骰子の眼

cinema

東京都 世田谷区

2014-10-23 14:33


「インドでは料理に使うもの全てをカリーというんです」松尾貴史さんと小宮山雄飛さんがカレー愛語る

映画『聖者たちの食卓』公開&下北沢カレーフェスティバル開催記念、B&Bトークイベント・レポート
「インドでは料理に使うもの全てをカリーというんです」松尾貴史さんと小宮山雄飛さんがカレー愛語る
10月3日、下北沢B&Bのイベント「カレーを愛する人々と語る、聖者たちの食卓」 に登壇した松尾貴史さん(右)、小宮山雄飛(左)

9月27日(土)から公開中の映画『聖者たちの食卓』と、10月10日から19日まで開催されたイベント「下北沢カレーフェスティバル」のタイアップ企画として、下北沢の本屋B&Bにて、下北沢で「般°若」を開業しカレーを研究・開発されてきた松尾貴史さんと、音楽界を代表するカレーマニアのホフディラン小宮山雄飛さんのトークイベント「カレーを愛する人々と語る、聖者たちの食卓」が行われた。

1日10万食の豆カレーを無償提供する寺院の一日を描いた『聖者たちの食卓』と、今年で3回目を迎え、10日間で計10万人を集めた「下北沢カレーフェスティバル」をテーマに、芸能界屈指のカレー好きの二人が、カレーにまつわる歴史、そしてカレー愛を熱く語った。

10万食のカレーを無料で提供している黄金寺院。無料食堂のカレーは辛くない!?

松尾貴史(以下、松尾):映画『聖者たちの食卓』によると、黄金寺院では、一日10万食のカレーを提供していると言われています。厳密には、流れ作業だとは思いますが、驚きます。それが信仰の力なんでしょうけど凄いことですよね。なぜこの寺院では無料で食事を提供しているかって疑問ですよね。

松下加奈(アップリンク):シク教は16世紀に始まった比較的新しい宗教で、その中の教義として“宗教、カースト、肌の色、身長、年齢、性別、社会的地位に関係なく全ての人々は平等である”という教義を実践するために無料食堂という習わしが始まったそうです。

松尾:凄いですね!シク教はヒンドゥー教から分かれたんですかね。シク教を作ったのは、カースト制に否定的だったリベラルな人がナーナクさんという方だったんだよね。そういえば、ナーナクっていう名前のカレー屋さんがありますね。九州辺りに多いですね。

松下:この黄金寺院があるアムリトサルという地域は、シク教の聖地であると同時に、カレーの聖地でもあると、スパイス伝道師の渡辺玲さんがおっしゃっていました。500年以上前から昔ながらの作り方でカレーを作っている。カレーは元来、塩とスパイスだけで味付けされるシンプルな料理です。そのルーツを体験できるという意味でも、インド好きは、アムリトサルにも行くべきだと。

松尾:500年前にカレーがあったとしたら、その頃はまだカリーとは呼ばれていなかったですけれど、しかも辛くないんですよ。

小宮山雄飛(以下、小宮山):500年前はですか?

松尾:500年前のインドには、唐辛子はなかったんです。黒胡椒は辛うじてあったのですけど。アメリカ大陸から唐辛子が発見され、世界中に運ばれるまでインドのカレーは辛くなかったんです。

小宮山:そうか。辛くなかったんですね。

松下:この映画の監督がシェフでもあり、黄金寺院のカレーを食べて自分で再現レシピを作りました。その中にはホットチリやカイエンペッパーなど辛みを司るスパイスが入ってなかったので、初め見たとき、これ本当にカレーのレシピ?と思いました。

松尾:だから、子供もこのまま食べられるんですよね。

小宮山:カレーは作るより、食べる方がいいですね。以前、雑誌「dancyu」の企画で60人前を1回作ったんですよ。

松尾:「dancyu」!男子厨房に入らずってね。60人前作るって大変ですよ。

小宮山:大変でした。素人は作れない……なんとか、作ったんですけど。

松尾:鍋かき集めて。

小宮山:かき集めて。僕もカレーが大好きで松尾さんみたいにお店やりたいなって思ってるんですけど、やっぱり絶対素人は出来ないなって思いましたね。

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映画『聖者たちの食卓』より

松尾:僕も素人ですけど、一緒に開発しているパートナーが凄く一生懸命やってくれてたんです。僕が無理難題を言うんですが、それを2年間くらいかけて、ようやくレシピを完成してくれた。その時、たまたま7坪の場所が見つかって、すぐに大家さんにお願いして、自分たちでペンキを塗って始めたのが今の店「般°若」なんですよ。元は古着屋さんだった場所です。

小宮山:何年前ですか?

松尾:5年前です。

小宮山:松尾さんがペンキを塗ったんですか?

