2014年12月28日下北沢 CLUB Que『曽我部恵一ワンマンライブ "LOVE SONG"』より、尾崎友直(左)曽我部恵一(右)
曽我部恵一主宰のROSE RECORDSより尾崎友直が通算3枚目となるアルバム『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』を3月25日(水)にリリース、その前日となる3月24日(火)渋谷アップリンク・ファクトリーにて発売記念イベントが開催される。
アナログとCDのセットで発表される『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』は、ソロ・アーティストとしてのみならず、曽我部恵一のバンドのギタリストとしても活躍する彼の1年ぶりとなるアルバム。東京に生きるひとりの40代の男としての喪失感や慈愛などを独自の視点で描写している。曽我部恵一をはじめ、掛川陽介、Organ、dobokuといったクリエイターが参加し、ヒップホップ、ギターロック、ノイズ、パンクなど多様な音のテクスチャーが、彼の心象風景を美しく、そして生々しく彩っている。
リリース記念となる24日のイベントは、曽我部恵一をはじめ、甲斐哲郎、doboku、Language、Organ、セノオGEE、植野隆司(テニスコーツ)、MOROHAといった彼と交流のあるアーティストがゲストとして参加。彼が運営する渋谷のDJバー「EAR」の雰囲気を再現するトークの後、新作の世界観を表現するライブという2部構成にて行われる。
今回は、新作リリースにあたり、レーベル主宰として、バンド・メンバーとして彼を知る曽我部氏に、文章を寄せてもらった。
「今を生きる自分を歌うこと」
──曽我部恵一
「メッセージ。昼12時9分、弁当を食べ、コンパネの上で書いている」
この言葉からアルバムは始まる。その曲には「メッセージ」という題がつけられている。
ぼくと尾崎友直とのなれそめのようなものは以前書いたこちらの記事を読んでいただくとして、さてここにあるのは彼の3枚目のアルバム。本来彼は12インチシングルを出すつもりで制作し始めたのだが、気づけば11曲のフルアルバムが完成していた。
最初にこんなアルバムになると渡された音源には、いくつかの曲がまだ登場していなかった。そんな頃にぼくのトラックで歌ってみたいという連絡を彼から受け、アコギ中心の曲を作り送った。彼は気に入ってくれたようで、言葉がするする出てくると言って、すぐにラップ入りのものを戻してくれた。アルバムに追加したいということでそのままミックスもやらせてもらった。それが「メッセージ」だ。
その後、彼からあの曲はいつもと違って一気呵成に書いたもので、やっぱりしっかり作り込みたいので今回はアルバムに入れない、という旨のことを言われた。その他にも音質やミックスなどいろいろと気になる部分はあったようだ。アーティストの意向が全てなので、ぼくはたいした意見はせず了解していたが、心のどこかでは少しばかり残念な気もしていたのも正直なところだ。なぜなら出来上がったその曲がとても好きだったから。
2014年12月28日下北沢 CLUB Que『曽我部恵一ワンマンライブ "LOVE SONG"』終演後のメンバー、曽我部恵一、尾崎友直、オータコージ
彼の低く囁くようなラップスタイル。それがどうして生まれたかを以前教えてくれたことがある。この曲はそのスタイルからも外れていた。不安定なほどに声高(彼にしてみれば、だが)に歌われる。韻も踏んでいない。韻を踏むどころではなかったのかもしれない。テーマはより深くなった彼自身の信仰と、それに依って生きるということ。歌に出てくる、ときどき寂しそうな「きみ」とは、恐らくぼくのことだ。そのきみに「聖書の話、諦めずに話すよ」と彼は続ける。別れて暮らす子供達、そしてドラッグに依存してしまう若者たち、彼の瞳に映るそんなみんなを彼は優しく強い言葉で気遣う。
さらけ出し過ぎたのかな、と思った。あまりにリアル過ぎたのか、と。でもこれほどまでに裸の彼は今までいなかったのじゃないか、とも思った。しかしまた数日後、この曲このまま入れますという連絡が。そして蓋を開けたらアルバムの一曲目を飾っていた。
剥き出しの自分を堂々しょっぱなに据えた彼の勇気に喝采を送りたかった。逃げも隠れもしない、本当の自分。あまりに手垢のついた「本当の自分」なるもの。しかしそれをそのまま音楽に張り付けられる人が、何人いようか。そしてその自分を最大の誇りを持ってレペゼンする。
2014年2月25日、『曽我部恵一 ライブツアー2014「ハッピー」』大阪 十三FANDANGO、アンコール直前の3人。
彼が何度も言及する宗教と信仰に違和感を感じる人もいるかもしれない。しかし、他人に違和を感じ、次に理解しようと努力し歩み寄ることにしか平和はないだろう。葛藤逡巡なくすんなり受け入れられるのは他者の上澄みだけだ。ここにいる尾崎友直という他者と、じっくりと交わって欲しいと思う。それに、ぼくやあなたも、特定の宗教ではないにしろ、何らかの信仰にもとづいて生きているはず。例えそれがちっぽけなことだとしても、自分自身にとっては何にも代えがたい存在を信じながら。
