骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-03-19 10:11


現実を変える為の一歩を踏み出した時の笑顔は尊い!『小さき声のカノン』『灰色の鳥』Wレビュー

音楽家・松本章が日本のふたりの女性監督による想像する力を感じさせる映画を紹介
現実を変える為の一歩を踏み出した時の笑顔は尊い!『小さき声のカノン』『灰色の鳥』Wレビュー
左:映画『小さき声のカノン―選択する人々』ポスター ©ぶんぶんフィルムズ 右:映画『灰色の烏』ポスター ©2013「灰色の烏」製作委員会

震災から4年経ち原発のデタラメさはいろいろ知ったけど、一体どうするのがいいんだろうか?答えが全くもってでないので、ドキュメンタリー映画『小さき声のカノン―選択する人々』(鎌仲ひとみ監督作品)を鑑賞したのです。

お話は、2011年3月11日の東京電力福島原発事故から4年、福島に住む小さな子供を持つ母親達は放射能の不安を抱いて生活していた。どのようにしたら放射能の内部被曝・外部被曝から子供を守るか?同じ不安を抱く母親達が集まって、自分達で出来る事を少しずつ行動してゆく。一方、チェリノブイリ原発事故のあったベラルーシでは、事故後25年経っているが放射能被爆に対する対策がまだ行われており、定期的に追跡検査、「保養」という24日以上放射能汚染のない土地で自然な食事やサウナ、マッサージ、運動などで様々な症状の緩和、予防、排毒を行うことを実践していました。ベラルーシの医師、そこに参加した日本の医師、日本でベラルーシの子供を保養させた日本人女性の経験も語られる。母親達の小さな輪は、少しずつ、大きくなり小さな希望が生まれ始める……。

映画『小さき声のカノン』より ©ぶんぶんフィルムズ
映画『小さき声のカノン―選択する人々』より、福島県二本松市で家族一緒に暮らし続けることを選択した佐々木るりさん(左)と次男の樹心くん ©ぶんぶんフィルムズ

福島の原発事故から4年が経ち、いつの間にか、年間1ミリシーベルトの基準も上がり、食品の安全基準も上がって、安全になったと希望的観測(安易な想像力)が広がっているような気がするのです。福島でももう大丈夫なんじゃないの?考えすぎでしょう?という考えが多いのかもしれない。

この映画に出てくる若い母親は、子供のために移住するのか?定住した場合放射能の危険に対しどう対応したらいいのか?という厳しい選択を迫られる。放射能は、無味無臭なので一見、緑のある普通の公園も素足で遊べなかったり、布団を太陽の下で思いっきり干せなかったり、食品も内部被曝があるので産地にこだわったり、事故前の普通がなくなっている。役所は基準の数値を上げて、学校でのプールを再開し、給食も県内産で再開し始め、普通をなんとなく戻していく。しかし、放射能の危険性にちゃんとした説明がないので、母親達は自分達で弁当を作るけれども、少数派なのです。子供の健康と放射能について悩む母親は孤立していたけれども、今後の放射能に対する想像力から、自分で出来る事をやらないよりやった方がいいのでやりはじめたら、同じ想いの母親が少しずつ集まり、笑顔が生まれるのでした。ベラルーシの原発事故の子供達への健康回復への取り組みや、その時に「保養」を受け入れた日本人の取り組みも紹介され、子供達の健康をどう守るのか?「保養」による解毒の作用も示され、目から鱗だったのです。

映画『小さき声のカノン』より ©ぶんぶんフィルムズ
映画『小さき声のカノン』より、こどもたちを被曝の影響から守るために、園児の母が結成した「ハハレンジャー」 ©ぶんぶんフィルムズ

理想と現実にはギャップがあるものですが、福島原発は管理下にあるため汚染水もブロックされ安全であるという政府のアピールによる理想に対し、現実としては放射能は拡散され続け、内部被曝の数字として現れる。現実を無視しないで、より良い未来の為に、子供達の為に、選択をする母親達の行動を描いた、力のある作品なのでした。少数派の人達も安心して暮らせて、大多数の人達も安心して暮らせたらいいのにと思ったのです。原発問題に興味のない人が、母親が先ず見て欲しいし、広がれば良いなーと思ったのです。

映画『小さき声のカノン―選択する人々』より ©ぶんぶんフィルムズ
映画『小さき声のカノン―選択する人々』より、ベラルーシでホールボディカウンターによる内部被曝の測定を受ける子供達 ©ぶんぶんフィルムズ

未来への小さな希望を感じたので、若手女性監督の可能性を感じようと、映画『灰色の鳥』(清水艶監督作品)を鑑賞したのです。お話は、精神的に不安定で母親に憎しみを持っている望月珠恵(西田エリ)は、中学生の沼口マナ(小林歌穂)、安西シオリ(安保彩世)等、ガールズキャンプの少女らと天狗の棲むという山に迷い込む。この山に住んでいた親孝行の若者は誤って母を殺し、天狗となって心に隙間ある者をさらっていくという言い伝えがある。遭難した珠恵たちは、謎の青年・椿(中山龍也)と出会う。彼の存在は彼女達の間に亀裂を生み、秘めた想いをさらけだしていく。

映画『灰色の烏』より ©2013「灰色の烏」製作委員会
映画『灰色の烏』より、左から、宇川ミズキ役のうらん、望月珠恵役の西田エリ、もも役の市川月菜、沼口マナ役の小林歌穂、安西シオリ役の安保彩世 ©2013「灰色の烏」製作委員会

