《The Vapor of Melancholy》2014年 ⓒApichatpong Weerasethakul, 協力:SCAI THE BATHHOUSE
東京・台東区谷中のギャラリーSCAI THE BATHHOUSEにてタイの映画監督/アーティスト、アピチャッポン・ウィーラセタクンが個展「FIREWORKS (ARCHIVES)」を開催。初日となる9月11日にタイと会場を繋いでのスカイプ・トークが行われ、今回の展示のテーマについて、そして現在のタイのアートに対する検閲について語った。
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで6月から7月にかけて開催された「PHOTOPHOBIA」に続く個展のオープニングにあたり、アピチャッポン監督は新作映画をタイ東北部のコンケーンで撮影中のため、スカイプでの登壇となった。国際交流基金アジアセンターの吉岡憲彦氏を通訳に、東京国際映画祭「アジアの未来」プログラミングディレクターの石坂健治氏をインタビュアーにトークとQ&Aが実施された。
アピチャッポン・ウィーラセタクン
記憶と光の関わりについて探求する《Fireworks》プロジェクトの初作となる映像作品《Fireworks (Archives)》は、タイとラオスの国境の町・ノンカイにあるサラ・ケオクー寺院で撮影。闇のなかに断続的に鳴る花火の音と寺院の映像、そして男女の姿がクロスオーバーする。この作品についてアピチャッポンは「生まれ育ったタイ東北地方の政治的な記憶と歴史を光、花火、閃光を使って表現したかった。寺とそこにある動物の像は、中央からの抑圧的な動きに対する反抗のシンボルなんです」と政治的なテーマが隠されていることを明かした。
《Fireworks (Archives)》2014年 ⓒApichatpong Weerasethakul, 協力:SCAI THE BATHHOUSE
《Primates' Memories》2014年 ⓒApichatpong Weerasethakul, 協力:SCAI THE BATHHOUSE
映画と比べてインスタレーションは、空間を自由に使える利点や、未消化なアイディアや感情といった自分のコアな部分を吐き出し、それを変化させていける点で異なる表現だと語るアピチャッポン監督。タイでは2014年5月に起きたタイ軍事クーデターが起きたが、「抑圧された状況下で自由とはなにか、創造するとは何かを考えて表現しています。誰もプロテストせず、挑戦的なテレビ番組は閉鎖され、新聞も言いたいことが言えない状況となっているので、一見街が平穏に見えますが、つい数週間前にも、あるパフォーマンス・アーティストが捕まって投獄されてしまうかもしれないという事件がありました。単に政治を皮肉るだけではなく、本当のアートを作るとはなにかを考えさせられます」とクーデター以降のタイの状況について述べた。
また「ジョージ・オーウェルの『1984』を読むことが禁止されるなど、検閲は厳しくなっています。映画でも、2年前ほど前に『Shakespeare Must Die』という作品が上映禁止になりました。自分の作品では検閲を受けたことはありませんが、タイではレイティング・システムにより、性的な描写や宗教、政治、王室を扱ったものについてはカットされてしまうことがあります。ですから、タイの映像作家はこの4つのテーマについてはなるべく自主的に触れないようにする傾向があるのです」とタイのアート・シーンに対する検閲について解説した。
そして、現在撮影中の映画『王の墓』(Cemetery of King)について、タイトルを変えなくてはいけないという経緯があったという情報については、「現在の段階ではまだ制作中のため詳しく答えられませんが、政治的なテーマについてどこまで自己犠牲をかけなければいけないか、つねに葛藤しながら作品に取り組んでいます」と答えた。
その『ブンミおじさんの森』(2010年)以来となる長編『王の墓』は、軍人とミストレスの女の子を主人公に、一日中眠ってしまう病気をモチーフにした、政治的かつ自身初となるラヴ・ストーリーになる予定だという。
(取材・文:駒井憲嗣)
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ⓒApichatpong Weerasethakul, 協力:SCAI THE BATHHOUSE
アピチャッポン・ウィーラセタクン
「FIREWORKS (ARCHIVES)」
2014年10月4日(土)まで開催中
会場:SCAI THE BATHHOUSE
東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
開廊時間:12:00~18:00
日・月・祝日 休廊
公式HP:http://www.scaithebathhouse.com/
公式Twitter:https://twitter.com/scai_bathhouse