骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2015-05-11 21:15


アカデミー受賞コンビによる善悪の彼岸描く北欧サスペンス『真夜中のゆりかご』

スサンネ・ビア監督作、主演は『ゲーム・オブ・スローンズ』のニコライ・コスター=ワルドー
アカデミー受賞コンビによる善悪の彼岸描く北欧サスペンス『真夜中のゆりかご』
映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

デンマークのスサンネ・ビア監督の新作『真夜中のゆりかご』が5月15日(金)より公開される。アカデミー賞外国語映画賞受賞作『未来を生きる君たちへ』をはじめ、『悲しみが乾くまで』『愛さえあれば』など、家族ドラマのなかにシリアスなテーマを盛り込んだ作品を撮り続けるスサンネ・ビア監督が今回挑んだのは、北欧サスペンスの醍醐味を備えた人間ドラマだ。愛する息子の死という幸福の絶頂から突き落とされた刑事がとっさにとった、薬物中毒者の男女の子どもと我が子の遺体のすり替え。その行動がさらなる波紋を呼ぶなか、彼の魂が救済されるまでがスリリングに描き出される。TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』で人気を博したニコライ・コスター=ワルドーが、突然の悲劇に襲われながら葛藤する刑事アンドレアスを演じている。

今回はスサンネ・ビア監督のインタビューを掲載する。

人はなぜ完璧には理解しがたい行動に出ることがあるのか

──まず、2002年の『しあわせな孤独』以来6作目となる脚本家アナス・トーマス・イェンセンとのコラボレーションについて、いかがでしたか?

私たちふたりとも、この作品は、ある種古典的な意味で、根源的に刺激的でありスリルに満ちたものにしなければいけないと感じていました。物語の奥底にあるものはとてもシリアスで本質的なものでなければいけない、と。

映画『真夜中のゆりかご』スサンネ・ビア監督 © Les Kaner
映画『真夜中のゆりかご』スサンネ・ビア監督 © Les Kaner

──主人公の刑事アンドレアスのキャラクターについて教えてください。

ある意味で、監督として最も大切なことは、すべての登場人物に人間らしさをもたらすことだと思います。アンドレアスはとてつもなく魅力的な人間だけれど、どこか謎めいたところもある。完璧な人間だと私たちは信じ込みながら、彼を見るたびに、ある種の闇のようなものが見え隠れするんです。

──今作の物語の鍵となるのは、息子の死という突然の悲劇に、アンドレアスはとっさに別の男女の乳児と死んだ我が子をすり替えてしまうこと、そして、なぜ彼はそうするのか?ということです。この部分については、どのように考えますか?

明らかに、疑いもなく間違っている行為に対して、観客に共感を持ってもらいたいんです。でも同時に、ドラッグ中毒の男女から虐待の恐れのある子どもを守る、という見地からすれば正しい行為でもある。私はこの物語のそこが気に入りました。だって、ある意味で人生とはそういうものでしょう。私たちが思う以上にずっと複雑なものです。物事は道徳的に見て正しいか間違っているかに大別されることに変わりはないけれど、アンドレアスの行動から、人間はなぜ完璧には理解しがたい行動に出ることがあるのか、という問いに対しての考察を深めてくれることでしょう。

人は、子供が病気になって途方に暮れているという記事を読んだり、15人もの子供がいてきちんと育てていない親の話を聞いたりすると、「なぜ?」と思うものでしょう。私たちの概念の中核をなすものに対して、疑問を呈するような映画をつくりたかったんです。ある人々はほかの人々よりも優秀であるとか、正しいという概念を疑う、ということです。他人より自分のほうが優れていると思っている私たちとは、何者であるのか?ということを考えるきっかけにしてほしかったのです。

映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB
映画『真夜中のゆりかご』より、刑事アンドレアス役のニコライ・コスター=ワルドー(右)、妻アナを演じるマリア・ボネヴィー(左) © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

──この『真夜中のゆりかご』をはじめ、あなたは、痛み、悲劇、人間のもろさに焦点をあてる映画をつくり続けてきました。それは、ときに不穏に包まれ、残酷でさえあります。

それこそ私を突き動かす唯一のものです。私とイェンセンは、自分たちの限界を押し広げたいと願っています。より残酷だったり冷酷だったり、優しくないことに向き合うことで、限界が押し広げられるのです。

単に観客にショックを与えようと思っているわけではありません。人々を刺激したい、あるいは、考えさせたいと思っているんです。そして人々に物語を伝えたいんです。この作品は昔からある道徳的な教訓を伝える物語のようですが、そうした物語には暴力的な要素が入っている場合が多いですよね。

しかし、『真夜中のゆりかご』は単に暴力を描いた映画ではありません。冷酷な行為には理由があると思うのです……私はこの作品は希望を描いた映画だと思うし、冷酷な行為の理由も示していると思います。アンドレアスは、とてもとても馬鹿げたことをしますが、でも彼のその行為は同時に事態に変化をもたらすのです。

映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB
映画『真夜中のゆりかご』より、刑事アンドレアスを演じるニコライ・コスター=ワルドー © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB
映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB
映画『真夜中のゆりかご』より、トリスタン役のニコライ・リー・カース(右)、サネを演じたリッケ・メイ・アンデルセン(左) © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

──観客がこの作品にどんな反応を示すと思いますか?

