骰子の眼

music

奈良県 奈良市

2014-08-07 15:20


バンド30%、レーベル30%、ショップ40%─奈良から発信するLOSTAGE五味岳久さんが語る「現場至上主義」

地元THROAT RECORDSと生活圏内から生まれたニューアルバム『Guitar』について
バンド30%、レーベル30%、ショップ40%─奈良から発信するLOSTAGE五味岳久さんが語る「現場至上主義」
THROAT RECORDSの入口にて、LOSTAGEの五味岳久さん。

奈良のロックバンド、LOSTAGEがアルバム『Guitar』をリリースした。彼らは2011年、自主レーベルTHROAT RECORDSを立ち上げ、2012年には地元奈良にレコードショップTHROAT RECORDSをオープン。LOSTAGEはUSのオルタネイティヴ・ロックに強い影響を受けた、攻撃的で狂気を秘めたサウンドを信条としていたが、今回のアルバム『Guitar』には、歌とメロディにフォーカスが当てられ、地元をベースにした生活密着型の活動の影響が感じられる仕上がりとなっている。今回は彼らの拠点で奈良駅から徒歩5分のところにあるTHROAT RECORDSにて、ヴォーカル/ベースの五味岳久さんにバンド、レーベル運営、ショップ経営、そして“五味アイコン”で知られるイラストレーターとしての活動について話を聞いた。顔の見える関係性から広げていきたいという五味さん。取材に訪れた土曜日のお昼時、ちょうど常連さんだという男性のお客さんが訪れ、五味さんからのお薦めのレコードを試聴して買っていった。

■聴いてくれる人の日常や、普段見ている風景に重なってくれたら

『Guitar』は録音を奈良市法華寺町、奈良駅から徒歩20分ほどのNEVERLANDという10代の頃からライヴをやっているホーム的なライヴハウスで行いました。この店で歌詞を書いたり、ドラムの岩城(智和)は近くのスタジオで働いているし、エンジニアの岩谷(啓士郎)もこの店の近所に住んでいるので、仕事を終えてからミックス作業をしたり、半年くらいをかけて、生活圏内で全て制作を進めたので、必然的に等身大になりましたね。

今回のアルバムの曲調は、ここ数年くらいでアコースティック・ライヴをやる機会が多くなったことも影響していると思います。早い曲は少なめに、歌ものをじわっとやりつつ、できるだけ尺を長くせずに、40分くらいで8曲というボリュームのアルバムのほうが僕も聴いていても好きなので。アルバムを通して聴いてもらいたいというのもあったし、配信に対抗しているわけではなく、一枚のアルバムでストーリーがあって、頭から順番に流れを聴いてもらうのが、僕がいちばんCDを聴いていたときの聴き方なので、それをやりたかったんです。

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THROAT RECORDSの店内。

昨年、よくライヴ一緒にやらせてもらっていたbloodthirsty butchersの吉村秀樹さんが亡くなって、それをきっかけにメンバーと話して「Good Luck / 美しき敗北者達」という曲ができました。ブッチャーズを意識したサウンドにして、曲の中で吉村秀樹が立ち上がってくるような感じにしたかった。それから、店の常連で毎日ここにいた僕の友達が亡くなったり。そうしたことからアルバムが「失ったもの」というテーマにどんどんシフトしていったんです。ヘヴィーだけれど、みんないつか死ぬ。僕も今日家に帰る途中に事故に遭って死ぬかもしれない。死って非日常的なところと同時に、いつでもありえるし、いつも死ぬことを考えているというのは自然なこと。だから生きている間に、やれることを、生み出せるものの素晴らしさがあるんだし。それはとても普遍的なテーマですよね。

聴いてくれる人の日常や、普段見ている風景に重なってくれたら、その隙間に差し込んでいきたというのはいつも思っています。エンターテインメント性のあるバンドや音楽の素晴らしさはもちろんありますが、自分には向いてない。エンターテインメント的なことを否定するわけではなく、そうではない表現のある意味を考えた結果です。

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アナログの試聴スペースにはbloodthirsty butchersのポスターが。

■自分の生活にできるだけ音楽を近づけたい

THROAT RECORDSのあるこのあたりは、もともと個人の商店がいくつかある地域なんですが、観光のメインストリートから一本外れているので、家賃も安くて。そういう場所にいい物件があったので、2012年にオープンしました。内装もぜんぶ自分でやりました。ホームセンターコーナンが車で数分のところにあるので、そこで2×4の安い木を買ってきて、ノコギリで切ったりしながら。よく見ると棚のところがずれたりしてるんですけど(笑)、自分で直していったほうが長く使えるし。

