『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』の著者、ジェニファー・コックラル=キングさん。
カナダのフードライター、ジェニファー・コックラル=キングさんが世界各地で起こっている都市のなかで食料を生産しようというムーブメントについてレポートした『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』(白水社)の出版記念講演会「世界で始まる食料自給革命」が2月2日、たねと食とひと@フォーラムの主催により渋谷区リフレッシュ氷川集会室にて行われた。
自立した地域コミュニティを作っていくことが課題
当日は今作のほか『遺伝子組み換え食品の真実』(白水社)『それでも遺伝子組み換え食品を食べますか?』(筑摩書房)といった書籍の翻訳を手がける白井和宏さんの講演のほか、辻信一さんも登壇し、「どのページからでもいいから開いて読んでほしい。世界の仕組みを理解し、自分ができることはなにかを考えていくことが必要」と今作を推薦した。
講演のなかで、白井さんは「グローバリゼーションという暴力に我々はどうやって立ち向かっていくか。それはテロに屈しないということではなくて、我々自身が多国籍企業の支配下に追われず自立した地域コミュニティを作っていくことが重要な課題」と述べた。世界の食料システムは破綻していくなか、日本でも犬用の歯周病治療薬を製造するため、世界初の遺伝子組み換えイチゴの栽培が始まっていることにも触れ、遺伝子組み換え作物についての問題意識への必要性を語った。
『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』より、ロンドンのマーク・リデル・スミス氏の自宅「垂直の菜園」。多種多様な作物を栽培し、豊富な生産量を誇る。© 2010 Jennifer Cockrall-King
『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』より、パリ・ベルサイユの「王の菜園」内にある、垣根仕立ての果樹に覆われた野菜の列。(2010年10月3日)
『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』でも都市農業の成功モデルとして紹介されているミルウォーキーの「グローイング・パワー社」の魚の養殖(アクアカルチャー)と水耕栽培(ハイドロポニクス)を組み合わせた「アクアポニクス」という革新的なシステム(ryan griffis's Photostreamより)。
『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』に掲載されている、カナダ・トロントの団体「ストップ・コミュニティフードセンター」のHP(http://thestop.org/)。コミュニティのなかで自宅に庭のある人と野菜を育てたい人が連携して「自分の裏山で野菜をつくろう」という運動など、コミュニティ自体を発展させるための活動を行っている。
家庭菜園は究極のローカリゼーション
今作のなかで紹介される世界各地の都市で都市農業を続ける人たちの動機も「社会正義のため、就労困難な若者たちのトレーニングなど、複合的な機能をもち地域に広がっている」と白井さんは解説。日本での都市農業の可能性について、「都市農業によって日本の食料を完全自給することは困難だが、少子高齢化と福祉に対して影響力を発揮できる。いま重要なのは、コミュニティの再生」と白井さんは指摘。日本でも銀座のミツバチプロジェクト、京都の六角農場、練馬の白石農園など、既に日本で始まっている都市農業の場を挙げた。とりわけ、大田区蓮沼駅前のコミュニティ八百屋「気まぐれ八百屋だんだん」は日本の都市農業の可能性のひとつとして紹介。「いまの我々を取り囲んでいる社会状況への認識をもったうえで家庭菜園を行うことが大切。家庭菜園は究極のローカリゼーションです」と語った。
『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』翻訳を手がけた白井和宏さん。
また、食の安全を願う「家族」の視点から、遺伝子組み換え食品がいかに私たちの生活のなかに拡大しているかを描く、アメリカのジェレミー・セイファート監督によるドキュメンタリー『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』が4月25日(土)より公開される。
(取材・文:駒井憲嗣)
【試し読み実施中】
『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』を試し読みできます。下記テキストは「はじめに」より冒頭の2ページ、pdfで「はじめに」全12ページを掲載しています。
はじめに
