映画『バルフィ!人生に唄えば』より ©UTV Software Communications Ltd 2012)
耳と言語が不自由な青年バルフィと、彼との出会いで生きる歓びを取り戻していくふたりの女性の40年にわたる恋愛を描くインド映画『バルフィ!人生に唄えば』が8月22日(金)より公開される。主人公バルフィをランビール・カプールが好演し、豊かな表情と全身を使った演技でチャールズ・チャップリンやバスター・キートンの系譜を受け継ぐコミカルなキャラクターとして生み出している。彼に惹かれていく境遇の異なる女性をプリヤンカー・チョープラーとイリヤーナー・デクルーズというインドの人気女優が扮し、複雑な人間関係をとらえたドラマティックな人間ドラマとなっている。2013年の第85回アカデミー賞外国語映画賞のインド公式代表作品に選出された今作について、原作、脚本も手がけたアヌラーグ・バス監督が語った。
登場人物たちにロマンチックな恋愛をして欲しかった
──生まれつき耳が聞こえず話もできない主人公の青年バルフィ、家族の愛情を受けずに育った自閉症の少女ジルミル、そして富も地位もある結婚生活を送っていたもののバルフィの存在により生き方を変えていく女性シュルティ。3人の恋愛を描くにあたって、どのようなことを考えていましたか。
これは僕の個人的な考えだけど、初恋が成就することは稀で、人生の2度目に恋をした人が、本当に愛する人だと思っている。それはとても切ないことでもあるけれど、だかこそ、そこにドラマがあると思って映画に取り込みたかった。僕にとっての1970年代というのは、僕の両親が恋愛をしていた時代だ。だからロマンスのことを考えると、どうしても必然的にこの年代を想像してしまうし、登場人物たちにも僕の両親と同じように、ロマンチックな恋愛をして欲しかった。特に僕のお気に入りのシーンは、冒頭の「告白シーン」だね。あれを観れば、この映画のロマンチック度のレベルが高いことが早々にわかるんじゃないかな?(笑)。バルフィの魅力的なキャラクターもあれが物語っている。劇中でシュルティが、「愛する人と一緒に死にたい」と言うんだけど、それは僕の母の台詞なんだ。父の死後、母は生きていく気力を失ったんだよ。母方の祖父が亡くなり、その後、母方の祖母も他界した時は、僕たちは嘆き悲しんだりしなかった。死後の世界で2人が再び一緒になれたことをお祝いしたんだ。
映画『バルフィ!人生に唄えば』のアヌラーグ・バス監督
──バルフィ役にランビール・カプールを配した理由について教えてください。
バルフィ役が決まらないタイミングから脚本を書いていたんだが、ある時、先に進めなくなってしまったんだ。そんな時ランビールを思い出した。この映画は手話や台詞に頼らず、目や表情で物語を伝える必要があり、チャプリンのたたずまいは、彼にも共通する所があったんだ。この映画で手話を使うつもりはなかったが、耳や口が不自由な人たちには特徴的な仕草があるし、表情の移ろいなども独特だ。それを身につけるため、インド版ヘレン・ケラーといわれている『Black』というインド映画で手話を指導した女性を現場に招き、動きをよく観察したよ。彼女と話しているうちに、私自身も人とのコミュニケーションが以前より楽になったと思う。「会話」というのは、必ずしも「言葉」だけが必要なわけじゃない、ということを学び、この考えを使って、バルフィが、ジルミルを楽しませるという物語に閃いた。ランビールにチャップリンのサイレント映画を見るように伝えたし、バルフィという人物がチャップリンの影響を受けたことは間違いないよ。
映画『バルフィ!人生に唄えば』より、バルフィ役のランビール・カプール ©UTV Software Communications Ltd 2012)
最近の映画は言葉に頼りすぎている
──ジルミル役のプリヤンカー・チョープラーについてはいかがですか?
