骰子の眼

cinema

2014-10-17 16:00


男たちの関係は残忍で美しい、ドランが語る『トム・アット・ザ・ファーム』

原作との出会いから映画化のはじまりを監督・主演をつとめるグザヴィエ・ドランが解説
男たちの関係は残忍で美しい、ドランが語る『トム・アット・ザ・ファーム』
グザヴィエ・ドラン ©Shayne Laverdiere

グザヴィエ・ドラン監督作品、映画『トム・アット・ザ・ファーム』が2014年10月25日(土)に公開される。

『わたしはロランス』の日本公開で一気に映画ファンの注目を集め、2014年5月に開催された第67回カンヌ国際映画祭では、最新作『Mommy(原題)』がJ.L.ゴダールの作品と共にコンペティション部門の審査員賞に選ばれた、弱冠25歳の美しき天才ドランの監督&主演作である。

10年にわたるメロドラマ『わたしはロランス』とは打って変わり、現代カナダ演劇界を代表する劇作家ミシェル・マルク・ブシャールによる同名戯曲の映画化で、ドランが初めて挑んだサイコ・サスペンスだ。

webDICEでは、いよいよ公開が迫った本作の特集連載をスタート!第1回は、原作との出会いと映画化の経緯についてドラン自身が綴ったテキストを掲載する。




僕が映画化する、と『ブリタニキュス』の皇帝ネロンのような謙虚さで僕は答えた
文/グザヴィエ・ドラン

映画『トム・アット・ザ・ファーム』
映画『トム・アット・ザ・ファーム』より ©Clara Palardy

はからずも"かなわぬ愛"というテーマで『マイ・マザー』(2009)、『胸騒ぎの恋人』(2010)、『わたしはロランス』(2012)という三部作を作ってしまったため、撮る映画の方向性を変える必要があった。映画にできそうなアイデアはいくつか持っていた。机の引き出しには、雑誌で宣伝文句に使われそうなコピーやセリフを思いつくまま書きなぐったポストイットやナプキンが、山のように入っているからだ。

方向性を変えるという意味では政治スリラーというアイデア(※後に『The Death and Life of John F. Donovan』というタイトルで脚本化し2015年製作予定)もあったが、この時は込み入ったストーリーの脚本を書く日程的な余裕がなかった。それで、ちょうど『わたしはロランス』の撮影準備をしていた2011年初頭に観に行った、『Tom à la ferme』という芝居を思い出した。

その夜、舞台ではリズ・ロワが──彼女は映画でも同じ役を演じてもらうことになった── 長い間、耐え忍んできた母親の独白の場面を演じた。母親のパスタサラダは評判がいい。だが、息子の葬儀から帰ってくると、彼女は用意してあったパスタサラダをゴミ箱に投げ捨て、長年、彼女にパスタサラダを作らせてきた者たちへの怒りを爆発させる。農場のこと以外、何も知ることなく生きてきた女性の深い悲しみが表れていた。亡き夫や息子との上辺だけの抱擁を思い出しては、泥道を見ては空しさを感じ、さらに悲しみが深まる。このシーンは、皮肉にもあまりに演劇的だったので、映画には入れられなかった。

映画『トム・アット・ザ・ファーム』
映画『トム・アット・ザ・ファーム』より ©Clara Palardy

遠回しで描かれた母親の嘆きが心に突き刺さって、車を運転して家に帰る気になれなかった。戯曲を書いたミシェル・マルク・ブシャールは、訪問者と受け入れる側の双方の視点を見事に描いていた。その一方で、都会VS 田舎という、ありがちな優劣構造を避けていた。2人の男性主人公の関係の残忍性が、舞台ではエレガントで美しく、その暴力的な荒々しさを映画でどう表現するかイメージできた。さまざまな感情を引き起こす戯曲だったが、そこで描かれていた恐怖や不安といった感情は映画表現に向いていると思ったし、その斬新さはまさに自分が求めていたものだった。

映画『トム・アット・ザ・ファーム』
映画『トム・アット・ザ・ファーム』より ©Clara Palardy

舞台が終わり、タバコの煙が立ちこめる劇場入り口のひさしの下で、僕はミシェル・マルクに聞いた。「この演劇を誰が映画にするんだい?」と。すると彼はこう答えた。「そんな話はないよ。なぜだい?誰か当てでもあるのかい?」「あるよ、僕さ」と、『ブリタニキュス』の皇帝ネロンのような謙虚さで僕は答えた。

とにかく、こうして本作は始まった。

映画『トム・アット・ザ・ファーム』
映画『トム・アット・ザ・ファーム』より ©Clara Palardy




グザヴィエ・ドラン XAVIER DOLAN

1989年モントリオール生まれ。6歳で子役デビュー。19歳で撮った初監督作品『マイ・マザー』(2009年)、第2作目の『胸騒ぎの恋人』(2010年)、第3作目の『わたしはロランス』(2012年)が、いずれもカンヌ国際映画祭に正式出品されるという快挙を成し遂げた。第4作目となる本作で、2013年のベネチア国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞し、多数の批評家から「ドランの最高傑作」と評された。続く第5作目となる『Mommy(原題)』は、2014年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で、ジャン=リュック・ゴダール監督『Adieu au langage(原題)』と共に審査員特別賞を受賞した。自身の監督作品以外で俳優として出演している映画には、パスカル・ロジェ監督のスプラッター『マーターズ』、2015年に日本公開が決定しているチャールズ・ビナメ監督のスリラー『エレファント・ソング/Elephant Song』などがある。また、マシュー・ヴォーン監督『キック・アス』のデイヴ・リゼウスキ役、アン・リー監督『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のパイ・パテル役など、映画のフランス語吹替版の声優も数多く務めている。現在は、初の英語作品となる長編第6作目『The Death and Life of John F. Donovan(原題)』の脚本を書き終え、ジェシカ・チャスティン出演で2015年に製作予定である。




映画『トム・アット・ザ・ファーム』
2014年10月24日(土)より全国順次公開

恋人のギョームを亡くし悲しみの中にいるトムは、葬儀に出席するために彼の故郷へ向かうが…。隠された過去、罪悪感と暴力、危ういバランスで保たれる関係、閉塞的な土地で静かに狂っていく日常。現代カナダ演劇界を代表する劇作家ミシェル・マルク・ブシャールの同名戯曲の映画化で、ケベック州の雄大な田園地帯を舞台に、一瞬たりとも目を離すことのできないテンションで描き切る、息の詰まるような愛のサイコ・サスペンス。

監督・脚本・編集・衣装:グザヴィエ・ドラン
原作・脚本:ミシェル・マルク・ブシャール
撮影:アンドレ・テュルパン
オリジナル楽曲:ガブリエル・ヤレド
出演:グザヴィエ・ドラン、ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュ、マニュエル・タドロス、ジャック・ラヴァレー、アン・キャロン
公式サイト


映画『トム・アット・ザ・ファーム』

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