骰子の眼

cinema

2015-02-06 10:30


金メダリスト射殺事件、大富豪とレスラー兄弟の歪んだ主従関係『フォックスキャッチャー』

アカデミー賞5部門ノミネート、『カポーティ』ベネット・ミラー新作
金メダリスト射殺事件、大富豪とレスラー兄弟の歪んだ主従関係『フォックスキャッチャー』
Photo by Scott Garfield (C)MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『カポーティ』『マネーボール』ベネット・ミラー監督の新作『フォックスキャッチャー』が2015年2月14日(土)に公開される。本作は、全米を驚かせた1996年のデュポン財閥御曹司による金メダリスト射殺事件を基にし、孤独、富と名声、心の暗部でつながれた大富豪と金メダリストの心理を鮮烈に描く。

大富豪ジョン・デュポンをスティーヴ・カレル、金メダリスト兄弟の弟をチャニング・テイタム、兄をマーク・ラファロが演じる。彼らの演技は世界中で賞賛を浴び、第87回アカデミー賞、監督、主演男優、助演男優を含む全5部門でノミネートされている。

webDICEでは、数年間にわたるリサーチに取り組み、実話の真実に迫ったベネット・ミラー監督のインタビューを掲載する。




ベネット・ミラー監督インタビュー
「この映画では、アメリカの男たちがコミュニケーション下手で、抑圧されている状況がよく出てくる」

『フォックスキャッチャー』ベネット・ミラー監督
キャストとベネット・ミラー監督

──今作を撮るにあたって、デュポン一家と連絡を取り合ったのでしょうか?

撮影が始まる前に、家族の何人かと連絡を取り合ったよ。だが、それ以後は、まったく連絡を取り合っていない。


──サウンドエフェクトについて語っていただけますか?沈黙が非常に効果的に使われていたと思うのですが。

この映画も、僕が作ったほかの映画も、物語を語るというよりも、物語を観察するというアプローチを取っている。ストーリーの奥で何が起こっているのかを観客に感じてもらえるような作り方をしているつもりだ。この映画では、アメリカの男たちがコミュニケーション下手で、抑圧されている状況がよく出てくる。つまり、奥深いところで、いろいろなことが起こっている。どのシーンでも、目に見える部分は、ごく一部にすぎないんだ。サウンドは、観客の感覚に働きかける手段のひとつ。時には、それを控えることで、観客を引き込むこともできる。そこに気づいてくれて、ありがとう。映画を作る上に必要とされる数多くの芸術フォームの中で、そこは、最も見逃されやすい部分だけに、感謝するよ。

『フォックスキャッチャー』
レスリングのオリンピック金メダリストでありながら経済的に苦しい生活を送るマーク(チャニング・テイタム)

『フォックスキャッチャー』
デュポン財閥御曹司ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)からソウル・オリンピック金メダル獲得を目指したレスリングチーム"フォックスキャッチャー"の結成に誘われる

──あなたは「カポーティ」でもフィリップ・シーモア・ホフマンが完全に役に溶け込んでしまう状態を作り上げました。今回は、スティーブ・カレルがそれをやってみせています。

僕はこの質問を避けているんだよ。泣いてしまうから。ここにいる俳優たちはみんな、そしてもちろんフィルも、心から僕を信頼してくれた。そのことに、僕は一生感謝し続けるだろう。スティーブは、これまで、こういう役をやったことがなかった。この役は、彼にとって大きなチャレンジとなる。だが、僕らが会って、キャラクターについて話し合いをした時、このキャラクターについてのビジョンを彼が語るのを聞いて、彼ならできると思ったんだ。彼は100%をこの役に注いでくれるだろうと。辛い体験になるかもしれないが、やりとげてくれると。これらの役を、ここにいる人たち以外の役者がやることは、想像できないよ。

『フォックスキャッチャー』
大富豪ジョン・デュポンは、『リトル・ミス・サンシャイン』『40歳の童貞男』の人気喜劇俳優スティーヴ・カレルがコミカルなイメージを一新し挑み、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされている

