映画『6才のボクが、大人になるまで。』より ©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.
劇場長編デビュー作『Slacker』(1991年/日本未公開)以降、1~2年に1本の割合でコンスタントに作品を発表しているリチャード・リンクレイター。恋愛ドラマから、アニメーション、学園コメディまで、手がけるジャンルは幅広くその作風は実験的で、アートハウス系映画とメジャー映画の中道を進みながら、傑作を生み出し続ける稀有な映画監督の一人である。
2002年から他のプロジェクトと並行して12年間にわたり、6才の少年とその家族の変遷の物語を、同じキャストとスタッフで撮り続けた画期的な作品がこの『6才のボクが、大人になるまで。』だ。リンクレイター監督が、キャスティングや資金面の問題、俳優たちと時間との協調などについて語るインタビューを以下にお届けする。
12年後、18歳になった主人公メイソン役のエラー・コルトレーン(左)とリチャード・リンクレーター監督(右) ©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.
「誰かが降板した時のエスケープ・プランなんてなかった。ただ皆がこの映画の核になるアイデアに対して信念を持っていた」
リチャード・リンクレイター監督インタビュー
──(主人公メイソン役の)エラー・コルトレーンを抜擢したとき、彼には演技の経験はあったのですか?
彼は演技をしてた。学校の運動場で偶然見つけたわけじゃないさ! 履歴書と顔写真を持ってきてた。もうそういう世界にいたんだよ。
──撮影期間中、彼はどんな貢献をしてくれましたか?
最初はそこにただいるだけだった。でも、映画作りに協力しようという姿勢は年を追うごとにどんどん強くなっていってね。イーサン(・ホーク)やパトリシア(・アークエット)と同じ程度になるまで、そう時間はかからなかった。やる気いっぱいで撮影に臨んでたよ。
──何年もかけて登場人物を追っていくことに、あなたがこれほど惹かれるのはなぜでしょうか?
さあ、わからないな……どんな映画でも続編は作れるだろ? 月並みな言い方をすると、「始まりも終わりもない」ってことさ。登場人物についても同じことだ。これまでに作ってきた映画の登場人物は、今どうしているだろう? まるで彼らがパラレルワールドに住んでるような気がするけど、楽しいんだよ……ビフォア3部作〔『ビフォア・サンライズ(邦題“恋人までの距離”)』(95)、『ビフォア・サンライズ』(04)、『ビフォア・ミッドナイト』(13)〕で、彼らをまた訪ねるのがね。だけど、この映画はそのB面と言うかね。登場人物の人生を追いながら、徐々に話が進んでいく。全くタイプの違う旅だよ。
映画『6才のボクが、大人になるまで。』より ©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.
──この企画を実現する際に、実際的な面で難しかったのはどんなことですか?
この企画のすべてが、技術的に不可能か、あるいは運がよくても極めて非現実的だった。大変な挑戦だったよ。まず、資金集めだ。お金を持ってる知り合いのプロデューサーに何人か当たってみたけれど、みんな言うのさ、「すごいアイデアだ。しかしお金が返ってくるまで12年も待つのかね? 3年ごとにテレビでさわりでも見せたらどうだ?」とかね。こっちは「だめだよ、これは映画なんだ!」と言い返す。彼らにはとにかく理解できないのさ。こう言うんだ、「うちは銀行じゃないからね。ただお金を貸すわけにはいかないよ」それでこっちは答える、「じゃあ、あんたは銀行家になるべきだよ。もし自分がアーティストだと思うなら、話に乗ったらどうだい!」
──パトリシア・アークエットとイーサン・ホークに出演を依頼したのはいつですか?
