映画『フランシス・ハ』より ©Pine District, LLC.
監督作『イカとクジラ』やウェス・アンダーソン監督作品の脚本で知られるノア・バームバックが、ニューヨークを舞台にモダンダンサーを目指す27歳の女性が独り立ちするまでを描く『フランシス・ハ』が9月13日(土)より公開される。進境著しい女優グレタ・ガーウィグを共同脚本と主演に迎え、ニューヨーク出身のふたりが、モノクロの映像とレナ・ダナムなど昨今のインディ映画に顕著な即興的な会話劇のスタイルを用い、失敗続きの冴えない主人公フランシスの生活をリアルに活写。またデヴィッド・ボウイなどのロックとジョルジュ・ドルリューのノスタルジックなスコアをミックスした音楽も魅力のひとつとなっている。
今回はノア・バームバック監督のインタビューを掲載する。
台詞がキャラクターを形作っていく
──グレタ・ガーウィグと共同で脚本を作ることで何か苦労はありましたか?
今回は本当の意味で2人のコラボレーションだった。最初の段階ではどちらかが単独で書いた場面があったりしたけれども、一緒に脚本作りしていく上で、お互いに直しを入れて、討論したりしたので、ここは彼女、ここは自分というふうに、振り分けして完成させたわけではないんだ。そういう意味ではとても楽しいコラボレーションだった。まさに共同作業だったね。
映画『フランシス・ハ』のノア・バームバック監督
──主要なキャスティングの経緯についてお聞かせください。グレタは最初ヒロインをやるつもりはなかったとインタビューで読んだのですが、本当ですか?あと、ソフィーを演じたスティングの娘、ミッキー・サムナーも適役で素晴らしかったですね。
よく聞かれるんだけれど、僕は彼女以外の女優は最初から考えていなかった。彼女はおそらく脚本を書いている段階で、自分が俳優として参加することを前提として取り組むのではなくて、あくまで脚本家の立場で客観的にアプローチしたいと考えたから、そのようなコメントが出たのだと思う。最終的に彼女自身が演じることも知っていたはず。もともとその目的で一緒にやろうと始まった企画だったからね。メールでいろいろ意見交換しながら脚本作りに取り組んだから、その話をする機会がなかっただけかもしれない。
映画『フランシス・ハ』よりフランシス役のグレタ・ガーウィグ(右)とソフィー役のミッキー・サムナー(左) ©Pine District, LLC.
キャスティングはとてもうまくいったと思っている。ニューヨークの若手俳優達と今回一緒に仕事できてとても楽しかった。全員オーディションで決まったんだ。レヴ役のアダム・ドライバーは、今回仕事をしてお気に入りの役者のひとりになった。新作『While we're young』にも出演してもらっている。オーディションの時は彼のことを知らなかった。グレタはすでに彼が出演した演劇を観ていて、すでに知っていた。とてもいい才能を持っている俳優だよ。フランシスの友人ソフィー役はなかなか決まらなかった。ただ才能あるだけでなく、グレタを相手に親密さが表現できる役者でなければいけなかった。結果的にソフィー役を演じたミッキーは、レイチェル役でオーディションに参加していた。クランクインが近づいて、まだソフィ役が決まっていなかったので、ミッキーのことを思い出して、彼女に読み合わせをしてもらった。するとグレタととても相性が合ったようで、素晴らしい駆け引きをしてくれた。まるで古い親友みたいなやりとりだったよ。
映画『フランシス・ハ』より、レヴ役のアダム・ドライバー(右) ©Pine District, LLC.
