骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-07-31 16:35


ネット時代のクリエイターの生き残る術とは?著作権と創作活動の関係を熱く語る「リミックス映画祭」8/2開催

日本初公開の『コピアッド・マルディトス~ステファンの挑戦』ほか3作を上映
ネット時代のクリエイターの生き残る術とは?著作権と創作活動の関係を熱く語る「リミックス映画祭」8/2開催
映画『コピーライト・クリミナルズ~音楽は誰のもの?』より

オフィスもなければ予算も助成金もない。映画関係者でもなければ音楽業界の人間でもない。「海外の素晴らしいドキュメンタリーを日本語に訳してより多くの人に見てもらいたい。しかも上映だけにとどまらず、ディスカッションを通して知識を深め、様々な角度から物事を考えてほしい」という思いのもと企画されている「リミックス映画祭」、その第2回が8月2日(土)渋谷アップリンク・ファクトリーで開催される。

2012年の第1回では弁護士、クリエイター、DJ、IT企業、研究者、アクティビストなどが会場に集合。業界や思想の垣根を越えて肩を並べる、オールインクルーシブの参加型フェスティバルとなった。今回の開催にあたり、映画祭の見どころを、主催の5th-element.jpの田中恵子さん、玉川千絵子さん、野田美稀さんの共同編集によるテキストで紹介する。

問題意識を共有できる出会いの場に

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リミックス映画祭を企画する5th-element.jpの3人。写真左から田中恵子さん、野田美稀さん、玉川千絵子さん。きっかけはヒップホップサンプリングの軌跡を追った映画『コピーライトクリミナルズ~音楽は誰のもの?』との出会い。自ら字幕を付けたいとNYの会社に問い合わせた。(撮影:2012年6月22日)

本イベントは、ドキュメンタリー3本の上映と、ディスカッションから構成される。「著作権は誰のミカタ?」をテーマに映画を通じて各国の著作権と文化の現状を見つめ、様々な立場の人が意見を交わす。あらゆるコンテンツが数秒でダウンロードできる今、わざわざ映画館に足を運んで見なくても、ネットで見ればいいや、そう思うかもしれない。しかし、技術がそうさせるからといっても、海賊版が出回ったりまじめな製作者が不利益を被るようなテクノロジーに私たちは賛同できない。映画館で作品を観ることはただのコンテンツ消費ではなく、語り合いや出会いといった経験など、その場限りのまたとない機会に価値がある。だからこそ、リミックス映画祭では会場で一緒に映画を観て、友人と感想を語る経験を大切にし、新しい書籍や音楽に出会ったり、アーティストや弁護士と意見を交わして目の前の問題を共有し、未来を選ぶための場所づくりをすることを目的としている。

ここからは、主催者の企画裏話とともに、今こそ誰もが映画祭に参加して「著作権のミカタ」を知るべき理由を紹介する。


理由①:『音楽に起きたことは、かならず書籍、映画にも起こる』

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モスクワでの海賊版DVD市場について話すロシア人。映画『グッドコピー、バッドコピー』より

そう話すのは映画『グッドコピー、バッドコピー』日本語字幕を制作したフリーメディアリサーチラボのメンバー、higevisionさん。同作品は著作権のあり方と新しい音楽ビジネスモデルを探りながら、ナイジェリアの映画産業であるノリウッド、ブラジルのテクノブレーガの現場を旅する。iTunesで音楽をダウンロードするのが一般的になった2000年代からさらにシフトし、今や月額制のストリーミング視聴サービスが日本にも上陸しコンテンツ配信の戦国時代に突入した。そしてデジタル化に伴いかつてのビジネスモデルでは立ち行かなくなったのは音楽産業だけではない。かつてストリートに溢れたブートレッグのように、今は「第2のミックステープ時代だ」とこの映画は捉えている。

今ではアメリカのハリウッド、インドのボリウッドに続く映画の都ナイジェリアでは、一年間に制作される映画は1,000本にも及ぶ。その作品の多くは、制作期間は10日程度で予算もかなり少額だ。テクノロジーの発達で、一般の人たちがホームビデオを撮影する感覚で「映画」を制作できるようになったのだ。もともと娯楽としての映画人気が高いナイジェリアでは、1億6千万人の「市場」に支えられた海賊版産業も同時に発達している。


理由②:クリエイターは自由なインターネットの恩恵を受けている

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マドリッドの小さな出版社トラフィカンテス・デ・スエニョスではクリエイティブコモンズライセンスを利用し、デジタル版を配布することで書籍の海外展開につながっているという。8月2日本邦初上映『コピアッドマルディトス~ステファンの挑戦』より。

