骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-02-06 02:15


「音楽があれば平凡な風景が意味のあるものに変わる」『はじまりのうた』監督インタビュー

ジョン・カーニー監督(『ONCE ダブリンの街角で』)が語るニューヨークとキーラ・ナイトレイの歌声
「音楽があれば平凡な風景が意味のあるものに変わる」『はじまりのうた』監督インタビュー
映画『はじまりのうた』より ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督がニューヨークを舞台に、無名のミュージシャンとしがない音楽プロデューサーがデビューを目指し奮闘する姿を描く『はじまりのうた』が2月7日(土)より公開となる。キーラ・ナイトレイがシンガー・ソングライター、グレタを演じるほか、マーク・ラファロが鳴かず飛ばずのプロデューサー、ダンを好演。そしてマルーン 5のアダム・レヴィーンが映画初出演を果たしているほか、ラッパーのモス・デフやシーロー・グリーンが脇を固めているところもみどころのひとつとなっている。今回webDICEでは自らもミュージシャンとしてのキャリアを持つジョン・カーニー監督のインタビューを掲載する。

成功が信頼関係をどう揺るがすのかを描く

──最初に、プロデューサーとミュージシャンをめぐるこの物語は、ミュージシャンとしても活動していたあなたの実体験から生まれたものなのでしょうか?

この映画の幾つかの部分は、確かに僕の人生を反映させています。もちろん音楽業界に関係する部分もありますし、その業界の中で何かを生み出そうとするところ、そしてそこにうまくハマりきれていないという気持ちもね。

映画『はじまりのうた』ジョン・カーニー監督
映画『はじまりのうた』ジョン・カーニー監督

芸術の同じ分野で一緒に働くカップルに焦点を当ててみたかったんです。2人の立つ地平が同じでなくなり、一方だけが成功したら何が起きるのか。成功が信頼関係をどう揺るがすのかを描きたかったんです。そこには、映画業界に移る前に、アーティストとしてA&Rと音楽出版業界の内情を直接、見てきたことが役に立ちました。1990年代のアイルランドで「次世代のU2」を発掘しようとしていた人たちは今、どうしているのかを考えました。業界が大きく変化した現在、90年代に活躍した落ち目のレコード会社の重役が、自分のコンピューターで録音もミックスもできる現代の若い女性ミュージシャンと出会ったらどうなるのか、を想像したんです。

──この映画のメッセージのひとつは「テクノロジーの進歩は業界への近道にもなる」ということで、それを映画の最後で主人公のシンガー・ソングライターのグレタは実践しています。これは10年前にはあり得ない事でした。

そのとおりです。彼女は自分のラップトップPCとマイクを使ってレコーディングして、ツイッターと現代のテクノロジーを使って、世界と繋がるのです。それは確かに新しいツールです。自分のレコードがどこからリリースされるかを、人に決めさせられる必要がなくなります。現代の本当に偉大なアーティストは、人々が何を聴きたいかという情報を系統立てて集めて音楽を作るのではなく、自分が歌いたい歌を自ら発信できる人だと思います。ボブ・ディランがした事がそうでした。それを試すのは難しいことですが、本当に偉大なアーティストとは、それを実行する人たちです。

──なぜ舞台をニューヨークにしたのですか?

屋外でレコーディングをするシーンがあるので、ロサンゼルスは広すぎるし、ロンドンは少し違う。ニューヨークは様々な音があり、いろんな場所がある。そして、とても素晴らしい長い音楽の歴史もありますからね。

ある意味、この映画はニューヨークへのラブレターです。可愛らしいニューヨークっぽい映画でしょう?でも実際、それは背景にすぎません。ニューヨークは想像以上にダブリンとよく似ていて、とても重層的な街なんです。ここでは、どこにカメラを向けても数多くのストーリーがあり、自分のストーリーはその中の一遍に過ぎません。

映画『はじまりのうた』より c2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『はじまりのうた』より ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

──『ONCE』では、主人公がアメリカに行き成功しましたが、この作品は『ONCE』の続編と言ってもいいのでしょうか?

明らかに2つの作品には似たところがありますが、続編と言うよりも、『はじまりのうた』の方が更に野心的だと思います。

音楽は僕にとってとても個人的な、感情表現を助けてくれる大切なものです。音楽を通して普段は行けないところ、向かいたいところにたどり着くことができる。頭で考えずにダイレクトに心のなかに入り込めるんです。

映画『はじまりのうた』より ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『はじまりのうた』より ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

人は安定しているとつまらなくなります

──クランクイン前に、俳優には役作りについてどんな指示をしましたか?

たくさんの観ておくべき映画や聞いておくべき音楽を伝えました。ジム・ジャームッシュ、ケン・ローチ、マイク・リーの映画とかね。僕自身も、2~3ヵ月間、ニューヨークに関わる映画を毎晩観ましたね。

──撮影は順撮りで進めたそうですね。

はい、時系列で撮影して、編集しました。

──キーラ・ナイトレイの歌が大きな部分を占めますが、彼女の起用についてはどれくらい自信がありましたか?

