骰子の眼

cinema

2014-11-07 12:03


ドストエフスキー原作、近未来ディストピアを舞台に映画化『嗤う分身』

昭和歌謡が流れる奇妙な世界、ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ共演
ドストエフスキー原作、近未来ディストピアを舞台に映画化『嗤う分身』
(c) Channel Four Television Corporation, The British Film Institute, Alcove Double Limited 2013

ロシアの作家ドストエフスキーの「分身(二重人格)」を映画化した『嗤う分身』が2014年11月8日(土)公開となる。舞台を近未来的世界に置き換えた奇妙なディストピア的世界に、劇中歌として60年代昭和歌謡(坂本九、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)が挿入されるなど観るものに思いがけない感覚をもたらす。もう一人の"自分"の出現によって全てを狂わされていく男の顛末てんまつを、ダークユーモアとロマンスをふんだんに効かせて描いている。

『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグと『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ共演で映画化した本作の監督は『サブマリン』のリチャード・アイオアディ。1977年イギリス生まれの37歳、コメディアン、俳優としても活動しており『ハイっ、こちらIT課!』のモス役で知られる。

webDICEでは、リチャード・アイオアディ監督のインタビューを掲載する。




「不快なものと可笑しいものの大きな区別ってそんなにないんじゃないかと思うんだ」
リチャード・アイオアディ監督インタビュー

映画『嗤う分身』 アイオアディ監督写真
リチャード・アイオアディ監督

──監督として本作に関わることになった経緯を教えてください。

この映画のプロデューサー(フォックスとダスマル)から声をかけてもらったんだ。アヴィ・コリン(ハーモニー・コリンの弟)が、ちょうどその頃ドストエフスキーの「分身」を脚本化している最中でね。でも僕は、単に人が書いた脚本を映画化することには抵抗があったから、はじめは断った。でも、プロデューサーたちは諦めず、僕が描くビジョンを尊重すると言ってくれた。それで、僕もアヴィと一緒に脚本に参加して、監督を引き受けることにしたんだよ。

映画『嗤う分身』

──本作はロシアの文豪ドストエフスキーの原作ですね。偉大な作家の小説を映画化するにあたってどんな気持ちでしたか?

ドストエフスキーの著作を映画化するという仕事は僕にとってとても素晴らしいことだった。原作が素晴らしいのだから、すでにスタートラインが良い位置にあることになる。だからこそ映画も良くできたと思うよ。もちろんこの映画を観てくれた人がどう感じるかは分からないけれど・・・。

──主演のジェシー・アイゼンバーグの印象を聞かせてください。

彼は最高だった。彼はなんというか完璧だ。彼以外には考えられなかった。この2人のキャラクターを正確に演じられる俳優はたくさんいるが、彼は技術的に素晴らしいだけでなく、自発的で直感的なんだ。優れた俳優は、技術と直感の両方を兼ね備えている。

映画『嗤う分身』

──アヴィ・コリンとの共同脚本はいかがでしたか?

彼との共同脚本作業はとても素晴らしいものだったよ。毎回、彼が書いたものを見せてくれては、それにフィードバックし、反対に僕が書いたものを彼に見てもらってフィードバックをもらう。この関係性はとても上手くいって、彼の書いたものを見るのも、また僕が書いたものを彼に見せるのもとても光栄なことだったね。

──劇中では昭和歌謡が多用されていますね。選曲に至った経緯は?

昔、「エド・サリヴァン・ショー」というアメリカのバラエティ番組があったんだ。ゲストにはプレスリーとか、ストーンズとかディランとか、スターたちがたくさん出演していた。その番組に、日本の坂本九やジャッキー吉川とブルー・コメッツも出演していたんだよ。僕が生まれる前に放送されていた番組だから、リアルタイムで観たわけじゃなくて、再放送で観たんだ。それで、「SUKIYAKI(上を向いて歩こう)」や「BLUE CHATEAU(ブルー・シャトウ)」といった日本の音楽が印象に残った。僕がイメージするこの作品の世界観にも合うと思ったしね。主人公の心情と歌詞がマッチするような選曲にしたよ。

映画『嗤う分身』

──あなたはCG でなくカメラの中で効果を作り上げるために、長い時間を費やしていますね。それは何故ですか?

沢山の理由があるよ。映画を退屈でなくリッチな物にするためにね。例えばコントラストの高い映像にする事で、フィルムの感覚として『嗤う分身』は光と影の映画だと印象付ける事が出来る。それにカメラで出来ることは多い。モーションコントロールカメラという偉大な発明があるからね。二役の演出は俳優とリハーサルをして、変更点を直して、後は俳優を信じる。難しいのはジェシーが片方の役を演じたら、その場で使うテイクを選んで、カメラ位置を戻して全く同じカメラワークを再現し、音声を頼りにもう一つの役を演じるわけだから、完成した画はポスプロを待たないと分からない。ジェシーが二役を切り替えて演じ分けるので、多分に彼次第の面があるけど、変更の効かない未知の要素を取り込むにはカメラ内で完結させるのがベターだ。

映画『嗤う分身』

──撮影で自然光を全く使っていないというのは本当ですか?

