映画『NO』より ©2012 Participant Media No Holdings,LLC.
ガエル・ガルシア・ベルナル主演で、南米チリで1988年に起こったアウグスト・ピノチェト将軍による独裁軍事政権に対する信任継続を問う国民投票を描き出す映画『NO』が、2014年8月30日(土)に公開となる
チリの映画作家、アレハンドロ・ホドロフスキー監督が最新作『リアリティのダンス』で舞台とした1920年代のカルロス・イバニェス大統領の時代と同じく、独裁軍事政権下のチリに生きる人々が描かれている。
国民投票の背景にはピノチェト支持派「YES」と反対派「NO」両陣営による1日15分のTVコマーシャルを展開する一大キャンペーン合戦があった。若き広告マン、レネ・サアベドラ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、友人の誘いで「NO」陣営のコマーシャルの制作を担当することになる。
レネはもともと政治的な活動をしていた人物ではなく、"売れる"CMを作ることを第一に働く広告マンである。長きにわたって弾圧され、誘拐や投獄などの悲惨な目にあってきた左派が、本来その口で語るのは悲しみや苦しみであるだろうが、彼はそんな暗いネガティブなイメージでは勝てないと、明るい未来のイメージやユーモアをちりばめた番組づくりを行った。
軽薄だと批判を受けながらも、国民の求めるものをマーケティングした結果、史実のとおり「NO」陣営は当初の予想に反し逆転勝利し映画は終わる。CMは世界を、人の意識を本質的に変えたのか?変えることができるのか?
本作はパブロ・ラライン監督の長編『トニー・マネロ』、『検死』に続くチリ独裁政権3部作の完結編と位置付けられている。webDICEでは、監督のインタビューを掲載する。
パブロ・ラライン監督インタビュー
「選挙があるたびに候補者から僕のところに電話がかかってくる」
主演のガエル・ガルシア・ベルナルとパブロ・ラライン監督
──この映画の予算をとるのは大変でしたか?
それほど大変だったとは感じていない。本作の場合は、映画のテーマに多くの人が興味を示してくれて、フランスやアメリカ、チリのプロダクション会社が資金を出してくれたんだ。
──テーマが障害になったのではなく、魅力になったわけですね。
そうだね。これまでの作品よりも資金集めは簡単だった。前作は雰囲気の暗い映画だったから。今回は暴力もなかったし。ただそれを意図したのではなく、内容が本質的に異なっていたわけなんだが。また脚本もオーソドックスなスタイルで、人が読んで楽しめる内容だった点も良かったんだろうね。多くの援助を得ることができた。
「NO」陣営のメッセージは明るくポジティブなメロディのCMソングで歌われた ©2012 Participant Media No Holdings,LLC.
──脚本はアントニオ・スカルメタの演劇が原作だそうですが。
脚本は長い時間をかけて完成させたんだ。当時のキャンペーンに実際に関わった多くの人々に会って話を聞いた。国民総投票の実態を理解するのは非常に忍耐力を必要とする作業だった。総選挙に至るまでの経過を、日にちを追ってリサーチしていった。何しろ関係者がみな生存して、現役で働いているわけだから、とてもデリケートなテーマなんだよ。いろんな人がそれぞれの意見を持っていて。僕としては最初とても怖かったね。間違を犯さないようにしなければならなかったから。
──80年代の映画であるかのようなスタイルで撮影したのは何故ですか?
過去を描いた映画の中にフッテージが挿入されるというスタイルはあまり好きじゃないんだ。現代風美しいキャスト、素晴らしいカメラマン、最新式カメラを使った映像の中に突然昔の映像が挿入されると、そこだけ撮影方式が異なっていてあまりに異質でしっくりこない、と感じるんだ。だから本作では80年代、フッテージが撮影されたのと同じフォーマットで僕らの映画も撮影した。そうすることによって、観ている人はフッテージと今回撮影された部分の違いが判らない。イルージョンのような効果を使うのは、映画として面白いんじゃないかと思ったんだ。
若き広告マン、レネ(ガエル・ガルシア・ベルナル) ©2012 Participant Media No Holdings,LLC.
──あなた自身当時のチリについて、記憶はどんなのものですか?
僕は当時12歳だった。毎日15分の政見放送があったのを覚えている。全国民がやっていたことを中止して観たものだよ。街の中は閑散としていて、ひとっこひとりいなくて、みんなが政見放送を観たんだ。このキャンペーンでピノチェトを追放できると感じたんだ。ピノチェトは、資本主義を導入し、それによってチリの経済は成長した。国民の収入もあがった。そこへ広告業界にいた一人の男が、彼はある意味でピノチェト政権、経済の恩恵を被った一人である彼が、そのピノチェトを追放する力となったんだ。スペイン語風な表現を使えば"自分を殺す毒を作った"とでも訳せるかな・・。
次第に国民の心をつかんでいく「NO」陣営には妨害と脅迫の影が ©2012 Participant Media No Holdings,LLC.
──この映画の主人公レネ・サアベドラのように自分で政治キャンペーンにかかわるつもりはありますか?
選挙があるたびに候補者から僕のところに電話がかかってくる。でも一度かかわると、自分が自由じゃなくなると思うんだ。政治家のためには働きたくないんだ。映画作家にとって最も大切なことは表現の自由だよ。誰か政治家の為の仕事すれば、それを失ってしまう。芸術家としての自虐行為だよ。だからやりたくない。
(オフィシャル・インタビューより)
監督:パブロ・ラライン (Pablo Larrain)
1976年チリ、サンティアゴ生まれ。映画、テレビ、コマーシャルの製作会社ファブラ(fabula)を創設。2005年『フーガ(Fuga)』で長編デビュー。2007年にはマテオ・イリバレン(Mateo Iribarren)とアルフレド・カストロ(Alfredo Castro)の共同脚本を監督した第2作目の長編『トニー・マネロ(Tony Mareno)』が2008年カンヌ国際映画祭監督週間に選ばれプレミア上映される。続く第3作目『検死(Post Mortem)』はアルフレド・カストロとアントニア・セヘルス主演で2010年9月ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に選出された。2010年、チリでHBOが初めて制作した『プロフュゴス(Profugos)』のテレビシリーズをスタートさせ、第2弾は2012年の6月よりチリで撮影を開始。本作『NO』は彼の長編映画第4作目である。また、プロデューサー作品として、2013年ベルリン国際映画祭でパウリーナ・ガルシアが主演女優賞に輝き、2014年3月に日本でも公開された『グロリアの青春』がある。
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映画『NO』
2014年8月30日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー
監督:パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、アルフレド・カストロ、アントニア・セヘルス、ルイス・ニェッコ
2012年/チリ・アメリカ・メキシコ/カラー/118分
配給・宣伝:マジックアワー
©2012 Participant Media No Holdings,LLC.
公式サイト