キーラがパブのシンガーを演じた『ザ・エッジ・オブ・ウォー 戦火の愛』で彼女の声をチェックして、歌声が入っている短いミュージック・クリップを大勢のプロの音楽関係者達に渡しました。僕のボイスコーチは「この声ならいける!」と絶賛しましたし、僕らは彼女を起用しようと決めました。

人びとが知っているキーラと全然違う役を演じて欲しかったんです。彼女は素晴らしい女優で、今回のような今までと違う役も理解して、トライして観客を驚かせてくれました。それは、俳優として大事なことだと思います。キーラ・ナイトレイが歌うなんて?と思う人もいるかもしれないけど、映画を観たらわかってくれると思います。

それから、僕はニューヨークでイギリス人が一人で頑張っているような、物語のなかでイギリスとアメリカを描くのが好きなのです。それもイギリス人の彼女をキャスティングすることにした理由ですね。

映画『はじまりのうた』より ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『はじまりのうた』より キーラ・ナイトレイ(左)とアダム・レヴィーン(右) ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

──マルーン 5のアダム・レヴィーンはどうでしたか?なぜ彼を起用したのですか?

彼は素晴らしい歌手です!僕は、誰にでもチャンスがあり、面白いと思えるものにチャレンジしていくべきだと思います。だから、キーラにもピッタリの役だと思いましたし、アダムにはむしろ、歌がとてもうまく、客を虜にしてしまう歌手を演じてもらうのがいいと自然に考えました。

キーラは数多くの映画に出演してきました。そしてアダムにとってはこれが初めての映画。演じようとする歌手と、歌おうとする役者という、反対のふたりを起用することにしたんです。

人をその人の安全地帯から追い出すのはいい事です。そして多くの役者はそれを好みません。でも僕は、そこに魔法のようなものがあると思います。だって、人は安定しているとつまらなくなりますから。

映画『はじまりのうた』より c2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『はじまりのうた』より ©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

──あなたとグレッグ・アレキサンダー(ニュー・ラディカルズ)が手がけた音楽も素晴らしかったです。彼とはどのようにしてコラボレーションを行ったのですか?

僕は、キーラが歌う「A Step You Can’t Take Back」と、彼女がアダムへ電話で歌い留守電メッセージを残すシーンの「Like a Fool」を書き、グレッグは「Lost Stars」と、他3曲を書きました。脚本をしっかりと書き上げていて、歌をどんなものにするべきかの説明が既にできていたので、曲作りはスムーズでしたよ。

──劇中でプレイリストを披露するシーンがありますが、あれは誰の選曲ですか?

あれは実は僕のプレイリストなんです。フランク・シナトラ、スティーヴィー・ワンダー、映画『カサブランカ』の「As Time Goes By」……。本当に脚本を書いていたときに聴いていました。映画のなかでマーク・ラファロが語った「音楽があれば平凡な風景が意味のあるものに変わる」という言葉を僕は信じています。僕は確かに、かつて女性にああいう事を言っていましたから!(笑)

──『ONCE』に続いて音楽がテーマの作品となりましたが、いつか音楽のない映画を作ることがあるでしょうか?

ええ、必ずね。でも、「音楽映画の監督」としてしか有名になりたくはありません。人生で何かに特化する事はとても重要ですから。『ONCE』の後で学んだ、非常に大切な教えです。

(オフィシャル・インタビューより)



ジョン・カーニー(John Carney) プロフィール

ダブリンを拠点に活躍する脚本家、映画監督。『ONCE ダブリンの街角で』(06)が世界中で大ヒットを記録。アメリカでわずか2館の公開から口コミで140館まで拡大、異例の大ヒットとなり、インディペンデント・スピリット賞の外国映画賞を受賞。サウンドトラックはグラミー賞にノミネートされ、主題歌「Falling Slowly」はアカデミー賞のオリジナル歌曲賞を受賞した。この映画の舞台版はトニー賞のミュージカル賞を獲得、2014年11月日本にも上陸を果たした。以前はアイルランドのロックバンド、ザ・フレイムスでベーシストを務めていた。




映画『はじまりのうた』
2月7日(土)より、シネクイント、新宿ピカデリーほか全国公開

映画『はじまりのうた』ポスター

落ち目のプロデューサーのダン。妻と娘と別居して、ぼろアパートで寂しい一人暮らしの日々を送っている彼は、仕事もうまくいかず会社をクビになったばかり。一方、無名のミュージシャン、グレタは最愛の恋人に裏切られ、音楽の夢も諦めようとしていた。そんな二人がニューヨークのライヴハウスで偶然出会い、一緒に音楽を作ることに。そして、お金のない彼らは、ニューヨークの街角をスタジオ代わりにレコーディングすることに?!音楽がつないだ数々の出会いが予想外の展開を生み、自分の人生と向き合うための、かけがえのない時間がはじまる。

脚本/監督:ジョン・カーニー
出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、アダム・レヴィーン、ヘイリー・スタインフェルド、ジェームズ・コーデン、ヤシーン・ベイ(モス・デフ)、シーロー・グリーン、キャサリン・キーナー
製作:アンソニー・ブレグマン
製作:トビン・アームブラスト
製作:ジャド・アパトー
撮影監督:ヤーロン・オーバック
プロダクション・デザイナー:チャド・キース
編集:アンドリュー・マーカス
衣装デザイナー:アージュン・バーシン
音楽:グレッグ・アレキサンダー
原題:BEGIN AGAIN
配給:ポニーキャニオン
2013年/アメリカ/英語/カラー/104分

公式サイト:http://hajimarinouta.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/hajimarinouta.movie
公式Twitter:https://twitter.com/hajimari_no_uta


▼映画『はじまりのうた』予告編

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