映画『スケーティスタン』より (Courtesy of Skateistan)
映画を通して世界の難民問題について知る映画祭、UNHCR難民映画祭が10月4日(土)より12日間にわたり開催される。通算9回目となる今年はこれまでの東京に加え、北海道札幌と兵庫県西宮に開催地を広げ、世界中から集められたドラマやドキュメンタリーを通して、難民、国内避難民、無国籍者の置かれた状況について理解を深めることを目的として行われる。
難民の保護と支援を行う国連機関・国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所によると、紛争、迫害、人権侵害によって家を追われ保護を求める人の数は2013年末時点で第二次世界大戦後、初めて5100万人に上るという深刻な状況が続いている。映画のなかで描かれる人々の恐怖や絶望は現実のものであることを認識し、そして希望と勇気を持ってこの問題に対処するために、ぜひ会場に足を運んでほしい。
今回は上映される全13作品のなかから、日本初上映作など注目の8作品を映画祭スタッフによるレコメンド文章とともに紹介する。
日本初上映
『ボーダー ~戦火のシリアを逃れて~』
映画『ボーダー ~戦火のシリアを逃れて~』より
今年のオープニング作品は『ボーダー ~戦火のシリアを逃れて~』です。この作品は今世紀最大の人道危機といわれるシリア紛争を描いています。舞台となったシリアでは、長引く紛争で多くの人々が家を追われ、国外に逃れるシリア難民は300万人を超えました。これまでにシリア全人口の約半数が家を追われ、そのうちの650万人がシリア国内で避難を余儀なくされています。家を追われたシリア人の半数以上が子どもです。紛争を逃れ、周辺国へ避難する家族は増え続けており、精神的ショック、疲労、恐怖で疲弊し、所持金もほぼ底をついた状態でたどり着きます。そのほとんどが国外へ避難する1年以上もの間、シリア国内の村から村へと安全を求めて移動しているのです。シリア国外へ逃れる道のりは厳しく、国境付近の検閲所で賄賂を支払うよう強要されたり、密航請負業者に法外な金額を請求されることもあります。やっとのことでたどり着いた避難先でもいつ終わるかわからない不安定な生活を送ることになるのです。
【ストーリー】
信仰深いシリア人姉妹のファティマとアヤ。ファティマの夫がシリア政府軍を脱走し、自由シリア軍に加わる決意をしたことによって二人は命を狙われる事となる。最小限の荷物を抱え、人目に付かぬようトルコ国境を目指す姉妹。その旅程で彼女たちを待ち受けるのは、武装した盗賊など命知らずの荒くれ者だった。
監督:アレッシオ・クレモニーニ
イタリア/2013年/95分/ドラマ
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/2014a.php
『スケーティスタン』
映画『スケーティスタン』より (Courtesy of Skateistan)
今年の注目作品のひとつ『スケーティスタン』の舞台はアフガニスタンです。アフガニスタンから国外に逃れ難民となった人の数は2013年末時点で256万人にのぼり、世界でも最も多く難民が発生している国のひとつです。1979年から1989年にかけて起きたソ連によるアフガン侵攻によって、アフガンニスタンから多くの市民が難民となりパキスタンやイランなどへ避難しました。UNHCRは、治安が回復しつつある地域へのアフガン難民の帰還を支援しています。
2007年、オリバー・ペルコビッチは仲間とスケートボード3台だけ持ってカブールに降り立ちました。カブールの子どもたちはオリバーが乗り回すスケートボードに興味津々!アフガニスタンは全人口の49%が子どもで、中には路上で暮らしている子どもたちもいます。いつしかオリバーたちはそんな子どもたちを相手に近所の使われなくなった噴水でスケートボードのレッスンをするようになりました。そんな中でオリバーは、アフガニスタンの女の子は12歳を過ぎると公共の場でスポーツが出来なくなるという現実を目の当たりにします。しかし当時アフガニスタンには、女の子たちもスケートを続けられるような室内のスケート場などありませんでした。子どもたちに安全にスケートボードが出来る環境と、教育の機会を与えられる施設をつくりたい―そんなオリバーの想いに賛同し、世界中からプロスケーター達が集まりました。プロスケーター達が目指したのは、あらゆる垣根を越え、子どもたちに希望を与えること。その希望はスケートボードに託されました。
【ストーリー】
