映画『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』より ©2013 Ce Qui Me Meut - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Panache Productions & La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision Belge) – All Rights Reserved.
同じキャストによる青春恋愛映画の三部作と言えば、去年、完結編が公開されたリチャード・リンクレーター監督のビフォア三部作が想起されるが、軽やかな人情喜劇で世界中に熱烈なファンを持つフランス人監督セドリック・クラピッシュの“グザヴィエ・シリーズ”も、同じキャストで登場人物たちの15年間を捉えた三部作だ。
主人公グザヴィエが25歳だった第1作(『スパニッシュ・アパートメント』)、30歳になった第2作(『ロシアンドールズ』)、そして完結編となる本作『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』は、40歳になったグザヴィエが描かれる。
クラピッシュ監督が、自らのライフワークとして自身の経験をふんだんに詰め込んだ、思い入れ深いシリーズの完結編となった本作について語るインタビューを以下にお届けする。
本作撮影中のセドリック・クラピッシュ監督 ©2013 Ce Qui Me Meut - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Panache Productions & La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision Belge) – All Rights Reserved.
「何より、彼らのその後が自分でも観たかった」
セドリック・クラピッシュ監督監督インタビュー
──シリーズ最新作ですが、『ロシアン・ドールズ』を公開した年に、製作を発表しましたね。あなたのこのシリーズへの愛情を感じます。
そう、本当にこのシリーズを愛している。『スパニッシュ・アパートメント』(2002)を撮影した時は、続編のことなんか考えていなかった。その後、出演者や製作陣、スタッフと話す機会があり、その度に「続編は?」と聞かれていたこともあって、いつしか自分でも「続編をやらないのか?」と思うようになっていたけれど、現実的には考えていなかった。その2年後に『ロシアン・ドールズ』(2005)のアイディアを思いついて、その時初めて自分があの時と同じ役者・スタッフとまた仕事がしたいと思っていることがわかったんだ。何より、彼らのその後が自分でも観たかったんだ。
サンクトペテルブルクで『ロシアン・ドールズ』の撮影は終了したが、その時にはこの物語を3部作にしようと決意していた。しかし、実現には時間がかかるだろうと思っていた。少なくとも10年の月日が経っていなければ、物語はおもしろくならないだろう。僕は出演者が年を重ね、過去や彼らの人生を語り合い、これからどうして生きて行こうと思うまでを観たいと思ったんだ。彼らは親になる。そしてそのことで物語はよりおもしろくなる。役者たちも実際の人生において子供を持つだろうし、その経験もまた映画に出てきたらおもしろいだろうと思った。特にロマンには、それを願っていた。彼に子供ができていなかったら、この作品はできていなかったかもしれないよ。
映画『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』より ©2013 Ce Qui Me Meut - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Panache Productions & La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision Belge) – All Rights Reserved.
──とても期待されていた作品ですから、プレッシャーもあったのでは?
ありがたいことだが、ほんとうにそうだった。『スパニッシュ・アパートメント』の時は、第1稿を2週間で書いた。『ロシアン・ドールズ』も同じように感情のスケッチのように書こうとした。それにこだわったために、書き上げるのに3ヶ月かかった。しかし、今回は書き始めるや否や、これまでと同じようには書けないと自覚した。最初の2作品のように、自然に感情が出てこないし、物語も回り始めなかったから。目的地をまわりながらそこにたどり着けないという感じ。そんなわけで、脚本を直し直しで8か月も経ってしまった。映画の脚本を書く難しさは、間違いなく観客の期待に比例する。それを今回とても感じた本作品は今までの経験とそれに基づく反応というものが要求された。なぜならそれが物語に重みと深みとをもたらすからだ。
──NYでの撮影は野外でと決めていたのですか?
『猫が行方不明』と同じようなやり方で撮りたかったんだ。人々の視点、通りでの展開。それは観光案内のようではいけないと思った。だから、例えばタイムズスクエアで撮影はしなかった。さらに画面上の色付け、枠の取り方はマグナムエージェンシーの写真家アレックス・ウェブに影響された。彼は目で見える色合いを写真やスクリーンに再現することができる技術での第一人者だ。彼のおかげで、色彩豊かなNY、チャイナタウンの街並みを再現できた。撮影監督のナターシャ・ブレアと映画の美学について議論していた時、僕らは同じ考えで合意した。まず正確なカラーコードを定義した上で撮影するということだ。
映画『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』より ©2013 Ce Qui Me Meut - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Panache Productions & La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision Belge) – All Rights Reserved.
