映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』のジェレミー・セイファート監督
食の安全を願う「家族」の視点から、GMO(Genetically Modified Organism 遺伝子組み換え食品)がいかに私たちの生活のなかに拡大しているかを取材し、遺伝子組み換え食品をめぐる問題点を描くドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』のジェレミー・セイファート監督が来日。25日、都内・日比谷文化図書館の大ホールで行われたティーチイン・イベントにジェン夫人を伴って出席した。
4月25日(土)より公開となる本作は、食料廃棄問題をテーマにした初監督作品『DIVE!』が世界22の映画祭で様々な賞を獲得した俊英セイファート監督の最新作。表示義務がなく、GM食品の存在自体がほぼ知られていないアメリカの現状に疑問を抱いたセイファート監督は、家族と共にGMOの謎を解く旅に出る。遺伝子組み換え市場シェア90%のモンサント本社や、ノルウェーにある種を保管する種子銀行の巨大冷凍貯蔵庫、GMOの長期給餌の実験を行ったフランスのセラリーニ教授など、世界各国への取材を重ねるうちに、徐々に明るみになっていく食産業の実態に彼は言葉を失う。この旅の最後に、セイファート監督の家族は、いったい何を思い、何を選択していくのだろうか?
観客は支持、メディアは酷評、そこに隠された真実とは?
──本作は、2013年の「国際有機農業映画祭」で上映され、大反響を呼んだことから日本での上映が実現しました。初めて日本の観客を前にして、今、どのような心境ですか?
日本で公開されることになって非常にうれしいです。会場は女性がほとんどですが、アメリカも同じような風景でした。こういう食の問題に対しては、女性の方が情熱的ですね。命の母と言いますか、種を育ててくださる方たちですから。妊娠されると、さらに食への意識が高まるようです。(会場を見渡しながら)男性や小さなお子さんも若干見えますが、本公開の時は、ぜひ家族で観に来ていただきたいですね。
ここから観客とセイファート監督との質疑応答へ。最初は挙手に躊躇していたが、彼の息子フィンの心温まる「種好き」エピソードで心がなごみ、会場は一気にリラックスムードに。
──(観客からの質問)この作品は、家族の視点から描いているところが面白いです。息子さんが「種好き」というのもユニークでしたが、最初からそういう構成で映画を作ろうと思っていたのですか?
フィン(当時5歳)が種好きだったことは、この映画を撮る一つのきっかけにはなっていますが、前作『DIVE!』で家族を巻き込み迷惑をかけたという反省もありましたので、今回は絶対に出さないつもりでした。ところが、GMOを調べれば調べるほど、家族なしでは語れない問題だと気付いたんです。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より、セイファート監督の息子フィン(右、当時5歳)、スカウト(左、当時4歳)
──(観客からの質問)息子さんは何がきっかけで種に興味を持ったのですか? また、彼が集めた種は、自分で育てたりしているのか?
フィンが2歳半の時、家に畑を作り、「種はこうして蒔くんだよ」と教えてあげたんです。しばらくすると、それが芽になり、トマトの実がなって、100個くらいの種ができた。彼は凄く感動して、命の不思議さ、大切さに目覚めたんですね。生物多様性を心から愛している。ただ、去年も25品種ほどのトマトを植えて、妻が手に負えないと困っていますが(笑)。
──(観客からの質問)母国アメリカをはじめ、世界での反応はいかがでしたか? 一部メディアから批判もあったようですが。
観客の反応はとても良くて、様々な映画祭(バークシャー国際映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞、イエール大学環境映画祭観客賞ほか)で賞をいただきましたが、一部メディアからはかなり厳しい批判もあり、物議を醸しています。そもそもGMO賛成派のライターが書いているのですが、彼らの道理としては、もっと化学的な証拠を取り上げて詳細なものを作るべきではなかったのかと。家族が登場するような、パーソナルな作品を彼らは望んでいなかった。
*アメリカの老舗雑誌「ザ・ニューヨーカー」が「“OMG GMO” SMDH」(「GMO OMG」(本作の原題)には呆れた[SMDH=shaking my damn head])と批判し、モンサント・ヨーロッパのツイッターで世界中に拡散された。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
怖いのは、巨大バイオ企業に「食の支配」が一極集中していること
──(観客からの質問)作中、モンサント社への取材は、まるでマイケル・ムーア監督のような突撃取材でした。モンサント社は、どのようなメディアに対してもあのような高圧的な態度を取るのですか?
私は、取材の途中、あちこちの有機農家へ足を運びましたが、彼らは自分たちの作っているものをすべてオープンに見せてくれました。それに対して、モンサント社は完全にシャットアウト。作中、カメラマンを車に待たせて、マイクをシャツに隠して、一般人として「食の安全に関心があるから教えてくれ」と訴えるシーンがありますが、体格のいい人が次々に出て来て「そんな質問は困る」と追い出されてしまった。有機農家とまるで真逆の対応だったので驚きました。何か秘密を隠しているなと。また、本社にも行ったのですが、その時ちょうど、GMOを育てている農家の人たちが大勢やって来るというバスツアーがあったので、「よし、紛れ込んでやれ!」と思って、その中に入って農家の振りをしていたのですが、見事にガードマンに見破られてしまった。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より、モンサント社の入口
──(観客からの質問)映画の冒頭に出てくる、モンサント社の次の一手とは何でしょう?風味をよくするために細胞を組み替えたり、あるいはオーガニックと認められるようなものを開発したり、いろいろ考えられると思いますが、監督はどう思われますか?
わかっていることは、巨大バイオ企業は利益の追求だけを目指している、ということ。結局、そこでないがしろにされているのは「人間の健康」ですが、彼らはそんなこと知ったことではない。だから、お金を稼ぐためなら、どんな風にでも変化していくと思う。例えば、オーガニックの方が稼げるとわかれば、そちらに向いて行く可能性もある。ただ、ここで問題なのは、巨大バイオ企業に「食の支配権」が集中してしまっていること。一極集中は非常に怖いので、支配権を分散させなければならないと思う。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
──(観客からの質問)「食の安全」を守るためのアイデアがあれば教えてください。
大きな社会問題に立ち向かうとき、これに比例して大きな解決策を考えがちですが、それは難しいし忍耐力がいる。もっと小さなことから、長い時間をかけてやっていくことが大切。映画の中で、フィンが言っていたけど、「買うのをやめれば、この会社は潰れちゃうんでしょ?そうすればいいじゃない?」。子供のシンプルな意見ですが、私はそこに深い智恵があると思いましたね。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』のジェレミー・セイファート監督(右)、ジェン夫人(左)
この作品は、難しい化学でGMOを解明していくものではない、あくまでも家族の視点、子供の視点でGMOの謎を探るロードムービーである。本編を通して、彼らと一緒に旅をすれば、「遺伝子組み換えって何だろう?」という素朴で奥深い疑問が少しずつひも解かれていくことだろう。
(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』
4月25日(土)より渋谷アップリンク、名古屋名演小劇場、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開
監督:ジェレミー・セイファート
出演:セイファート監督のファミリー、ジル=エリック・セラリー二、ヴァンダナ・シヴァ
配給・宣伝:アップリンク
協力:大地を守る会、生活クラブ生協、パルシステム生活協同組合連合
字幕:藤本エリ
字幕協力:国際有機農業映画祭
配給:アップリンク
2013年/英語、スペイン語、ノルウェー語、フランス語/85分/カラー/アメリカ、ハイチ、ノルウェー
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gmo/
公式Facebook:https://www.facebook.com/gmo.movie
公式Twitter:https://twitter.com/uplink_els