『【ザ・ファクトリー3】ワーク・イン・プログレス公開』(2013年)より Photo:Matron
彩の国さいたま芸術劇場芸術監督・蜷川幸雄率いる平均年齢75歳の演劇集団さいたまゴールド・シアターと、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団のダンサーとして活躍する瀬山亜津咲(せやまあづさ)による新作公演が8月28日(木)より4日間にわたり彩の国さいたま芸術劇場にて開催される。
これまで両組は、2012年に瀬山を講師に招いたワークショップに始まり、2013年にはワークショップに参加したメンバーにより、創作段階で試験的に上演するワーク・イン・プログレスとして作品を公開。瀬山から投げかけられる問いに、自身の人生から記憶を呼び起こしながら踊りや歌、語りといった表現で答え続けられてきた共同作業。その3年目となる今年は、満を持しての本公演となる。
ピナ・バウシュが実践して、演劇的な要素をダンス作品に取り込むスタイル「タンツテアター」に、初の海外公演と国内ツアーを実現したさいたまゴールド・シアターのメンバーがどのように挑んだのか。彼らが身体で語る個人史を瀬山がどう構成・振付するのか。今回は開催にあたり舞踊評論家・石井達朗氏によるレビューを掲載する。
同時代を生きる人々の甘く苦い経験が吐息となり…
文◎石井達朗(舞踊評論家)
ピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団は、全員でラインダンスを踊っていてもダンサーそれぞれの個性が際立っている。群舞全体の光景よりも、一人ひとりのダンサーはどんな人なんだろうかと想像させるのだ。ピナほどのスケールをもって今を生きる人々の多様な様相を、万華鏡のように開示する振付家はいなかった。
多国籍・多個性のピナの舞踊団のなかで、瀬山亜津咲はなくてはならぬダンサーだ。彼女が長年この舞踊団で培った経験は何物にも代えがたい賜物である。その経験を活かす絶好のチャンスが巡ってきた。昨年夏の「さいたまゴールド・シアター×瀬山亜津咲ワーク・イン・プログレス公開」と題された公演である。
2012年ワークショップより Photo:宮川舞子
高齢者による演劇集団さいたまゴールド・シアターは、力ある劇作家の戯曲と蜷川幸雄演出の相乗効果で眼を見張る成果を挙げている(個人的には『アンドゥ家の一夜』の絶妙な舞台が忘れられない)。「高齢者」と一括りに言うが、それぞれの歩んできた歳月が長いからこそ、体のなかに堆積した経験は唯一無二のもの。ひっそりとしまっておきたいものもあるだろうし、みんなで分かち合いたいものもあるだろう。いずれにしろ、この豊かさを舞台で活かさない手はない。
『【ザ・ファクトリー3】ワーク・イン・プログレス公開』より Photo:Matron
蜷川により鍛えられたゴールド・シアターの面々にとって、それまでやっていた演劇の稽古とは勝手の違うものであったはず。与えられた台詞をしゃべり演技するのではなく、自分自身を人前に出さなければならないし、踊りも踊るのだ。ワーク・イン・プログレスの断片断片に観客は大笑いしたり、涙腺を刺激されたり、意味不明で呆気にとられたり……。素直な直球が角度を変えて、観客席に飛んでくる。ピナ・バウシュは、稽古の過程でたくさんの質問をダンサーたちに投げかけ、ダンサーがさらけ出す私的な領域が取捨選択・組織化され、壮大なタンツテアターとなることが知られている。その方法論が、齢を重ねた人たちの創造性をこんなに刺激している。
『【ザ・ファクトリー3】ワーク・イン・プログレス公開』(2013年)より Photo:Matron
瀬山とゴールド・シアターとの間の共同作業には、楽しさも困難もあったと想像できる。確かに劇的なスペクタクルや、先鋭的なコンテンポラリーダンスとは程遠い。しかし、そんな試行錯誤を超えて立ちのぼってくるものがある。それはたとえぎこちなくても、ふつうの演劇やダンス公演には見られないものだ。同時代を生きてきた人々の、時に甘く時に苦い経験―それが吐息となり観客席に流れているからだろうか。今年は、これが本公演として打たれる。ふだん演劇を見ている人もダンスを見ている人も、いつもの舞台体験とはまったく別の空気が会場を満たしているのを感じるはずである。
《埼玉アーツシアター通信No.51より転載》
2012年ワークショップより、瀬山亜津咲(右)とさいたまゴールド・シアターのメンバー Photo:宮川舞子
さいたまゴールド・シアター プロフィール
彩の国さいたま芸術劇場芸術監督蜷川幸雄が率いる、55歳以上の団員による演劇集団。2005年11月、劇場芸術監督に内定した蜷川が、就任後第一に取り組むべき事業として「年齢を重ねた人々が、その個人史をベースに、身体表現という方法によって新しい自分に出会う場を提供する」ための集団作りを提案。誰もが経験する“老い”を“演劇”に昇華させようと、プロの俳優とは異なる独自の創造性を発揮し、また、演劇界の枠を越え、日本の高齢化社会の有り様に問いかけるモデル・ケースとして注目を集め続けている。 2013年、第6回公演にして劇団として初の海外公演と国内ツアー公演が実現。2014年6月現在、現在団員は63歳から88歳までの39名。
瀬山亜津咲 プロフィール
瀬山紀子に4歳よりクラシックバレエを学び、その後国立バレエスタジオにて石沢秀子に師事。アメリカ、ノースカロライナ・スクール・オブ・ジ・アーツ留学を経て、テキサスのバレエ・オースティン、メキシコ、キューバ等で研鑽を積む。その後ドイツに渡り、フォルクヴァング芸術大学で学んだ後、2000年にヴッパタール舞踊団に入団。以来、ピナ・バウシュの数多くの創作に参加し、レパートリー作品を踊る。ヴィム・ヴェンダース監督の映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011年)にも出演している。
『【ザ・ファクトリー3】ワーク・イン・プログレス公開』(2013年)より Photo:Matron
彩の国さいたま芸術劇場開館20周年記念
さいたまゴールド・シアター×瀬山亜津咲新作
2014年8月28日(木)~31日(日)
【公演情報】
日時:2014年8月28日(木)19:00開演/8月29日(金)14:00開演/8月30日(土)14:00開演/8月31日(日)14:00開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
料金:一般3,000円、メンバーズ2,700円、U-25*:1,500円 *公演時25歳以下の方対象(枚数制限あり)[税込・全席指定]
演出・振付:瀬山亜津咲(ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団ダンサー)
出演:さいたまゴールド・シアター
石川佳代 、小渕光世、神尾冨美子、上村正子、北澤雅章、佐藤禮子、田内一子、髙橋 清、滝澤多江、たくしまけい、竹居正武、谷川美枝、田村律子、都村敏子、寺村耀子、遠山陽一、林田惠子、百元夏繪、益田ひろ子、美坂公子、宮田道代、渡邉杏奴
【チケット取扱い・お問合せ】
○彩の国さいたま芸術劇場
0570-064-939(休館日を除く10:00~19:00)
[PC] http://www.saf.or.jp/ *PC画面でお席が選べます。
[携帯] http://www.saf.or.jp/mobile/
○チケットぴあ
0570-02-9999【Pコード:437-704】
http://t.pia.jp/(PC&携帯)
○イープラス
http://eplus.jp/(PC&携帯)
○ローソンチケット
0570-000-407(オペレータ対応)
0570-084-003【Lコード:37164】
http://l-tike.com/(PC&携帯)
公演詳細は下記より
http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/1326