自分の生活にできるだけ音楽を近づけたい。もちろん音楽を仕事にしたいと思っているんですけれど、生活の循環のなかで自分の歌を作りたいし、聴いてくれる人の生活の糧になる、それが音楽の本来の役割じゃないかな。大きなスタジアムでやるとかオリコン何位という良さもあると分かってるんですけど、週末会いにいけるところにいて、店で普通に会話ができて、気負わずに楽しめる音楽が自分には合ってるなとずっと思っていました。

現在の生活でそれぞれの活動の占める割合は、バンド30パーセント、レーベル30パーセント、店が40パーセントくらいですかね。バンドのライヴがあれば休む、わがままな店で迷惑をかけていますが、バンドをやるために店をオープンした、ということはあるので、稼働しなければいけないときはバンドを最優先しています。

この店でレーベル業務やデザインの仕事もしていますし、歌詞や曲を書いたりもします。7インチの弾き語りのレコードをRECORD STORE DAYのときにリリースしたのですが、その録音もやりましたし、新作のミュージック・ヴィデオ「Flowers/路傍の花」もここで撮りました。店の売上だけだと生活できないので、ライヴの上がりとライヴの物販を合わせてギリギリです。ここはライヴの物販の延長としても機能しているので、いろいろ混ざっていますね。

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■ショップを始めて、古い音楽に触れる機会が多くなった

THROAT RECORDSの商品は、最初は自分の持っていたレコードや集めていたCDを並べていましたが、中古は回転させないといけないので、現在は買い取りもしていますし、知り合いの中古レコード屋に安く在庫を分けてもらったりもしています。たまに流通に乗っている新品の作品を流通会社から買うこともありますが、友達の普段一緒にライヴをやってるバンドから直接買うことの方が多いです。いいなと思う音楽はたくさんあるし、店の需要、お客さんのほしいものもある。だからできるだけ自分たちの身近なバンドの作品をセレクトしたほうが、ライヴも観ているし、そのバンドのメンバーも来たりするから、僕が薦めやすいんです。それから、奈良のバンドの作品はどんなバンドでも、作品やデモを無条件でぜんぶ買い取って、置かせてもらっています。

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お客さんは土日は15時くらいから、平日は17時くらいからぼちぼち来ます。夜は20時までなんですけれど、だいたいその後も友達が酒持って来たり。たぶんLOSTAGEのファンの子がいちばん多くて、中古商品の品揃えよりも、店の雰囲気を感じにきてもらったり、僕と話しにくるのが目的の人もいる。レコードが好きでレコードだけ見にくる地元の人もいる。お店に来てくれたことをきっかけに徐々に仲良くなっていくので、僕のバンドとか一切知らない友達もいますよ。あと奈良なので、旅行客がたくさん買って「後で送ってくれ」ということもたまにありますね。

商品のPOPは全て自分で書いています。CDにサインするのと同じで、僕が書いたことに意味があるんだ、と大阪のFLAKE RECORDSのDAWAさんに言われましたが、やってみて難しいなと思いました。雑誌のディスクレビューのように、どれだけそのアルバムをいいと思わせるか、今まで僕は書いてもらう立場だったので、まったく違うバンドの説明を、初めてそれを見た人にどうやって伝えたらいいか考えたことなかったので。

この店を始めて、新しい音楽よりも古い音楽に触れる機会が多くなりました。買い取りで入ってくる作品は検盤で聴かなければいけないし。もともとレコード屋をやるつもりもなかったから、自分より若い世代や上の世代がどういう音楽を聴いているかを、よく店のお客さんに聞きますね。それで後でネットで調べて買ってみたり(笑)。面と向かって人のお薦めを聞くのって、バンドの友達とはありますが、お客さんや、世代の違う人に聞く機会ってないので新鮮ですね。

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■バンドのメンバーがいる場所があることの説得力

店番にアルバイトを使おうか悩んでいるところなんですが、単純に売上的に店番を雇うより閉めておいたほうがマイナスにならなかったり、僕に会いにきてくれるお客さんがけっこういるなかで、せっかく来てくれたのに僕がいないとか。仕方がないけれど、それはちょっと寂しいなと思うし。「よく閉まっているけど、開いていたらあいつがいる」みたいな感じのほうが、今は面白いのかなと思っています。

