映画『ママはレスリング・クイーン』より © 2013 KARE PRODUCTIONS - LA PETITE REINE - M6 FILMS - ORANGE STUDIO - CN2 PRODUCTION
シングルマザーの女性が離れて暮らす息子との絆を取り戻すために、同じスーパーマーケットで働く同僚たちとともに彼の好きなプロレスに挑戦するコメディ『ママはレスリング・クイーン』が7月19日(土)より公開される。『みんな誰かの愛しい人』マリルー・ベリが奮闘するシングルマザー・ローズを演じ、『わたしはロランス』のナタリー・バイ、『最強のふたり』のオドレイ・フルーロ、『君と歩く世界』のコリンヌ・マシエロが、彼女とともにプロレスの過酷なトレーニングとド派手なパフォーマンスに挑戦する女性たちに扮している。ジャン=マルク・ルドニツキ監督がなぜプロレスという題材に取り組むことになったのか語った。
プロレスを通じて自分自身をさらけ出し、
本当の自分らしさに気づいていく
──『ママはレスリング・クイーン』は、どのようにして作られたのですか?
この企画は最初、エレーヌ・ル・ガル、マリー・パヴレンコ、マノン・ディリスの3人のシナリオライターが私に映画化してほしいと提案してきたことから始まりました。私は乗り気になり、プロデューサーのアントワーヌ・レインとファブリス・ゴールドスタインにあらすじを読ませたんです。2週間もしないうちに、2人は映画製作の契約書にサインしていました。しかしその1年後、脚本に新たな方向性を与えたくなり、私はクレマン・ミシェルと共に草稿に手直しを加えました。4ヵ月かけてセリフを書き直しました。
映画『ママはレスリング・クイーン』のジャン=マルク・ルドニツキ監督
──最初からコメディ・タッチを目指していたのですか?
クレマンと私はスパーリング・パートナーのように一緒に仕事をしました。彼からジョークやセリフのアイデアをもらいました。私はマンガ的なギャグとイギリス風のばかげた要素が混ざっているコメディが大好きなんです。自分たちが笑えるということを重視していたので、「自分たちが笑えたらいいギャグだ」という認識でいました。最も難しいのは、作者の言葉よりも、現実的で時代の風潮を反映するようなセリフを取り入れることなんです。
──監督はこの話のどんな部分に心を動かされたのでしょうか?
まず、マリルー・ベリ演じるローズの人生ですが、母でもある彼女は刑務所を出所した後、息子を取り戻すためにプロレスを始めます。スーパーでレジ係として働く4人が、プロレスを基礎から身につけながら、人生を変えていくというストーリーが気に入りました。何よりも素晴らしいのは、この4人の登場人物がプロレスを通じて自分自身をさらけ出し、本当の自分らしさに気づいていくということです。プロレスは単純な喜びを感じることもできますが、人物像を創造することも可能です。リングは、役を演じる舞台のようなものなのです。
映画『ママはレスリング・クイーン』より © 2013 KARE PRODUCTIONS - LA PETITE REINE - M6 FILMS - ORANGE STUDIO - CN2 PRODUCTION
──プロレスの世界とあなたに共通するものは何でしたか?
私の出身地である北部は、フランスにおけるプロレスの発祥地です。私も子ども時代を思い出します。昔、両親がテレビでプロレスショーを見ていたので、私にその思い出を話してくれました。私自身は一度も試合を見たことがなかったので、あの世界に偏見を抱いていたんです。しかしプロレスの特別興行に行ってその世界にはまり、ある時、プロレスがしっかりしたテクニックを要する、本物のスポーツショーであることに気づきました。プロレスに登場する伝説のヒーローたちの根底には、イギリス風の社会派コメディの側面を持つ、人気スーパーヒーローの世界があると思います。普段、プロレスラーは既に存在しているスーパーヒーローの名前を使って役名を作ります。そこで、私のスーパーヒロインにカラミティ・ジェス、ワンダー・コレット、ローザ・クロフトのような名前をつけようと思いつきました。
──実際、プロレスラーの方とはお会いましたか?
はい、私は彼らの世界に引き込まれました。プロレスをやっている人は職業としてではなく趣味でやっていて、他に仕事を持っている人が多いんです。労働者もいるし、今回の私たちのコーチのようにスタントマンだという人もいます。彼らはたとえ特別興行に出たとしても、一般的にはそれで稼ぐことはできません。それでもトレーニングは欠かせないし、自分を厳しく律してプロレスを続けているのです。
人生における新たなチャンスを描きたかった
──4人のヒロインについては、どのようにイメージしたのですか?
