骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-02-19 21:00


地元愛から移民問題まで、日本初公開作目白押しの『映画で旅するイタリア』でイタリアを知る!

京都ドーナッツクラブ主催による連続上映企画、2/22より渋谷アップリンクにて開催
地元愛から移民問題まで、日本初公開作目白押しの『映画で旅するイタリア』でイタリアを知る!
映画『僕はナポリタン』より

イタリア映画の翻訳、配給、本、絵本の翻訳などを中心にイタリア文化を紹介する団体・京都ドーナッツクラブによるイタリア映画の連続上映イベント『映画で旅するイタリア~日本初公開作と巡る6ヶ月~』が2月22日(日)より渋谷アップリンクで開催される。
2月から7月まで、京都ドーナッツクラブによりセレクトされたイタリア映画の新たな潮流を代表する作品を上映。毎回、メンバーやゲストを交えてのトークを行うことで、イタリア映画の魅力を様々な角度から堪能することができるイベントとなっている。開催にあたり、京都ドーナッツクラブのメンバー・二宮大輔さんに、日本未公開作品3作品、東京初公開作品2作品を含めた6作品の観どころを解説してもらった。




イタリア映画の実情を明確に伝えるべく、
作家性の強い監督に焦点を絞った6作品

イタリア本国にはスパゲティ・ナポリタンなど存在しません。あれは、ナポリ郷土料理の材料をケチャップやベーコンで代用した日本独自の一品です。料理好きならご存知の方も多いかもしれません。ただ、私たちが一般的に認識している物事には、かくも知らない事実が潜んでいるものです。

それはイタリア映画でも同じこと。最近のイタリア映画といって思いつくのは、辛うじて『ライフ・イズ・ビューティフル』。ネオレアリズモや、フェリーニなどの巨匠たちが活躍した時代を経て、イタリア映画はすっかり影を潜めてしまったというのが一般的な認識でしょうか。ところが、実情はここでも大きく異なっている。現在イタリアでは、古株も新人監督も次々と新作を発表しており、2013年、2014年には、アカデミーやカンヌなど名だたる国際映画祭でそれらが賞を獲得しました。

そんな近年の活況をまとめて日本に紹介しているのが、2001年から始まり、毎年ゴールデンウィークに有楽町で開催されているイタリア映画祭です。毎年10本強の新作映画がそろい踏みする貴重な機会ではあるものの、もろもろの事情から惜しくも取りこぼされてしまう作品があるのも動かしがたい事実。イタリアの文化紹介を看板に掲げる私たち京都ドーナッツクラブが手をこまねいているわけにはいきません。そこで、この度『映画で旅するイタリア~日本初公開作と巡る6ヶ月~』という月に一度の上映イベントを企画しました。作家性の強い監督に焦点を絞り、イタリア映画の実情をより明確に伝えるため、90年代初期から最新作まで、テーマも舞台も違う6作品を選びました。




2月22日(日)15時15分上映

『僕はナポリタン』

マネッティ兄弟によるナポリ愛満載のクライム・コメディー

映画『僕はナポリタン』より
映画『僕はナポリタン』より

記念すべき1回目に上映するのはマネッティ兄弟の『僕はナポリタン』。ナポリっ子(つまり英語風に言うとナポリタン)のパコは、気が弱いけれど優秀なピアニスト。それに目をつけた敏腕刑事が、犯罪組織の潜入捜査のためパコを人気バンドのキーボーディストに仕立て上げます。恋愛あり、スリルありのギャング映画。本国におけるアカデミー賞に相当するナストロ・ダルジェント賞では最優秀コメディーに選ばれたほか、多数の賞を獲得しています。

注目すべきは、監督マネッティ兄弟のナポリ愛。インタビューで「(組織犯罪などで)悪名高くなったナポリの、本来の良さを再確認してほしかった」と語るローマ生まれの二人組。大部分の脇役は現地のナポリで素人をスカウト。エンドロールでは方言バリバリの主題歌が流れる。国内ミュージシャンのミュージック・ビデオも手がけるマネッティ兄弟ならではのユーモアと愛情がたっぷりと感じられます。

