映画『ニンフォマニアック』海外版ポスターより、ステラン・スカルスガルド
ラース・フォン・トリアー監督が色情狂の女性ジョーの半生を8章・2部にわたり描くドラマ『ニンフォマニアック』のVol.2が11月1日(土)より公開される。webDICEでは、Vol.1公開にあたり掲載したシャイア・ラブーフのインタビューに続き、ステラン・スカルスガルドのインタビューを掲載する。1997年の『奇跡の海』以来、トリアー作品の常連であり、今作ではシャルロット・ゲンズブール演じる主人公ジョーが数奇な身の上を語る相手、インテリの紳士セリグマン役を演じたスカルスガルド。彼がセンセーショナルな話題を振りまいている今作について、そしてトリアー監督の演出スタイルの変化について語っている。
彼をへこませ、彼からへこまされるのは面白い
──あなたが演じるセリグマンはどんな人物ですか?
とても人生経験の少ない男として演じた。唯一の経験が本を読むことだ。でも想像力がどれほど限られていようと現実と人生は理解しなければならない。本から人生を学ぶのはとても難しい。人生はとても複雑で、矛盾に満ちているからだ。それを知的な文章に変換するのはとても難しい。だからこそ芸術がある。だからこそラースのような映画がある。ラースの映画は全て、何かを指摘したり、何かを具体的に伝える表現ではないが、曖昧で、オープンで、奇妙な映画としては最高なんだ。
映画『ニンフォマニアック Vol.2』より © 2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KOLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINEMA
──セリグマンは、主人公のジョーから彼女の人生を聞き出そうとします。彼にはどんな思惑があったと思いますか?
彼女に親切にし、彼女は安心する。誰かにその人生を語ってほしければ、安心させる必要がある。彼らに興味があると感じさせねばならない。でも彼はそれほど計算しているわけではないと思う。彼には社交性もないし、人を操るのがうまい人間でもない。人生経験が欠如しているからね。でも彼の存在は、この映画の主題からずれるために不可欠なんだ。彼はフライ・フィッシングの話や、どんなふうに偶像が作られるかといった話を始める。つまり彼は彼女の物語を台無しにする役目も担っている。それでも彼女は打ち明ける。この映画の構造は、基本的に二人の人間が一つの部屋の中で5時間話している映画だ(笑)、そこに過去の映像やほかのロケーションのカットが挿入される。ラースのユーモアのセンスで作られた彼自身の所感を伝える映像が混ざり合う。こんな構成の映画、めったに見ないだろう。映画学校では推奨しない構造だろうね。
映画『ニンフォマニアック Vol.2』より © 2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINÉMA
──ラース・フォン・トリアー監督とはどのような関係ですか?
何よりも僕は彼を愛し、僕たちは素晴らしい友人だ。俳優をしているとたくさんの友人ができるし、僕には仕事のような感じがしない。その題材で遊び、その中に何があるのかを探るような感覚だからだ。俳優としての責任は一切ない。何かはっきりしたものを表現する必要もない。それはラースとの撮影プロセスが、発見のプロセスだからだ。そこが素晴らしい。彼をへこませ、彼からへこまされるのは面白い。僕たちの相性はとてもいいよ。僕は彼と一緒にいるのが好きなんだ!
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自らの演出の方法論を壊し続けてきたトリアー監督
──トリアー監督の演出スタイルはこれまでにどのように変化してきましたか?
