クラウドファンディングサイトMotionGalleryとwebDICEとの連動連載第7弾は、映像作家・白川幸司の10年ぶりとなる新作『ようこそ、美の教室へ』を完成させるプロジェクトを白川幸司監督からのメッセージとともに紹介する。
今回のプロジェクトでは撮影が半分まで完了している今作を完成させ、2016年劇場公開を目指す。1,000,000円を目標に、2014月12月30日23:59までクラウドファンディングを行なう。
応援チケットの価格により様々な特典が用意されており、3,000円以上で完成披露試写に参加できるほか、30,000円以上の協力で今作へのエキストラ参加、そして60,000円の協力で、アソシエイト・プロデューサーとして名前がクレジットされ、可能な限り白川監督と国内の映画祭に同行することができる。白川監督の作品のファンのみならず、日本における自主映画制作の現状や現場を知りたい方にも最適な企画となっている。
詳細はMotionGalleryのプロジェクト・ページまで。
『ようこそ、美の教室へ』より
『ようこそ、美の教室へ』は、一人の少年が、詩の教室での一年を通して、母親に愛されない理由を追及しながら、才能を開花させる、という物語。1年をかけて収録されたオペラをバックグラウンドに、これまでの白川監督よりもより耽美的な映像が特徴となっている。白川監督の自費で制作が進められていたが、映画とは制作時点からもっと社会に開かれていなければならないという考えから、群馬県、茨城県、静岡県のフィルムコミッッションの利用を経て、賛同者と共に、広がりのある制作方法を模索したいという思いから、今回のMotionGallryでの展開を開始させた。資金は撮影スタジオ代、役者とスタッフのギャラに充てられる。2015年2月にクランクアップの予定で撮影が進められており、その後ポスト・プロダクションの作業、そして試写会を2015年夏から開始することになっている。これまでの作品も、香港国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭ほかカナダ、ドイツ、イタリア、フランス、韓国、タイ、アメリカなどの多くの映画祭で上映されていることもあり、今作も各国の映画祭で話題となることは間違いないだろう。
『ようこそ、美の教室へ』より 崎島ミチル役:レイチェル・ダムール
『ようこそ、美の教室へ』より 辻堂サトル役:小川ゲン
白川幸司監督
「『自分の為だけに作品を作る姿勢』こそ、
強固な作品力になる」
──本作の企画の意図は?
私は、自分の人生において「何故、モノヅクリをするんだろうか?」と毎日問い続けています。その答えの出ないまま、多くのクリエーターの友人達を自殺で失ってきました。私自身も毎日自殺を考えていた時代も有りました。そこまでして「何故造るのか?」を考え抜き、ある境地に達する事が出来ました。それを本作で提示したいと思います。
『ようこそ、美の教室へ』より
──10年間映画を作らなかった理由は?
10年前までは、「死ぬ事への恐怖」が作品の根底に有りましたが、『SPICA』(2005年)を制作し、少し落ち着いた感じが有りました。そして愛する人々と出会い、死への恐怖が薄らいでしまいました。それは個人的には幸せな事でしたが、映画を作る根底を失ったのかもしれません。自分にしか作れない映画とは何か?と何度かプロットを書いたりもしましたが、どうもしっくり来ない状態が続いていました。そんな時に、母親の様子が急激に変貌し寝たきりになったり、私自身も顔面麻痺でとても醜い顔になってしまいました。失われるモノ達への美しさを感じ、ついに自分らしい脚本を書く事が出来ました。不幸は、脳にストレスをもたらし思考を深化させたのでしょう。
『ようこそ、美の教室へ』より
──10年の間に自主映画界はどう変わったのでしょうか?
