映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より
サハラ砂漠の遊牧民であるトゥアレグ族のバンド「トゥーマスト」。支配と反乱の歴史を塗り替えるために闘う彼らを追ったドキュメンタリー映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』が2月28日(土)より渋谷アップリンクにてロードショー公開中。公開に先駆けて、アフリカプロモーター/JICAアフリカ部のンボテ★飯村さんを迎えての先行上映イベントが行われた。
今回のテーマは『トゥアレグ族とアフリカ・サヘル地域のいま~揺れる砂漠の大地』。JICAアフリカ部で勤務、セネガルとコンゴ民主共和国に駐在経験があり、アフリカに関する講演やトークイベントなどを手掛けている飯村さんにより、今作のバックグラウンドが語られた。
【イスラムとトゥアレグ】
トゥアレグ族は「イスラム過激派」ではない
トゥアレグはサハラの砂漠の大地に、前史から息づき、遊牧や交易を生業とし、そして独自の文化と伝統を築いてきました。その地にイスラムが伝わったのが9~11世紀ころ。彼らにとってはイスラムである前にトゥアレグなんです。『トゥーマスト』でも描かれているように、イスラム過激派は女性が歌ったり、踊ったりすることを禁止します。反対にトゥアレグは独自の文化を育んできました。女系社会とも言われています。彼らはイスラム過激派でも原理主義でもないし、外来者でもない。サハラの地に住む権利があり、この地に住む伝統がある人たちなんです。
渋谷アップリンク・ファクトリーで行われたトークイベントに登壇したンボテ★飯村さん。
【世界をリードするアフリカ】
変化するアフリカのイメージ
アフリカってどんなところですか?と聞かれると、キリンやライオン、はたまた貧困と紛争、というイメージを持つ人も多いでしょう。でもアフリカは実に多様なんです。例えば私がいたコンゴのキンシャサは人もビルも車もひしめく大都会です。電化が進み、携帯も普及し、情報通信技術も発達しています。農産物もとれますし、銅をはじめ鉱物資源も豊富です。最近はアフリカのビジネスとその歴史をテーマにした書籍が多数刊行され、ファッションや音楽など、様々な面でアフリカがリードし、注目を集めています。変化していく日常と独自の伝統文化。平和も紛争も併存しているのが現代アフリカの姿なんです。
イベント当日の飯村さんの資料より、アルジェリア、ニジェール、リビア、マリ、ブルキナ・ファソがトゥアレグの現在の生活圏となっている。
【アフリカの人々の精神】
奪うよりも分け合う文化を持つ
アフリカの人々の文化には気候が影響しています。サヘル地域とは、サハラ砂漠南縁部に広がる乾燥地域のことを指します。国は細かく分かれていますが、砂漠の真ん中には地図に書かれているような国境もなければ、柵もありません。羊もラクダも、パスポートやビザはいりませんから(笑)。待ちに待った恵みの雨季にも、少量しか雨が降りません。西アフリカの人々には、限られた自然の恵みを少しづつ分けあって暮らす文化があります
マリのフィールドで調査しているンボテ★飯村さん。
【紛争/植民地化】
砂漠のキャラバンが独自の文化を生んだ
アフリカ大陸北部に横たわるサハラ砂漠。南北の人やモノの交流を阻んできました。トゥアレグ族は隊商として砂漠を越え、独自の文化と生活圏を作ってきたのです。19世紀、アフリカは列強により分割されていきます。サハラの地は広くフランスの植民地となり、そしてアフリカの独立を経て、アルジェリア、ニジェール、リビア、マリ、ブルキナ・ファソの5つの国に分かれました。トゥアレグの人たちの生活圏も、5つの主権国家によって分断されることとなります。
映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より
【リビアとの関係】
カダフィの元で世界の音楽文化を知った
長きにわたりリビアの最高指導者を務めてきたカダフィ大統領。報道を見ていると、どんな過激な人物かと思いがちですが、アフリカでとても人気があります。パン・アフリカニズム、西洋の価値観に異議を唱えるアフリカの代弁者としてとらえられています。マリの北部は過酷な気候の上、資源に乏しく、厳しい生活環境の中にあります。今作でも語られるように、彼らは生活のために、アイデンティティのために国を離れ、リビアに向かい、カダフィの傭兵として従事しました。そこで彼らは欧米の音楽を知ることになるのです。 その後、カダフィ体制が崩壊し、トゥアレグ族の人々は、ニジェールを通り、彼らの母なる大地、アザワドといわれるマリ北部に帰ってきました。
イベント当日の飯村さんの資料より、カダフィ政権の崩壊により、リビアにいたトゥアレグ族の人々はマリ北部に帰ってきた。
【マリ】
トゥアレグが代々受け継いできた土地
イベント当日の飯村さんの資料より、マリ共和国と首都バマコ。アザワドはマリ北部を指す。
アザワドはもともとトゥアレグ族が先祖から受け継いできた地域でした。マリの独立後、中央政権とトゥアレグの人たちとに対立構造が生まれ、衝突と和平合意を何度か繰り返しました。5つの国に分かれて暮らすなかで、トゥアレグの人たちにとっていかに自分たちの生活、コミュニティ、アイデンティティを維持するかは大きな課題だったのです。独自の世界観を展開する彼らの音楽は、彼らの主張であり、心の叫びなのです。
(2015年2月6日、渋谷アップリンク・ファクトリーでのトークイベントより)
【関連記事】
サハラ青衣の遊牧民が奏でる革命の音楽、バンド「トゥーマスト」インタビュー
(2014-12-11)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4508/
サハラ砂漠のトゥアレグ族のウラン被曝は日本の原発再稼働と無関係ではない
バラカン氏×デコート豊崎氏による映画『トゥーマスト』トークレポート
(2014-12-24)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4518/
[松本章の"映画の愛に☆直感"]音楽を通して自己を見つめ、世界の現実を知る!映画『君が生きた証』『トゥーマスト』Wレビュー
(2015-02-16)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4594/
カラシニコフをギターに持ち替え自由のために闘うバンド、トゥーマストを知るための8曲
石田昌隆さんと松山晋也さんが語る「抵抗運動と音楽」
(2015-02-28)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4610/
映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』
渋谷アップリンクにて公開中
映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より
監督:ドミニク・マルゴー
出演:トゥーマスト
スイス/2010年/英語/カラー/88分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト