骰子の眼

cinema

2014-09-25 10:10


ガレル家の親子3代にわたる時間が交錯する『ジェラシー』

父モーリス・ガレルの愛の物語を現在に移植したフィリップ・ガレル監督インタビュー
ガレル家の親子3代にわたる時間が交錯する『ジェラシー』
映画『ジェラシー』より ©2013 Guy Ferrandis/SBS Productions

1964年、16歳の時に制作した短編『調子の狂った子供たち』で神童と呼ばれ、ヌーヴェル・ヴァーグとウォーホルに映画を学び、歌姫ニコとともにアンダーグラウンド映画を牽引したフィリップ・ガレル。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞の『ギターはもう聞こえない』(1991年)では1988年に急逝したニコとの生活を、『恋人たちの失われた革命』(2005年)では五月革命に挫折した自身の姿を描くなど、作品の中に自らの人生を反射させつづけてきた彼の最新作は、父モーリス・ガレル(2011年没)の30歳の頃の実話であり、彼の実の家族──息子ルイ、娘エステル(ルイの妹役)、妻キャロリーヌ・ドリュアス(脚本)──がその物語を彩る。30歳の父モーリスを息子ルイが演じ、離婚した親とその恋人の間をさまよう子供が、すなわち当時5歳のフィリップ・ガレルである(本作の設定では娘になっている)。「父の恋人に好感を抱いていた私は、知らぬ間に自分の母を嫉妬させていた」とガレル自身が回顧しているとおり、劇中では夫婦同士や恋人同士の間にとどまらない嫉妬のドラマが浮かび上がる。以下に、本作における脚本スタイルや撮影手法などについて語るフィリップ・ガレル監督のインタビューを掲載する。

La Jalousie Philippe Garrel
フィリップ・ガレル監督 ©2013 Guy Ferrandis/SBS Productions

──なぜ、「ジェラシー」(嫉妬)というタイトルなのでしょう?

脚本執筆期間は6カ月だったが、そのあいだずっと原稿にはこのタイトルが記されていた。原稿をベッド脇の小机に置いて、このタイトルと一緒に毎晩眠り、毎朝起きていた。だからこれをそのまま使うのもありだと思ったんだ。ある日、「不和」と名付けようともしてみたが、すぐにこの単語は却下した。あるいは、私がこの単語に拒絶されたともいえる。「嫉妬」というのは「不和」よりひどい状態だ。だが同時に、嫉妬とは誰もがかつて感じたことのあるなにかであり、誰もが罪悪感を感じるもので、さらにはその正体を解明したいと思わせる側面もある。嫉妬とは謎だ。誰もがそれを相手にしたことのある、ひとつの謎だよ。

──この作品はキャロリーヌ・ドリュアス、アルレット・ラングマン、マルク・ショロデンコ、そしてあなたによる共同脚本になっています。4人の脚本家というのはずいぶんと多い気がしますね。

ああ、複数で書くことに関しては、今回初めて手応えを感じたよ。これはおもしろい試みだと思う。ふたりの男とふたりの女。実際のところ私たちは3カ月で最初のヴァージョンを書き上げた。とても早かったね。そこから先はちょっとした調整が問題となるだけで、他はスムーズに進行できたよ。

La Jalousie 01
映画『ジェラシー』より ©2013 Guy Ferrandis/SBS Productions

──(ルイの恋人クローディア役の)アナ・ムグラリスに関して、あなたはとくにその顔を中心に撮影していました。あんな彼女はこれまで見たことがありません。

とくに工夫があったわけではないさ。彼女の外見については特別なにも指示しなかったし、それが可能になった道筋もハッキリしない。我々の人生と撮影するものとの関係は、ふと我々の前に姿を現す。1本の作品はつねに向こうから突然姿を現すものだ。そこで起きたのはそういうことだろう。事前に想定された事柄を実現するなどもってのほかだ。それゆえに映画は集団芸術なのだ。そこに参加する人々全員がもたらすものを、映画は受け入れてしまう。もちろん彼らにそのための自由を確保しておくことがそもそも必要だが。

──他の多くのシネアストと比べたとき、あなたはそうした生との関係をより直接的で的確なやり方で探求しています。本作はカップルの関係、両親と子供との関係についての作品であり、あなたの妻であるキャロリーヌ・ドリュアスが共同脚本を担い、そしてあなたの息子と娘が出演しています。

そう、それはちょっとした化学作用のようなものだ。その作用がよりよく目にみえるようにし、より素早く作用するような要素を複数組み合わせる。これは誰しもに関わる事柄だ。私が生じさせたいのは、あらゆる人生を色付けるひとつの色素のようなものだ。『ジェラシー』というタイトルはそんな現象を指し示している。だから誰もがそこでなにが問題になっているかをすぐさま把握するはずだ。誰もがその人生においてジェラシーというものの存在を知っているのだ。幼年自体からすでに、さまざまなかたちでね。

La Jalousie 02
映画『ジェラシー』より ©2013 Guy Ferrandis/SBS Productions

──ルイ役の娘、シャルロットを演じたオルガ・ミシュタンの演出には特別な難しさはありませんでしたか?

