『URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン』を発表したソーヤー海さん
書籍『URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン』を監修したソーヤー海さんは、「共生革命家」という肩書で、森や伝統的な農業の方法から持続可能な生活・文化・社会のシステムをデザインする「パーマカルチャー」(パーマネント[permanent]とアグリカルチャー[agriculture]を組み合わせた「永続する農業・持続型農業」という意味の造語)という生き方を都会で広めようと、ワークショップや講演活動を続けている。今回は、4月25日(土)より公開となるドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』を観た海さんに、自身の活動を踏まえたこのドキュメンタリーの感想、そして提唱する都市でのパーマカルチャーの可能性について、逗子のご自宅でお話をうかがった。
『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』で浮き彫りになる
“大人の事情”と“子供の事情”のギャップ
──まず、『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』をご覧いただいて、いかがでしたか?
家族で種を巡る冒険をしているようだった。それから、監督の息子のフィンの種が好きというのも、とてもステキ。僕も種好きだし(笑)。種って無限の可能性を持っているからね。
きっと、モンサントや他の種子企業も知っているんだ、種は命そのもので、すごくパワフルだということを。彼らは、それらを利益にしているんだ。今の社会は、種と人との間に距離が出来てしまって、そこに企業が入り込んできている。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
──確かに、アップリンクでも販売していますが、都会のショップでも種が売られるようになりましたけれど、もっと触れる機会があってもいいですね。
それから、セイファート監督の家族たちがホールフーズで買い物するシーンでもあるように、多くの人たちは企業がつくったブランドやラベルを信頼して、食べるものを選んでいる。“自然食品”の定義なんてないようなものなのに、ボトムラインが利益である企業を信頼しているってことさ。それって、大丈夫なのかな?
食料と人が直接関われていない、ここにも企業が入り込んでいる。何が一番安くて安定して供給されるかが優先事項となってしまっている。ファストフードや肉食を支える工業的大量生産、近代的な暮らしを支えるための遺伝子組み換え食品がここまで広がっていることをもう一度考えなおさなければいけないと思う。身の丈以上になった食料と人との関係を正していかないと。
──その点では、アメリカを舞台にしていますが、日本の私たちにも当てはめて考えられる作品だと思います。
この映画は、家族でその食料と人との間の問題に取り組んでいる。途中、何食べていいいか分からなくなって家族が暗いムードになったりとか、監督が食産業の裏側について本気で怒ったり、深刻なシーンも登場するけど、子どもたちがユーモアを与えてくれる。子どもの素直さに救われるんだ。
僕がいつも理解に苦しむ言葉で“大人の事情”というのがある、それって大体お金のことなんだけど、モンサントや企業がしていることは、まさに“大人の事情”。お金や利益のことが一番さ。この映画は子どもたちの視点がはいることで、“大人の事情”が浮き彫りにされて“子どもの事情”(洗脳されていない心)とのギャップが面白いね。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
関心を持たない人を、
楽しく「やってみよう!」という気持ちに
──1月に「URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」が刊行されてしばらく経ちますが、読者からの反響はいかがですか?
感じるのは、今の日本ではいっぱい生き方を変えたいと思っている人がいて、ただ、どうしたらいのか分からない。それは、魅力的なオプションがないんだなと思う。本当であれば、それを自分で見つけるのがいいと思うんだけれど、生き方を変えるのは難しい。お金がもっとも大切だっていう〈資本主義教〉で育っているから、「食べていけるか心配」、そのシステムから抜けようとすると「仕事は辞めないほうがいい」「将来のことを考えろ」と周りに止められる。〈資本主義教〉のなかにいると、その外が見えないし、恐れがある。
だから知らないだけで、世界中にはいろんな魅力的な事例が実はあふれていて、それらをこの一冊に詰め込んでみた。自分で食べものを育てはじめると、ちょっとずつ買う必要がなくなっていって“消費”から自立できて、自分の手で食べていけるようになる。だから、お金を作ってそれを交換するんじゃなくて、自然と直接触れ合って、土を感じて、育てていく力を身につけていってほしいんだよね。
──ソーヤーさんがこの本で提唱されているアーバン・パーマカルチャーを根付かせるために、いま具体的に取り組んでいきたいと思っていることは何でしょう?