デジタル化の波に足元を奪われた業界は、テクノロジーのもたらす破壊的イノベーションに対して、ネットワークの遮断や規制強化で対抗しようと先急ぐ。しかし、テクノロジーを否定し過去にしがみつくことで未来は開けるのだろうか。例えば、私たちのような有志のグループが海外の映画作品を買い付け、翻訳し、上映することは現代のテクノロジーなしでは実現不可能に等しい。リミックス映画祭で上映するデンマーク、アメリカ、スペインの3カ国のドキュメンタリー作品は、私たちが仕事として各国の映画見本市に出向いて見つけたのではなく、インターネットのおかげで出会えた作品である。ネットを通じて映画製作者と直接つながり、メールやスカイプで監督や企業に問い合わせ交渉する。翻訳家で主催者メンバーの玉川千絵子は日ごろからオープンソースウェアやフリーソフトを活用し、映画『コピーライトクリミナルズ~音楽は誰のもの?』と『コピアッドマルディトス~ステファンの挑戦』の字幕翻訳を手がけた。そんな玉川は「何十万円もする字幕編集ソフトを買って、仲介業者を頼りに字幕翻訳をする時代は終わりつつあるのではないか」と話す。インターネットは共同運営や流通、コミュニケーション等のコストを激減させ、「新しいことを始めるコストをほぼゼロ」にしたのだ。


理由③:大好きなアーティストが犯罪者呼ばわりされたままでいいのか

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「インターネットを使えばレーベル契約もいらない。作品を公開すれば直接反応が返ってくる。テクノロジーは俺たちの味方だ。ただ、これは”違法”だから、ミックステープみたいにこっそり売りさばくしかないけどな」(映画『コピーライトクリミナルズ』より)

パソコン一台で誰でも簡単にマッシュアップができるようになるずっと以前、「サンプリング」の手法を扱っていたのは1970年に生まれたヒップホップカルチャーだった。映画『コピーライト・クリミナルズ』では、ヒップホップ音楽が金儲けになるとわかると、サンプリングの著作権をめぐって裁判沙汰が頻発するようになった経緯を描いている。その一方で、サンプリングされる側としてサンプリングされても、ビートの権利所有者でないためロイヤリティを一銭ももらっていないファンキードラマーのストーリーも紹介されている。元ネタの著作権を法的にクリアしようとすれば煩雑な手続きと法外な使用料を払わされるはめになってしまう現状に打開策はないのだろうか。


理由④:クリエイティブコモンズ、フェアユースは表現の自由の楯

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スペインのドキュメンタリー『コピアッド・マルディトス~ステファンの挑戦』では監督が自らテレビ放送用に製作した作品をネットで無料公開するためにどうしたらいいか、迷宮のような道のりに苦労する姿が描かれている。

ステファン監督はその打開策としてクリエイティブコモンズライセンスという著者自らが定義できる新しい著作権の在り方から一つのヒントを得る。様々な条件付けができるが、例えば自分の著作物を自由に配布したり二次創作していいよ、ただしそれで金儲けをしないでねと意思表示しておくことで創作の連鎖を広げることが可能だ。5th-element.jpも2009年当初からクリエイティブコモンズライセンスに着目し、広告を設置せず持ち出しの資金でウェブサイトを立ち上げ、クリエイティブコモンズライセンスの素材を活用してきた。そうした中で、本イベントはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンにも協力していただいている。


理由⑤:ネットで誰もがプロデューサーに、でも資金源は?

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DJやプロデューサーはITを使う演奏者。映画『コピーライト・クリミナルズ』より

純粋につくる楽しみをみんなでシェアすることにはお金の視点が入らず面白い土壌だ。その一方で2012年のディスカッションにでは、「いい音楽を作っている人が夜勤のバイトをしながら一生懸命お金にならない曲を創っているのをみていると、これがいつまで続くんだろう、本当にいい音が継続的に作っていけるんだろうかっていうことがとても悩ましい」とアーティストや創作活動における資金調達の問題も挙げられた。

こうした中、映画界の制作・配給・資金調達面での問題を解決する新たな取り組みとして、『コピアッド・マルディトス~ステファンの挑戦』では、誰でも最低2ユーロ支払うことで共同プロデューサーになれる、映画『コスモナウント』の制作を取り上げている。同作品はインターネットを使ったイベントなどで映画の存在を宣伝し、単なる映画配給だけではなく、関連書籍、アプリ、ゲームなどの販売も行う、メディア縦断型に展開している点が特徴的だ。インディペントな活動を支える方法として、最近日本でもいろいろなプロジェクトでクラウドファンディングを利用するようになっている。インターネットの発達で、クリエイター達は制作面だけではなく資金調達の面でも新しいビジネスモデルを築きつつある。