アルバム全体を、彼の生きる情熱が貫いている。聴いたあとに残る感触は重々しいものじゃなく、夏の最初の一日のような、清々しさ。
最後に置かれたのは「目」という曲。もはやトラックはない。iPhone越しに彼が語りかけてくる。録音されたもので、こんなにリアルな手触りを持ったものを他にすぐに挙げることは、ちょっと難しい。
「おはよう。こっちはいま、夜です」
この声を聴くために、ぼくは何度でもこのレコードをターンテーブルに乗せるだろう。
2014年7月21日、青森「夏の魔物」曽我部恵一ソロライブより
【関連記事】
「春頃に、トモナオがフルアルバムを作ったという話を聞いた。夢や現実や過去や未来、そんなものがぎゅっとつまった最高の音楽」曽我部恵一が尾崎友直について綴る(2011-07-24)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3153/
尾崎友直 プロフィール
1971年11月2日生まれ。東京都世田谷区桜丘出身。16歳の頃よりパンクロックに影響を受けバンド活動を開始。1989年より都内のライブハウスにてライブ活動を精力的に展開する。1998年、渋谷円山町にてDJバー「EAR」を開店、同時期に自身のレーベル「EAR」を立ち上げる。バーのコンセプトは「音楽を核に、想像力を駆使し、何かをつくる力や人々の交差する場所」。EARのコンセプトに賛同し、ライブを行いながらメジャーシーンへとステップアップしたバンドはsnap、MOROHA、灰汁など多数存在する。1998年、自身のレーベルEARから第一作品であるソロアルバム『TAKE ME HOME』をリリース。その即興性に満ちた音楽性と、言葉を駆使した創造性あふれる表現力により、ハードコアシーンの受け手に熱く支持される。またジョン・ゾーンから大絶賛されるなど、即興アーティストしての評価を高めた。2014年4月、セカンド・アルバム『JEHOVAH GOD』をリリース。前作よりさらに表現の幅を拡げギタリスト、コンポーザー、プロデューサーとしての側面を強く打ち出した。そして2015年3月、サード・アルバム『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』をリリース。
BAR「EAR」公式サイト
http://www.ear-bar.com/
ROSE RECORDS 尾崎友直公式サイト
http://rose-records.jp/artists/tomonaoozaki/
尾崎友直/3rdアルバム『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』発売記念LIVE SHOW
2015年3月24日(火)
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
当日、ニュー・アルバム『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』の販売を行います。
18:30開場/19:00開演
料金:前売1,000円/UPLINK会員1,000円/当日1,300円
【一部】
トークショー「BAR EAR出張版」
【二部】
『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』発売記念ライブ
出演:尾崎友直、曽我部恵一、甲斐哲郎、doboku、Language、Organ、セノオGEE、植野隆司(テニスコーツ)、MOROHA
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/36176
尾崎友直『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』
2015年3月25日(水)リリース
[アナログ+CD]
2,593円+税 ROSE187
ROSE RECORDS
SIDE-A
01.The Message
02.夏休み [Summer Holiday]
03.美術館の写真 [Photograph in Museum]
04.夕暮れ [Twilight]
05.終わり [The Last Days]
SIDE-B
06.約束 [The Promise]
07.ダニエル4章16節 [Daniel Chapter 4 Verse 16]
08.川に捨てたバス代 [The Bus Fare Thrown Into A River]
09.夏休みが終わっちゃう [Summer Holiday is Ending Soon]
10.波音 [Sound of Waves]
11.映画 [Film]
12.目 [The Eyes]
amazonでの購入は下記より
http://www.amazon.co.jp/dp/B00TJE68VI