映画『白河夜船』より ©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員会
よしもとばななが1989年に発表した原作を若木信吾が安藤サクラを主演に迎え映画化した『白河夜船』4月25日(土)より公開される。主人公の寺子を演じる安藤サクラに加え、寺子と不倫を重ねる岩永役に井浦新が出演。若木監督は、不安と寂しさを感じながらも恋人と関係を続ける寺子の漂う心情を、自ら手持ちのカメラを構え捉えている。今回は、自身と祖父をモデルに家族の関係を描いた『星影のワルツ』(2004年)そして台湾に古くから住む原住民の若者で結成されたバンドを追ったドキュメンタリー『トーテム Song for home』(2009年)とは異なる恋愛ドラマに挑んだ若木監督のインタビューを掲載する。
原作の喋り口調をそのまま活かした
──最初に、『白河夜船』という題材について、原作を読まれてまずどう思われましたか?
「白河夜船」というタイトルにとても興味をもちました。まさか自分が男女の恋愛の題材を扱うとは思ってもみませんでした。果たして自分にできるのかという不安もありましたが、読んでいくうちに色々な側面が見えてきて、恋愛について描くことも含めて新しいことに挑戦しようという気持ちになりました。
映画『白河夜船』の若木信吾監督
──原作に忠実につくられていますが、脚本を書く上で気をつけたことはありますか。また、2006年には『星影のワルツ』、2009年には『トーテム Song for home』を撮られていますが、今回は初めての原作ものということで、以前の監督作と異なる点はあったのでしょうか?
台詞の言い回しを原作のまま言ってもらいたいと思っていました。「~でしょう。」というその喋り口調そのものが、このよしもとばななさんの小説では象徴的なものなので、その口調を変えたり、その口調を真似して新しい台詞を付け加えるのは難しいと思ったからです。
映画はこれまで2本撮っていますが、原作ものを手がけるのもそうですが、映画製作のプロの人たちとの共同作業もはじめての経験だったので、僕の中ではある部分では初監督作品のようにも感じています。
映画『白河夜船』より ©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員会
──映像化が難しい世界観だったと思いますが、こだわった部分や苦労された点はありますか?
今回は撮影機材を一眼レフデジタルカメラ「ライカM」1台と35ミリのレンズほぼ1本で撮影するという制限を自分で加えたことが、うまく映像化できた理由のひとつだと思います。大きなスクリーンに耐えられるクオリティーかどうかの不安はありましたが、機材を最小化することで、より自分の目線で忠実にものを見るということができたと思います。このやり方で映画撮影を進歩させていく手応えは感じました。
映画『白河夜船』より ©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員会
群衆の中で感じる特有の孤独感と開放感
──作品をつくる上で、写真家と映画監督で共通する部分、異なる視点はありますか?
写真家も撮影する上でディレクションを行うということでは変わりありませんが、カメラがまわり始めたら役者に委ねていくという部分が自分のスタイルなので、そのやり方は変わりませんでした。ついカメラマンの視点でものを見てしまうので、今回監督として現場が持つ空間と役者の演技の関係性をカメラを通さず見ることができたのは、まったく新しい経験でした。
──幻想的な物語ですが、ロケ地として使っていたのは渋谷の街並みや、隅田川花火大会など一目見て特定できる”都会”でした。こうした場所をロケに選んだ理由を教えて下さい。
群衆の中で感じる特有の孤独感と開放感が、渋谷や花火大会の群衆の中にイメージを重ねやすかったところがあります。ある種幻想的な話なので、普段自分が生活している渋谷界隈の街並など、どこかに自分の中でリアリティがある場所がいいなと思っていました。
映画『白河夜船』より ©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員会
──安藤サクラさんが演じる主人公の寺子の生活感含めとてもリアルに、けれどお洒落に撮られていました。衣装やインテリアのセットは監督自ら指示されたのですか?
映像のイメージソースとなるアイデアスケッチがあったので、それを共有しながらインテリアや衣装の具体的なアイデアを各部署にだしてもらいました。今回は下着姿のシーンが多かったので、寺子役のサクラさんと一緒に下着を買いに行ったりもしました。
──閉ざされた女性の内面や影を表現するに当たり、男性としてどのように理解しましたか。また、安藤サクラさんという女優を若木監督はどのように見て、どのように向き合われたのでしょうか?
よしもとさんの文章の中で表現されている女性特有の心理描写や生理的な部分は、原作が出た1989年当時はとても新鮮だったに違いないと思いました。男性としては理解しづらい部分もありましたが、サクラさんの演技を通して、まっすぐに向かい合って見つめることができたと思います。どの映画もそうかもしれませんが監督と役者の信頼関係に基づいてできているということが、今回身に沁みてよくわかりました。
映画『白河夜船』より ©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員会
──この作品のいちばんの見どころはどこだと思いますか。
安藤サクラさんの演技に尽きると思います。繊細な心の揺れ動きを、映画の中で感じていたただければ嬉しいです。
──今後の活動として次の映画作品の予定はありますか?これからどんな作品を撮りたいですか?
次に映画を撮る予定はまだありませんが、機会があればどんなものでも撮りたいです。
(オフィシャル・インタビューより)
若木信吾 プロフィール
1971年3月26日、静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真学科卒業後、雑誌・広告・音楽媒体など、写真家としてさまざまな媒体で活躍。 99年に発表した写真集『Takuji』の被写体であり、2004年に他界した祖父をモデルにした家族映画『星影のワルツ』(07)で映画監督デビュー。2009年には台湾に古くから住む原住民の若者で結成されたトーテムというバンドを追ったドキュメンタリー作品『トーテム Song for home』を発表、国内外から高い評価を得る。本作は第3回監督作品で、原作の映画化は初の試みとなる。多くの著名人から信頼を受け、数々の人気写真集を発表するだけでなく、2004年に雑誌『youngtreepress』の編集発行を自ら手がけるほか、2010年4月には、故郷の浜松市に小さな書店 『BOOKS AND PRINTS』をオープンするなど、写真家以外にも幅広い活躍を見せている。
映画『白河夜船』
4月25日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次公開
毎日家で眠りながら恋人の電話を待つ寺子と、永遠に眠り続ける妻を持つ恋人の岩永。そんな中、男たちに添い寝をしてあげる“添い寝屋”をしていた最愛の親友しおりが死んだ。親友の死の衝撃と、不倫による不安と淋しさが身にせまり、寺子の眠りはどんどん深く長くなる。
原作:よしもとばなな
監督・撮影:若木信吾
出演:安藤サクラ、谷村美月、高橋義明、紅甘、竹厚綾、伊沢磨紀、井浦新
脚本:若木信吾、鈴本櫂
製作:重村博文、畠中鈴子
企画・プロデュース:越川道夫
企画協力:よしもとばなな事務所、新潮社
プロデューサー:石井稔久、玉井紅帆
製作:『白河夜船』製作委員会(キングレコード株式会社、株式会社ユマニテ)
制作:株式会社ユマニテ
制作協力:スローラーナー
2015年/日本/91分/16:9/HD
配給:コピアポア・フィルム
公式サイト:http://shirakawayofune.com/
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