理由⑥:グローバルな著作権、そして目の前にあるクラウド課金

インターネットから富を得るものもあれば、新聞社のように読者を奪われ損をしていると感じるものもある。スペイン議会はこのほど、新聞社のニュースをネットで利用するのは知的財産侵害に当たるとみなし、ネット記事のリンクに課税する法案を通過させた。日本でも、デジタル空間での利用料徴収に躍起になる勢力が目につく。『文化庁 文化審議会』の著作権に関する小委員会に出席したインターネットユーザー協会代表理事の津田大介氏によると、クラウド型オンラインストレージサービスに対し著作権料を徴収するべきとの意見が音楽著作権協会から出ていることが明らかになった。

ネットをつたってコンテンツが国境を越え、テクノロジーを武器にしたユーザーがリミックスやマッシュアップを見たり作ったりする状況が一般化した今、ひとりひとりがどうやって著作権と向かい合っていきたいのか。無料配布だけではクリエイティブな活動から経済的自由は得られないし、著作権使用料は徴収されども還元の行方は知れず……。このようなジレンマのなか、各国の状況をグローバルにとらえ、文化の発展のために話しそびれたくない大切なことをこの日、みんなで知識を寄せ合って一緒に考える機会にしよう。

(文:田中恵子、玉川千絵子、野田美稀[5th-element.jp])



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リミックス映画祭2014 ~著作権は誰のミカタ?~
渋谷アップリンク・ファクトリー
2014年8月2日(土)17:15開場/17:30開演

料金:2,500円+別途ドリンク代500円
プログラム:ドキュメンタリー2本立て上映&ディスカッション
上映作品 『コピーライトクリミナルズ~音楽は誰のもの?~』
『Copiad Malditos!~ステファンの挑戦』

16:00よりドキュメンタリー映画『グッドコピー、バッドコピー』の無料上映有り(受付にてドリンク代¥500のみいただきます/15:45開場)
〈定員60名程度・要予約〉
主催: 5th-element.jp
協賛:クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)
ご予約はこちら 予約フォーム

参考上映作品
『グッドコピー、バッドコピー』

インターネット、ファイル共有、音楽作成ソフトの台頭や、ナイジェリアのノリウッド、ブラジルのテクノブレーガの現場紹介を通して「文化と著作権」の現状を描く。監督はグラフィティカルチャーを紹介した『インサイド/アウトサイド』のアンドレアス・ジョンセン他。

監督:アンドレアス・ジョンセン、ラルフ・クリステンセン、ヘンリキ・モルトケ
出演:ガールトーク、DJデンジャーマウス、ローレンス・レッシグ、他
2007年/59分/カラー/デンマーク/原題『GOOD COPY BAD COPY』
日本版監修:Free Media Research Lab
★こちらの作品は16:00より無料上映いたします。鑑賞を希望される方は当日受付にてドリンクチケット¥500をご購入下さい。

上映作品①
『コピーライトクリミナルズ~音楽は誰のもの?~』

「他人の作品を自分の作品の一部に使用することが許されるのだろうか。「音」に著作権はあるのか。本作品『コピーライト・クリミナルズ』では、こうした問題をヒップホップ・アーティストのサンプリング音楽を取上げながら検証していく。また、音楽プロデューサーや DJ、音楽や法律の専門家へのインタビューを通じて、サンプリングを取り巻く問題や、法律がヒップホップ音楽の製作過程を変化させてしまったことなどを描き出している。

監督:ベンジャミン・フランツェン、ケンブリュー・マクレオド
出演:クライド・スタッブルフィールド、チャック・D、デ・ラ・ソウル、他
2009年/54分/カラー/アメリカ/原題『Copyright Criminals』
日本語字幕:玉川千絵子(5th-element.jp)

上映作品②
『コピアッド・マルディトス~ステファンの挑戦』

監督:ステファン・グルエソ
出演:リチャード・ストールマン(フリーソフトウェア財団)、レオ・バシィ(コメディアン)、シモーナ・レヴィ(活動家)、ルーツ・エマーリック(Spotify)、エンリケ・ロラス(スペイン著作権協会)他
2011年/58分/カラー/スペイン/原題『Copiad Malditos』
日本語字幕:玉川千絵子(5th-element.jp)

「テレビ向けにドキュメンタリー映画を制作して、インターネットで公開したい。簡単なことだろ!?」とメガホンを取った監督。ところが、意外と大変である。コピーライト(著作権)、コピーレフト、クリエイティブ・コモンズ、オープンソース、MP3、インターネット、ダウンロード、シェア、P2P…。果たして、真っ当なネット公開の道は見出せるのか? 法律・道徳・世間の目といったシガラミの中で、あらゆるものが簡単に複製、コピー、リミックスされるデジタル時代の著作権の問題に体当たりで挑む意欲作。


公式サイト:http://www.remixfilm.org/
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▼映画『コピーライト・クリミナルズ~音楽は誰のもの?』予告編

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▼映画『グッドコピー、バッドコピー』予告編

キーワード:

著作権 / ドキュメンタリー


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