──役者への演出はどのように行いましたか?会話が飛び交う場面など、とてもリアルな演技に見えました。
作品や俳優によってアプローチは変えているんだ。最初の頃は、何回もリハーサルを重ねて現場に臨んだ。ただ今回の場合は、リハーサルはあまりしなかった。今回は、たくさんのテイクを重ねたのがいつもとは違ったね。あまり即興演技は好きではないんだ。いつも脚本の完成に長い時間をかけている。思い通りの脚本ができない限り、現場入りはしない。僕の映画では台詞がキャラクターを形作っていく場合が多いからね。今回テイクをたくさん撮ったのは即興のためではなくて、キャラクターの動きを明確に打ち出すためだ。台詞はかわらなくても、動きが変わると表現も変わってくる。ただ今回のキャスティングは、ほとんどオーディションで決まっていて、みんなが才能ある役者で、役柄にピッタリなのは事前に解っていたから、とても助かった。あと今回に限り、グレタを除いて、役者全員に脚本を渡さなかった。彼らが出演する部分のページだけ読んでもらっていた。計算された実験とも言えるかもしれない。脚本全体において、それぞれの役柄がどのような機能を持っていたのかは、わからなかったはず。それがすごくいい結果になったと思う。役者によっては難しいと思ったかもしれない。ただ今回の作品にはフィットしたスタイルだった。
映画『フランシス・ハ』より ©Pine District, LLC.
僕らは人生を通して
ニセモノっぽさを回避しようともがき続ける
──モノクロにすると最初から決めていたのですか?フランスのヌーヴェルヴァーグやウディ・アレンから影響を受けているように見えましたが。
そうだね。現代的課題を扱うモノクロ映画が大好きだ。僕らが撮ったキャラクターやニューヨークの風景はとても今っぽい感じがする。その時はもっと直感的だったけど、これはモノクロであるべきだと感じたんだ。モノクロにすると、たちまちノスタルジックになってしまうと思う。ロサンゼルスで『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(原題:Greenberg)を作った後、ニューヨークに戻ったんだ。モノクロで撮影することで、新しい目で街を見ることができた。僕は映画に登場するキャラクターにロマンティックで、新鮮で、喜びに満ちて、おかしくて、切ない映画的な体験をさせたいんだ。モノクロはそれを実現させてくれるよね。
映画『フランシス・ハ』より ©Pine District, LLC.
──ニューヨークで撮られた本作は、シニカルな今までの作品よりも純真で無邪気に描かれていましたね。あなたの心はいつもニューヨークにあるのでしょうか。
そうだね。ニューヨークは僕のホームだ。ブルックリン育ちだからね。で、これはグレタと僕が共有するものなんだけど、僕はブルックリン、彼女はカリフォルニア州サクラメント出身。僕らは二人とも、できることなら、その街にいつか戻るもんだと思っているんだ。マンハッタンはいつか住むことができる街だといつも思っていた。笑えるのは、僕は今マンハッタンに住んでるけど、周りのみんなはブルックリンに越してってるってことだよ。僕がフランシスに共感する部分は、街に対する幻想を抱いていて、それを経験をしたいと思っているところだね。この映画のスチールを見るとわかるけど、この映画を作ることは街を出来る限り美しく撮影できるチャンスだった。
一方で、主人公はニューヨークで経済的な現実に直面している真っ只中にあってロマンティックじゃない。ニューヨークでは、もはやお金なしではボヘミアンライフを送れないんだよ。この映画も、画的にはおしゃれなニューヨークを想起させるけど、扱っているものは今の、とてもリアルなニューヨークだからね。
映画『フランシス・ハ』より ©Pine District, LLC.
──あなたの映画の登場人物は「ライ麦畑でつかまえて」の主人公ホールデン・コールフィールドのように、必死でニセモノっぽさや気取りを回避しようとしているように見えるけど、ときどき墓穴を掘ったりしています。今のあなたでさえ、こういったことにもがいているのでしょうか。
世界中のみんながあの本を好きだよね。僕らもみなあの主人公に共感している。もちろん、彼は15歳だけど(笑)。僕は人々の考えや人生に興味がある。それから彼らの理想世界と、それが実際に叶うのかどうか。『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』の主人公は、そういった現実に果敢に立ち向かうことができないし、そのように生きるには年を取り過ぎていた。映画がそれを反映していた。フランシスは、もし軌道修正できたら、とても幸せな人生を送れるかもしれない、人生の真っただ中にいるんだ。だから、この映画は異なったトーンと、喜びを持っている。僕は人々の人生の様々な時点に興味がある。『イカとクジラ』ではホールデンに近い年齢の人物を登場させたから、あの本や主人公ととても共鳴するんだと思う。僕らは人生を通してこうした問題にもがき続けるんだ。
──本作はアメリカをはじめ世界中で高く評価されヒットしています。この結果は今後のキャリアにどのような影響を与えると思いますか?
