骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-07-18 15:46


「目の快楽、感覚で受け取る」タナカカツキが語るアート・アニメーションを楽しむ方法

7/29渋谷アップリンクにてアニメーションに浸るイベント『タナカカツキの「アニメの時間」第一回』開催
「目の快楽、感覚で受け取る」タナカカツキが語るアート・アニメーションを楽しむ方法
『タナカカツキの「アニメの時間」』会場の渋谷UPLINK FACTORYにて

いまのアニメーション作家はなにを考え、なにをつくり、どこへ向かうのか。そんな素朴な疑問を解決するべく7月29日(火)より渋谷UPLINK FACTORYにてスタートする新イベント「アニメの時間」。気鋭のアニメーション作家を招いて、アニメーション作品の上映とトークを行なうこのイベントのホスト役を務めるのが、『バカドリル』『オッス!トン子ちゃん』といったマンガや、カプセルトイシリーズ『コップのフチ子』の共同開発や近年はサウナ大使(!?)としても活躍されているクリエイターのタナカカツキさん。カツキさんのアニメーションへの熱い想いと、サウナへの暑い想いを、なるべくアニメーション寄りになるよう、お話をお伺いした。

将来どうすんの?

──今回のイベントの開催経緯からお聞かせください。

それこそ15年くらい前に、デジタル環境下での個人制作によるアート・アニメーションが盛り上がってたんですよ。いまでは当たり前ですけど、個人が自宅でアニメーションが作れるっていう夢の世界がやってきて。そういう人たちが映像祭に出品していて、僕も出品していましたし。道具の進化があった時代でしたからね。でもいまはね、道具の進化も久しいし、発表の場も開かれてるかっていったら、どうなんでしょ。ムードとしてアートアニメが盛り上がってるとも思えない。それなのに、才能ある若い作家も毎年現れますよね。彼らはいったい何を考え、どんな未来の夢をみて……。

──いったい何をしてるのか?と

そうそう。それもあるし、将来どうすんの?みんながストレス抱えながらあくせく働いている時代じゃないですか。そんな中、コツコツコツコツ、いったい何してはるんですか?!って確認したくなって(笑)。

──なるほど(笑)。アニメーション作家の実態を探るんですね。

いつもモグラみたいな生活をしている作家たちを地上に引っ張り上げてね。地上って言っても劇場薄暗いですけどね(笑)。

自然をむさぼりたい

──そもそもカツキさんがアニメーションにはまったのはなぜだったんですか?

ぼくは小学校の頃から、8ミリフィルムでアニメを作るような子供でした。マンガも描いてましたからその延長にアニメはあったんです。絵を描く人なら少しは興味あると思うんですよね。連動する動きの絵をパラパラっとやれば、自分の描いた絵が動く。その驚きと喜び。「動く喜び」っていうのがあるんですよ。

──「アニメーション=動き」なんですね。

そうですね。少し大人になって、日本のアンダーグラウンドなアート・アニメーションの世界を知って、ストーリーなんてほったらかしで、ただ動いてるだけの作品を学生時代にたくさん観ました。そういう世界にドップリと浸りました。

──なるほど。

しかもそういうアニメーションを観ると気持ちよくて元気が出てくるんですよ。美しい動き、うねり、蠢き、なんだか、生命のようなもの。「グネグネ動いているもの」ってものすごく、人にエネルギーを与えるんですよね。元をたどって行けば、「自然」ということなんでしょうけど。

──「自然」というのは海や山とか大自然のことですか?

そうです。日本は森の文化と言われます。先進国ではトップクラスの森林率。大自然からの恩恵を受けて暮らしていた国ですよね。森林をイメージするだけで生命が安心するんだと思います。ここにいれば大丈夫、水も食べ物もあるって。都市生活の中で自然体験ってなかなかできないので、アニメだったりスポーツだったり芸術だったり、それらが醸し出す「生命感」に似たようなものを感じているんじゃないでしょうか。

──なるほど。アニメーションも自然体験の一つということですか?

たとえば、寄せては返す波も、朝日が昇って、夕日が落ちてっていうのも、言ってみれば僕らの回りは、アート・アニメーションですよね。自然現象の代用品として抽象アニメーション、アート・アニメーションがあると僕は思っています。

──常に自然の代用品をみんな求めて暮らしているということでしょうか?

みんなかどうかわからないですが、そのような世界観を持っているといいと思うんですよ。自然へもアニメへもそういう接し方をするのがおすすめです。都市生活者は特に、そういうものがなくなると大変なことになるなと思うんですよ。人と人との繋がりの世界だけじゃなくて、もう一つの言葉のない感覚的世界を持っているというだけで、生きやすいです。やっぱり気持ちいい思いをしないとね。気分がへたっていくと思うんで。

作家たちも自覚しているのか無自覚なのか知らないですけど、自然の代用品としてアニメーションに身を浸していると僕は思っています。作業やってもちょっとしか進まないでしょ。ちょっとを毎日繰り返して、ずっと続けて大きな動きをつくり出してるから。それはまさに植物ですよ。彼らは植物です。

──1コマ1コマの気が遠くなる作業ですよね。

はい。ツル科の植物の方が早いくらいですよ。そのぐらいアニメーションっていうのはぜんぜん進まないんですから。だから彼らは自然と同化することによって、ハイストレスな現代社会とのバランスを上手くとっている人たちだとも思いますけど。

──自然と同化したり自然を感じたりすることで生き生きと。

そうですね。ただ、自然体験ってたとえば1日旅行に行ったりしただけじゃダメだと思いますね。変化を感じないと蠢きも感じられないと思います。

──毎日続けないと、変化というのはなかなか感じられないですよね。

ただ、サウナは1回行っただけでも大丈夫なんですよ!