都市農業の新たな流れについて出版することは、私にとって長年の夢だった。フードライターであり、ガーデニング好きな私は、テラスでローズマリーやバジルに水をあげている人を見かけると、つい立ち止まって、話しこむことがよくある。ところが5年前のこと、あるアパートの前を通りすぎた時、それまではゼラニウムやロベリアの植木鉢が置かれていたバルコニーに、たくさんのトマトやキュウリのつるが巻きついていることに気づいた。近くの住宅地は、庭の芝生が掘り返されて、インゲンマメやエンドウ、ニンジンの畑に変わっていた。さらに別の住宅地では、条例違反に問われないように、こっそりと裏庭で鶏やミツバチを育てていた。今では、私の街だけでなく多くの都市で、コミュニティガーデンが急速に広がっている。
そうして私は、都会の予想もつかないような場所で、食べものを育てているのを見つけることに興味をもつようになっていった。多くの人々が、最近急に自宅付近で、時間とエネルギーを使って食べものを生産し、販売するようになった理由を徹底的に調べてみたくなったのだ。もともとファーマーズマーケットでの買い物好きな人々が、わずかな金額で買える種子を手に入れ、自宅の庭で野菜を育てるようになったのだろうか。確かに、この10年間に各都市でファーマーズマーケットが開催されるようになり、多くの人が旬の新鮮な野菜の美味しさを楽しむようになった。ファーマーズマーケットが、都市生活者を教育したのかもしれない。あるいは、農薬を使わずにナスやイチゴを育てることが、最高の娯楽になったのだろうか。それとも、編み物やキルティングが再流行したのと同様の、一過性のブームに過ぎないのだろうか。
安い食品を探す買い物という行為に多くの人々が飽きてしまい、自分で食べものを育ててみたくなったのではないか、というのが私の推測である。市場経済が世界に拡大したため、食品を安く買えるようになった。ところがその代償として最近では、食の安全をめぐる事件が相次いで起こり、食品産業を揺るがせてきた。少しでも価格を下げるために起きる危険性が、無視できない状況になっているのだ。巨大化した食品産業は、世界中に物流網を広げてきた。その結果として、世界的な規模で何百万人もの消費者に、食品汚染が広がる可能性も増えてしまった。カナダでも2003年には、いわゆる「狂牛病(BSE)」が確認された。何年も牛肉が輸出できなくなって、価格は暴落した。同年には、中国から輸入されたオーガニックの西洋ナシから高濃度のヒ素が検出され、アメリカ、カナダ、香港で回収騒動が起きた。2006年には、大腸菌O157に汚染されたカリフォルニア産ホウレン草によって、26の州で数百人の食中毒患者が発生し、5人の死者が出た。しかもこれらは、増え続ける食品事故の始まりでしかなかった。安さと便利さを追い求めて、海外企業に食料の生産を委託したことで、大規模な問題が起こるようになったのだ。(文:ジェニファー・コックラル=キング)
▼『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』より「はじめに」
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『モンサントの不自然な食べもの』DVD発売、白井和宏さんに聞く、現在の遺伝子組み換え食品をめぐる問題(2013-11-15)
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巨大バイオ企業による食の支配を許すな!遺伝子組み換え食品を「家族」の視点で追求するドキュメンタリー
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』セイファート監督語る(2015-3-4)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4614/
『シティ・ファーマー:
世界の都市で始まる食料自給革命』
著:ジェニファー・コックラル=キング
翻訳:白井和宏
発売中
2,592円(税込)
320ページ
白水社
購入は書影をクリックしてください。amazonにリンクされています。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』
4月25日(土)より渋谷アップリンク、名古屋名演小劇場、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開
監督:ジェレミー・セイファート
出演:セイファート監督のファミリー、ジル=エリック・セラリー二、ヴァンダナ・シヴァ
配給・宣伝:アップリンク
協力:大地を守る会、生活クラブ生協、パルシステム生活協同組合連合
字幕:藤本エリ
字幕協力:国際有機農業映画祭
配給:アップリンク
2013年/英語、スペイン語、ノルウェー語、フランス語/85分/カラー/アメリカ、ハイチ、ノルウェー
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gmo/
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