ネットで事足りることが増えたから、というのもあるでしょうけれど、ただバンドがCD出してる、ということよりも、メンバーがいる場所があるということで説得力が変わってくる、揺るぎないものが生まれる気がします。ライヴでのバンドとオーディエンスとの関係と違いますし、ライヴの物販も自分でやっているなかで、ライヴハウスではそんなにゆっくり話す時間がない。だから、こういう場所があれば、時間を気にせず、どうでもいい話もできるので、楽しいです。(バンドの)本人がいると来にくい、という人もいますけどね(笑)。

通販は基本やってなくて、問い合わせがあって新品であれば対応できる範囲内でやっています。でもツアーでいないことも多いし、返信が遅れたり、中古で「状態が良くない」という対応をぜんぶやってると無理が出てくるので、やっぱり店に来てほしいです。

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LOSTAGEのグッズ、そして繋がりのあるバンドのアイテムも五味さんのPOPとともに展開されている。

■アナログ・レコードは盛り上がってる、
でも無理に薦めたりはしないです

東京は世界一レコードのある街だと言われていますが、奈良は田舎なので、そこまでレコード・ブームの実感はないです。レコードに免疫のなかった世代の人が興味を持ちだしているな、というくらい。DAWAさんと昨日も会って話していて、若い人も興味は持っているけれど、アーティストが影響を受けた昔の好きなアーティストの中古盤を探して買うとか、サンプリングのネタを探しにくるといったことが、若い人で増えた感じはそんなにしないです。だからプレーヤーを持ってない人もいっぱいいますし、記念品的な扱いの人もいますね。新譜に関しては、自分で作ったものも含め、売れ枚数は増えているかもしれません。

レコードの音の方がいいとよく言いますけれど、そこまで普通のオーディオの環境だと分からないと思うんです。だからデータで聴いてもらってもレコードで聴いてもらってもいい。僕自身はCD全盛のときに買っていた世代なので、無理にレコードを薦めたりはしないですね。

■物販は「みんなに喜んでもらえるもの」を

イラストの仕事は、これはできるなという範囲でやらせてもらっています。バンドのTシャツやフェスのタオルのデザインとか。画は落書きみたいにいつも置いてあるので、仕事が来たら、そこから集めてきたりしています。だから仕事じゃなくてもいつも書いていますね。

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映画『ホドロフスキーのDUNE』に提供した描き下ろしイラストレーション(2014年)。

物販の業務も、面白そうな人がいたら頼んだりしたいと考えることもあるんです。でも自分でやるのがいちばん早いですし、お金もかからない。買ってくれる人からしたら、本人が作ったということでプラスアルファになる。メンバーにもどんなグッズを作るか相談しても、あまり興味ないみたいなんですよ。ギター、ドラムの機材やチューニングやメーカーについてはうるさいですけれど、僕はあまりそういうのはふたりのようにマニアックな執着心がない。それが今はバンドとしていいまとまりになっていると思います。

バンドのグッズは、最初は自分がいいなと思うものを作りたいと思っていたんですが、その後自分が作って売る現場にも立って、お客さんから「こういう色が欲しい」「ロンT作らないんですか」という声を聞くと、自分のデザインよりもそちらを優先したりするようになってきました。作ったら買ってくれる、需要が目に見えるというか。お客さんも嬉しいし僕も嬉しい、誰も損しないじゃないですか。それだったら、みんなが喜んでもらえるもので、かつ自分がいいと思うものを作りたい。音楽も一緒で、いいバランスでものを作るのは面白いですね。

これからは、人と一緒にやる楽しみ、達成したときに共有できる楽しみを、具体的に自分のやってる仕事でできたらというのが課題ですね。東京はそうした人材の絶対数が多いじゃないですか。地方だとなかなか価値観を共有できる人を見つけにくいのがネックかな。決して東京はうらやましいと思いませんが、フットワークの面ではやっぱり東京がいちばんだなと思います。

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店内のカウンターにて。この奥に作業スペースがある。

■レーベルの基準は「一緒に飲みに行って楽しいかどうか」

2011年にレーベルTHROAT RECORDSを立ち上げてから、LOSTAGE以外に、RopesTheSpringSummerCrypt Cityといったアーティストをリリースしてきましたが、そこまでアーティストを探しているというわけではないんです。出すところなくて困っているという話と、僕がやりたいなと思った作品がたまたまいいタイミングが続いて。レーベルのオーナーとして、他のアーティストの作品に関しては、そのバンドがいいと思っているものが最高だと思っているので、出来上がるまであまり何も言わないです。流通の手伝いをしたり、ライヴのブッキングの相談や物販をサポートしたり。デモも送られてきたりしますけれど、いい音楽かどうかは前提で、一緒に飲みに行って楽しいかどうかみたいなのが基準みたいなところがありますね(笑)。縁があればこれからも他のアーティストを手伝いたいと思います。