イーサンには最初に話したよ。その頃にはもう彼とは2度ばかり仕事をしてたからね。友人として協力者として、このアイデアを彼の前でお披露目してみせた。こっちの頭には父親の役があった。イーサンなら年齢的にもちょうどいい。向こうは、「へえ、何てクールなアイデアだ!」ときた。次は母親をどうするかだ。パトリシアとは以前一度会ってたので、電話して長話をしたよ。彼女はずいぶん若い頃に母親になってた――20歳くらいでね。これは大きな利点だ。パトリシアのことはいつも気に入ってた。演技がとにかくよかった。自分のやってることが楽しくて仕方ない感じで、しかも非常に繊細であると同時に力強く情熱的だ。彼女とイーサンが腐れ縁のカップルを演じてるのが目に浮かぶような気がした……とにかくそう感じたんだ。パトリシアは母親としての自覚がとても強い。2時間話す間に、自分たちの母親について、親としての自分について、子供の頃の自分たちについてずいぶん話したよ。それで、彼女ならこの映画で12年間いっしょにやっていけるとわかったんだ。パトリシアは思い切って飛び込んでくれたよ! 実際これは母と息子の物語だからね。いつも思ってたけど、主役は間違いなく母親なんだ。父親はただ回りをうろついてるだけさ。
映画『6才のボクが、大人になるまで。』より ©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.
──俳優たちが実際に年齢を重ねていく過程に驚きは感じませんか?
その変化は徐々に見せるようにしたんだ。ずっと編集しつづけてたからね。あれは8年くらい経った頃かな。しばらくそこまでの分を通して見ていなかった。8年目の撮影分を編集していて、映画の最初のショットまでちょっと戻ってみたんだ。編集者といっしょに爆笑したよ! それで、うまく行ってることがわかった。だがまぁ……そうなるように計画したんだからね。思っていたとおりになってくれたわけなんだが、この映画のそもそものアイデアを再確認するために、時々こういうふうに気持ちを解放することはよかったよ。
──エラーはある時点で声変わりしますが、ポスト・プロダクションの段階で再録音するときにはどうしましたか?
その作業は2年おきにやった。毎年声を聞いて、エラーが声変わりしすぎる前に撮った場面もいくつかあったよ。撮影を進めながら対応したんだ。
──俳優の誰かが降りてしまった場合の代替案はありましたか?
なかった。エスケープ・プランなんてないさ! そういう心配は、ぼんやりと心をよぎったりもしたが、まともに気をもんだことはない。みんなこの映画に対する信念を持っていた。どうしてだかわからない。この映画の核になるアイデアを全員が信じていたんだと思う。僕は、ただそれを現実世界の中で機能させようと努めただけだ。大変だったけどね。どんなことが起こり得るか、いろいろな可能性を考える余裕なんてなかった。人はみんなそういう可能性と共に生きてるんだ。いつ何時に電話が鳴って、どんな恐ろしいニュースが届くか、誰にもわからないんだからね。状況はこの映画でも実際の人生でも、何の変りもないってことさ。
映画『6才のボクが、大人になるまで。』より ©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.
──この映画の製作を始めたのは、『ビフォア・サンセット』(04)のすぐ前ですか?
そうだね。1年前だ。いつも言うんだが、この映画は他の映画の間を縫って作られたんだ。12年間もこの映画に関わり続けたんで、イーサンを……父親を最初に見たときには、〔『ビフォア・サンセット』のエンディングで〕パリから帰ってきたばかりのような感じがする。全く同じ時期に撮影してたんだよ、だから同じ奴さ! でも、そのおかげで、この企画に飛び込む覚悟ができたって言うかな。「よし、やってやろうじゃないか」っていう気になったんだ。
──長期間の撮影でヴィジュアル的な統一感を出すのは難しかったですか?
いや。最初から織り込み済みさ。前にも言ったけれど、その時代の文化がかなりの程度、統一感を維持してくれた。計画通りさ――フィルムで撮るっていうこともね。この映画についてはちゃんとヴィジュアル的なプランがあった。そのスタイルを変えたくなかったんだ。
──この12年間に何本の映画を作りましたか?
この映画の最初の撮影をしてからすぐに、『スクール・オブ・ロック』(03)があって……8本撮ったんじゃないかな。たくさんのことが同時進行していた。この映画はいつもコーヒーメーカーで暖められてたんだが、僕もイーサンもパトリシアも忙しくてね……。ときには他の映画のポスト・プロダクションの最中だったこともあって、この映画を2週間撮って、また別の映画のために飛んでいったりした。それで何ヶ月も編集ができなかった。だけど、この映画はいつも身近にあったよ。
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──あなたの知っている範囲で、このようなことを誰か試みたことはありますか?