監督:マネッティ兄弟(Antonio Manetti, Marco Manetti)
原題:Song'e Napule
2014年/イタリア/カラー/114分
日本初公開




3月29日(日)15:30上映

『カーネーションの卵』

アゴスティ監督が大戦末期の北イタリアを描く自伝的作品

映画『カーネーションの卵』より
映画『カーネーションの卵』より

シルヴァーノ・アゴスティ監督が第二次世界大戦末期、ファシストとその対抗勢力が混在する北イタリアの人間模様を、主人公である子供の目線で自伝的に描いています。アゴスティはドーナッツクラブが映画配給に携わるきっかけをくれた恩人とも言うべき監督。ローマでは独自のプロダクションと映画館を所有するインディペンデント精神を持った人物で、60年代から半世紀以上にわたってあちらのインディー映画シーンを啓蒙的に引っ張ってきました。

扱うテーマも、宗教や精神医療など、社会問題を扱う彼の視線はとても鋭く尖っていて、なおかつ彼自身が撮影する映像はとてもフォトジェニック。ベルトルッチやアントニオーニ、ベロッキオなどといった巨匠から、現役バリバリ若手の監督まで、アゴスティを慕う映画人がたくさんいます。彼の映画館には何度もお邪魔したことがあるのですが、行くたびに自作映画のDVDをお土産に持たせてくれます。その様は、まるで気風のいい八百屋の主人でした。

監督:シルヴァーノ・アゴスティ(Silvano Agosti)
原題:Uova di garofano
1991年/イタリア/カラー/103分
3年ぶりの関東上映




4月26日(日)15:30上映

『風はめぐる』

スローライフの暗部を捉えるディリッティ監督長編デビュー作

映画『風はめぐる』より
映画『風はめぐる』より

フェリーニやエルマンノ・オルミなど、大監督のもとで下積みをしたジョルジョ・ディリッティ監督の2005年の長編デビュー作。繊細かつ荘厳な映像美が評価され、イタリア映画祭でも人気のディリッティですが、このデビュー作だけは日本で未公開のままでした。

山間の村に引っ越してきたフランス人一家が、当初の歓迎ムードから一転、生活スタイルや価値観の違いから村人たちと軋轢を生じさせてしまうというストーリー。日本でも村おこしのためのUターン・Iターンが声高に提唱される昨今、牧歌的な田舎暮らし、あるいはそれこそイタリア発祥のスローフードに象徴されるスローライフの暗部を見事に切り出していて、地味なテーマながら物語の世界にぐっと引き込まれます。

監督:ジョルジョ・ディリッティ(Giorgio Diritti)
原題:Il vento fa il suo giro
2007年/イタリア/カラー/110分
日本初公開




5月31日(日)15:30上映

『青い眼のアリー』

ローマ近郊でたくましく生きるアラブ系移民の少年の物語

映画『青い眼のアリー』より
映画『青い眼のアリー』より

ローマ近郊、海沿いに暮らすアラブ系移民の少年ナデルの生活を描いた現代版『アッカトーネ』(ピエル・パオロ・パゾリーニ、1961年)。イスラム教の戒律に従うように命じる母親と口喧嘩になり家を飛び出るナデル。犯罪や恋愛に振り回されながらも、必死に生きる姿が切ない。今年最も考えられるべきテーマ「ヨーロッパにおけるアラブ系移民」の一例です。

監督は若手クラウディオ・ジョヴァンネージ。物語に登場する主要人物はエジプト人やルーマニア人で、みんな荒々しいローマ弁をしゃべるのに、そのルーツは国外。60年代にローマ郊外の社会の底辺で生きる人々を活写したパゾリーニの詩からタイトルと精神を拝借しつつも、今だからこそ描くべき物語にまとめられた本作は、まさに新しいイタリア映画と言えます。

監督:クラウディオ・ジョヴァンネージ(Claudio Giovannesi)
原題:Ali ha gli occhi azzurri
2012年/イタリア/カラー/100分
日本初公開