僕は、彼が作品を完全にコントロールするのをやめたあとの初めての映画『奇跡の海』(96)で一緒に仕事をした。彼の初期の作品は完全にコントロールされていた。彼は俳優のあらゆる動きを決め、それらは技術的には素晴らしかった。でももちろん、活気はない。彼の最初の映画『エレメント・オブ・クライム』(84)を映画祭で観た時、僕は「この監督が人間に興味をもったら、一緒に仕事をしてみたい」と言った。それには数年かかったよ。でも最終的に彼は自分でそのことに気づいた。テレビシリーズ『キングダム』(94)で、彼は自分の完全なコントロールを打ち破り、俳優たちを解き放てばスクリーン上に本当の人生を描き出すことができることに気づいたからだ。
そして僕たちは『奇跡の海』を作った。あれは考え抜かれた脚本だった。僕はあの作品をメロドラマ版『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(81)と呼んだ。謎めいた映画で最高潮のシーンが続くからだ。もし俳優を自由にせず、生命力を作り出せなかったら、その構造ばかりが目立ち、うまくいかなかっただろう。
彼はずっと自分のツールを取り除こうとしてきた。1995年に始まった「ドグマ95」(トリアーらデンマークの映画監督による運動。「スタジオでのセット撮影禁止」「必ず手持ちカメラを使用」「映像と関係のないところで作られた音のダビングの禁止」など10のルールが設けられた)はとても個人的なものだ。あれはマニフェストではなく、映画が作られるべき方法論なんだ。彼にとっては自分の方法論を取り除き、全てを削除することだった。
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そして『ドッグヴィル』(03)に行き着いた。あれは、床に白い枠線が書かれた舞台で言葉と俳優だけを撮影したものだ。それが彼のやったことだ。『ドッグヴィル』は物語自体が強烈だからうまく機能する。それに命を吹き込む俳優たちがいる。彼らはすごい演技をしようとはしていない。そこに命を吹き込むだけだ。それを撮影する。そしてそれが機能する。つまり、彼は年月をかけて自分の方法論を削減してきたんだ。
最近では、彼はもっと伝統的な映画製作の知識を使い始め、『メランコリア』(11)のような美しい映画を作った。この映画では、手持ちカメラさえ使っていない。三脚とトラッキング・レールを用いたが、それはとても珍しいことだ。つまり彼は常に自分の作業方法を変えている。それぞれの物語に適した究極の作業方法を見つけるだけでなく、自分のやり方も発展させるためだ。自分のツール全てを捨てた後も、彼はもちろんコントロールする。彼が編集するからね。何年もツールを使うのをやめていたあと、彼はついにそれらを取り戻した。でも今は俳優に強要することはなくなったし、それは素晴らしいことだ。
トリアー監督の台本は「子供っぽい」
──トリアー監督の映画作品をどのように表現しますか?
全てが違うよね?スタイルも全て異なる。でも全てに共通しているのは、ラースの脚本が下敷きになっていることだ。そこでラースの映画だとわかる。台詞がいつも少し子供っぽい。彼に言ったことがあるんだ。「あなたの脚本を読むと、とても聡明だが、少しだけ、人形の家に座って人形の頭をハサミで切り落としている幼い子供のような気がする」。すると彼は「そうだ」と言った。そういう感覚を抱く。だからこそ、彼の映画では即興するのが難しい。彼は俳優に望むが、俳優はそういう会話を即興できない。どこかうぶなトーンがあって、おとぎ話のようだ。それが確かな特徴だ。彼の映画全てにそういう現実的じゃないトーンがあるんだ。とても変わったスタイルだね。
『メランコリア』(11)は彼が作った中で最もロマンチックな映画だと言えるだろうし、『イディオッツ』(98)は最も生々しい映画だろう。この映画は彼の心に浮かんだ全てだと言える。彼はカンバスに自分の脳で色を塗る。頭の中の連想やアイデアが何であれ、彼はそれをカンバスに投げつける。興味深い過程だよ。
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──この映画でのセックスの表現についてどのように感じますか?
まず、この映画を観て感じるのは、ポルノではないということだ。人間がめったにさらさない身体の部分を伴う人間の行動を描いている。だからセクシーではなく、正常な行動であり、正常な効果であり、そこが素晴らしい。芸術だが、芸術家気取りではない。この映画の世界観は、芸術レベルへと高まっている。僕たちが毎日見ている世界でも、どこにでもいるキャラクターでもないからだ。でも、粥をスプーンで口に入れるのを見るより、映画で男性器が女性器に入るのを見る方が奇妙であってはならないんだ。
──それでは、多くのセックス・シーンをどのように解釈すべきでしょうか?
これは色情狂の女性についてのラースのファンタジーなんだ。それにいつもそうであるように、これもフィクションだ。でも人間のリアリティをベースにしている。それに世界に対するラースの苛立ちでもあると思う。あまりにも多くのタブーがあり、人間の逸脱した性的行動などを受け入れる寛容さがあまりにも少なすぎる。僕個人の考えは、もし二人の人間がしていることが何であれ楽しんでいるならいいと思う。楽しめないことを相手に強要しない限りはね。ほかの人たちのセックス・ライフは慎重に扱うべきだと思う。
──最後に、この映画は議論を呼ぶと思いますか?