もちろん、どんな反響があるか怖くもありますが、居心地のいいゾーンに安住していたら、映画監督として、あるいは創造する人間として、創作を続けることはできないでしょう?自尊心も、そして他者からの敬意も、得られないですよね。進み続ける唯一の方法は、自分自身の境界線を押し広げることです。そうすることで、観客の境界線も押し広げられると私は信じています。

観客に実際に深く洞察させるきっかけを与えたい

──撮影現場ではどんな心境でしたか?

創造のプロセスでは、安全に守られている感覚と恐怖感が混ざり合っています……自分自身を鼓舞しなくてはならないし、また、ある種の不安定感も、創造の場で大切です。物語を語りたい欲求が爆発する感じですね。活力に満ちて、だから同時にとても疲れます。それ以外のことは私は何もしません。一心不乱の集中力が必要で、だからこそ楽しい。どんなに深刻な場面を撮影していても、私たちはセットのなかで笑い合います。つねに現場には軽やかな空気が流れていますが、それはとても重要なことです。

──今作には、ドラッグ中毒者・トリスタン役のニコライ・リー・カース、そしてアンドレアスの同僚の刑事シモンを演じたウルリク・トムセンなど、あなたが繰り返し起用してきた俳優が出演しています。

わずかな言葉で互いに理解しあえますが、同時に予測不可能でもあります。ただちに理解しあえるけれど、そこに馴れ合いはありません。面白くてエキサイティングな関係です。彼らはあらゆる面で私の予想をはるかに上回ってくれました。

映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB
映画『真夜中のゆりかご』より、アンドレアスの同僚の刑事シモンを演じたウルリク・トムセン(左)、サネ役のリッケ・メイ・アンデルセン(中央)、アンドレアス役のニコライ・コスター=ワルドー(右) © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

──トリスタンの恋人サネを演じたリッケ・メイ・アンデルセンは、トップモデルとして世界的に活躍していますが、主要な俳優陣のなかでただひとり、演技経験がまったくなかったそうですね。

とあるパーティで彼女に会って、すぐに彼女があの役を演じるべきだと確信しました。あの役に彼女が欲しかったんです。それで、すぐさまオファーして、どうしてサネ役のオーディションをしないのかと言いつづける人たちの口を封じました。彼女はとてもアーティスティックな魂を備えたモデルで、秘密主義的な面とオープンな面と脆さを同時に持っている人。そこにとても惹きつけられました。

──最後に、あなたにとって映画製作とは?

まるで、直観だけが頼りの旅に出ている感じです。子供の頃、遊びに夢中になって我を忘れていた感じに似ているかもしれない。おとなになってもそんなことができるなんて、ものすごい特権だと思います。ある事柄に対して観客に実際に深く洞察させるきっかけを与えることに対して誇りを感じています。映画というのは夢のようなものです。どのような形であれ観客の心を掴んだのであれば、その映画は成功なんです。

(オフィシャル・インタビューより)



スサンネ・ビア(Susanne Bier) プロフィール

1960年4月15日、デンマーク出身。長編映画「Freud flyttar hemifran …」(91)で監督デビュー。ドグマ95の手法で撮った『しあわせな孤独』(02)で、デンマークのアカデミー賞にあたるRobert Awards観客賞やトロント映画祭国際批評家連盟賞などを受賞した。2007年には初の英語作品『悲しみが乾くまで』をハル・ベリーとベネチオ・デル・トロ主演で撮影。『未来を生きる君たちへ』(10)では2011年アカデミー賞外国語映画賞、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ほか、数多くの賞を受賞した。




映画『真夜中のゆりかご』
5月15日(金)TOHOシネマズ シャンテほかロードショー

映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB
映画『真夜中のゆりかご』より © 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

敏腕刑事のアンドレアスは、美しい妻アナと乳児の息子とともに、湖畔の瀟洒な家で幸せに暮らしていた。そんなある日、通報を受けて同僚シモンと駆けつけた一室で、薬物依存の男女と衝撃的な育児放棄の現場に遭遇する。一方、夫婦交代で真夜中に夜泣きする息子を寝付かせる日々は愛に満ちていた。だが、ある朝、思いもよらぬ悲劇がアンドレアスを襲い、彼の中で善悪の境界線が揺れ動いていく……。

監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トーマス・イェンセン
出演:ニコライ・コスター=ワルドー、ウルリッヒ・トムセン、マリア・ボネヴィー、ニコライ・リー・コス
プロデューサー:シセ・グラム・ヨルゲンセン
撮影:マイケル・スナイマン
編集:ペニッラ・ベック・クリステンセン
音楽:ヨハン・セーデルクヴィスト
英題:A SECOND CHANCE
提供:KADOKAWA、ロングライド
配給:ロングライド
2014年/デンマーク/102分/カラー/デンマーク語、スウェーデン語/シネマスコープ/5.1ch
© 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

公式サイト:http://www.yurikago-movie.com
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/真夜中のゆりかご/803912383016989
公式Twitter:https://twitter.com/yurikagomovie


▼映画『真夜中のゆりかご』予告編

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