ローズは、若くして子どもを産み、ひとりで育ててきましたが、ある男を誤って殺してしまったことから、5年の刑を宣告されて服役しました。釈放されるとすぐに、ある家庭に預けられた息子を捜し出します。親子の間に深い溝はありますが、どんな苦労をしても息子を取り戻そうと覚悟するのです。ローズは息子がプロレスのファンだと知ると、息子との距離を縮めるために、自分でプロレスのチームを作ることを決心します。
映画『ママはレスリング・クイーン』より、ローズ役のマリルー・ベリ(左)
コレットは50歳の女性で、3人の子供がいますが、夫の浮気のせいで辛い日々を送っています。夫婦関係に亀裂が生じたのは末っ子の誕生がきっかけだと思っているのです。そんな中、彼女はプロレスを始め、夫に対する欲望を取り戻していきます。
ヴィヴィアン、別名“ベチューヌのお肉屋さん”は45歳。中世の時代に生きているような女性です。“お肉屋さん”と呼ばれるのは精肉店の娘だからで、彼女は物怖じしない性格の持ち主です。自分では人から性格が悪いと思われていると感じていますが、プロレスの世界では善玉役に挑戦します。プロレスの世界というのは、善玉役と悪玉役に分かれて闘う、ストーリー性のあるスポーツですが、その外見から4人の中では誰の目にもヴィヴィアンが悪役に映っていました。彼女は、内面の本当の性格と外見上のイメージを少しずつ調和していこうと考え始めます。
映画『ママはレスリング・クイーン』より、コレット役のナタリー・バイ(右)、ヴィヴィアン役のコリンヌ・マシエロ(左)
ジェシカは16~17歳で情緒不安定、体重は20キロ増え、分厚いメガネに、歯は矯正中。そんな彼女が本当の意味で女性になった時、体は引き締まり、それまでに失った時間を異性と過ごすことで取り戻そうとします。彼女は恋愛を重ね、自分の女性らしさに満足しているように見える。そして、生まれて初めて本気の恋をしたことで、自分がまとっていた鎧を取り除くのです。
映画『ママはレスリング・クイーン』より、ジェシカ役のオドレイ・フルーロ(左)
──女性たちが不幸な境遇から抜け出すというストーリーで、かなりフェミニズム色の強い映画になっていますね。
これは“ガールズパワー”を表現した映画です。ヒロインたちは皆、世代が違いますが、それぞれ問題に直面しています。けれども、彼女たちには人生を変えられる可能性があるのです。そういう意味では、現代的フェミニズムの作品と言えるかもしれませんね。
──コメディ映画は、なかなか社会的反響を得にくいものです。
この作品が社会的背景の上に成り立っていることは、衣装やセットへのこだわりを見てもらえば分かると思います。といっても、社会の悲惨さを全面に描写するのは避けました。この物語の舞台がフランス北部になっているのは、プロレスが深く関係しているからです。社会的反響を呼ぶには、映画の中の語りだけでなく、視覚的な要素も重要だと思っています。労働条件、スーパーのレジ係、4人のヒロインが住む公団住宅なども、全て重要な要素です。私が何よりも描きたかったのは、人生の軌道についてです。この映画で言うと、人生における新たなチャンスです。平凡で退屈な日常生活を送る彼女たちの行き着く先を、現実とはかけ離れた世界である、幻想的なプロレスの特別興行にしたのです。
映画『ママはレスリング・クイーン』より © 2013 KARE PRODUCTIONS - LA PETITE REINE - M6 FILMS - ORANGE STUDIO - CN2 PRODUCTION
──配役はどのようにして決めたのですか?
何人もの役者が出演する映画で重要なのは、役者たちが互いに似ていないことです。演じる人物像も全く違いますしね。なので、女優を選ぶにあたり、それぞれに対照的な個性があることがポイントでした。当然、各キャラクターに当てはまる女優を選びました。そして彼女たちには、プロレスを身につけるための準備期間中に団結力が生まれました。セットでの撮影に移る前に、すでにチームとして結束していたのです。
──ナタリー・バイが勇敢な労働組合の代表役というのには驚きました。
配役を考え始めた頃、彼女が今まで演じたことのない役柄だと思いました。ナタリーは、演じてきた役柄が多岐にわたっているからこそ、この役を引き受けてくれるかもしれないと考えたのです。実際に彼女と会って、自分の作った初のテレビ映画作品を見せ、彼女と一緒に人物像やセリフを修正しました。彼女は、今この役を引き受けなかったら、恐らくこの先も機会はなかっただろうと打ち明けてくれたんです。彼女ならコレット役を演じてくれると確信していたので、私も本当に嬉しかったです。
映画『ママはレスリング・クイーン』より © 2013 KARE PRODUCTIONS - LA PETITE REINE - M6 FILMS - ORANGE STUDIO - CN2 PRODUCTION
──他の女優たちについては?
マリルー・ベリは、すぐ承諾してくれました。彼女が演じるのは30歳の若い母親役だったのですが、その役を気に入った理由は、これまで一度もそういった役を演じたことがなかったからだそうです。プロレスのトレーニングに関しても非常に意欲的でした。
オドレイ・フルーロは、今まで『最強のふたり』や『SPIRAL3~連鎖~』などの作品を見てきましたが、その中で、出世主義で冷たい弁護士役を見事に演じていました。カメラテストの時、コメディの才能もあることが明らかになったんです。風変わりで極端な人物を演じさせると、本当に見事でした。
コリンヌ・マシエロは『SPIRAL3~連鎖~』でとても変わったフランス北部の売春婦を演じていましたし、『ルイーズ・ウィマー』では車で生活する女性を演じているのを見ました。彼女は信じられないほど演技に幅があり、どんな役柄でも自然に演じ切れるのです。
ラスベガスにいるかのように見せたかった
──女優たちは、大部分をスタントなしで演じたのですか?