プリヤンカーは出演依頼がきた際に、当惑したらしいね。というのも、彼女にはあえて筋を伝えないことにしたんだ。ジルミルも周囲の出来事を知らずに生きているからね。現場の雰囲気に任せて即興で演じさせるために常に柔軟で、かつオープンであろうとしたよ。正直、ジルミルを演じるにあたり、「自分でいいのか」ととても迷っていた。しかし、僕にとっては、彼女なら成し遂げられる自信があった。
ただし非常に重い役だ。プリヤンカーが この役を完璧に演じないと、ジルミルという役は台無しになる。そんな話もした。しかも観客に同情されるような演技ではいけない。プリヤンカーは「怖い」と言って涙をポロポロ流していたよ。プリヤンカーほどの大女優が不安に陥っていたから、「初めて演じるのは どの役でも同じだろう」と言って諭したら、少し落ち着いたようだったし、彼女は想像以上の演技を見せてくれたね。
映画『バルフィ!人生に唄えば』より、ジルミル役のプリヤンカー・チョープラー ©UTV Software Communications Ltd 2012)
──シュルティ役のイリヤーナー・デクルーズはテルグ語映画やタミル語映画では知られていますが、ボリウッド映画には初出演ですね。
イリヤーナーは、南インド映画のスターだ。初めての北インド映画で緊張したようだよ。しかもこの映画は、 歌って踊る典型的な娯楽映画ではないからね。彼女は、内面から美しい人だった。結婚や別離について時間をかけ指導したよ。彼女には経験がないから、その心の繊細な動きの部分を何度も語ったんだ。
映画『バルフィ!人生に唄えば』より、シュルティ役のイリヤーナー・デクルーズ ©UTV Software Communications Ltd 2012)
──今作は、言葉に頼らないストーリーテリングや演出が特徴ですが、このようなテイストを目指した理由は?
チャーリー・チャップリンやバスター・キートンは偉大すぎて彼らについて、僕が論じるのはおかしいけれど、映画に携わる身として、2人にオマージュを捧げる気持ちで、この作品を完成させた。
昔、小さい頃に住んでいた町の映画館に行った時に、チャーリー・チャップリンの無声映画をやっていて、彼のようなキャラクターを持つ主人公の映画を、いつか撮りたいとずっと思っていたんだ。そもそも最近の映画は言葉に頼りすぎていると思うんだ。だからこそ、言葉を減らし、極力映像に集中させる映画を撮りたいと思っていたんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
映画『バルフィ!人生に唄えば』より ©UTV Software Communications Ltd 2012)
アヌラーグ・バス プロフィール
20代前半にテレビ業界でキャリアをスタート。1990年から2000年にかけて、様々なジャンルのテレビ番組の演出を担当し、インドのみならず世界各地で高い評価を受けた。2003年、『Kucch To Hai』(未)で映画監督デビューを果たす。その後、2004年の『Murder』(未) が製作費の7倍を稼ぐという大ヒットとなり注目されると、2006年の『Gangster』(未)、2007年の『Life in a …Metro』(未)で大ヒットを記録。『Life in a …Metro』では、作曲家プリータムを中心とするバンドが主人公たちと同じ画面に現れ、街角などで挿入歌を歌うという手法が取られ、これが“インド映画初”として注目された。2010年、『カイト(Kites)』(2011年・大阪アジアン映画祭クロージング作品)が60ヶ国以上で上映され、インド映画として初めて北米ボックスオフィスにて公開第1週の北米トップ10にランクインした。そして本作『バルフィ!人生に唄えば』で成功を収め、2013年の第85回アカデミー賞外国語映画賞のインド公式代表作品に選出された。
映画『バルフィ!人生に唄えば』より ©UTV Software Communications Ltd 2012)
映画『バルフィ!人生に唄えば』
8月22日(金)より、TOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほか全国公開
バルフィは生まれつき耳が不自由で話もできなかったが、とても陽気な性格だった。あるとき街で美しい女性シュルティと出会い惹か合うが、シュルティには富豪の婚約者がいた。シェルティは悩みながらも不自由のない生活を選ぶことを決める。その後バルフィの父が倒れ、手術費用に大金が必要となる。資産家の孫で自閉症のジルミルを誘拐することを思い付くが、別の誰かが彼女を誘拐するところでバルフィはジルミルを助ける。バルフィは彼女家へ送り届けるものの、心を開ける存在をみつけたジルミルはバルフィから離れない。
監督・原作・脚本:アヌラーグ・バス
出演:ランビール・カプール、プリヤンカー・チョープラー、イリヤーナー・デクルーズ
原題:Barfee
2012年/151分/インド
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:http://barfi-movie.com/
公式Facebook:https://twitter.com/BarfiMovie
公式Twitter:https://www.facebook.com/barfi.movie.jp