いま僕が作るような作品は、かつて70年代にスタジオが盛んに作っていたけれど、今はそうではない。そういう意味では、自分が作りたい作品を作れる位置にいれるのは、非常にラッキーだと思う。ただ作っている方としては、作品の規模はあまり考えない。どの作品も成功を収めて欲しいと思って取り組んでいる。作品が成功すれば、その次に取り組む作品を作るのは多少ラクになることもある。それが毎回起きてくれるといいんだけどね。
(オフィシャル・インタビューとA.V.clubによるインタビューより再構成)
ノア・バームバック(Noah Baumbach) プロフィール
1969年9月3日アメリカ、ニューヨーク市ブルックリン出身。ニューヨーク州ポキプシー町にあるヴァッサー大学で学び、24歳の時にラブコメディ『彼女と僕のいた場所』('95)で監督・脚本デビュー。2005年、高校時代の実体験を基にした『イカとクジラ』がアカデミー賞脚本賞にノミネートされるなど、各映画賞を席巻し世界的に有名となる。2007年、二コール・キッドマン主演『マーゴット・ウェディング』を発表。2010年ベン・スティラー主演『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』でヒロインとしてグレタ・ガーウィグを起用。2012年、グレタ・ガーウィグと共同で脚本を書き、低予算で作られたモノクロ作品『フランシス・ハ』がアメリカの批評家筋に絶賛され、小さい作品ながら異例のヒットを飛ばした。公開待機作として、アマンダ・セイフライド、ベン・スティラー、ナオミ・ワッツが出演する『While we're young』が控えている。脚本家としての活動は、ウェス・アンダーソン監督『ライフ・アクアティック』('04)『ファンタスティックMr.FOX』('09)で共同脚本を担当したほか、アニメーション『マダガスカル3』('12)の脚本も執筆している。本作で主演したグレタ・ガーウィグとは私生活のパートナーでもある。
映画『フランシス・ハ』より ©Pine District, LLC.
映画『フランシス・ハ』
9月13日(土)よりユーロスペース、伏見ミリオン座ほか全国順次公開
ニューヨーク・ブルックリンで親友ソフィーとルームシェアをして、楽しい毎日を送る27歳の見習いモダンダンサー、フランシス。ところが、ダンサーとしてもなかなか芽が出ず、彼氏と別れて間もなく、ソフィーとの同居も解消となり、自分の居場所を探してニューヨーク中を転々とするはめに!さらには、故郷サクラメントへ帰省、パリへ弾丸旅行、母校の寮でバイトと、あっちこっちへ行ったり来たり。フランシス周りの友人たちが落ち着いてきていることに焦りを覚え、自分の人生を見つめ直し、もがいて壁にぶつかりながらも前向きに歩き出そうとする。
監督:ノア・バームバック
出演:グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー、マイケル・ゼゲン、シャーロット・ダンボワーズ、パトリック・ヒューシンガー、マイケル・エスパー、グレース・ガマー、マヤ・カザン
脚本:ノア・バームバック、グレタ・ガーウィグ
製作:ノア・バームバック、スコット・ルーディン、リラ・ヤコブ、ホドリゴ・テイシェイラ
撮影監督:サム・レヴィ
美術監督:サム・リセンコ
編集:ジェニファー・レイム
音楽監修:ジョージ・ドレイコリアス
主題歌:デヴィッド・ボウイ「モダン・ラブ」
原題:Frances Ha
2012年/アメリカ/英語/86分/モノクロ/ビスタサイズ/DCP
日本語字幕:西山敦子
提供:新日本映画社
配給・宣伝:エスパース・サロウ
©Pine District, LLC.
公式サイト:http://francesha-movie.net
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公式Twitter:https://twitter.com/francesha_movie