現実的な作品にするため、彼女たちにはプロレスの技も最大限自分でやってもらう必要がありました。それに、彼女たちもそれを望んでいたんです。そこで、アラン・フィグランツとプロレスラーでもあるヴァンサン・ハックインの協力を得て撮影しました。彼らは、女優の身体能力をテストしたり、それぞれにリングの上での個性を与えたりして、力になってくれました。彼女たちは、まず週に10時間、畳の上で練習し、次にリングの上で実際に落下する感覚を体験しました。どうやったら痛みを感じずに落ちることができるかを体感することが非常に重要だったからです。安全上の問題からスタントマンも準備し、負傷した場合に備えたり、編集が滞りなく進むように考えましたが、最終的には、ほとんど女優が自分たちでやった映像を使いました。特別興行のシーンでは、彼女たちが自分で出演したショットを優先的に使っています。
──女性スーパーヒーローの人物像を演じるために、彼女たちはどのように準備したのでしょう?
特別興行の入場シーンは練習しましたね。彼女たちには自分で幻の人物像を思い描いてやってもらいました。衣装の効果も大きいですね。人物像を創り上げるのは、空想の世界で自分とは異なる個性を考え出す作業だと思います。
映画『ママはレスリング・クイーン』より
──その特別興行のシーンは、圧巻でした。
女優たちとの準備を終えた後、ホールのリング上でこのシーンを撮影しました。私はシーンの絵コンテを描き、一つ一つ正確に決めていきました。どういうショットを撮影したら目を見張るようなシーンになるか、光はどのように調節するか、どういう特殊効果が実現可能かなど、細かく考えました。実際、入場シーンの照明は、リング上で闘う場面での照明とは全く違うものになっていますが、それほどの緻密さが必要だったのです。女優たちの振付をして撮影をした時は、別の作品を撮っているかのように感じたほどでした。
女優たちがリングに上がってからは、闘いのシーンを撮りました。まずは、2台のカメラで円形に移動撮影しました。その間に、他の2台の可動式カメラで、おおまかなショットを撮り、それを巨大スクリーンに映しました。その結果、編集するためのフィルムは膨大になりました。このシーンはとにかく華やかに、場所もルーベではなくラスベガスにいるかのように見せたかったのです。撮影中も、クレーンとステディカムを使って撮ったフィルムをチェックしながら進めました。全て入念に決めましたね。照明、女優たちの演出も事前に決めてあったので、即興でやっているわけではありません。同様に、編集にも多くの時間をかけ、このシーンのリズム感を出すようにしました。
(オフィシャル・インタビューより)
ジャン=マルク・ルドニツキ プロフィール
フランス生まれ。2000年代初頭からテレビドラマの脚本を手掛け、主にサスペンスや刑事ドラマで高く評価され、2009年にディレクターデビュー。本作が映画監督デビュー作となっている。主な監督作は「ジェフとレオ、警官と双子」(06)「セルアイデンティティ」(07) 「私の娘のために」(09)「ライフストーリー」(09)「復讐コレクション」(09) 「RIS警察科学研究」(10) 「後悔している」(10)。
映画『ママはレスリング・クイーン』より © 2013 KARE PRODUCTIONS - LA PETITE REINE - M6 FILMS - ORANGE STUDIO - CN2 PRODUCTION
映画『ママはレスリング・クイーン』
7月19日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
ある事件の罪で服役していたローズは、出所後すぐに代理母に育てられていた我が子、ミカエルに再会する。しかし少年期を母とともに過ごせなかった彼は、ローズとの再会を喜んではくれなかった。その後も代理母の元に戻りローズに会おうともしてくれないミカエル。一人悩むローズは、とりあえず息子を取り戻す最低条件である勤め先を探すのだが、前科者の彼女を雇ってくれたのはイジワルな社長がワンマン経営する地元の大型スーパー“ハッピーマーケット”。そこで働く女性たちは、皆何かの問題を抱えるワケアリばかりだった。ある日、息子との関係修復を考えていたローズはひとつのアイデアを思いつく。
出演:マリルー・ベリ、ナタリー・バイ、オドレイ・フルーロ、コリンヌ・マシエロ、アンドレ・デュソリエ、イザベル・ナンティ
監督:ジャン=マルク・ルドニツキ
製作総指揮:マイケル・ルイージ
製作:トマ・ラングマン、ファブリス・ゴルドスタイン、アントワーヌ・ルアン
撮影:アントワーヌ・モノー
編集:アントワーヌ・ヴァレイユ
美術:ジャン=マルク・トランタンバ
音楽:フレッド・アヴリル
原題:Les Reines du ring
フランス/2013/97分/カラー/ヴィスタ/ドルビーデジタル
配給:コムストック・グループ
配給協力:クロックワークス
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/koutei
公式Facebook:https://www.facebook.com/wrestlingqueen.movie
公式Twitter:https://twitter.com/wrestlingqueen4