骰子の眼

dance

埼玉県 さいたま市

2014-11-04 21:22


映画『ブラック・スワン』振付を担当、パリ・オペラ座新芸術監督バンジャマン・ミルピエ初来日!

カンパニーL.A. Dance Projectを率いて彩の国さいたま芸術劇場に登場
映画『ブラック・スワン』振付を担当、パリ・オペラ座新芸術監督バンジャマン・ミルピエ初来日!
『リフレクションズ』 ©Laurent Philippe

現在のバレエ界で最も注目を集める振付家バンジャマン・ミルピエ。彼が2012年に設立したカンパニーL.A. Dance Projectによる公演が11月8日(土)9日(日)彩の国さいたま芸術劇場にて行われる。
今回は『埼玉アーツシアター通信NO.53』より、自身のダンス体験の始まりをアフリカン・ダンスとし、ジェローム・ロビンズに見出され入団したニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)時代を経て、今秋パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督に抜擢されたミルピエとは何者なのかを探るテキストとともに、NYCB現役時代の彼をよく知るダンス評論家・上野房子氏に、彩の国での上演作品について解説してもらった。

バンジャマン・ミルピエとL.A. Dance Projectとは

アフリカ、フランス、アメリカ、そして
バレエの殿堂パリ・オペラ座へ

1977年にボルドーで生まれたミルピエは、幼少期の一時期セネガルで育ち、アフリカン・ダンスとコンテンポラリーダンスの教師であった母親からダンスの手ほどきを受けた。バレエ・ダンサーとしての確固とした地位を持つミルピエだが、自身のダンス体験の始まりはアフリカン・ダンスだと自らも語っている。フランスに戻ったミルピエはリヨン国立高等音楽院に入学、ここでバレエの基礎を磨いた。

Benjamin Millepied (c)Morgan Lugo
バンジャマン・ミルピエ ©Morgan Lugo

92年の夏渡米し、ニューヨーク・シティ・バレエ付属バレエ学校にて研修を受け、翌年には仏外務省から奨学金を得て同校に入学。そして、『ウェスト・サイド・ストーリー』や『屋根の上のヴァイオリン弾き』などで知られる振付家ジェローム・ロビンズに見出され、95年にNYCBに入団、ダンサーとしての輝かしいキャリアを築いていく。2001年にはプリンシパルに昇りつめ、11年の退団まで、バランシン振付『アゴン』、『ジュエルズ』の「ルビー」や、ロビンズ振付『イン・ザ・ナイト』などの数々の作品で主要パートを務めた。来日公演での彼の姿を観た人も多いだろう。

こうしたダンサーとしての活動と平行して、NYCB、アメリカン・バレエ・シアター、マリインスキー・バレエ、そして今秋芸術監督に就任するパリ・オペラ座バレエ団など名だたる名門バレエ団に作品を次々と提供し、振付家としての才能も開花させる。2010年にはナタリー・ポートマン主演映画『ブラック・スワン』で振付を担当、自身も出演したことで、彼の名はバレエ界を超えて一躍世界に知られることとなる。そして35歳の若さでパリ・オペラ座バレエ団次期芸術監督に抜擢され、今秋いよいよ就任となる。今や世界のバレエ界から注目を一身に集めているアーティストがミルピエなのだ。

ロサンゼルスでのミルピエの挑戦

今回初来日するL.A. Dance Projectはミルピエがロサンゼルスで設立した新星クリエイター集団。個性的な存在感を持った優秀なダンサーをはじめ、ミルピエを筆頭に気鋭の振付家、美術家、作曲家など、作品を創る毎に異分野の瑞々しい才能が結集しているのが特徴だ。まだ若いカンパニーながら、パリのシャトレ座やロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場などといった老舗劇場のパートナーとなるなど、ミルピエのパリ・オペラ座での活動とともに、世界中から期待を寄せられている。

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『リフレクションズ』 ©Laurent Philippe
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『リフレクションズ』 ©Laurent Philippe
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『リフレクションズ』 ©Laurent Philippe
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『リフレクションズ』 ©Laurent Philippe
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『リフレクションズ』 ©Laurent Philippe

上野房子氏による上映作品解説

ジョージ・バランシンの作品を踊るべく入団したニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)で出会ったジェローム・ロビンズを師と仰ぎ、爽やかな美形ダンサー・若手振付家として頭角を現したバンジャマン・ミルピエ。しかし今日、L.A. Dance Projectを率いる彼を、〈アブストラクト・バレエの二大巨匠、バランシンとロビンズの衣鉢を継ぐ振付家〉と一括することはできない。

