撮影はどこか軍隊的で、そこも好きな点だ。無線通信が行き交い、飛行機が何機も飛んでいて、爆発物もふんだんにある。安全面での予防措置もいろいろと講じなければいけないけど、それも問題ない。普通の撮影とは明らかに違う。だから楽しいよ。
昔、僕とコプリーは、フリーウェイを閉鎖し、カーチェイスを撮影することを夢見ていて、その夢が『チャッピー』で叶えられた。ずっとあきらめないでいれば、そのうち巡り巡って願いが叶うものだよ。僕が子どもの頃には、国道の交通を遮断して撮影をするなんてことは不可能に思えた。あのハイウェイで撮影をすることで、ヨハネスブルグ特有の犯罪という雰囲気が出る。だからあそこで撮影したかったんだ。この映画でそれができて最高の気分だ。
映画『チャッピー』より © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
──『チャッピー』を作るにあたって特に影響を受けた映画はありましたか。
意識下の影響と意識している影響があるんだろうね。だから、脳裏にふわふわと漂っているいろいろなものについては、僕もよくわからない。映画監督は誰でも、意識下で多少影響を受けているはずだよ。僕が意識している映画として思いつくのは、『ロボコップ』だけだ。チャッピーの無邪気さ、純真さと対照的な存在としての、『ロボコップ』の大きく邪悪なロボットというアイデアが気に入っている。だからある意味、チャッピーを倒そうとする、人間が操作する巨大なロボット「ムース」が、『ロボコップ』に対するオマージュになっている気がするね。でもそれ以外は、特に引き合いに出せる映画は思いつかない。それもいいことだ。一ヵ所から生まれたのではない風変りな映画、という感じがするからね。
映画『チャッピー』より © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
ヒュー・ジャックマンは「オーストラリア訛りの悪党」役にやる気満々だった
──同じ南アフリカ出身で『第9地区』『エリジウム』にも出演し、今回はチャッピーを演じているシャールト・コプリーとはどのようにして、チャッピーをスクリーン上に作り上げていったのですか。
技術的には、それほど珍しいことをやっているわけじゃないんだ。シャールトが普通の役者として演じている、普通の映画として撮影した。その映像を視覚効果会社に渡し、彼らがシャールトの映像の上をトレースしていった。ロトメーションという技法なんだ。ロトスコープのようなものだ。
映画『チャッピー』より、シャールト・コプリーの演技の上からトレースしてチャッピーが生まれた © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
──本作はテリー・タッチェル(ブロムカンプ監督の妻)との共同脚本でしたが、役割分担はどのようになっているのですか。
僕らは同じ部屋で一緒に書くことはないんだ。通常、僕がアイデアやシナリオを思いつき、彼女がそれらを3幕ものの脚本へと組み立ててゆき、映画として最高の形になるようにする。僕があれこれ書き散らしたものを彼女に向けて浴びせかけ、彼女がそれをちゃんとした脚本に変えてゆくんだ。
──他の出演者についてお聞かせください。デーヴ・パテルがデオン役に適していた理由は何でしょうか。
あの役の候補として彼の名前を見た瞬間から、あの役には彼しか考えられなくなった。是が非でも彼に演じてもらわなければいけないと思った。脚本を書いている段階で念頭にあったのは別の人で、どうしようかあれこれ考えていたんだ。そんなときに、プロデューサーのサイモン(・キンバーグ)が送ってきた候補者のリストにデーヴの名前があった。それを見て、「そうだ。これは絶対デーヴ・パテルだ」と思ったんだ。そして実際デーヴに会った。初対面のときですら、彼にはデオンの資質がすべてそろっていると感じた。彼は若くエネルギッシュで、頭が切れて分析的で探求的だ。また、デオンは観客が心から好きになれるキャラクターでなければいけないが、デーヴのことは誰でも好きにならずにいられないからね。というわけで、あらゆる面で彼には満足しているよ。
映画『チャッピー』より、チャッピーをクリエイトする科学者デオン役のデーヴ・パテル © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
──それから、ディオンについてですが、ヒュー・ジャックマンが演じる役としては興味深い役ですね。デオンとチャッピーの敵となる実に悪い奴ですから。
この役は、この映画の中で僕が一番気に入っている役と言ってもいいくらいなんだ。ヒューにヴィンセントを演じてもらおうと思いついたのはいつだったか忘れたけれど、デヴ同様、「これは絶対ヒューだ」と思ったよ。
映画『チャッピー』より、ディオン役のヒュー・ジャックマン © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
──彼の外見も非常に独特ですが、その意図はどのようなものだったのでしょうか。
ヒューはもちろんオーストラリア人だから、「彼本来のオーストラリア訛りで喋らせよう」と考えた。さらにオーストラリア的な部分を強調したいと思った。南アフリカとオーストラリアには、アウトバック(広大な砂漠地帯)とか共通点がたくさんあると思うんだ。そこで農民から軍人になった、非常に信仰心が篤いオーストラリア人の悪党というアイデアを考えた。ネット上でオーストラリアの農夫たちの写真をたくさん見つけたので、それをヒューに、「こういう感じになってほしいんだ」と送ったところ、ヒューは、「いいね。やる気満々だ!」って言ってきた。彼との仕事は最高だった。できることなら、今後作る映画すべてで彼と仕事をしたいくらいだ。すごく協力的だし、撮影現場でも素晴らしい存在だ。それに才能もすごくある。監督にとっては理想の役者だ。