松尾:塗りました。こげ茶色のペンキを買ってきて塗って。飾るものないから自分で折り紙折って、ディスプレイしました。

小宮山:すごいですね。松尾さんは、「dancyu」で中村屋にも行ってましたよね。

松尾:中村屋の総料理長にカレーを教えてもらって、とても勉強になりました!カレーは本当に奥が深いけれど、元々の作り方のハードルは低いんですよ。自分で勝手に研究して追求すればいくらでもハードルは高くすることができますが。

松下:一番ハードルが低いカレー作りとは、野菜を炒めて、買ってきたルーを溶いて煮込むっていうのですか?

松尾:そうでしょうね。しかし、“ルー”っていうのは洋食屋が使う言葉で、インドカレーには“ルー”は存在しない。“ルー”というのは、クリームシチューであるとかデミグラスソースのシチューであるとか、洋食のシチューに使う素になるもの。小麦粉と動物性の油脂を炒めたりして作ったペースト状のものにブイヨンを足して作るっていう。だからインドカレーに“ルー”はないんです。小麦粉を使ってないから。

小宮山:ナンとかチャパティとかは別ですよね。

松尾:カレー自体には小麦粉を使ってない。だからカレーのことを“ルー”と言う人がいますが、それは間違いなんですね。“ルー”は料理のソースの素になるものを“ルー”と言い、そこにカレー粉を足したりするので。それに、カレー粉っていうのも本当は存在しないんですよね。

松下:ミックススパイスですもんね。

松尾:そうです。スパイスの集合体を便宜上、日本ではカレーと呼んでいる。でもインドではカリーっていうと、“汁もの”全般をさしたり、タミル語でカリ(Kari)は、“生および調理をした肉及び、野菜”っていうことを指す、とても広義なのです。

小宮山:広すぎて何がなんなのかわからないですね(笑)。つまり、それって食べ物のことですね。

松尾:インドでは、料理に使うもの全てをカリーというとかね。ターカリー(turcarri)っていう“美味しいものだよ”っていう意味のヒンディー語が訛ったという説もあるし、クーリーと呼ばれたりとか、本当にカレーの語源ははっきりしていないんです。イギリスでカリーって、言い始めたものを逆輸入してインドや周辺の諸国でカレーとかカリーとか呼ばれるようになったとも言います。逆輸入の言葉なのでインドの元々の言葉じゃないんですよ。

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映画『聖者たちの食卓』より

飽くなき、カレーへの探求。カレーの立役者は、コロンブス、ヴァスコ・ダ・ガマ、マゼラン、マルコポーロのカレー四天王

松尾:そういえば、昨日S&Bの本社に行ってきました。

小宮山:何でS&Bに行ったんですか?

松尾:S&Bでスパイスのこと学びたいなと思って。コロンブスとヴァスコ・ダ・ガマ、マゼラン、そしてマルコポーロ、この4人がカレーを世界に広めた立役者、カレー四天王だということを教えてもらいました。マルコポーロが東方見聞録に記した経路でイタリアからインドの辺りに行った時、様々な美味しい香辛料やハーブがあるのを知って、持ち帰ったんです。その時は移動手段が陸路しかなかったのですが、中間地点のトルコに納めていた手数料を中抜きしようとメディチ家がお金を出して、船でインドまで行きく航路を開拓。スパイスを持って帰るという発明をしてから、ヨーロッパにどんどんスパイスが入ってきて、金以上の値段で貴族が買うという時代があったんです。

そういう流れの中、大航海時代があり、イギリスが東インド会社を作り、黒胡椒やスパイスの貿易が盛んになった。そこで洋食なんだけどカレー文化が生まれたんです。それとは全然、別でヴァスコ・ダ・ガマのルートもあるんですね。コロンブスも、唐辛子を持って帰ってきて、世界中に唐辛子が広めたという功績があります。

松下:コロンブスの活躍によって、カレーが辛くなったんですね。

松尾:そうなんですよ。

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「カレーを愛する人々と語る、聖者たちの食卓」 より、松尾貴史さん(右)、小宮山雄飛(左)、「下北沢カレーフェスティバル」の岩井ゆうきさん(左)

カレーは日本が作り上げた和食と言ってもいいと思います。

松下:10月10日から19日まで開催される「下北沢カレーフェスティバル」も盛り上がってきましたね。

岩井ゆうき(下北沢カレーフェスティバル・プロデューサー):「下北沢カレーフェスティバル」は、1年に1回10月に開催していて、今年3回目を迎えます。1回目が2万人、2回目が5万3千人来場していて、今年は10万人を見込んでいます。10万人と10万食繋がりが映画とカレーフェスにはあるんです。

小宮山:2年目の2倍が目標なんですね、すでに達成したみたいな感じだけど。

岩井:はい、10万食を目標にしています。参加店舗も年々増えて、今年は109店舗に参加いただきました。

松尾:1回目は何店舗だったんですか?

岩井:1回目は43店舗、2回目は76店舗です。

松尾:とはいっても、カレー屋さんだけが参加しているわけじゃないんでしょ?