主演の西田エリの描いた絵本を原案に物語を想像して映画化されたのです。冒頭のスローモーションで天狗に追いかけられる珠恵の映像からファンタジー(幻想)が爆発してたのです。現実シーンの仕事場の上司のセクハラまがいの会話、家での母親との会話等、空気がとても重いのです。母親役の内田春菊さんは髪型がバサバサで、第一印象お化けで、精神的に病んでるので、これが現実で毎日の日常であれば、天狗より恐いと思ったのです。カメラが手持ちで自由に役者を捉えるので、私生活を覗き見てる感じであったのです。珠恵はトラウマがあり、ずーっと何かを耐えてる、押し殺してる表情なのです。この映画はアイドル映画ではないし、彼女たちのベタに笑顔で可愛い表情はほぼ無いのです。ある意味、この重さはサイコホラーなのかもです。

映画『灰色の烏』より ©2013「灰色の烏」製作委員会
映画『灰色の烏』より、主人公の望月珠恵を演じる西田エリ ©2013「灰色の烏」製作委員会

山に5人の女の子で行くのですが、木々の緑、夜空の星が綺麗なのですが、遭難してしまい、夜の山の闇は怖いのでした。神社に朝行くとなんか、神聖だなーと思うけど、夜行くと怖いのです。謎の青年・椿はまさに謎で、死んだように生きているのです?ある意味椿と珠恵は似た者どうしかも知れないが、珠恵の方が葛藤・苦悩・諦めていないで押し殺した表情の奥底に、生きる力を感じるのでした。

淡々とテンポよく話は進むのですが、前半の重い雰囲気から、自然の開放感があり、他の少女達のちょっとした会話は可愛らしく、甘酸っぱい感じなのです。子供達の演出も自然なのでした。友情か愛情か分からない同性愛的な会話もエロくなく可愛い感じなのでした。映画の後半で、椿の謎が解き明かされ、珠恵のトラウマが明かされるのですが、このシーンの内田春菊さんと珠恵の少女時代(齋藤美咲)の演技は力があり、観ててゾクゾクしたのです。

幻想と現実が混じり合う不思議な白昼夢を見てる感覚の映画で、その世界をうまく音楽が間をつなげていたのでした。想像力を刺激してくれる映画なのでした。

映画『灰色の烏』より ©2013「灰色の烏」製作委員会
映画『灰色の烏』より、母役の内田春菊と主人公・珠恵の少女時代を演じた齋藤美咲 ©2013「灰色の烏」製作委員会

結論!両作品とも女性監督で題材があまりにも違うのですが、人間の創造する力、現実を変える為の一歩を踏み出した時の笑顔は尊いなーと思ったのでした。太陽の下を散歩して野花を摘んで、笑顔が一番な日が来ると良いなーと思ったのでした。

(文:松本章)



【映画『小さき声のカノン―選択する人々』を観て思い出したキーワード】
・Shing02『僕と核』
・矢部宏治著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
・ハンナ・アーレント

【映画『灰色の烏』を観て思い出したキーワード】
・映画『アンテナ』(熊切和嘉監督)
・カール・グスタフ・ユング
・ドナ・ウィリアムズ(『自閉症だったわたしへ』著者)

(文:松本章)



■松本章(まつもとあきら)プロフィール

1973年生まれ、大阪芸術大学映像学科卒。東京在住。熊切和嘉監督作品、山下敦弘初期作品の映画音楽を制作に係る。これまでに熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』、内藤隆嗣監督『不灯港』、山崎裕監督『トルソ』、今泉力哉監督『こっぴどい猫』、内藤隆嗣監督『狼の生活』、吉田浩太監督『オチキ』『ちょっと可愛いアイアンメイデン』『女の穴』などの音楽を担当。
新たに音楽を手がけた吉田浩太監督の新作『スキマスキ』が公開中。




映画『小さき声のカノン―選択する人々』
渋谷シアター・イメージフォーラム、フォーラム福島ほかにて上映中、他全国順次公開

映画『小さき声のカノン』より ©ぶんぶんフィルムズ
©ぶんぶんフィルムズ

監督:鎌仲ひとみ
プロデューサー:小泉修吉
音楽:Shing02
撮影:岩田まきこ
録音:河崎宏一
編集:青木亮
助監督:宮島裕
編集スタジオ:MJ
録音スタジオ:アクエリアム、東京テレビセンター
製作・配給:ぶんぶんフィルムズ
2014年/カラー/デジタル/119分
公式サイト:http://kamanaka.com/canon/




映画『灰色の烏』
3月21日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開

映画『灰色の烏』より ©2013「灰色の烏」製作委員会
©2013「灰色の烏」製作委員会

監督・脚本:清水艶
出演:西田エリ、中山龍也、小林歌穂、安保彩世、うらん、市川月奈、齋藤美咲、仁科 貴、内田春菊
音楽:小野川浩幸
プロデューサー:斉藤洋四朗 小泉朋 福嶋美穂
企画協力:西野入一明
製作協力:平野博靖
撮影監督:加藤哲宏
照明:石金真人
美術:塩川節子
衣裳:原田幸枝
脚本:木村優希
脚本協力:菅野友恵
テーマソング:「a gray crow」西田エリ
企画製作:テトラカンパニー ベストワンプロ アースダイバー
2013年/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/88分
公式サイト:http://graycrow-movie.com/

▼映画『小さき声のカノン』予告編

▼映画『灰色の烏』予告編

キーワード:

鎌仲ひと / Shing02 / 清水艶 / 西田エリ


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