左より、「Kisssh-Kissssssh映画祭」の硲勇さん、「東葛映画祭」の髙橋邦夫さん、「シネコヤ」の竹中翔子さん、「ヨコハマ・フットボール映画祭」の福島成人さん
9月7日(日)、神保町のワーキングラウンジ&イベントスペースである「EDITORY」にて、神保町のコミュニティスペースから発信するフリーマガジン「じじ神保町」の連動イベント『「映画祭のつくり方」~ 映画祭主催者に聞く、映画祭の立ち上げと場づくりの方法~』が開催された。現在日本では、東京国際映画祭やフィルメックスといった国際映画祭だけでなく、中規模・小規模の映画祭が各地域で開催されている。そうした地元発信型の映画祭はどのように立ち上げられ、運営されているのか。今回は、映画祭スタッフによる運営のノウハウや地域活性との連携への考えを直接聞くことで、映画祭ができるまでの裏側を知ることのできるイベントとして企画された。
今回webDICEでは、「EDITORY」の元会員で現在はフリーのwebディレクターの岩嵜修平さんによる当日のレポートを掲載する。
観る場所が無いので自分で作った
(「シネコヤ」竹中さん)
「じじ神保町」の最新号にて取り上げられた和歌山の「Kisssh-Kissssssh映画祭」実行委員の硲勇さんの他、「ヨコハマ・フットボール映画祭」実行委員長の福島成人さん、「東葛映画祭」実行委員長の髙橋邦夫さん、「シネコヤ」代表の竹中翔子さんと、各地の映画祭や映画イベント主催者4組をゲストに招いてのトークイベントは、40人定員の会場がほぼ満員に。来場された方の中には様々な映画祭関係者の方々も多く、トーク後のワークショップと懇親会も合わせて大変な盛り上がりを見せていました。
最初は、登壇者の自己紹介ということで、1つ1つの映画祭について紹介。
日本で最初にサッカーの公式戦が行われた横浜で、サッカーにまつわる映画ばかりを集めた「ヨコハマ・フットボール映画祭」。街の映画館の新しいスタイルを作ろうと、映画+αの楽しみを感じてもらえるようなイベントを開催中の「シネコヤ」。地元である東葛地区の良いところに気づき、愛着を持ってもらうきっかけづくりのために映画祭「東葛映画祭」。映画を観るために必然的に街歩きする必要がある海辺の映画祭「Kisssh-Kissssssh映画祭」と、それぞれ上映のスタイルも持つ課題も異なる映画祭関係者が集まりました。
トークイベントの中で、最初のテーマは「映画祭と上映会をはじめたきっかけ」。
「観る場所が無いので自分で作りました」と語ったのは竹中さん。「当時、NPO法人の中の映画の上映イベントを企画するところでボランティアをしていまして、そこで、シネコヤの構想をはじめて、著作権の問題などもあって、図書館に上映企画を持ち込んだのが最初です」と自発的に動いた方がいらっしゃる一方で、「長野県の2チームに関する『クラシコ』というタイトルの映画を作った人が居まして(笑)東京で観てくれる人は何処にも居なさそうだったので、僕の地元の横浜で、周りの友達の前で上映する場所を設けてあげたことから始まりました」とは福島さん。「やってみたら、参加してくれた人が楽しんでくれたので、今も続けている」とのこと。4回も続いている映画祭開催のきっかけが、1つの自主製作映画だったというのは驚きでした。
公言しないと何も始まらない
(「Kisssh-Kissssssh映画祭」硲さん)
続いてのテーマは『映画祭を〇〇することに〇〇な3つのこと』ということで、それぞれの映画祭に関するコツについて話されました。
硲さんは、「映画祭の立ち上げに必要な3つのことは、地元とのつながり、公言してしまう、楽しむこと」と語り、「余所者が入ると怒られてしまうような地方の漁師町で、色々なしがらみもあって、地元の人たちとのつながりが無ければ実現できませんでした。まずは公言しないと何も始まらないので、言っちゃってから、地元の人にひとりひとり人お伺いを立てていくことで実現までこぎつけました。あとは、やることも多いので、楽しまないと続けてられない(笑)」と、地方の映画祭ならではの立ち上げの苦労についてのお話に。竹中さんも同じく「実現のためには、言いふらすことが大事」と話す。「言わないといつまで経っても動き出せなかったですが、こんなことがやりたいと言ってみたら、助けてくれる人も出てきました。」始めるためには、まず周りに発信することが大切なようです。
10年の歴史がある東葛映画祭の高橋さんは、「続けるために必要なのは、情熱、映画祭への興味、何を発信したいかを意識することの3つ。映画祭を通じてどのような街づくりを目指していたか、地元である東葛を発信することは忘れずに意識し続けることで、ブレずに続けてこられました。」と当初の気持ちを持ち続けることの大切さを語りました。