機材は、圧倒的な進歩を遂げました。一眼ムービーの出現は、これまでのビデオ撮影では出来なかった被写界深度コントロールやレンズ交換可能な映像表現を手に入れました。パソコンでのカラコレも容易になり、制作者はより自由な表現出来る武器を手に入れたと思います。しかし、制作者の質はほとんど変化してないように思います。極端な内的トラウマ世界、くだらない駆け引きをする傷心ドラマが多く、奇をてらった展開やアニメ的キャラでお茶を濁したり、そんな国内向けの内容、予算不足や思考不足の作品は観るに耐えません。制作者が進化してないのは、多くの映画を観ていないが故に、自分との差から確立されるべき「自分らしさ」を発見しないまま、ジャンル思考に囚われているからでしょう。私達は、他の人が作れる映画は作るべきではないのです。しかし、コミュニケーションツールが浸透した「共感重視」となったこの時代で、制作者は自分の「個」を孤立させ思考する事が難しくなっています。なにか閃いたり感じてもコミュニティの海へ溶けてしまい、制作者として大切な「思索の深化」が不足しています。このままでは、制作者だけでなく観客としても不十分な人間になるのではないでしょうか。
『ようこそ、美の教室へ』より
──何故今回クラウドファンディングを利用するのでしょうか?
「映画は観客が居て成立する」という言葉を盲信する制作者は、既に商業的な立場から逃れる事が出来ません。それでは「作家性」は育たないのです。私は「自分の為だけに作品を作る姿勢」こそ、強固な作品力になると、個を閉じる事でパワーを掴んできました。一方で、商業的な映画監督は、他人から資本を得ながら、著作権は監督に有るとダダをこねてきました。金はよこして口は出すなという監督が多いのです。そんな都合の良いスポンサーを探す事に、エネルギーを費やし、ボヤく時代を、クラウドファンディングが終わらせるかもしれないと思っています。監督に都合の良い「金は出すが口を出さないスポンサー」を将来の観客ひとりひとりが成るという事です。監督達は、自分の才能をプレゼンテーションする能力が必要になります。中には仲間意識に訴えたり、美少女アイドルや地元を盛り上げようとか、作品として勝負しない企画も多いでしょう。そんな風潮に抗いたいという気持ちが有ります。私は、作品で勝負したいのです。
個を閉じた事で私自身は作家に変容しつつあると感じています。人間的に余裕が出来たのでしょう。私は、本作の制作段階で、個を乗り越え、人間としても作品としても広がりを持ちたいと思っています。役者やスタッフ、そして観客と共に作品を作る喜びを「作る場」を解放する事で分かち合いたいのです。映画を観て救われるだけでなく、映画を作る事で私は救われました。そのプロセスが他人にも通用するのか知りたいのです。クラウドファンディングに必要なモノは、中心となる監督の作家性です。私の作家性を、売り場に並べてみて、目利きさんに会えたら幸せです。
サポートにあたってのコレクター特典など、詳細はプロジェクト・ページをご確認ください。
白川幸司(しらかわ こうじ)
映画監督。イメージフォーラム付属映像研究所第20、21期卒(特待生として優遇される。)卒業制作『意識さえずり』『ヒダリ調教』がイギリスの映画評論家、トニー・レインズにより「この年の日本映画で最大の発見」と称えられた。バンクーバー国際映画祭での上映、ロッテルダム国際映画祭での特集ほか各国で上映される。3作目『獣の処刑』は横浜美術館へ収蔵された。4作目『REC』の元となったあるゲームシナリオを手がけた事から「物語性」を持った作品に傾倒してくる。5作目『ファスナーと乳房』は、日本をはじめ多くのゲイ&レズビアン映画祭で上映された。愛知県立芸術文化センターから出資を受けた6作目『眠る右手を』は香港国際映画祭、バンクーバー国際映画祭に招待。さらにミュージカル短編7作目『マチコのかたち』がバンクーバー国際映画祭他多くの映画祭で上映。韓国JuMF2004 eMotion Film Festival Conpetitionでグランプリを受賞する。8作目の『SPICA』が 第59回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーopenArtセレクションに出展。オーバーハウゼン国際短編映画祭インターナショナル・コンペティション部門ノミネート。そして現在、『ようこそ、美の教室へ』を製作中。
『ようこそ、美の教室へ』キャスト
崎島ミチル:レイチェル・ダムール
辻堂サトル:小川ゲン
辻堂ルイ:早川知子
鬼頭カズオ:豊永伸一郎
ミスベアバッカー:岸本啓孝
辻堂サチ:亀岡園子
橘ヒカル:朝戸佑飛
タケヒコ:松田祥一
猿吉校長:高橋健二
浮浪者:マメ山田