カブールの路上では今日も子どもたちが夢中でスケートボードを滑らせている。紛争によって荒廃した国の子どもたちの未来をスケートボードに託したプロスケーター集団が立ち上げたのは「スケーティスタン」。民族や宗教、社会的・経済的な違いを乗り越えて設立されたアフガニスタン初のスケート・パークと学校を兼ねたその型破りなプロジェクトにカメラは密着する。
監督:カイ・セーア
アメリカ/2011年/95分/ドキュメンタリー
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/2014b.php
日本初上映
『FCルワンダ』
映画『FCルワンダ』より
スポーツはあらゆる垣根を越え人々をひとつにします。ルワンダでは最も人気のあるスポーツのひとつ、サッカーが人々をつないでいます。でも、ルワンダの大虐殺から20年たった今、ルワンダに生きる人々の心に平和は戻ったのでしょうか?『FCルワンダ』はサッカーのフィールドを舞台に、ルワンダの現実を浮き彫りにします。
「僕たちはルワンダ人なんだ、フツでもツチでもない。」そう語るのはルワンダ屈指のクラブチームAPR(ルワンダ愛国軍)に所属する若きサッカー選手。ライバルチームとの因縁の対決を控え、選手たちは幼少期のおぞましい記憶と戦っていました。今ボールを追っている、まさにそのサッカー場で、殺りくが行われたのです。ルワンダは今、和解の道を歩んでいます。しかし人々は政府に対する恐れと不信感を拭えないでいます。この“和解”は本物といえるのでしょうか。
クラブチームAPRとRayon Sportsの試合当日、会場は熱気で溢れています。軍のチーム、APRに対して国民の90%が支持するのは、民衆のチームRayon Sports。会場はまさに一触即発の緊張状態。政府による和解政策はほんとうにうまくいっているのか。人々にとっての真の自由とは。
【ストーリー】
ルワンダの虐殺から20年、政府は国民一人一人における民族の帰属意識は弱まり、代わりにサッカーが人々の和解をもたらすと信じている。しかし現役の選手たちが幼少期にそのフィールドで見た凄惨な現場、積み上げられた屍の数々、連れ去られた弟や妹たちの姿を忘れることはない。記憶は消去できるのか?民族間のあつれきは本当に解消されたのか?サッカーを通して本作はそれらの問題に迫る。
監督:ヨリス・ポステマ
オランダ/2013年/57分/ドキュメンタリー
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/2014c.php
日本初上映
『タワルガへの道 ~アラブの春の影で~』
映画『タワルガへの道 ~アラブの春の影で~』 © Media Town
2011年、アラブの春が訪れたリビアでは民主化運動が活発になりました。反政府勢力とそれを力でねじ伏せようとする政府との対立が激しくなり国内は混乱を極めました。 反政府活動の拠点となったミスラタはカダフィ政権により厳しい制裁をうけました。このときカダフィはミスラタから50キロ南に離れたタワルガの住民を民兵として出動させたのです。国民を対立させ、反政府運動を押さえ込もうとしたのです。混乱は一時収まったかのように思われました。しかしその後タワルガの少数民族に対する激しい報復行為が多発。タワルガでは多くの無実の住民が捕らえられ、拷問を受け、命を失いました。そして3万人以上もの住民が家を追われました。カダフィ政権が崩壊してなお、リビア政府は国民の間に生まれた憎しみを和らげることができず、和解の道は閉ざされたままです。 このドキュメンタリーは、そうしたアラブの春がリビアに落とした影に光を当てます。
【ストーリー】
2011年、リビア反政府勢力にとっての拠点となったミスラタに向けてカダフィはトリポリ東部のタワルガから民兵を出動させ暴動の鎮圧を図る。その結果ミスラタでは市民に対する残虐行為が多発した。衝突の収束後、反政府勢力による報復の矛先はタワルガの少数民族へと向けられた。カダフィ政権崩壊後のリビアにおける和解がいかに困難であるかをこのドキュメンタリーは検証する。
監督:アシュラフ・アル・マシュハラウィ
リビア/2013年/46分/ドキュメンタリー
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/2014d.php
日本初上映
『イブラヒムのミツバチ』
映画『イブラヒムのミツバチ』より © Frame Film - Bern
『イブラヒムのミツバチ』は特別な出会いが生んだ奇跡のような、ドキュメンタリーです。