この映画の性的指向が議論を呼ぶことはないと思う。カブールやソルトレイクシティは別としてね。つまり観る人によるんだ。裸や性行為は身体の機能に過ぎないと思う。僕には身体の特定の部分を禁じるような制度や宗教もないしね。
(オフィシャル・インタビューより)
【関連記事】
[骰子の眼]「強い欲望+嫉妬=愛」シャイア・ラブーフが語る『ニンフォマニアック』制作の裏側(2014.10.11)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4423/
映画『ニンフォマニアック』海外版ポスター
ステラン・スカルスガルド(Stellan Skarsgård) プロフィール
1951年、スウェーデン・ヨーテボリ生まれ。ストックホルム王立劇場の団員として、数多くの舞台に立つ。1970年代から数多くの映画に出演し、『Den enfaldige mo"rdaren』(82)でベルリン国際映画祭男優賞を受賞した。『レッド・オクトーバーを追え!』(90)などで知名度を高め、ラース・フォン・トリアー監督の『奇跡の海』(97)、『アミスタッド』(97)、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)で日本でも広く知られる存在となった。近年は『マイティ・ソー』(11)、『アベンジャーズ』(12)、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(13)のエリック・ゼルヴィグ役などで、ハリウッドの名脇役としての存在感を示している。そのほかの主な出演作は『不眠症』(97・未)、『RONIN』(98)、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)、『ドッグヴィル』(03)、『エクソシスト ビギニング』(04)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(06)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』(07)、『天使と悪魔』(09)、『孤島の王』(10)、『ドラゴン・タトゥーの女』(11)、『メランコリア』(11)、『レイルウェイ/運命の旅路』(13)など。
『ニンフォマニアック Vol.1』公開中
『ニンフォマニアック Vol.2』11月1日(土)~
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開
映画『ニンフォマニアック Vol.1』より © 2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINÉMA
『ニンフォマニアック Vol.1』
第1章:釣魚大全
第2章:ジェローム
第3章:H夫人
第4章:せん妄
第5章:リトル・オルガン・スクール
凍えるような冬の夕暮れ、年配の独身男セリグマンは、裏通りで怪我を負って倒れている女性ジョーを見つけた。彼は自分のアパートでジョーを介抱し、回復した彼女に尋ねた。「いったい何があったんだ?」するとジョーは自身の生い立ちについて赤裸々に語り始めた。それは、幼い頃から“性”に強い関心を抱き、数えきれないほどのセックスを経験してきた女性の驚くべき数奇な物語だった…。
監督/脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレイター、ユマ・サーマン、ソフィ・ケネディ・クラーク、コニー・ニールセン
2013年/デンマーク・ドイツ・フランス・ベルギー・イギリス/英語/カラー&モノクロ/シネマスコープ/ドルビーデジタル
原題:NYMPHOMANIAC/上映時間<Vol.1>:117分/R18+
配給:ブロードメディア・スタジオ
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『ニンフォマニアック Vol.2』
第6章:東方教会と西方教会(サイレント・ダック)
第7章:鏡
第8章:銃
凍えるような冬の夕暮れ、年配の独身男セリグマンは、裏通りで怪我を負って倒れている女性ジョーを見つけた。彼は自分のアパートでジョーを介抱し、回復した彼女に尋ねた。「いったい何があったんだ?」するとジョーは自身の生い立ちについて赤裸々に語り始めた。それは、幼い頃から“性”に強い関心を抱き、数えきれないほどのセックスを経験してきた女性の驚くべき数奇な物語だった…。
監督/脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレイター、ジェイミー・ベル、ウィレム・デフォー、ミア・ゴス、ジャン=マルク・バール、ウド・キア
2013年/デンマーク・ドイツ・フランス・ベルギー・イギリス/英語/カラー&モノクロ/シネマスコープ/ドルビーデジタル
原題:NYMPHOMANIAC/上映時間<Vol.2>:123分/R18+
配給:ブロードメディア・スタジオ
公式サイト:http://www.nymphomaniac.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/nymph.movie2014
公式Twitter:https://twitter.com/NYMPHOMANIACjpn