6月28日(日)15:30上映

『ただ彼女と眠りたかっただけなのに』

IT企業の人間模様から浮かび上がるイタリアの現実

映画『ただ彼女と眠りたかっただけなのに』より
映画『ただ彼女と眠りたかっただけなのに』より

ラスト2回はエウジェニオ・カプッチョ監督の作品です。ミラノのIT企業に勤める青年マルコは、人員削減のため年内に25人を解雇することを命じられる。必死になって任務を遂行しようとするけれど、ストレスから恋人との関係はこじれ、会社でも孤立化。次第に精神的に追い込まれていきます。

仕事に対して不真面目というステレオタイプの真逆を行く、もう一つのイタリアの現実。それでもこの作品を見て思うのは、仕事が終わればクラブで黒人女性をナンパしたり、シガーバーに行ったりと、夜の遊びが随分おしゃれ。やはり日本とは、どこか様子が違います。

監督:エウジェニオ・カプッチョ(Eugenio Cappuccio)
原題:Volevo solo dormirle adosso
2004年/イタリア/カラー/96分
関東初公開




7月26日(日)15:30上映

『フィルムがない!』

芸術かそれともビジネスか?映画制作者たちが実名で登場

映画『フィルムがない!』より
映画『フィルムがない!』より

本イベントの最後を飾るのは、若きカプッチョ監督が、友人たちと試行錯誤しながら短編映画を制作する過程を描く作品。ものづくりに携わるものなら誰もが葛藤するだろう、「自分の好きな芸術」と「大衆受けするビジネス」の図式に翻弄される若者たちの姿を、カプッチョ監督ほか、実名で登場する映画制作者たちが素のままで演じます。

救いとなっているのは、作中ではうだつの上がらない主人公たちが、今ではイタリア映画界に欠かせない逸材として活躍していること。余談ですが、映画上映の話を持ちかけるために面会したカプッチョ監督は、年をとってチョイ悪オヤジといった風貌になっていたものの、映画に出てくる通りの大声ではっきりものを言う人でした。

監督:エウジェニオ・カプッチョ(Eugenio Cappuccio)
原題:Il caricatore
1996年/イタリア/モノクロ/95分
関東初公開




以上、駆け足で6作品を紹介しましたが、最後に書き添えておくと、このイベントには必ず上映後にトークショーを行います。私たち京都ドーナッツクラブの代表で、InterFMや大阪のFM802で番組を担当するラジオDJの野村雅夫を筆頭に、メンバーがここでしか聞けない映画の裏話や解説を披露します。また、作品によってはゲストを招く予定もあるのでご期待ください。この半年の間に、アップリンクのスクリーンを通して未知のイタリアに触れていただければ幸いです。なお、ほとんどの作品が本邦初公開、あるいは関東初公開となる今回のラインナップですが、今後の全国公開はまったくもって未定ということで、この機会を逃すと二度と観られないかもしれませんよ。

まずは2月22日に『僕はナポリタン』が上映されます。冒頭でイタリアにはスパゲティ・ナポリタンが存在しないと書きました。ところが映画のナポリタンは存在する。それを確かめるためにも、ぜひアップリンクへお越し下さい。お待ちしています。

(文:二宮大輔)



二宮大輔(京都ドーナッツクラブ) プロフィール

関西学院大学卒業後、ローマ第三大学に入学し、マフィア文学の第一人者レオナルド・シャーシャに関する論文で学士号を取得。イタリア語検定一級、通訳案内士(イタリア語)。




『映画で旅するイタリア~日本初公開作と巡る6ヶ月~』チラシ

『映画で旅するイタリア~日本初公開作と巡る6ヶ月~』
2月22日(日)、3月29日(日)、4月26日(日)、
5月31日(日)、6月28日(日)、7月26日(日)
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー

料金:前売一般1,500円/当日一般1,800円/UPLINK会員1,300円
後援:イタリア文化会館
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/35370

京都ドーナッツクラブ公式サイト:http://www.doughnutsclub.com/


▼映画『僕はナポリタン』予告編

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