「シネコヤ」の企画「隠れ家シネマ」より、『アメリ』上映の様子
一番の苦労は字幕入れ
(「ヨコハマ・フットボール映画祭」福島さん)
続いて、「今までで一番苦労したこと」にテーマが移ると、福島さんからは「字幕がズレたり、ノイズが出たりしたことがありました」というエピソードが。「多くの他の映画祭と違い、日本に入ってこないような海外の映画も権利元に許可をとって、予算の都合でプロに頼らずに字幕を付けていたりするので、仕方ない面もあります。ただ、他では観られない作品を上映しているので、お客さんにも大目に見て頂けている」と自分たちで集めるがゆえの苦労を語りました。「上映したい作品が上映できないことがありました」とは竹中さん。「版権元が分からなかったり、日本での上映権が切れていたり、大手の会社は常設でない非劇場に貸し出してくれなかったり。良作があるのに日本で観られないのは残念」と、もどかしい気持ちを吐露しました。
「2週間前に市役所から、開催できないと言われました(笑)」と硲さん。「事前に許可はとっていたのですが、担当の方が変わって、上手く引き継がれていなかったようです。その前に観光協会や自治会など色々な組織を束ねる裏ボスとお話させて頂いていたのですが、裏ボスの口利きで開催OKにこぎつけられました(笑)」。
「ヨコハマ・フットボール映画祭」より、会場ではスタジアムで見かけるメッセージボードを持参する方も
自主制作作品を上映する貴重な機会
(「東葛映画祭」高橋さん)
次は、逆に「やってよかったこと」がテーマに。
福島さんが認知度を上げるためにした施策は「サッカーライターさんにDVDを送って作品についてのレビューを書いてもらうこと」と「インターネットを使った舞台挨拶」。「レビューをサッカーに関するWEBメディアに送って掲載してもらい、そこからYahooに転載されたりTwitterなどのソーシャルで拡散してもらうことが出来ました。監督や俳優さんをお呼びしての舞台挨拶もやりたいのですが、スケジュールや予算の都合で難しいことが多く。その点、Skypeなどを使ってのネット舞台挨拶だと、調整しやすくなります」と、秘訣を語りました。
「コンペをやって良かった」と話したのは、硲さんと高橋さん。「コンペを通じて、制作者さん経由で映画祭に関わってくれる人が増えたり、ソーシャルでも拡散されることで認知度が上がりました」と硲さん。「自主制作作品を上映する機会がとても少ない中で、ちゃんとしたスクリーンで自分の作品が上映されることに制作者が感動してくれた。そういう場を作れたことが嬉しい」と高橋さん。制作者にとっても映画祭は貴重な機会になっているようですね。
「東葛映画祭」昨年の授賞式より
体験、ボランティア、波音、土地……
それぞれの映画のカタチ
続いて、登壇者同士の質問コーナーに。
単館系の常設映画館を作ることが目標の竹中さんは、同じく自主制作作品やマイナーなミニシアター系の作品を多く上映する硲さんに、制作者の知り合い以外の普通の映画ファンに来場してもらうための工夫を質問。
硲さんは、「この作品を観たいという人は少なく、(和歌山県和歌山市)加太という特殊な海辺の環境で面白そうなことをやっているというところから来て下さる方が多いです。作品とは違ったところからのアプローチも効果的」とアドバイスしました。
硲さんからは、高橋さんに「東葛映画祭のように長く続けている映画祭で、スタッフにずっと手伝ってもらうためにどんな工夫をされていますか?」という質問が。高橋さんは「メンバーが数人しかおらず、実は、今日は一緒に手伝ってもらえる人が居ないかと思って参加したというところもあります(笑)」と同じ悩みを抱えていることを正直に話され、「主催のコアメンバーが、しっかり映画祭をやるんだという気持ちを持ち続けることが大事だと思います」と改めて情熱の重要性を語りました。
昨年の「Kisssh-Kissssssh映画祭」より、会場ではライヴ・パフォーマンスも行われた
最後に、トークイベントのまとめとして、「これからの映画のカタチ」を「映画×〇〇」でひとりひとりが語りました。
高橋さん「映画×体験。以前、子供に映画を作ってもらう企画を実施し、東宝のシネコンで流しました。監督や役者さんもチームの中で決めて、シナリオも作って、プロの機材を貸し出して。自分たちで作った映画なので、興味を持つし、チーム作りの経験としても子どもの成長につながります。小さい時から映画に興味を持つ環境づくりが大切だと思います」