──撮影中にハリケーンサンディが直撃したそうですね。
あれは本当に必要な時に直撃してくれたんだよ!何が起こっても正気でいようと決意した。幸運にも上陸にはいくらか余裕があったから、頭がおかしくはならなかったんだけどね。あのような状況だと、太極拳を実践するしかない。どんなに敵が強くても、直立して相手を受け入れさらに対抗するあれを。そんなこともあって、撮影方法を『スパニッシュ・アパートメント』の時のように変更することにした。120人のスタッフ、20台のトラックの代わりに10人規模のスタッフと軽トラックでやったのさ!マンハッタン中50の撮影班に分け、撮影していくという方法を取ることにした。その計画ができた週末にサンディがNYに上陸した。サンディの影響はそれほどなかったが、撮影方法を変えたことがこの映画にとってとてもよかったと思う。
──本作の撮影前に前2作を観直しましたか?
本を書いている間、『スパニッシュ・アパートメント』を観ていたよ。でも、僕はふだんから自分の作品をよく観直しているから、特別なことでもない。しかしここにきて、初めて観客が僕の映画のこういうところが好きだと言ってくれるところを自覚できたと思う。僕は人と距離を持ってきたし、家族写真も見せ合うこともしてこなかった。そのことが、観客が僕の映画を好きになってくれる理由だと理解したんだ。『スパニッシュ・アパートメント』にはある種の軽薄さ、創造性、そしてポップさがある。かつては同じことを繰り返すのが嫌だったが、そんなの大したことではないということもわかった。それがわかった後に脚本を完成させたわけだけれど、前作と同じようなことにはならなかった。それはもちろん登場人物たちの年齢にもよるだろう。僕は40歳の男が主人公の作品を書いているんだと自覚したことも大きい。グザヴィエはもはや25歳の若く衝動的で未熟な子供ではない。彼は人間的に深みを増し、かつてのような無茶ができない責任ある大人になっていた。それをすっと受け入れられたという意味で『スパニッシュ・アパートメント』をあのタイミングで再び観たことは意義があったと思う。
映画『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』より ©2013 Ce Qui Me Meut - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Panache Productions & La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision Belge) – All Rights Reserved.
──全員ご出世されましたよね。俳優も撮影監督も編集も。その上で新たに再結集された本作に新鮮さを感じましたか?
新鮮さって、それってこの作品に関して言えばまったく逆説的な質問だけど、感じましたよ。なんて言うか、どこか別の所で頑張ってきた自分を再び見つけたような感じがした。それも必要なこと。一種の電気ショック療法だよね。基準点を変更するために、僕はもっと映画を作るための違うやり方を見つける必要があった。そのために、この映画はより個人的な映画になったと思う。
──最後に続編の可能性は?
少なくとも今は3部作の最終章として考えている。4作目は蛇足だよ。しかし、また10年後何が起こるかわからないよね。ひょっとしたら、続編に対して自分の中でゴーが出るようなアイディアが出てくるかもしれないし。──10年という時間があったら、何が起きても不思議じゃないでしょう?
(オフィシャル・インタビューより抜粋)
セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)プロフィール
1961年フランス出身。ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。1985年フランスに戻り、レオス・カラックスの作品のスタッフなどを務める。1992年、初めての長編映画『百貨店大百科』でセザール賞にノミネートされ、注目を集める。その後、『猫が行方不明』ではベルリン国際映画祭の映画批評家協会賞を受賞。
『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』
2014年12月6日(土)より
Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
恋愛ジプシーに別れを告げ、今や2児の父となり、腰を落ち着けたかに見える、40歳のグザヴィエ。小説家としてもそこそこ人気を得て、そのまま順風満帆な人生を送るはずが ……青天の霹靂、またも大ピンチに見舞われる。妻から三行半を突き付けられたグザヴィエは、子供の育て方の不一致を解消するため、妻子を追いかけてNYで暮らすことに。不惑の40歳のはずが、アッパーな暮らしをおくる妻の今カレと、友人宅に居候する自分との差に愕然とし、友人の浮気騒動に巻き込まれ、移民局に目をつけられ、今度はNYの町を東西奔走。予期せぬ出来事ばかりに見舞われてしまう――。
原題:Casse-tete chinois
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
製作:ブリュノ・レビ
製作総指揮:ラファエル・ベノリエル
撮影:ナターシャ・ブライエ
美術:マリー・シュミナル
編集:アン=ソフィー・ビヨン
衣装:アン・ショット
音楽:ロイク・デュリー、クリストフ・“ディスコ”・ミンク
出演:ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、セシル・ドゥ・フランス、ケリー・ライリー、サンドリーヌ・ホルト
配給:彩プロ
(2013年/フランス・アメリカ・ベルギー/117分)
映画公式サイト:nyparisian.ayapro.ne.jp
映画公式Twitter:https://twitter.com/nyparisian
映画公式Facebook:https://www.facebook.com/ny.parisian