岩井:そうですね。このカレーフェスティバルの特徴なんですけど、109店舗のうちカレーをメインで扱っているお店は大体2割くらいなんです。ほとんどカレー屋さんではないカフェやバー、居酒屋などのお店がほとんどです。でも去年のカレーフェスが終わった後くらいから、一ヶ月に1軒のペースで下北にカレー屋さんが増えるという現象が起きています。既になくなったお店もありますが、業界の中に、下北沢は、神保町に次ぐカレーの街だよというのが行き渡ったのかなと思っております。たくさんの人に、下北沢はカレーの美味しいお店がたくさんあるというので来てもらいたいなと思ってやっています。

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映画『聖者たちの食卓』より

松下:最後に、なぜこんなにもカレーが好きなのかを教えてください。

岩井:カレーフェスティバルをプロデュースしていますが、実はそんなにカレー好きではないんですよ。普通に好きくらいで。ですが、1回目のカレーフェスで43店舗全て周った時に驚いたのが、同じ味がひとつもないんです。どれも少しずつ何かが違っていてなんて、面白い食べ物なのだと思いました。

小宮山:僕が一番最初にカレーを好きになったのは、高田馬場にあった「夢民(ムーミン)」というカレー屋で、なくなる前は明治通り沿いにえぞ菊というラーメン屋さんが隣にあったんですね。どちらも行列ができていて、それが日本の食文化ぽいなと思いました。その「夢民」の味からインスパイアされてできたお店が三田に出来て今日行ってきたんですが、とても美味しかったです。ひとつのお店からはじまる繋がりも楽しんでもらえたらと思います。

松尾:小さい頃カレーが好きで食べていましたが、三宮で今まで食べたことのないカレーに出会い、毎日のように食べに行きカレーなしでは生きられない感じになってしまいました。今でもカレー屋を見つけると入らずにはいられないです。カレーの凄いところは、インドカリーとものではなく、日本が色んなところから仕入れて作り上げた和食といってもいいと思っています。日本のコメ文化がなければこんなに成熟はしていない。世界中の文化が日本の中で成熟して洗練されたのがカレーライスというものなんですよ。それに関われるなんてっていう幸せ。好きな理由はたくさんあるけど、これからもカレーに関わっていきたいと思っています。

10日間開催された今年の「下北沢カレーフェスティバル」は、合計10万人が来場。街には、黄色いカレーマップをもった人々が行き来し、人気店では行列が出来たほどだったという。カレーフェス実行委員の岩井さんは「今回のカレーフェスで初めて下北沢に来たという人もいて、このイベントをきっかけに下北沢のことを好きになってくれる人がいて嬉しいです」と、手応えを感じていた。来年への開催にむけ、今年から動き出すそうだ。また11月1日から3日まで神田・小川町で開催される「神田カレーグランプリ」など、今後も日本人から愛されるカレーにまつわるイベントが行われる。

(2014年10月3日、下北沢B&Bにて)

【お話の中で登場したカレー屋さん】

小宮山さん
nidomi:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270104/27062194/
バビルの塔:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270104/27064588/

松尾さん
デッカオ:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27070897/
ロッダグループ:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270401/27056190/
ボタニカリー:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270102/27073555/
カシミール:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270102/27003694/dtlrvwlst/3753115/
バンブルビー:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270106/27007862
旧ヤム邸:
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270204/27060944/


「第4回 神田カレーグランプリ 2014 グランプリ決定戦
(Kanda Curry Grand Prix 2014)」

2014年11月1日(土)~3日(祝月)
会場:神田・小川広場(東京都千代田区神田小川町3-6)
http://kanda-curry.com/




松尾貴史 プロフィール

1960年、兵庫県神戸市生まれ。大阪芸術大学を卒業後、デビュー。TV・ラジオをはじめ、映画・舞台、イベント、エッセイ、イラスト、はたまた折り紙等、幅広い分野で活躍。また京都造形芸術大学にて、映画学科客員教授も務める。2009年下北沢に「cafe 般゜若」をオープン。
http://www.matsuo.tv/

小宮山雄飛 プロフィール

1973年東京生まれ原宿育ち。ホフディランのボーカル&キーボーディストでありつつ、ザ・ユウヒーズ・BANK$名義でも常にPOPな作品を発表。
http://blog.excite.co.jp/yuhi-blog/




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映画『聖者たちの食卓』より

映画『聖者たちの食卓』
渋谷アップリンク、新宿K's cinemaほか全国順次公開中

監督:フィリップ・ウィチュス、ヴァレリー・ベルト
2011年/ベルギー/65分/カラー/16:9/原題:Himself He Cooks

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/seijya/
公式Facebook:https://www.facebook.com/HimselfHeCooks.jp
公式Twitter:https://twitter.com/uplink_els


▼映画『聖者たちの食卓』予告編

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