──そうすると……もしかしたらアニメーションよりサウナに入る方が……?

そうですね。サウナ入れば大体の諸問題は解決へと向かいます(笑)。

言うてることなんてないのに。気持ちいいだけなんです。

──ちなみにカツキさんのお好きなアニメーションっていうのはどういったものなんですか?

グネグネ動いてるだけのアニメが好きです。あと、北欧、ロシアのアニメーションはやっぱ好きですね。北欧も森の文化なんで、日本と感覚が似ている感じがしますね。画面にもたくさん自然のイメージが登場します。ムーミンを思い浮かべていただければいいと思います。フィンランドはなんといってもサウナの本拠地ですからね。

アート・アニメーションってのは、鑑賞者がその世界にまだまだ慣れてないってのがあると思うんです。一般的なアニメはどうしたって「物語」にひっぱられがちです。それはそれでおもしろいですけど、もうひとつ、アニメーションの「動きそのもの」、動きを感覚的に楽しむアニメってのがあります。ほとんどの人がそういう見方に慣れてないだけなので、これは「慣れ」なんですよね。観ているとだんだん分かってくると思うんです。目の快楽、感覚で受け取る、うわぁってなりますよ。元気にもなりますし。あるいは感覚器使いすぎてへとへとになってるかですよね。

──それは心地よい疲れということですもんね。

そうですね。自然の中で遊んだ状態と同じ感じになると思います。

──「アニメの時間」に通えばそういう感覚も養っていける可能性がある……。

養うというか、思い出すって感じかもしれないですよね。でもほんとにそういう感覚で物事を見ると楽しいものが倍ぐらいに増えると思いますね。

──見えなかったものもいっぱい見えてきて。

「慣れ」ですよね。だから第1回ってしたんです。続けていくことが大事ですから。サウナも慣れですしね。サウナは水風呂の冷たさに慣れるかどうかが肝なんです。水風呂がへいきになると、いきなりサウナの世界が広がってゆきます。できることならこのイベントも最終的には「サウナの時間」にしていきたいですよね(笑)。

──はぁ?(笑)

(取材・文・構成:石井雅之/ヤマザキムツミ)



タナカカツキ プロフィール

マンガ家。1966年大阪生まれ。1985年、マンガ家デビュー。著書に「オッス!トン子ちゃん」「サ道」、天久聖一との共著「バカドリル」など。玩具メーカーの奇譚クラブから発売されているカプセルトイ「コップのフチ子」の生みの親としても知られる。
http://www.kaerucafe.com/




タナカカツキの「アニメの時間」第一回
2014年7月29日(火)渋谷UPLINK FACTORY

ホスト:タナカカツキ
出演アニメーション作家:水尻自子、ひらのりょう、最後の手段、平岡政展
19:00開場/19:30開演/21:10終演(~21:40まで懇親会を実施)
予約:http://www.uplink.co.jp/event/2014/29373
料金:入場料1,500円(1ドリンク付)
主催:white-screen.jpUPLINK
協賛:ViibarShutterstock


出演アニメーション作家


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水尻自子(みずしりよりこ)

1984年青森生まれ。アニメーションを中心に制作し、身体の一部などをモチーフにした柔らかな表現を得意とする。「布団」で第16回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞。
http://imoredy.tumblr.com/



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ひらのりょう

1988年埼玉県春日部市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。産み出す作品はポップでディープでビザール。文化人類学やフォークロアからサブカルチャーまで、自らの貪欲な触覚の導くままにモチーフを定め作品化を続ける。その発表形態もアニメーション、イラスト、マンガ、紙芝居、VJ、音楽、と多岐に渡り周囲を混乱させるが、その視点は常に身近な生活に根ざしており、ロマンスや人外のものが好物。
http://ryohirano.com/



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最後の手段

有坂亜由夢、おいたまい、木幡連の3人による映像作家チーム。東京藝術大学出身。主な仕事はMVやショートフィルムなどの映像作り。ミュージシャンのCDジャケットなど、グラフィックデザインも手掛け、たまに音楽を演奏したり、ごく稀に踊ることもある。クラブでのVJ活動も行っており、その原始的で奇妙な映像を使ったVJのプレイはフロアを盛り上げる。
http://www.saigono.info/



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平岡政展(ひらおかまさのぶ)

映像作家。京都出身。2010年大学卒業。その後フリーランスで、CMやMVなどのアニメーションを中心に活動する。代表作に、Vimeo Staff Pickに選出された「Land」「Uneasiness and triangle」、阿部義晴のMV「ONE AND THREE FOUR」などがある。



▼水尻自子作品 trailer | FUTON | 布団

▼ひらのりょう作品 七尾旅人(TAVITO NANAO) "TELE〇POTION" (Official Music Video)

▼最後の手段作品 最後の新世界

▼平岡政展作品 阿部義晴 「白い虹」 Music Video

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