骰子の眼

cinema

神奈川県 横浜市

2014-12-13 20:25


リニューアル・オープンの横浜シネマリンに行って見た!

女性オーナーならではの編成と快適な劇場空間で横浜の映画文化の更なる盛り上がり目指す
リニューアル・オープンの横浜シネマリンに行って見た!

東京近郊の新たなカルチャー・スポットやショップを紹介する連載「行って見た!」、今回はリニューアル・オープンした横浜の映画館「横浜シネマリン」の12月12日に行われたプレ・オープン・イベントの模様を、ライターの坂田正樹さんにレポートしてもらった。

閉館の危機を乗り越え、市民の有志によって復活を遂げた老舗映画館「横浜シネマリン」が13日、ついに新生オープン。前日に行われたプレ・オープン・イベントでは、映画関係者や地元の映画ファンを招いて、劇場内覧会や上映イベント、パーティなどが盛大に行われ、横浜の一時代を担った名画座復活を祝った。

1954年オープン以来、60年にわたって地元の映画ファンに愛され続けてきた「横浜シネマリン」。伊勢佐木町商店街に隣接する好立地もあり、黄金期には映画を封切れば連日満員という隆盛を極めたが、その後経営難により閉館の危機に追い込まれていた。

そんな時、運命的に現れたのが、映画サークル「横浜キネマ倶楽部」の事務局長だった横浜市在住の八幡温子さんだった。閉館が決まっていた「横浜シネマリン」の技術者から声を掛けられ、即答したという八幡さんは、「観たい映画を地元・横浜で観たい」「横浜の映画文化を継承したい」という熱い思いから再生プロジェクトを始動。映像・音響設計の堀三郎さん、内装・照明デザインの岩崎敬さん、そして番組編成に定評のある元・吉祥寺バウスシアターの西村協さんに呼び掛けたところ、八幡さんの情熱が3人のプロフェッショナルの心を突き動かし、今回の奇跡とも言われる復活劇が現実のものとなった。

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「横浜シネマリン」オーナーの八幡温子さん

そして、リノベーションの着工から約3ヶ月。プレ・オープン当日の朝まで工事を行っていたというギリギリの状態の中、ついに新生「横浜シネマリン」が完成。外観は、看板のバックを濃紺から黒に塗り替えたものの、昭和の雰囲気をそのまま継承し、エントランスと受付・ロビーは、事務室や休憩所など無駄な空間を排した開放感あふれるモダンなスペースに改装。

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ビルの入口から劇場へ下りる階段
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エントランスと受付
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エントランスと受付
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エントランスと受付
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エントランスと受付
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ロビー
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ロビー

劇場内は、八幡さんの「快適で、健康的で、安全な空間を」というリクエストから、ウナギの寝床と呼ばれた165席の前4列を撤去し102席に変更。その分、スクリーンを前に出し、ワイド寄りのレンズに対応できるよう調整され、往年の名作も上映できるように、デジタルシネマ用プロジェクターと共に35ミリフィルムの映写機も新たに2台導入された。さらに、天井に埋め込まれていた空調を取り払ったことによって高さが生まれ、サイドの通路も人がすれ違えるほどゆったりと取り、広々とした体感空間を実現。ドルビーサラウンド5.1の音響も、壁にふんだんに張りめぐらされたグラスウールによって反響を抑え、絶妙のサウンドを生み出している。

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「横浜シネマリン」劇場内
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劇場内の椅子
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劇場内から映写室を臨む
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映写室の様子
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劇場内に使用されているグラスウール

プレ・イベントの第一部で舞台挨拶に立ったオーナーの八幡さんは、「横浜でいい映画を観たい、もっと上映の場所を増やしたい、という思いを抱きながら映画サークルの活動を続けてきましたが、こんなカタチで実現するとは思ってもみませんでした」と、感無量の様子。さらに、「わたしの熱意に賛同していただいた方がたくさんいて、今日を迎えることができたと思っています。伊勢佐木町商店街を盛り上げ、(地元ミニシアターの)横浜ニューテアトルさん、ジャック&ベティさんと手をとり合って、横浜の映画文化を盛り上げていきたい」と、引き締まった表情で決意を語った。

音響と映像を担当した堀さんは、「八幡さんからこの話をいただいたとき、「横浜シネマリン」は、正直(リニューアルには)一番難しい場所だと思い、当惑しました。何度も八幡さんに「やめようよ、ここじゃないところにしよう」と提案しましたが、「わたしはこの街で映画館をやりたい!」という熱意に押され、お手伝いすることになった。わたしはこれまでミニシアターを20館くらいやってきたが、想像を超える大変さがあり、まぁ、詳しい話は10年後くらいにしたいと思います(笑)」と、ユーモアを交えながら述懐。

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映像・音響設計の堀三郎さん

一方、内装と照明を担当した岩崎さんは、「このビルを初めて観たときは驚いた。残っていた設計図がかすれた青焼きの図面で、「尺」で書いてあった。今年で60歳、還暦です。動脈硬化や骨粗鬆症になりかけていたのもあって、工期の半分は発見する日々でした。(制約があるので)完璧なシステムは難しいですが、八幡さんのリクエストにできる限り応えると共に面白いアイデアもいろいろ盛り込みながら、余裕のある空間を作りました。いろいろな使い道ができる、映画館を超えた場所として利用していただけたら」と抱負を語った。

16_岩崎さん
内装・照明デザインの岩崎敬さん

最後に登壇した番組編成の西村さんは、「(投資の面で)一個人が映画館を立ち上げるという無謀な女性オーナー八幡さんのイメージもあって(オープニング作品となる)『おやすみなさいを言いたくて』をはじめ、女性映画が多く編成されていますが、その一方で、ドキュメンタリーなど社会性のある映画も合わせて上映していきたいと思っています」と、映画館の命ともいえる作品の編成に意欲を見せていた。

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番組編成の西村協さん

プレ・イベント第一部で上映された
『Making of 横浜シネマリン』


撮影・編集:大石渉


なお、プレ・イベント第二部では、新生「横浜シネマリン」の誕生日となる12月12日が、小津安二郎監督の誕生日でもあり、また命日でもあることから、オープンを記念して小津監督のサイレント映画『青春の夢いまいづこ』を、サイレント映画ピアニストの第一人者・柳下美恵さんの伴奏付きで特別上映。満員に埋め尽くされた客席からは、時には涙が、時には笑いがこぼれ、まるで古き良き時代へタイムスリップしたかのよう。決死の思いで「横浜シネマリン」を復活させた八幡さんは、きっと劇場の片隅で、映画の灯を絶やすことなく継承できた喜びをかみしめていたことだろう。

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プレ・オープン・イベントは満席となった
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プレ・オープン・イベントの上映の様子
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プレ・イベント第二部より、柳下美恵さん
(取材・文・写真:坂田正樹)



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女性オーナー新生横浜シネマリン12/12オープン(2014-10-16 )
http://www.webdice.jp/topics/detail/4434/




横浜シネマリン

神奈川県横浜市中区長者町6-95 [地図を表示]
TEL : 045-341-3180

公式サイト:http://cinemarine.co.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/ycinemarine

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