映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』より、キャリー役のリース・ウィザースプーン(左)、ジェレマイア役のゲール・ドゥエイニー(右) ©2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.
4月17日(金)からTOHOシネマズ シャンテを皮切りに全国公開中の映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』が、5月23日(土)より渋谷アップリンクで上映される。
1983年のアフリカ大陸・スーダンでの内戦で両親と住む場所を失った兄弟ポール、ジェレマイア、マメールと姉アビタル。2000年になり、アメリカとスーダンが協力し、難民キャンプで育った「ロストボーイズ」と名付けられた3,600人の若者たちを全米各地に移住させる計画が実施される。カンザスシティに移住することになった兄弟は、職業紹介所で働く女性・キャリーの世話を受けることになるが、言語も文化も異なるスーダンの人々の生活、そして仕事探しに奮闘するなかでキャリー自身にも変化が訪れる。実話をベースに、過酷な内戦を描くシリアスな前半、アメリカでのカルチャー・ギャップをコミカルに描く後半を対比させ兄弟の絆を描き出したのは、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』のフィリップ・ファラルドー監督。製作をロン・ハワードが担当、勝ち気な女性キャリーをリース・ウィザースプーンが演じ、「ロストボーイズ」にはオーディションで選ばれたスーダンの元難民の俳優やミュージシャンが扮している。
今回webDICEでは、フィリップ・ファラルドー監督のインタビューを掲載する。
スーダンの人たちの物語を語り継ぎたい
──この作品は、脚本家のマーガレット・ネイグルが、「ロストボーイズ」と呼ばれるスーダンの内戦孤児たちのことを知り、彼らのストーリーを伝えなくてはならないと強く感じたところからはじまったそうですね。彼女は世界中の新聞から記事を集め、国中を飛び回っておよそ1,000人のロストボーイズと会い、膨大な量のリサーチを行い、本作の脚本を書き上げたと聞きました。
94年、ドキュメンタリーを作っていた友人と戦時中のスーダンに滞在していた。2度の集中砲火に遭い、国連から避難を言い渡された。人々を置き去りにし、自分たちだけが助けられることに罪の意識を感じた。もちろん僕に責任はないけれども、その場を飛び立つ時、彼らを見捨てたと感じたんだ。その感覚が消えないままこの脚本を読んだ。あの場に戻って、彼らの物語を語り継ごうと思ったんだ。
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』のフィリップ・ファラルドー監督(左)、ジェレマイア役のゲール・ドゥエイニー(中央)、キャリー役のリース・ウィザースプーン(右)
──今作は、難民キャンプからアメリカに移住するスーダンの若い3兄弟ポール、ジェレマイア、マメールと姉アビタルを主軸に描かれていますね。
こんなによく出来た脚本は初めて読んだ。戦争を描いた冒頭部分の恐怖から、難民がアメリカにやって来るユーモアと笑いに満ちた中盤部分、非常に感動的な結末まで、見事に展開されていたし、その3つのバランスが、ひとつのストーリーの中で、上手に取れていたんだ。3つの異なる映画のように感じさせずに調和をとるのは、非常に難しいことだよ。
もうひとつ面白いと思ったのは、これが単にスーダンの少年たちの話ではないという点だ。生きるために闘っている子供たちや、スーダンで起きている戦争の話だけでなく、北アメリカに暮らす僕たちの姿も描かれている。難民たちの視点を通してね。彼らは北米にやって来て、よりよい生活を築こうと努力しているんだ。
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』より、左からジェレマイア(ゲール・ドゥエイニー)、マメール(アーノルド・オーチェン)、アビタル(クース・ウィール) ©2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.
彼らは破壊された村から逃れ、歩いてケニアの難民キャンプへ向かう。何千マイルも歩いてようやくキャンプにたどり着いたものの、この先どうなるかも分からないまま、その地に10年も留まることを余儀なくされる。他の家族が生きているかどうかも分からない。
それがある日、アメリカへ移住するプログラムに選ばれるんだ。彼らは集団でカンザスシティへやって来て、リース・ウィザースプーン演じるキャリーという女性に出会う。彼女の仕事は、彼らに仕事を探すことだ。やって来たその日から、彼らには生きていくためのお金が必要だし、渡航費も返済しなくてはいけないからね。キャリーはとげとげしくて、しばしば機嫌を損ねているような人物だが、彼らのために仕事を見つけようとする。でも彼らはまず人づきあいを学んで、社会の仕組みを理解しなくてはいけないんだ。そうこうするうちに、彼女と難民たちの間にある種の友情が芽生える。彼らと出会ったことで彼女は変わり、彼女と出会ったことで彼らの方も変わるんだよ。
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』より、左からマメール(アーノルド・オーチェン)、チャリティ団体に所属する女性パメラ(サラ・ベイカー)、ジェレマイア(ゲール・ドゥエイニー)、ポール(エマニュエル・ジャル) ©2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.
──映画ではスーダン人キャストを実際に外国に移住させられたスーダン人の中から選んだそうですね。
彼らはみんな心の内にこのストーリーを抱えている。本人たちだけが持つ偽りのない魂をこの映画に込めて欲しかった。役にはまりつつ、この出来事に直接的な関わりを持っている俳優を見つけ出すのに苦労したよ。全体で1500人以上はオーディションをしたと思う。僕が間違っていないか、彼らは感覚的に分かるんだ。
彼らは僕のコンサルタントになった。スーダン人を起用することで、彼らに直接、意見を聞くことができる。彼らは戦争の生き証人だ。ジェレマイア役とポール役の2人、ゲール・ドゥエイニーとエマニュエル・ジャルは戦時中、少年兵だった。だから戦争のことをよく知っている。彼らのおかげで、僕の演出が正しいかどうか、文化的に間違いを犯していないかどうかを知ることができているよ。
──職業紹介所で働くキャリー役のリース・ウィザースプーンの演技も素晴らしかったです。
リースは演技の幅が広いので、とげとげしくて気難しい感じから、怒鳴り散らすことや、感動的なシーンを演じることまでできる。滅多にないが、突然、陽気になったりもする。彼女に同じタイプの役ばかり演じさせるのは間違いだね。この何年かの間に出演した作品で、彼女はそのことを証明しているよ。
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』より、キャリー役のリース・ウィザースプーン ©2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.