福島さん「映画×ボランティア。Jリーグのように、チケットのもぎりや、開催後の清掃、託児施設などが多くのボランティアに支えられていると良い。新潟のシネ・ウインドさんが有名ですが、他の映画館でも同様の取り組みがあれば良いですね」
硲さん「映画×波音。環境音も含めて映画を観られれば面白いと思います。感情の高ぶるシーンで、風でスクリーンが揺れたりと、思いも寄らない偶然もありました」
竹中さん「映画×土地。良い映画をかけても、お客さんが観に来てくれないなど今までの上映スタイルでは限界があります。その土地の魅力を最大限に引き出すことが映画館の役割になってくると思います」
『「映画祭のつくり方」~ 映画祭主催者に聞く、映画祭の立ち上げと場づくりの方法~』より
トークイベント終了後は、「神保町で映画祭をするなら」をテーマにディスカッションとプレゼンテーションを実施。
ビルの外壁を使った野外映画祭や、カレーをテーマにした映画祭、神保町の店主セレクト作品の映画祭などユニークなプランが発表されました。
その後は、「映画館の食べ物」をテーマにしたケータリングをつまみながらの懇親会や、登壇者以外の方が運営に携わる映画祭の宣伝タイムまで設けられ、盛り上がりは会の最後まで続きました。
『「映画祭のつくり方」~ 映画祭主催者に聞く、映画祭の立ち上げと場づくりの方法~』参加者によるディスカッションも行われた
司会が「映画祭やコミュニティ、まちづくりに興味がある人が集まったので、今日の話を夢物語で終わらせるのではなく、各地で実現してもらえれば」と締めくくった通り、新たな映画祭が生まれるきっかけになったり、今、行われている映画祭の更なる発展にもつながるような、意義深いイベントとなりました。
(文:岩嵜修平[webディレクター])
第2回Kisssh-Kissssssh映画祭
2014年9月20日(土)、21日(日)
会場:旧紀陽銀行ほか和歌山県和歌山市加太内各会場
「波音を聞きながら映画を観たい」という若者たちのささやかな“思いつき”と、地域を盛り上げたいという住民たちの思いが重なり、漁師町・加太で2013年に生まれた手づくりの映画祭。海辺近くの公園に設置された大スクリーンでも上映が行われる。
公式HP:http://kisssh-kissssssh.com/
2014年2月8日(土)~11日(火)【終了】
会場:ブリリア ショートショート シアター
世界のサッカー映画の中から優れた作品を上映・顕彰し、映画とサッカー両方の魅力を発信していくというテーマで2011年より開催をスタート。世界中でたくさんのサッカー映画が公開されているなかで、日本でまとめて観ることができる唯一の映画祭として映画ファン・サッカーファンから親しまれている。
公式HP:http://yfff.jp/
第9回東葛映画祭
2014年3月2日(日)【終了】
会場:TKPシアター柏
千葉県北西の野田市、流山市、柏市、我孫子市、松戸市を含む地域「東葛」を拠点に、市民に映画制作に参加してもらうことで映画を身近に感じてもらい、「地元の楽しいお祭り」として東葛地域の良さを発信していきたいという思いのもと2005年より開催。
公式HP:http://www.tokatsufilm.com/
シネコヤ
【鵠沼シネマ】『無敵艦隊』2014年9月19日(金)、20(土)
会場:IVY HOUSE
【隠れ家シネマコンサート】2014年10月11日(土)
会場:IVY HOUSE
【鵠沼シネマ】『嵐が丘』2014年10月17日(金)、18日(土)
会場:IVY HOUSE
【LA BALENA × 隠れ家シネマ Eat on the Lug】『ディナーラッシュ』Coming soon
【隠れ家シネマ vol.6】2014年12月5日(金)、6日(土)Coming soon
《シネ= シネマ》《コヤ= 小屋、寺小屋》を由来とし、上質な映画とサブカルチャーが集まる、そして、それらを愛する人たちが集まる「街の映画館」を湘南につくりたいというコンセプトで2010年5月にスタート。藤沢のいろいろな場所で、その場所にあった作品選びと空間づくりを目指し上映会を企画している。
公式HP:http://cinekoya.com/
フリーマガジン「じじ神保町」
第2号配布中
神保町のコミュニティスペース「EDITORY」から“神保町のヒト・モノ・キオク・デキゴト・ミライ”という視点で、この町周辺の新しい「(じじ)」を届けるフリーマガジン。配布場所などはfacebookページより。
公式Facebook:https://www.facebook.com/jijijimbocho