現在の音楽シーンにおけるレーベルの存在意義については、どう考えてもデータのほうが早いし便利だしかさばらない。配信だけのレーベルもスピード感あってかっこいいし、それがすごい勢いで広がっていくのも、認めないといけない部分ってある。僕らが「フィジカルなもの最高!」みたいなことをずっと言い続けていくのは違うと思うし。でも自分がCDを聴いて育ったこともあって、フィジカルなものが欲しくなるときに、若い人にとっても選択肢のひとつとしてレコードやCDがあれば、それを用意しておける場所を作っておきたい。僕の周りも、データがどうとかアナログがどうというより、音楽そのものを大事にしている価値観の近い人ばかりですね。

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開店祝いにもらったという、ロゴ入りのキャッシュトレイ。

流通はスペースシャワーに委託をしています。レーベルを始める前に出した作品をきっかけに、声をかけてくれたんです。今までの経緯を分かってくれていて、歳の近い担当の人がすごく熱くて、お金だけでない情熱のある人なので、一緒にやっています。

『Guitar』の宣伝については、自分からアグレッシブに手当たりしだいにいろんなところにサンプルをばらまくのは僕たちのやり方じゃないかなと、ほんとうに聴いてほしい親しいライターの人とかバンド仲間にだけ送りました。それでも嗅ぎつけくれる人から連絡が来て、データを送ったりしました。あとはリリースされてから誰か興味を持ってくれた人が「取材やります」と言ってくれたら喜んでやりたい。

広告についても、人との関わり方や繋がりもあるから、お金払うこと全部がNOというわけではないんです。でも、抱き合わせ感がすごい嫌で、広告の営業はそれだけでやって、取材は取材でそのメディアの興味があることに集中してもらいたい。そういう純度の高い記事を僕も読みたいなと思うし。

ライヴ配信といった趣向も、ネットの助けを借りて現場に還元できればいいんですけれど、そこにのめりこんでいくのは自分は違うなと思う。そのネットならではの良さもあると思って見ていますが、僕にとってバンドとは、その場で生み出す生の演奏。そこにしかないもので、それを聴きにきてくれる人がいて、それを作るライヴハウスという場がある。現場至上主義というか、そもそも何をやってるのか、というところから離れていかないようにしていきたいです。

(取材・文:駒井憲嗣)



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THROAT RECORDS

奈良県奈良市小川町14-1グランテール1F
TEL/FAX:0742-23-4700
http://throatrecords.tumblr.com/




五味岳久 プロフィール

2001年五味兄弟を中心に地元奈良にて結成・奈良にて活動を続ける3ピースロックバンドLOSTAGEのボーカル&ベース。2007年のメジャーデビュー以降、アルバム4枚をリリース。自主レーベルTHROAT RECORDS、レコードショップTHROAT RECORDSを立ち上げ、より精力的な活動を行っている。またイラストレーターとしても注目を集めている。
http://takahisagomi.com/
http://lostage.co/




フ?リント

LOSTAGE『Guitar』

DDCZ-1968
2,300円(税込)
発売中

1.コンクリート / 記憶
2.Nowhere / どこでもない
3.いいこと / 離別
4.Guitar / アンテナ
5.深夜放送 / Unknown
6.Flowers / 路傍の花
7.Boy / 交差点
8.Good Luck / 美しき敗北者達

[ LOSTAGE GUITAR TOUR 2014 ]
8月7日(木)LIVE HOUSE FEVER
8月21日(木)京都 磔磔
8月30日(土)伊那 GRAMHOUSE
9月14日(日)静岡UMBER
9月15日(月祝)名古屋 HUCK FINN
9月18日(木)大阪 十三 FANDANGO
9月20日(土)柏 ALIVE
9月21日(日)仙台 BIRDLAND
9月23日(火祝)札幌 KLUB COUNTER ACTION
9月27日(土)広島 4.14
9月28日(日)福岡 KIETH FLACK
10月30日(木)渋谷 CLUB QUATTRO

詳細はLOSTAGE公式ホームページまで
http://lostage.co/

▼LOSTAGE「Flowers/路傍の花」Music Video

キーワード:

LOSTAGE / 五味岳久 / 奈良


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