アメリカで彼らが初めて体験する「孤独」
──アメリカで暮らすことになったスーダンの若者たちの喜びや戸惑いが丁寧に描かれています。
僕たちが外国へ行ったり、外国の文化に触れる時と同じだ。周りで何が起きているのかを把握しないといけない。この映画の主人公たちは電気も通っていない、現代のテクノロジーとは隔絶した村に住んでいた。彼らが滞在していた難民キャンプにも電気はなかった。アメリカにやって来て見るもの触れるすべてが、彼らにとっては初めてのものなんだ。だから一から学ばなければいけないが、彼らは生存能力にたけているし頭がいいから、短期間ですべてを吸収する。
彼らにとっていちばん難しいのは、北アメリカの社会の仕組みを理解することだ。なぜ突然、引き離され、個人で行動しなければいけないのか、彼らには理解しがたい。これまでは一緒に暮らし、グループとして生き延びてきたんだ。でも北米の社会の仕組みでは、生き延びるためにはそれぞれが自分の仕事を一人でやらなければいけない。そこで彼らはこれまでに感じたことがなかった気持ちを感じるようになる。孤独だ。彼らはこれまでの人生で様々な困難に遭難したが、その中に孤独はなかった。アメリカに来て初めて直面するものなんだよ。
幼い頃にとてつもない経験をしたとしても、人生を通して見れば笑えて感動できる瞬間もある。彼らはすでにアメリカの風景に溶け込んでしまっているんだ。でも実際はいまなおスーダンでは緊張状態が続き、何も解決には至っていない。
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』より、キャリー(リース・ウィザースプーン)と彼女が務める職業紹介所の上司ジャック(コリー・ストール) ©2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.
──最後にあらためて、監督が今作で描きたかったテーマを教えてください。
僕たちが何を彼らに与えられるかだけじゃなく、彼らが僕らに何を与えられるかを知ることが重要なんだ。ひとりの人間同士としてね。世界の見方はいくらでもあるし、僕らのものがすべてではない。本作のテーマはそんなところにある。僕の映画に共通するテーマは「人」なんだ。自分のことは知っているし、少なくとも知っているつもりではある。じゃあ自分の周りの人のことは知っていると言えるかな。他人を自分の人生に迎え入れるのは大きな賭けだ。でもそれは、賭ける価値のあるギャンブルなんだよ。
(オフィシャル・インタビューより)
フィリップ・ファラルドー(Philippe Falardeau) プロフィール
1968年、ケベック・ハル生まれ。社会政治学と国際関係学を学んだ後、1988年コンテスト形式のテレビシリーズ「La Course Destination Monde」に参加。世界中を旅し、20か国で短編映画20作を作り上げ、見事グランプリ受賞を果たした。その後、アジア人のカナダ移住を描いた政治風刺ドキュメンタリー「Pate chinois」を監督。2000年には初の長編作『La Moitie gauche du frigo』で数々の賞を獲得した。2006年、長編2作目『Congorama』は、カンヌ映画祭の監督週間のクロージング作品となった。2008年、3作目となる『C'est pas moi, je le jure』は、トロント国際映画祭で初上映され、翌年、ベルリン国際映画祭における4歳以上の子どもを対象にした映画部門で、クリスタル・ベア賞とドイツ児童映画賞を獲得した。2011年の作品『ぼくたちのムッシュ・ラザール』は、トロント映画祭で最優秀カナダ映画賞を獲得したほか、ロカルノ映画祭とロッテルダム国際映画祭で、いずれも観客賞を受賞。2012年にアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』
5月23日(土)より渋谷アップリンクにて上映、他全国順次公開中
映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』より ©2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.
カンザスシティの職業紹介所で働くキャリーは、スーダンから到着したマメールと二人の仲間を空港まで迎えに行く。彼らは内戦で両親を亡くした、「ロストボーイズ」と呼ばれる難民たちだ。そつなく仕事をこなしてきたキャリーに与えられたのは、電話を見るのも初めての彼らを就職させるという、最難関のミッションだった。車に乗せれば一瞬で酔うし、牧場を見ると「猛獣はいますか?」と確認、マクドナルドもピザも知らない彼らに最初はイラつくキャリーだが、その成長を見守るうちに思いがけない友情が芽生え、生き方さえも変わっていく。
出演:リース・ウィザースプーン、アーノルド・オーチェン、ゲール・ドゥエイニー、エマニュエル・ジャル、コリー・ストール
監督:フィリップ・ファラルドー
脚本:マーガレット・ネイグル
製作:ロン・ハワード
撮影監督:ロナルド・プラント
プロダクションデザイン:アーロン・オズボーン
編集:リチャード・コミュー
衣装:スティラット・アン・ラーラーブ
キャスティング:ミンディ・マリン
音楽:マーティン・レオン
原題:THE GOOD LIE/アメリカ/110分/5.1ch/ビスタ/字幕翻訳:稲田嵯裕里
後援:国際移住機関(IOM)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
宣伝協力:アニープラネット
配給:キノフィルムズ
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