骰子の眼

cinema

2008-06-03 19:49


『TOKYO!』最速レビュー「それぞれのエピソードの完成度に圧倒」

ポン・ジュノ、レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリーが『世界で最もCOOL!?な都市 東京』を描く究極のコンセプト勝ちムービー
『TOKYO!』最速レビュー「それぞれのエピソードの完成度に圧倒」
  • 『シェイキング東京』ポン・ジュノ監督

  • 『メルド』レオス・カラックス監督

  • 『インテリア・デザイン』ミシェル・ゴンドリー監督

『コンセプト勝ちの映画』というものがある。作品そのものの内容以前に、話題性などにおいて、確実に注目を浴びるであろうと予測される企画である。世界の映画マーケットがグローバル化され、特に映画興行そのものがイベント化しつつある日本の映画業界では、コンセプト勝ちの作品がこれからますます重宝されるのは必至だろう。そこで登場するのが「TOKYO!」だ。

ミシェル・ゴンドリー(『エターナル・サンシャイン』)、レオス・カラックス(『ポンヌフの恋人』)、ポン・ジュノ(『殺人の記憶』)が、それぞれ東京を舞台にして撮った30分程度の短編でオムニバスとして構成されている『TOKYO!』は、今年のカンヌ映画祭で上映されて話題になったばかり。日本でも晩夏より世界先行ロードショーされる。

鑑賞前、日本だけでなく世界のマーケットを考慮した『TOKYO!』のコンセプトのしたたかさに歯がゆさを覚え、世界的に評価の高い監督達がどのような日本人像を展開するのか、正直不安も感じた。だがそんな思いは一番手のミシェル・ゴンドリーの作品が終わる頃にはすっかり忘れていて、見終わった後、それぞれのエピソードの完成度に圧倒され、まるでフルコースの食事を楽しんだあとのような満足感で満たしてくれた。

『TOKYO!』には、したたかな企画全体のコンセプトを打ち負かすほど、3作品共通のテーマが、監督それぞれの<東京>のビジョンに支えられて力強く打ち出されている。そしてその共通のテーマこそが『個人のあり方(アイデンティティ)』である。

ミシェル・ゴンドリー監督の『インテリア・デザイン』では、東京に引っ越してきたばかりの女性が、不確かな恋愛関係に悩みながらも、ふとした身体の異変(その異変が何かは映画をみてのお楽しみ)に気付いて、自分のアイデンティティを確立する。そして文字通り東京の風景の一部になってしまう、といういかにもゴンドリーらしいファンタジックな要素が溢れる映像展開で楽しませてくれる。

二番目は個人的に一番のお気に入りのレオス・カラックス監督『メルド』。突如として東京に現れる地下水道に住む異国人の怪人メルドが非業の限りをつくして、日本社会を騒然とさせるという極めて挑発的なストーリー。自分のありのまま、断固として変わろうとしない主人公が、東京と接触した瞬間に悲劇のどん底に落ちていく様は、『ポーラX』や『ポンヌフの恋人』を彷彿とさせる。

そしてポン・ジュノ監督『シェイキング東京』では、引きこもり歴10年の男が、一目惚れした女性に会うために、街へ出て行くことを決意するものの、奇妙な風景を目撃することになる。引きこもりの男が東京の街を疾走する場面が、実に美しく丁寧に撮られている。一見コミカルで実はとてもシリアスという不思議な雰囲気も独特で、まさにデザートのようなさわやかな味覚を残して映画は終わる。

それぞれの主人公が、日本社会の中で自分のあり方を探し求める姿が、東京という様々な表情を持つ街のように、時にはロマンチックに、時にはSFっぽく、時にはホラー仕立てに展開されていく。監督それぞれの映像感覚と世界観、そしてテーマ性が見事に融合されているからこそ、この作品をただのコンセプト映画にとどまらない、内容ともに充実した作品にしている。

ただ世界観も国籍も違う3人の外国人監督が、東京を舞台に短編を撮るにあたり、それぞれがこのテーマを選んだということはとても興味深い。日本社会では『KY』という言葉が流行になるぐらいに、個人主義というのは完全には受け入れられない。『個人』という言葉でさえ、明治時代まで日本には存在しなかったらしい。ただ現在の日本社会の中で、個人のあり方というのが政治的にも社会的にも様々な形で問われていることは事実だと感じる。3人の監督は、東京を訪れて、そんなことを敏感に感じ取って、このテーマを選んだのだろうか? 3人が日本人監督ならば、各エピソードのテーマにここまで関連性が生まれただろうか? そういう意味で『TOKYO!』は、外側からみた日本社会の一部を鏡のように写し出している作品であると思う。

いずれにせよ、東京を舞台にした日本映画とはまた違った、異質で力強い映像世界をぜひ映画館に足を運んで体験してみて欲しい。

( テキスト/山本兵衛 http://www.webdice.jp/user/888/

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『TOKYO!』
晩夏、シネマライズ、シネリーブル池袋にて公開
配給・宣伝 ビターズエンド

音楽はHASYMO (細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一)がオリジナル楽曲を提供。

公式サイト
http://tokyo-movie.jp/

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