おしゃれなパッケージの育てやすいエディブルな(食べられる)種と、使いやすい道具です。日本の農具ってすごく使いにくい。例えば鍬(くわ)とか短くて、体格の小さい人向けに対して、アメリカ製の鍬は長いので、背筋を伸ばしながら作業できる。日本人はもともと小さい体格で、時代を経て体格が大きくなっているけれど、農具がそれに合わせて進化していない気がする。それとパーマカルチャーをしっかり身につけるための「道場」を日本で作ろうとしている。命と文化を育てられる人、特に若者をどんどん増やして行きたい。
エディブル・ガーデン(食べられる植物を主体に植えられた庭)を実践する、ソーヤー海さんのご自宅の庭より。
水菜、ラベンダー、ネギ、パクチーを植えたガーデンベッド。
去年のオクラの身が乾燥したもの(自家採取のタネ)。今年庭の畑に植えられた。
友達からもらったという紫空豆。
スナップエンドウ。
──例えば農具ひとつにしても、それに対して疑問を持ったり、変えようとする視点もないことが原因にありそうですね。そのように、この著書で海さんはデザインの必要性を書かれています。毎日使う道具や配置、もっと言うと生き方や街、社会のシステムに美しいデザインが必要だと感じます。
僕はもともと心理学を勉強していて、人の心に興味があるんです。この本で書かれていることは、昔から言われていることばかりで、パッケージが違うだけなんです。でもパッケージが変わらないと一般の人に受け入れ難い。そこが次の第一歩なんです。
まず興味を惹かれるかどうか。この本ではインパクトが強い写真をたくさん使っていたり、倫理的な事より楽しさ、豊かさを表現しています。そうやって、いかに一瞬でその人の意識を引き込むかが大事だと思っているんです。
──アップリンクでも映画の宣伝をするうえで、タイトルやデザインの重要性は感じています。
本の構成としては、ガーデニングやDIYの他に、心やスピリチュアルなことや、反資本主義的なことも入っている。それらは昔からある考え方だし、ラディカルで、今の消費社会ではなかなか関心を持たれない。チェ・ゲバラのTシャツと同じ感覚で、ひとつの商品としては消費されるかもしれないけれど、実際にやるところまでいき難い。そこを変えるために、いかに楽しそうに、やってみよう!という気持ちにさせるか、を考えてこの本を書きました。
「URBAN URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」より
「URBAN URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」より
今の時代は、倫理的なことって伝わらないと思う。ネットやSNSで浅く繋がっているけれど、倫理やモラルが共有されないから、完全に消費とビジネスが最優先される。もちろん、人を大事にすることや環境に配慮することは大事だけれど、やっぱり「食っていかなければいけない」、というメンタリティ〈資本主義教〉が根深くみんなの頭の中に入ってしまっている。だから、環境問題に敏感な若いお母さんと昔からの活動家以外の、あまり関心を持っていない人たち(信者)にどうアプローチしていくかが最前線だと思うし、そこが変わっていくと、また面白くなっていくんじゃないかな。
「URBAN URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」より
「URBAN URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」より
──私たちは映画を通してできることを模索していますが、震災以降、映画の上映の後、観たその場で不安な気持ちを共有しあうということがスペシャルなことだと気づきました。それに、DVDやBlu-layなど上映素材のデジタル化により、自分たちで映画を上映したいという人たちが各地にたくさん出てきたことも大きな変化でした。
声高に企業を批判する映画よりも、今、起きている出来事や新しい生き方についてを、アートな感覚で描いた作品のほうが、より広い人が共感できると思うんだ。問題を共有するって難しいことで、「悪者だ!」というメッセージだけでは、オーバーロードされている人や悪い情報の依存症になってしまっている人しか反応しなくなってしまうこともある。
「URBAN URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」より
「URBAN URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン」より
この本で僕が唯一不満に思っていることは、事態の深刻さが伝わらないこと。「楽しく生きよう!」ということを書いているけれど、実はすごくヤバいと思っている。みんなここに書かれていることをしっかり実行すれば変わると思うけれど、事態の深刻さと一般社会の関心の低さに愕然とする事が度々ある。
GMOだけでなく、根源的なものは企業のあり方が問題だよね。企業が持っているパワーが半端ない。アメリカの政治を見ていても、企業のトップが政治家になっている。議員を辞めたらすぐ企業にロビイストとして雇われ、労働組合や市民団体を徹底的に潰してきた。バラバラの一般市民が対抗できる相手じゃないんだ。
共に手をとって団結するということが下手になっている時代。どちらかというと個人プレーが推進されて、自分の世界に閉じこもるためのテクノロジーが大普及している。それを見直すことは、とても大事だと思っているんです。安全な食というのは生きて行く中で最重要なはず。それを思い出すために、タネを植えて、生ゴミを土に変えて、仲間とともに「株式会社日本」を本質的な民主主義に変えて行こう!
(インタビュー:松下加奈 構成:駒井憲嗣)
ソーヤー海 プロフィール
1983年東京生まれ、日本とハワイ育ち。カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校で心理学、有機農法を実践的に学ぶ。2004年よりサステナビリティーの研究と活動を始め、同大学で「持続可能な生活の教育プログラム(ESLP)」のコース運営に携わる。コスタリカで自給自足生活を学んだ後、日本へ帰国し、共生に関わる活動を中心に、東京大学大学院新領域創成科学研究科サステナビリティ学教育プログラムに参加(自主退学)。現在は「東京アーバンパーマカルチャー」を主宰し、持続可能な生活・文化・社会のシステムをデザインする「パーマカルチャー」の知恵と心を、東京をはじめ日本各地で、ワークショップなどを通じて精力的に拡げている。より愛と平和のある社会を自分の生活で実践しながら、社会に広めている。
ブログ:東京アーバンパーマカルチャー
http://tokyourbanpermaculture.blogspot.jp/
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『URBAN PERMACULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン』
監修:ソーヤー海(共生革命家)
編:東京アーバンパーマカルチャー編集部
発売中
1,944円(税込)
184ページ
出版:株式会社エムエム・ブックス
購入は書影をクリックしてください。amazonにリンクされています。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』
4月25日(土)より渋谷アップリンク、名古屋名演小劇場、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開
監督:ジェレミー・セイファート
出演:セイファート監督のファミリー、ジル=エリック・セラリー二、ヴァンダナ・シヴァ
協力:大地を守る会、生活クラブ生協、パルシステム生活協同組合連合
字幕:藤本エリ
字幕協力:国際有機農業映画祭
配給:アップリンク
2013年/英語、スペイン語、ノルウェー語、フランス語/85分/カラー/アメリカ、ハイチ、ノルウェー
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