自然光を使わない最大の理由は、モーションコントロールカメラを使うので、テイクごとに照明の変化があってはならないという事。だから人工的な照明しか使えないんだ。あとはこの種の物語の場合、夜の光の方がふさわしいという事だね。この映画には昼間はあまり適切でないんだ。

映画『嗤う分身』

──『嗤う分身』は可笑しな要素を持ち合わせながら、一方でとても恐ろしい状況を描いた物語ですね。

不快なものと可笑しいものの大きな区別ってそんなにないんじゃないかと思うんだ。原作は狂ってしまう男の話だ。でも同時に可笑しくて、大げさで、バカバカしいんだ。僕が好きなものはそういうトーンを持っている。

映画『嗤う分身』

──本作の撮影で苦労したことは?

僕はこの作品の国籍や時代といった空間イメージを限定的にしたくないと思った。だから、必然的に地理的に、あるいは時間的に、明確なものが存在しないってことになる。それは、腹が立つほど難しいことだったよ。音声を創り上げるだけで5 カ月を要した。ほとんどの映画にとって、現実に忠実な音を録音することは単純な作業だ。だけど、本作ではそれが真逆なんだ。全ては現実じゃない空間で起こらなければいけなかった。とても複雑な作業で苦労したね。

──本作のプロダクションデザイン(美術)は、どこなのか、いつなのか判別ができない独特のムードを醸し出していてとても見事ですね。

プロダクションデザイナーのデイヴィッド・クランクは素晴らしかったよ。彼はこれまでジャック・フィスク(美術監督)とさまざまな映画で沢山の物を作ってきたキャリアがある。『嗤う分身』は完全なイギリス映画というよりも、イギリスとアメリカ半々なテイストがあったから、プロダクションデザイナーにはアメリカ人のデイヴィッドが適任だと思った。何かを成し遂げるためには、それにふさわしい人と仕事をするべきだと思う。それが僕たちの理想のやり方だからね。

この映画でイメージした都市というのは、ドイツのバウハウスデザインの様な匿名性があって、長くゆっくり作られてきた伝統のある都市とは違い、急成長を遂げた都市のイメージだったんだ。例えばアトランタは―たぶんオリンピックのためだと思うけど―短い期間で作られたよね。でも、あまり上手くいっていない場所が色々ある。この映画の世界観も、建物は急速に建てられて機能的な感じにしたいと考えた。それをデイヴィッドは見事に創り上げてくれた。彼は本当に凄いよ。

映画『嗤う分身』

──最後に。あなたにとって長編映画2作目となる本作ついて、全体的な印象を聞かせてください。

僕は、この物語にとても興味を持っていて、実は映画の構想は前作『サブマリン』よりも前にあったんだ。だからこのように長い時間を掛けて脚本を作りこむことができて、更にこんな夢のようなキャスト陣に恵まれて、本当にラッキーだったよ。映画の企画が進むごとに、コスチュームデザイナー、コンテを描くアーティストなど様々な素晴らしいスタッフの参加が決まっていった。それはとても映画にマッチしていて楽しかった。

映画『嗤う分身』




リチャード・アイオアディ Richard Ayoade

1977年6月12日生まれ。イギリス・ロンドン出身のコメディアン、俳優、脚本家、映画監督。 ノルウェー人の母とナイジェリア人の父をもつ。ケンブリッジ大学で学び、英国コメディ史に欠かせない歴史と伝統ある演劇クラブ「ケンブリッジ・フットライツ」で座長を務め、その後も英国コメディの登竜門をトップで走り抜けているエリート中のエリートコメディアン。在学中より舞台の脚本を多く手掛ける。2004年、チャンネル4のホラーコメディ「Garth Marenghi's Darkplace」で共同脚本・演出を担当し、出演もした。続編「Man to Man with Dean Lerner」でも共同脚本と演出を担当。エミー賞受賞ドラマ「ハイっ、こちらIT課!」のモス役で人気を博し、一般的に知られるようになる。また、アークティック・モンキーズ、イェーイェーイェーズ、スーパー・フュリー・アニマルズ、カサビアン、ラスト・シャドウ・パペット、ヴァンパイア・ウィークエンドといった数々のミュージシャンのPV監督をしており、2008年にはアークティック・モンキーズのアポロシアターでのライブ映画をリリースした。俳優としては、ベン・スティラー主演『エイリアン バスターズ』(12・未)に出演。なお、各国で高い評価を得て数々の賞を獲得した『サブマリン』(10)で長編映画監督デビューを果たし、本作は2作目にあたる。




映画『嗤う分身』
2014年11月8日(土)公開

出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ノア・テイラー
監督:リチャード・アイオアディ
製作:ロビン C・フォックス、アミナ・ダスマル
製作総指揮:マイケル・ケイン
原作:フョードル・ドストエフスキー
脚本:リチャード・アイオアディ、アビ・コリン
音楽:アンドリュー・ヒューイット
(2013/イギリス/93分)
公式サイト


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