全てを失いたどり着いた異国の地で、周囲の人々との信頼関係を築きながら養蜂に情熱を燃やす、心優しきイブラヒム。故郷を追い出され、難民となっても信念で映画を撮り続ける映画監督、マノ・ハリル。全てを失っても、自分の「生きがい」は決して手放さなかった二人。これは、言葉も文化もまったく違う遠い異国の地で、全てを失ってもなお静かな情熱を燃やし続け、ついに生きがいを取り戻したイブラヒムの姿をやさしく見守った作品です。
【ストーリー】
混迷の続くトルコ・クルド紛争はイブラヒムの全て-妻子、故郷、そして彼にとって生きる糧であった500余りのミツバチの巣箱-を奪い取った。喪失を乗り越え、長きにわたる旅の末にたどり着いたスイスの地で、イブラヒムは養蜂への情熱と周囲の人々への信頼を拠り所に再び自分の人生を取り戻そうとする。保守的と言われるスイスの、とある小さな村で起きた感動の物語。
監督:マノ・ハリル
ドイツ/2013年/107分/ドキュメンタリー
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/2014g.php
『マコンド』
映画『マコンド』より © FreibeuterFilm
主人公のラサマンはわずか11歳で大きな責任を抱えています。伝統的なチェチェンの文化では、彼は家長とみなされ、母と2人の妹の面倒をみる義務があるのです。ラマサンたちが暮らすのはウィーン郊外の工場地帯、異民族が集まる一角マコンド。
母アミナットよりもドイツ語が流暢なラサマンは、学校や社会福祉に関する書類を母のために訳すなどして、母を助けています。アミナットは夫を亡くしたこと、故郷チェチェンを離れ、外国の新しい社会でシングルマザーとして生活していかなければならないことをいまだに受け入れられず、うつろな日々を送っています。
母と妹を必死で支えてきたラサマンの毎日は、亡き父の戦友イサが家族の暮らす公営住宅に引越してきたことで乱されることに。イサはアミナットと子ども達を訪ね、亡き友が常に身につけていた時計と家族の写真を届けたのです。
この出会いがきっかけでラサマンの父への思いが募るようになりました。ラサマンはイサに興味を抱きますが、イサは過去について話そうとしてくれません。しかしやがてラマサンとイサは徐々に打ち解けていき、2人は強い絆で結ばれます。イサのおかげでラサマンは大きな困難に立ち向かい、乗り越えることができました。家族の祭壇に奉られている戦争の英雄だったというおぼろげな父の思い出。それをしのぐほどにイサはラサマンにとってずっと温かい現実の父親のような存在になったのです。しかし、母アミナットがイサに心を許しはじめたとき、ラサマンは今は亡き父の存在が軽くなっていくような危機感を感じ、葛藤します。
【ストーリー】
父親亡き今、家長として母と幼い二人の妹への責任を感じるチェチェン人の少年ラマサン。死んだ夫と失った故郷への思いを諦め、たどりついた異国の地でシングルマザーとして家庭を守ろうと必死に生計を立てるラマサンの母親。ウィーン郊外の工業地帯の一角に暮らす母子家庭の元に、父親の戦友を名乗る一人の男性が現れ、一家は混乱する。
監督:スダベー・モルテツァイ
オーストリア/2014年/98分/ドラマ
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/post-67.php
日本初上映
『金の鳥籠』
映画『金の鳥籠』より © Films Boutique
グアテマラのスラム街。肩まで伸ばした美しい黒髪を、思いつめた表情で切り落としていくサラ。鏡には変わり果てた自分の姿が。でも映りこむその瞳に迷いはありません。生まれ育った町に心の中で別れを告げ、一言も言葉を交わさずただ一心に歩き出す少年と少女。目指す場所はただひとつ。そこに向かうため、北へ北へ進みます。それが、命をかけた危険な旅だということを忘れてしまいそうな少年たちのあどけない笑顔。新しい仲間との出会いと友との別れ、そして幾多の試練を乗り越えていきます。旅の途中、メキシコ南部でチアパスの先住民の少年チャウクに出会います。スペイン語が話せないチャウクとは言葉は通じないものの、同じく北を目指す仲間として心を通い合わせます。黄金の国で成功を夢見るフアン。自分の居場所を探すサラ。「雪」に憧れるチャウク。道のりがどんなに過酷でも3人を突き動かすのは必ず目的地にたどり着けるという自信と希望。しかし、待ち受けるのは、想像を超える残酷な結末でした。
この映画は、実際に国境を超え、アメリカを目指した何百人もの人々の証言を基に、当事者の目線でつくられた真実のドラマです。
映画の主人公たちのようにエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスからアメリカへ不法に入国する保護者のいない未成年者が後を絶ちません。UNHCRの報告によると、アメリカで保護された同3国出身の未成年者の数は2013年度には2万1000を上回りました。また、メキシコ出身者だけでも、同年1万9000人近くの未成年者がアメリカで保護されました。こうした未成年者は非常に危険な状況に置かれる場合が多く、国際社会の保護を必要としています。