いい質問だ。はっきりしていると思う。アイデアとしてはとても単純だろ? でも、全く現実的じゃない! だから、なぜ今まで実現しなかったのかわかる。みんな10代の頃にはいっぱしの哲学者気取りになったりするものだが、実際に哲学者の本を読んでみると、自分の考えは何百年も前からあることがわかる……だから、独創性という点から見ると、僕がやったのは大したことじゃない。すべて前例があると思う。そうユニークというわけじゃないんだ! でも自問したよ――「待てよ、映画では見たことがないぞ。映画ではまだやられてないようだ」。この映画のような、ゆっくりと年齢を重ねていくような映画は観たことがない。それが疑問に対する答えのように思えた――それが、僕が描きたい、描く価値があると思う子供時代を描く方法だった。
──この映画が完成してしまって、寂しさを感じませんか?
ほろ苦い感じだけど、寂しいと感じたことはない。この映画には充分すぎるほど満足してるからね。でもみんな、映画の製作が終わることははっきり意識してた。最後のショットは映画自体のラストショットだった。「ああ、終わってしまった。いやそうじゃない。やっと世に出たんだ」新しい段階に達したということだ。観客席で見るようになって、われわれの手から離れたんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
リチャード・リンクレイター(Richard Linklater)プロフィール
1960年テキサス州ヒューストン出身。88年にスーパー8の長編映画『It's Impossible to Learn to Plow by Reading Books』で監督デビュー。100人の登場人物それぞれの24時間を描いた二作目『Slacker』(91)がサンダンス映画祭で絶賛され注目を浴び、続く『バッド・チューニング』(93)が米国内で大ヒット。『恋人までの距離(ディスタンス)』(95)でベルリン国際映画祭監督賞を受賞し、国際的に名を知られることとなった。その続編『ビフォア・サンセット』はアカデミー賞脚色賞にノミネート。この2作では、ほぼ全編男女2人だけの会話劇を描き、『ウェイキング・ライフ」や『スキャナー・ダークリー』では実験的映像を施す一方、『スクール・オブ・ロック』や『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』などのように大衆向けも撮り上げるなど、幅広い才能を持つ。本作で再びベルリン国際映画祭の監督賞を受賞した。
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『6才のボクが、大人になるまで。』
2014年11月14日(金)より
TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
主人公は、テキサス州に住む6才の少年メイソン。キャリアアップのために大学で学ぶと決めた母に従ってヒューストンに転居した彼は、そこで多感な思春期を過ごす。アラスカから戻って来た父との再会、母の再婚、義父の暴力、そして初恋。周囲の環境の変化に時には耐え、時には柔軟に対応しながら、メイソンは静かに子供時代を卒業していく。やがて母は大学の教師となり、オースティン近郊に移った家族には母の新しい恋人が加わる。一方、ミュージシャンの夢をあきらめた父は保険会社に就職し、再婚してもうひとり子供を持った。12年の時が様々な変化を生み出す中、ビールの味もキスの味も失恋の苦い味も覚えたメイソンは、アート写真家という将来の夢をみつけ、母の手元から巣立っていく。
原題:BOYHOOD
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
製作:キャスリーン・サザーランド
製作総指揮:ジョナサン・シェアリング、ジョン・スロス
撮影:リー・ダニエル、シェーン・F・ケリー
編集:サンドラ・エイデアー、A.C.E
プロダクション・デザイン:ロドニー・ベッカー
衣装:カリ・パーキンス
出演:パトリシア・アークエット、エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレーター、イーサン・ホーク
配給:東宝東和
(2014年/アメリカ/英語/165分/PG12)
映画公式サイト:6sainoboku.jp
映画公式Twitter:eigafan.com
映画公式Facebook:www.facebook.com/6sainoboku.jp