いいや。彼女は映画の世界で仕事をしている知り合いの娘だ。とても愉快なところが目立っていた。存在感も大きくてね。ただし、私はこれまで一度もちゃんと子供を演出したことがなかったので、心配ではあった。アルレットとキャロリーヌがシャルロットのシーンを書いたのだが、どうやって手をつけていいものか自分で自分に問いかけていた。そんなとき、自分よりもずっと子供を得意としているジャック・ドワイヨンがすでに彼女をみつけていて、『アナタの子供』に出演させていたことを知った。ということはジャックが彼女に、カメラの前に立つことを教えていたわけだ。だからそれを利用させてもらった。私自身はなにも特別なことはしなかったよ。

──なぜ今回はシネマスコープなのでしょう。あなたの撮影手法に適しているからでしょうか?

シネマスコープは唯一私に可能な映像面での贅沢だ。もちろん35ミリでアナモルフィック・レンズを使った正真正銘のスコープだ。非常に美しい結果が得られた。これは逆説的だが、とくに狭い場所においてその効果が現れるんだ。この撮影システムだと、映像の両端にある事物もフレーム内に収められ、他のメソッドにはない広さがもたらされる。だがそのためには非常に優秀な撮影助手が必要だ。ジャン゠ポール・ムリスがそうだ。完璧な的確さで手持ちのスコープ撮影ができる。大半のショットはそのやり方で撮影された。

La Jalousie 04
映画『ジェラシー』より ©2013 Guy Ferrandis/SBS Productions

──非常に強固で、とても心を揺さぶるフレームばかりです。しかもそれらは語りの要請に従っていないだけに、なおのことそうなのです。とりわけ、この作品におけるクロースアップは、多くの場合すでに語るべき事柄が語られた後にやってきます。だからこそそれらは通常とは別の仕方で機能するのです。

それは無声映画のやり方だ。私はかつて何本か無声映画を撮ったし、そもそも無声映画が大好きだ。たとえいま無声映画をつくれる可能性がもうないにしても、私は無声映画の名残を手放しはしない。どんなに難しいとしてもやはり無声映画をつくってみたいと思う。そうすれば必ず良いものができると確信しているよ。今回いくつかのクロースアップでは特殊なレンズを使用しているんだが、それらは超接写のために構想されたレンズで、とてつもなく豊かな表現性を顔に与えてくれた。

──撮影監督ウィリー・クランとの作業は、ウィリアム・リュプチャンスキーとの長いコラボレーションの延長線上にあるのでしょうか?

……それからラウール・クタールとのね。その通りだ。この3人は例外的な歴史の持ち主だ。そして世界でも類をみないスピードで撮影ができてしまう。そのスピードは60年代に得られたものだが、いまでもそれは薄れていない。ウィリー・クランにはゴダールの『男性・女性』のときから、あるいはスコリモフスキの『出発』のときから、それがあった。この3人は監督や俳優と同じようにヌーヴェルヴァーグを生み出した人物であって、独自の知識と、そして状況に対応する独自の能力を独学でつくりだした人々だ。

(オフィシャル・インタビューより抜粋/翻訳=松井宏 ©映画「ジェラシー」All Rights Reserved.)

フィリップ・ガレル(Philippe Garrel) プロフィール

1948年パリ生まれ。16歳で制作した短編映画『調子の狂った子供たち』をきっかけに、ヌーヴェルヴァーグ次世代の旗手として注目を浴びる。パリの5月革命を機にパリを離れた後、1969年のニューヨークでアンディ・ウォーホルのファクトリーに出入りするうち、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドにボーカルとして参加していたニコと運命的に出会い、数々の作品を一緒に制作する。1979年にニコと離婚、1983年には女優のブリジット・シイとの間に息子のルイ・ガレルが誕生。同年には、父モーリスを主演に迎えた『自由、夜』を発表し、カンヌ国際映画祭でフランス映画の展望賞を受賞した。1991年、『ギターはもう聞こえない』でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞。2005年、愛息ルイ・ガレルを初めて主役に据えた『恋人たちの失われた革命』で2回目のヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞。2011年『灼熱の肌』ではモニカ・ベルッチを主演に迎える。フランス国立高等演劇学校でも教師をつとめている。




La Jalousie 05
映画『ジェラシー』より ©2013 Guy Ferrandis/SBS Productions

『ジェラシー』 2014年9月27日(土)より
シアター・イメージフォーラムにてロードショー

舞台俳優のルイ(ルイ・ガレル)は、クロチルド(レベッカ・コンヴェナン)と愛する娘シャーロット(オルガ・ミシュタン)と別れ、同じく俳優で新しい恋人のクローディア(アナ・ムグラリス)とパリの小さな屋根裏部屋で同棲生活を送っている。しかし俳優業に行き詰まり貧困生活に嫌気がさしているクローディアの心のうちに、ルイへの嫉妬の炎がともり始める。ある晩彼女はひとりの建築家と出会い、仕事の話をもらう。新しい道を進もうとするクローディアに対し、今度はルイの心に嫉妬の炎が燃え移る。やがて彼らの家で一発の銃声が響き渡る……。

監督:フィリップ・ガレル
プロデューサー:サイド・ベン・サイド(SBS Productions)
脚本:フィリップ・ガレル、キャロリーヌ・ドリュアス、アルレット・ラングマン、マルク・ショロデンコ
撮影:ウィリー・クラン
編集:ヤン・ドゥデ
音楽:ジャン゠ルイ・オベール
出演:ルイ・ガレル、アナ・ムグラリス、レベッカ・コンヴェナン、オルガ・ミシュタン、エステル・ガレル、ロベール・バジル、ジャン・ポミエ
配給:boid、ビターズエンド
(2013 年/フランス/77分/B&W/字幕:寺尾次郎)

映画公式サイトhttp://www.jalousie2014.com/

▼映画『ジェラシー』予告編

レビュー(0)


コメント(0)