骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-08-29 19:55


本当の父親は誰?『物語る私たち』で自身の出生の秘密を探り家族の歴史を再構築したサラ・ポーリー語る

関係者へのインタビューそして映像を通し奔放な亡き母の姿を蘇らせる物語
本当の父親は誰?『物語る私たち』で自身の出生の秘密を探り家族の歴史を再構築したサラ・ポーリー語る
映画『物語る私たち』より © 2012 National Film Board of Canada

女優としてだけでなく『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』『テイク・ディス・ワルツ』などで監督としても高い評価を集めるサラ・ボーリーによる映画『物語る私たち』が8月30日(土)より公開される。女優のダイアン・ポーリーを母に、舞台俳優のマイケル・ポーリーを父に持つサラ・ボーリーが、11歳のときに他界した母について、そして自らの出生について探っていく。聡明な洞察力と確かな演出力で知られるサラ・ポーリーが、父をはじめとする家族や母の友人たちへのインタビュー、そして父が撮っていた8ミリ・フィルムの映像をタペストリーのように折り重ね、自身と家族の歴史を再構築している。今回は公開にあたり彼女のインタビューを掲載する。

実人生の人間関係をすべて賭けに出したようなもの

──私生活を一切明らかにしないあなたがこの『物語る私たち』で自分の家族のことを映画にし、しかもそこにご自身のインタビューを入れなかったのはなぜでしょうか。

私にとっても、奇妙な選択でした。この映画を構想したこと自体、思っていた以上に自分を顕わにしました。自分の経験なんかよりも、見出した事柄の方に興味が向かったんです。それぞれの物語る内容が、重なったり、行き違ったりするのを聞いた私の経験を共有したかった。観客には観察者、つまり“私自身”になる経験をしてもらいたかったのです。

webDICE_Ken Wornoer photo SP_with_DOP_IrisNg
映画『物語る私たち』のサラ・ポーリー監督

──この作品で経験を共有するということはつまり、あなたの家族の事をさらけだすということですが、不安はなかったのですか。

朝9時から夜6時まで連日2ヵ月間、インタビュー素材を見てはメモをとる日々が続きました。何度も、神経衰弱で倒れそうになりました。実人生の人間関係をすべて賭けに出したようなものです。今でも彼らとの関係が安定して続いていることに感謝します。製作していた5年間ずっと、仕上げの最後の数ヵ月を恐れていましたから。

webDICE_monogataru_sub4
映画『物語る私たち』より © 2012 National Film Board of Canada

──それは相当大変な作業だったのではないですか?

編集室にこもって、家族のみんなが母の死を語るのを繰り返し聞いたり、家族や子どもの時に出会った人たちとの関係性を考え続けることは、本当につらいことでした。その場で感情的に反応するようなことはなくて、客観的に距離をもって捉えていたけど、だんだん心に沁みてきて、とても落ち込みました。

──そうして作られたこの作品で得たものとは何でしょうか?

母の親友たちと、長いときには8時間も同席して、ぎこちなさも気がねもなく、集中して取材することができたことです。友人たちは母をとても愛してくれていて、明快な言葉で、鮮烈な思い出を語ってくれました。幼くして親を亡くした人間が、これほど敬意を払われることはそうないと思います。

webDICE_monogataru_sub3
映画『物語る私たち』より © 2012 National Film Board of Canada

明かされていない秘密はまだまだあります

──この作品で明らかになったお母さんについての事実を知った今、彼女のことをどう思いますか?

母が成し遂げたことに畏敬を感じます。5人の子どもたちは皆、複雑な子ども時代を送りましたが、ひとり残らず愛されていることを実感していました。スターとは、少なくとも自分がそうでないこと以外はよくわからないけど、母は確かにスターだった。世界で最もエキサイティングな母親でした。母のエネルギーは他の誰とも比較になりません。

webDICE_monogataru_sub2
映画『物語る私たち』より © 2012 National Film Board of Canada

父が言うように、母の結婚生活は必ずしも満足できるものではなかった。家族崩壊を避けるためにも、しなくてはいけないことをしたんじゃないかと思うんです。母がもし不倫をしなければ、私たち家族は何を失っていたか……。母を悪く言うことはできません。でも父があのように寛容に対応しなければ、私の反応も違っていたかもしれない。父が怒ってないのに、私たち子どもが怒るなんてできません。
彼女の名に過去の道徳感を押しつけるつもりはないんです。もちろん、不倫も、合意された一夫一婦婚(モノガミー)を裏切ることも、支持はしないし、嘘も薦めません。ただ、全体を見渡すことは重要だと思うんです。
私は、自分の家族に対するごちゃごちゃした気持ちをひも解く必要を感じても、母に対して怒りを感じたことはなかった。死んだことに対して以外は。なんで死んでしまったのか、そのことだけに腹が立ちます。