【ストーリー】
グアテマラのスラムに住む三人の少年少女は日々の苦しみと暴力を逃れ、安全な暮らしを求めアメリカを目指す。途中、メキシコで彼らはチアパス出身の先住民の少年と出会い、共に貨物列車の旅へと出るが、旅程で三人を待ち受けていたのは思いもよらぬ数々の残酷な仕打ちだった。命を賭けて越境を試みた何百もの人々の証言を基に綴られた衝撃の人間ドラマ。
監督:ディエゴ・ケマダ=ディエス
スペイン、メキシコ/2013年/102分/ドラマ
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http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/post-67.php
日本初上映
『戦乱前夜に咲いた花 ~地球でイチバン新しい国・南スーダン~』
映画『戦乱前夜に咲いた花』より © NHK
南スーダンは民族や宗教など、様々な理由で長年続いた南北の内戦が終結し、世界で最も新しい国として2011年7月に独立しました。故郷再建のために、南スーダンへ帰還する人々がいる一方で、スーダンと南スーダンの国境付近で武力衝突が激化し、多くの人が避難を余儀なくされています。
この作品はその南スーダンを代表する女性、ミス・マライカを決めるビューティーコンテストの候補者たちを追ったドキュメンタリーです。このコンテストで競うのは美しさだけではありません。国づくりを引っ張っていくことが出来る聡明な女性こそがミス・マライカにふさわしいのです。
スーダンからの独立に伴い、多くの男性が犠牲となりました。悲しい過去を乗り越え、新しい国でよりよい未来を築くために、これからは女性が立ち上がらなくてはならないのです。女子教育の改善、孤児の保護…候補者たちからは様々なアイディアが飛び交います。彼女たちのはじけるような笑顔、真剣な表情、コンテストに懸ける思い……すべてが手に取るように伝わるドキュメンタリーです。
【ストーリー】
2011年北部からの独立によって誕生した南スーダン。世界で一番新しい国家である。独立に伴う犠牲は大きく、大勢の男性が命を落とした。これから南スーダンでは女性が国づくりを担うのだ。国を代表するミス・マライカを決めるコンテストで、少女たちに求められるのは美しさだけではない。国づくりのアイディアが重視される。内戦の影響と女性蔑視によって辛い思いをしてきた彼女たちがステージに託す思いとは。
制作・著作:NHK
ディレクター:斉藤勇城
日本/2014年/50分/ドキュメンタリー
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2014/title/2014/08/2014l.php
第9回UNHCR難民映画祭
2014年10月4日(土)、10月11日(土)~10月19日(日)、10月25日(土)、10月26日(日)
会場:【東京】イタリア文化会館、セルバンテス文化センター東京、明治大学和泉キャンパス 図書館/ホール、グローバルフェスタ JAPAN 2014
【北海道 札幌】北海道大学札幌キャンパス学術交流会館/小講堂
【兵庫県 西宮】関西学院大学 西宮聖和キャンパス メアリー・イザベラ・ランバスチャペル、山川記念館2階
主催:国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所
パートナー:特定非営利活動法人 国連UNHCR協会、独立行政法人 国際協力機構(JICA)
公式サイト:http://unhcr.refugeefilm.org
<入場について>
*入場料はいただいておりませんが、各会場にてご寄付を募っております。
*ご入場は先着順となります。(予約不可)
*各回1時間前より会場にて入場整理券の配布を開始いたします。
*各回20分前の開場となります。(前のプログラムが終了していない場合を除く)
*各回完全入替制です。
※グローバルフェスタJAPAN 2014は野外会場での上映のため、ご入場に関する制限はございません。
▼第9回UNHCR難民映画祭予告編
▼映画『ボーダー ~戦火のシリアを逃れて~』予告編
▼映画『スケーティスタン』予告編
▼映画『FCルワンダ』予告編
▼映画『タワルガへの道 ~アラブの春の影で~』予告編
▼映画『イブラヒムのミツバチ』予告編
▼映画『マコンド』予告編
▼映画『金の鳥籠』予告編