映画『ダムネーション』より
パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードを制作責任者に、アメリカ全土に作られた数万基のダムの生態系への悪影響と経済的負担を追求し、不要なダムを「撤去」させようという動きについて描くドキュメンタリー『ダムネーション』が現在渋谷アップリンクで公開されている。日本でも、およそ3,000基あるダムのなかから、熊本県の荒瀬ダムの撤去の取り組みが進んでいるなか、今作はアメリカで脱ダムへ向け心血を注ぐ人たちの活動を捉えている。
今回は、日本公開にともない来日した、生態学者であり、今作の企画プロデューサー/水中撮影監督のマット・シュテッカーのインタビューを掲載する。
映画は世界中にメッセージを伝える最も有効な手段
──なぜこの映画を制作しようと思ったのですか?
この映画を作ったのは美しい川と自然の美しさを知ってほしいということと、ダムがいかに川の環境に悪影響を及ぼすかというダムの破壊性について知って欲しかったからです。そしてダムを撤去することでどのように生態系が蘇るかを伝えたかったのです。
映画『ダムネーション』の企画プロデューサー、マット・シュテッカー
映画にした理由は、世界中にメッセージを伝える手段として有効な手段だと知っていたからです。映画以上にストーリーを伝えるメディアはなかったと思いますし、人々の熱意もこもっているし、見た人が感動して、行動したくなるのも映画ならではです。本だったらこれほどの影響力はなかったと思います。
──パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードと一緒に企画したそうですが、どちらが言い出したのでしょうか?
2011年頭に映画祭にイヴォンと行った際、ダム撤去をテーマにした映画を作ろうということに、ビールを飲みながらどちらからともなく同時に流れで決まったんです。
──制作期間はどれぐらいだったのでしょうか。
映画を作ろうと思い立ったのが2011年1月。半年かけてダム撤去のストーリーを集めたり、プロジェクトの登場人物のことを調査し、その後、監督となるトラヴィス・ラメルとベン・ナイトと2年間アメリカ中を回りました。最後の半年は編集。2013年終わりに完成させました。初上映が2014年3月のサウス・バイ・サウスウエストです。
──どれほどの人やダムを取材対象にしたのでしょうか?
50人以上にインタビューしました。ダムは20基ほどを調査するのが目標でしたが、8基を取材対象としました。
──撮影中、一番大変だったことは?
ダム所有者の多くが、ダムの中で撮影する許可をくれなかったことです。それが一番大変でした。無許可での撮影も行ないました。政治家にインタビューを申し出ても、断れ続けました。ダム賛成の人の意見を取り入れたかったのですが。
映画『ダムネーション』より
脱ダムで伝統的な生活、文化が蘇る
──『ダムネーション』を観たアメリカの観客や社会の反応は?
観客からはいい反応をもらっています。数々の環境問題があって、解決策がないと思いがちですが、ダム撤去という一つのアクションを起こすとすぐに自然が回復されると知り、皆希望を感じてくれます。老若男女みんなからいい反応がありました。
──アメリカ以外ではどんな反響がありましたか?
最近フィンランドで上映されたのですが、そこに来ていた俳優の働きかけで、15分間議会でスピーチする機会を得たんですが、その2日後にダム撤去の決定がされたんです。日本でも理解さえしてくれたら、経済的、文化的、環境的にもダム撤去の選択が現実的だと変化が起こると思います。
映画『ダムネーション』より
──日本の人に、どうこの映画を観てもらいたいですか?
一般の人、一人の人間でも変化をつくれるんだという力を感じてほしいです。アメリカでもダム撤去は20年前にはクレイジーと言われていたのが変わりました。日本も荒瀬ダム(熊本県)の撤去が起きたように、変えられると信じてほしいんです。心をこめてムーブメントを起こせば、政治家も無視できなくなると知ってほしい。そしてダムの水力発電は決してクリーンな発電方法ではないという事実も知ってほしいと思います。
──ダム撤去はどんな好影響があるのでしょうか?
ダム撤去の素晴らしいことは、ダム撤去後にサーモンが戻ってくることだけではなく、伝統的な生活、文化が蘇ることです。一度も釣りをしたことがなかったネイティブ・アメリカンの若者が、祖父から釣りの仕方を習いながら伝統的な釣りをやり始めたりしています。
──ダムが果たしている役割もあると思いますが?
ダムがもたらす恩恵はたくさんありましたが、今となっては時代遅れの技術です。アメリカでは現在何万基ものダムが事実上役に立っていません。壊しても悪影響はないのです。アメリカで多くのダムが作られた時代、太陽光発電は存在しませんでした。エネルギー効率の優れた風力発電など、ダム以外の発電方法や川の水を地下に貯水する方法もなかったのです。今は脱ダムに至るトランジションの時代なのです。そして気候変動にも影響を与えるというメタンガスを大量発生させていることも最近の科学的調査で分かってきました。ダムが正当化されることは不可能だと思います。私たちは先に進むことが不可欠なのです。ダムが撤去されることで地域の住民は川とのつながりを取り戻し、川がもたらす恩恵を享受できるようになるでしょう。すべてのダムを今すぐ撤去しろなんて言うつもりはありません。ただ不要なダムは撤去して、他の方法を考えるべきなのです。
映画『ダムネーション』より
──日本では荒瀬ダムが撤去されただけです。もっと促進させるためにはどうすればいいでしょうか?
日本の荒瀬ダムの撤去が始まったことは今後の広がりが期待できることです。そして実際に水質が良くなり魚が戻ってくることを見たら、中毒になるはずです。もっとダムを壊して同じことを見たいと他の地域も真似するはずです。アメリカではこれまでに1000基以上のダム、年に50基のダムが撤去されています。日本も同じ流れになれればと願っています。
──この映画を作って一番良かったことは何ですか?
カルフォルニアで上映した後に、7歳の男の子がハイタッチをしてきたんです。そして「僕は将来ダムバスターになってダムを爆破したい!」と言われた時が一番嬉しかったですね(笑)。
(オフィシャル・インタビューより)
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映画『ダムネーション』
渋谷アップリンクにて上映中
映画『ダムネーション』より
提供:パタゴニア
制作:シュテッカー・エコロジカル&フェルト・ソウルメディア
製作責任者:イヴォン・シュイナード
プロデューサー:マット・シュテッカー&トラヴィス・ラメル
監督:ベン・ナイト&トラヴィス・ラメル
編集:ベン・ナイト
アソシエイトプロデューサー:ベーダ・カルフーン
企画:マット・シュテッカー&イヴォン・シュイナード
配給:ユナイテッドピープル
87分/アメリカ/英語/2014年
公式サイト:http://damnationfilm.net/
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