──この作品が発表されるまで、多くの記者があなたの家族の秘密を守ってくれたそうですね。

「マスコミは信用できない、マスコミは味方じゃない」と言われるけど、私は記事を書くことを生業にしている何十人もの人を信頼することができました。5年間、上映の当日まで、秘密を守ってくれました。そんな経験をしてしまうと、人への不信はなくなりますよ。でも、明かされていない秘密はまだまだありますけどね。

webDICE_monogataru_main
映画『物語る私たち』より © 2012 National Film Board of Canada

──その5年の間にご自身も母親になりました(2008年に前夫と離婚後、2011年8月に再婚、2012年2月に娘イヴを出産)。

母親になるってなんて素敵なのかしら、って期待していたけど、現実は期待以上!衝撃的におもしろいの!ほとんど毎日、生涯これ以上の日があったかしら、って思えるくらい。あまりに古典的な母親像を生きることを楽しんでしまって、もう仕事はしなくていいやと思えてしまって、逆に焦ったくらいです。
でも、子どものお昼寝中は洗濯タイムだったのが、今ようやく脚本書きを始めたのが大きな第一歩です。一心不乱になるタイプだから、今まで映画を作るときは、生活を映画が占拠していました。今後はどうマネージメントするか試行錯誤になるかと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



サラ・ポーリー(Sarah Polley) プロフィール

1979年、カナダ、トロント生まれ。父マイケルはイギリス出身の舞台俳優、母ダイアンはキャスティング・ディレクターに転身した元女優という芸能一家に育つ。4歳で子役としてTVや映画で活動を始め、90~94年にはL.M.モンゴメリ作品をベースにしたTVドラマ『アボンリーへの道』に主人公セーラ役で出演。そして94年に出演した『エキゾチカ』アトム・エゴヤン監督の目に留まり、同監督の『スウィート ヒアアフター』(97年)のヒロインに抜擢され世界中から注目を集める。その後『死ぬまでにしたい10のこと』(03年、イザベル・コイシェ監督)、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年、ザック・スナイダー監督)、『ミスター・ノーバディ』(09年、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督)などに出演し実力派女優としての地位を確かなものにする。また20歳から監督・脚本家としても活動をはじめ、99年に短編『Don't Think Twice』、『The Best of My Life』で監督デビュー。01年の『I Shout Love』に続く、アリス・マンローの短編「クマが山を越えてきた」を脚色した初劇場長編映画『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』(06年)がアカデミー賞脚色賞および主演女優賞にノミネートされたほか40以上の映画賞・映画祭で受賞。続く『テイク・ディス・ワルツ』(11年)ではミッシェル・ウィリアムズを主演に既婚女性の満たされない心を赤裸々に描き話題となった。




webDICE_4-SP_with_Super8cam_flatscreen
映画『物語る私たち』より © 2012 National Film Board of Canada

映画『物語る私たち』
8月30日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

1970年代のダイアン・ポーリーは太陽みたいに明るくて無邪気だった。誰もが彼女に夢中になった。そんなダイアンが愛する夫と5人の子どもたちを残し、若くして亡くなったとき、末っ子のサラはまだ11歳。兄姉たちは言った。「サラだけがパパに似てない」。それは、ポーリー家のおきまりのジョーク。でもサラは、ほんの少し不安になる。本当のパパはパパじゃないのかもしれない。いつしかサラは、ママの人生を探りだす。その時みんなの口からあふれ出したのは、サラの知らない母・ダイアンの秘密の恋だった―。

監督・脚本:サラ・ポーリー
出演:マイケル・ポーリー、ハリー・ガルキン、スージー・バカン、ジョン・バカン、マーク・ポーリー、ジョアンナ・ポーリー、キャシー・ガーキン、マリー・マーフィー、ロバート・マクミラン、アン・テイト、ディアドラ・ボーウェン、ヴィクトリア・ミッチェル、モート・ランセン、ジェフ・ボウズ、トム・バトラー、ピクシー・ビグロー、クレア・ウォーカー、レベッカ・ジェンキンス、ピーター・エヴァンス、アレックス・ハッツ プロデューサー:アニタ・リー
エグゼクティブ・プロデューサー:シルヴァ・バスマジン
編集:マイケル・マン
撮影監督:イリス・ン
美術:リー・カールソン
衣裳:サラ・アームストロング
録音:サンジェイ・メータ
編曲:ジョナサン・ゴールドスミス
キャスティング:ジョン・バカン、ジェイソン・ナイト
ナレーション:マイケル・ポーリー
2012年/カナダ/カラー/108分/英語/DCP

公式サイト:
http://monogataru-movie.com/
公式Facebook:
https://www.facebook.com/koutei.kousyaku.movie2013
公式Twitter:
https://www.twitter.com/kouteikousyaku


▼映画『物語る私たち』予告編

レビュー(0)


コメント(0)