──さらにシガニー・ウィーヴァーが現場にいるというのも、監督しては最高でしょうね。
そうなんだ。スタッフが彼女にどう反応するか、とても興味があったんだ。南アフリカのクルーの多くが、大スターに会って感激していたことが興味深かった。彼女には秘密めいた雰囲気があるからね。でも彼女は仕事相手として最高だった。素晴らしい仕事相手だ。
映画『チャッピー』より、兵器企業テトラバールの重役ミシェル役のシガニー・ウィーヴァー © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
──シャールトとは昔からの友人ですよね。学校が一緒だったのですか。
彼はもう卒業していたけどね。同じ高校だったけど、彼の方が5,6歳上だから、僕が入学した年に彼は卒業したんだ。でも僕はそのとき既に映画作りをしたい、監督になりたいと思っていたし、彼もそうだった。それで僕らの間の学年の友人たちの紹介で知り合ったんだ。初めて彼に会ったのは、14歳のときだった。彼が始めた小さな会社で、編集やコンピュータ・グラフィックス用の機械を触って遊んでいるガキって感じだった。それから年を経るに従い、ただの子どもでなく、彼らのためにちゃんと仕事をするようになったんだ。カナダの映画学校に行くまでの間ずっとね。引っ越してからは、長いこと彼とはあまり話すこともなかった。僕が仕事を始めて、監督できるような立場になってから、また彼と関わり合うようになったんだ。でも、それほど頻繁ではなかったけれど連絡はずっととっていたよ。彼は役者を目指していたわけではなく、監督やプロデューサーになりたいと思っていたんだ。非常に優秀なプロデューサーだよ。だから、『第9地区』のテスト映像を撮るときに、彼にプロデュースを頼みたいと思ったんだ。他の誰よりも、お金を有効活用してくれるってわかっていたからね。その彼が今は役者になっているんだから面白いよね。とにかく、そんなわけで彼と一緒にあの短編映画を作ったんだけど、彼があまりに面白いから、彼が出演すべきだって僕は秘かに思っていたんだ。その通りになったね。
──彼との友情はあなたにとってどんな意味を持っていますか。
同じ業界にいるということで、年を経るごとに友情が深まったと思う。この世界に入る前から自分のことを知っていただけでなく、自分の似たようなことを経験している人がいるのは嬉しいことだ。そういうことを分かち合えるというのは最高だよ。
(オフィシャル・インタビューより)
ニール・ブロムカンプ(Neill Blomkamp) プロフィール
1979年9月17日、南アフリカ ヨハネスブルグ生まれ。18歳のときにカナダに移住し、映画およびテレビ業界で視覚効果アーティストとしてキャリアをスタートした。21歳のときにTVシリーズ「ダークエンジェル」(2000年)でリードアニメーターとしてエミー賞の視覚効果賞にノミネートされた。その後まもなく監督業に移行し、ミュージックビデオから始め、コマーシャルの世界へと入っていった。製作費100万ドル規模でナイキ、シトロエン、ゲータレード、パナソニック、ナムコなどのコマーシャルを監督。CM製作の傍ら、短編映画も数多く手がけ高い評価を得た。2009年『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンに見出され、彼のプロデュース作『第9地区』で長編映画デビューを果たした。『第9地区』は2億ドルを超える世界興収を挙げたうえに、作品賞と脚本賞(ブロムカンプとテリー・タッチェル)を含めたアカデミー賞4部門にノミネートされるなど、世界中で高い評価を得た。続いてジョディ・フォスター、マット・デイモンを迎えて監督した2作目『エリジウム』(2013年)も3億ドルを売り上げる世界的大ヒット作となった。
映画『チャッピー』
5月23日(土)より丸の内ピカデリー他全国ロードショー
映画『チャッピー』より © Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
2016年―南アフリカ・ヨハネスブルグ。世界で初めて人工知能を搭載された兵器ロボットが誕生し、"チャッピー"と名づけられた。生まれたての知能をもった彼はTVアニメを見てヒーローを真似するかと思えば、車の運転を素早く習得、デッサンも楽々こなすなど急速に成長していく。だが、その姿を見た研究者たちは「考えるロボットは人類の敵」とチャッピーを追いつめていくことに…。彼の成長は人類の理想なのか──。「僕は生きたい」と、純粋無垢な心をもったチャッピーが叫んだ先には、どんな運命が待っているのか……。
監督:ニール・ブロムカンプ
出演:シャールト・コプリー、ヒュー・ジャックマン、シガニー・ウィーヴァー、デーヴ・パテル、ニンジャ、ヨーランディ、ホセ・パブロ・カンティージョ、ブランドン・オーレット
脚本:ニール・ブロムカンプ & テリー・タッチェル
プロデューサー:ニール・ブロムカンプ、サイモン・キンバーグ
製作総指揮:ベン・ウェイスブレン
撮影:トレント・オパロック
プロダクションデザイナー:ジュールス・クック
音楽:ハンス・ジマー
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2015年/メキシコ=アメリカ/120分
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