今回は、キャストが関係者に会って、まるでジャーナリストが取材をするように情報を集め、それを映画に持ち込んでくれたんだ。それは、まさに探索のプロセスだったよ。それが僕らをどこに連れて行ってくれるのか、わからなかった。映画の魂はわかっていたけれども、実際に何が生まれてくるのかは、わからなかったんだ。キャストのやってくれたリサーチ、そして、クルーが作り上げてくれた環境。そういうものすべてが、この映画を実現させてくれたわけだ。キャラクターに心底なりきって、そのキャラクターとして呼吸をした彼らは、撮影中、予定にないことをやりだすことも、しょっちゅうあった。完成作の50%は、彼らが突然に思いついことだったと言っても過言ではないよ。カメラが回る直前か、その朝に出てきたアイデアだ。彼らはあまりにも多くのリサーチをしたために、キャラクターの心情になりきっていて、そこから新しい何かが生まれてきたんだ。

『フォックスキャッチャー』
マーク・ラファロは庶民的な家庭人でもあるレスラーの兄デイヴに扮し包容力豊かな演技を披露、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている

──この映画は、アメリカの衰退についても語っているように感じます。

この事件について初めて聞いた時、僕は、こんなことがあるのかと驚愕を覚えたよ。人がこんなふるまいをするなんて、それまで聞いたことがなかったんだ。こういう一族や、彼らのもつ特有の文化についても、知らなかった。そこでは、極端で、信じられなくて、時に笑えるようなことが数多く起こる。そして最終的に、それはとんでもない悲劇につながっていく。僕自身はそういうことを身近に経験していないが、一方で、これはわかるとも思った。これらの細かいエピソードの中には、もっと大きなテーマがあるように感じられたからだ。僕が一番大事にしたのはこのキャラクターとストーリーだったけれども、奥に潜むものにも共感した。だけどそれについてのコメントはしたくないよ。これは、決して政治的な映画ではないから。この映画は、倫理や道徳については語らない。そうではなく、何が起こったのかを検証するものだ。それを、肌で感じようとするものだ。もちろん、衰退の雰囲気は存在する。この物語の中でも感じられるだろうし、もっと大きな構図を見た時にも、感じられるだろう。ジムの内部とか、そこにいる個人とか、この映画は、それを、最も小さい縮図で見せていると言える。

最初に、あの記事を読んだ時、感じたのは、彼らがこの男とどんなディールを結んだのか、だった。彼らはお互いに正直な状態で、その契約を結んだのだろうか?さっさとどちらかの味方をすることなく、僕らは、真実を見つけ出そうとした。そこにあるもの、そしてその奥にあるものを、見つけ出そうとしたんだ。

『フォックスキャッチャー』
デュポン(スティーヴ・カレル)は鳥類学者、慈善家、愛国者、銃器マニアといった多彩な顔を持っていた

※2014年カンヌ国際映画祭プレス公式記者会見より一部抜粋




ベネット・ミラー Bennett Miller

1966年生まれ。98年ドキュメンタリー作品「The Cruise」で長編映画監督デビューし、映画祭で高い評価を得る。実際の犯罪を描いた革新的な小説『冷血』を書きあげる作家トルーマン・カポーティの姿を描いた『カポーティ』(05)でアカデミー賞(R)、作品・監督・脚色賞など5部門にノミネート。主演のフィリップ・シーモア・ホフマンの見事な演技を引き出し、アカデミー賞主演男優賞をもたらす。ブラッド・ピット主演『マネーボール』(11)ではメジャーリーグ球団オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンを独自の視線で描き、全世界の賞賛を得て、その才能はハリウッドが最も注目することに。アカデミー賞では作品賞を含む6部門でノミネート、ゴールデン・グローブ賞では4部門、全米映画俳優組合賞は2部門にノミネート、ほか数々の映画賞を賑わした。

 


『フォックスキャッチャー』
2015年2月14日(土)全国公開

レスリングのオリンピック金メダリストでありながら経済的に苦しい生活を送るマーク。ある日、デュポン財閥御曹司ジョン・デュポンからソウル・オリンピック金メダル獲得を目指したレスリングチーム"フォックスキャッチャー"の結成に誘われる。名声、孤独、隠された欠乏感を埋め合うように惹き付け合うマークとデュポンだったが2人関係は徐々にその風向きを変えていく。さらにマークの兄、金メダリストのデイヴがチームに参加することで三者は誰もが予測しなかった結末へと駆り立てられていく。

監督:ベネット・ミラー
脚本:E・マックス・フライ、ダン・フッターマン
出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー
2014年/アメリカ/135 分/カラー/英語/シネマスコープ/5.1ch
原題:FOXCATCHER/字幕:稲田嵯裕里 ※PG12
提供:KADOKAWA、ロングライド
配給:ロングライド
(C) MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト


『フォックスキャッチャー』

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