確かにバランシン同様、ミルピエも音楽の機微を細やかに振付で描き出す。ロビンズ同様、手に手を取って踊る男女を洒脱に、時にシニカルに描いてみせる。けれども、ミルピエが軸足を置いているのは、偉大な先達が経験したことのない21世紀の、“いま”。広範な分野のアーティストと共に創作することを活動の指針に掲げており、今秋、日本に初お目見えする『リフレクションズ』はその典型だ。

デイヴィッド・ラングのバラード風ピアノ曲が流れ、幾つかの英語のフレーズを大書した、シンプルかつ強烈なインパクトを放つバーバラ・クルーガーの美術に彩られた舞台で、巧者揃いのダンサーが縦横無尽に踊る。男女が拮抗するデュエット。コミカルな捻りの効いたソロ。男女ないし同性同士がぶつかり合う群舞。バレエ特有のしなやかさ、コンテンポラリー・ダンスならではのダイナミズム、あるいは日常のひとこまから切り取った仕草がちりばめられている。一連の情景は声高ではないが、かといって寡黙ではない。切なさや緊迫感が絶妙の匙加減で浮かび上がり、見る者を惹き込んでいく。バランシンとロビンズという鋳型に束縛されない自由を、ミルピエは手に入れたのだ。

L.A. Dance Projectは、ミルピエ作品以外の新旧作品を創作・再演するレパートリーカンパニーでもある。

『モーガンズ・ラスト・チャグ』は、イスラエル出身の振付家エマニュエル・ガットが同プロジェクトのために創作した2013年の近作。ダンサーの身体は拡散し、偏在し、現実とも虚構ともつかない時空を生み出す。

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『モーガンズ・ラスト・チャグ』 ©Laurent Philippe
Morgan 's Last Chug 2_Laurent Philippe
『モーガンズ・ラスト・チャグ』 ©Laurent Philippe
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『モーガンズ・ラスト・チャグ』 ©Laurent Philippe
Morgan 's Last Chug3_Laurent Philippe
『モーガンズ・ラスト・チャグ』 ©Laurent Philippe

『クインテット』は、1993年にウィリアム・フォーサイスがフランクフルト・バレエで発表した作品。同プロジェクトでの再演にあたり、フォーサイス自身が改訂しているが、体の重心を限界まで傾け、フロアをかすめる彼特有の語調は健在だ。バレエの概念を覆した往時の代表作を、ミルピエが古典的演目として取り上げたことが興味をひく。

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『クインテット』 ©Ryan Schude
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『クインテット』 ©Ryan Schude
●Quintett_2_Ryan Schude
『クインテット』 ©Ryan Schude

パリ・オペラ座バレエ団芸術監督就任を目前に控え、快進撃を続けるミルピエの“いま”を見届けたい。

『埼玉アーツシアター通信NO.53』より転載



バンジャマン・ミルピエ Benjamin Millepied

フランス、ボルドー生まれ。リヨン国立高等音楽院でバレエを学び、渡米。ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)附属のスクール・オブ・アメリカン・バレエに入学。1994年の学校公演でジェローム・ロビンスに才能を見出され、『2&3 Part Inventions』の初演主役に抜擢される。また同年のローザンヌ国際バレエコンクールで入賞。翌年NYCBに入団。2001年にはプリンシパルに昇格(2011年退団)。バランシン振付『アゴン』、『ジュエルズ』の「ルビー」、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』や、ロビンス振付『ファンシー・フリー』、『イン・ザ・ナイト』などを初めとする作品で主要パートを務める傍ら、国内外の数々のバレエ団に作品を提供、振付家としての評価も高い。2010年にナタリー・ポートマン主演映画『ブラック・スワン』で振付を担当し、自身も出演。2012年には自らのプロジェクトL.A. Dance Projectを設立し、積極的な活動を展開。世界的にも高評価を受ける。2014年11月にパリ・オペラ座バレエ団芸術監督に就任予定。




彩の国さいたま芸術劇場開館20周年記念
バンジャマン・ミルピエ
L.A.Dance Project

2014年11月8日(土) 開演15:00、9日(日) 開演15:00
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
チケット好評発売中
主催・企画・制作:
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団

上演作品:
バンジャマン・ミルピエ振付『リフレクションズ』
エマニュエル・ガット振付『モーガンズ・ラスト・チャグ』
ウィリアム・フォーサイス振付『クインテット』
出演:L.A. Dance Project

http://saf.or.jp/arthall/stages/detail/1100

▼【バンジャマン・ミルピエ L.A. Dance Project】舞台映像

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