骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-07-17 18:10


完全オリジナル実写版はこうして生まれた! 押井守総監督が語る“21世紀のパトレイバー”

『THE NEXT GENERATION パトレイバー』で海外ドラマのクオリティに匹敵するシリーズを目指した思い
完全オリジナル実写版はこうして生まれた! 押井守総監督が語る“21世紀のパトレイバー”
主役メカである巨大ロボット“98式イングラム”
『THE NEXT GENERATION パトレイバー』©2014 HEADGEAR/「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会

アニメ史に残る空前の大ヒットを記録した『機動警察パトレイバー』シリーズの誕生から約四半世紀。アニメシリーズの初期OVA、劇場版(1&2)でも監督を務め、ハリウッドにも多大な影響を与えるクリエイター、押井守の手によって完全オリジナル新作実写版として生まれ変わったのが『THE NEXT GENERATION パトレイバー』だ。全7章から成るシリーズを、今年4月から順次2週間限定で劇場上映していき、2015年に長編劇場版を全国公開するという、一大プロジェクトを進めている押井守総監督のインタビューを掲載する。

押井守監督
押井守総監督



実写版は原点に戻して人間を描きたかった


──『機動警察パトレイバー』を実写化するにあたって、どういう部分が魅力的でしたか?

人間の面白さが描けることですね。元々アニメ版も僕の中ではロボットものという意識はなかったんです。レイバー自体がめったに動かない設定だったし、警備部だから待機するのが仕事。だから僕はどちらかといえば学園ものに近いと思っていた。隊員が生徒で、隊長が先生で、課長という校長先生や教頭がいて…。そういうドタバタものの味付けのひとつとしてロボットがあった。

──確かにアニメシリーズで押井監督が手掛けた作品は、レイバーがほとんど動いていないですね。

整備班の話だったり、銭湯で犯人を捕まえる話だったりね。実は企画上は、本筋ではないと思われる話が本筋だったはずなんですよ。でも98式イングラムに人気が集まったり、後藤など一部のキャラクターの人気が上がったり。企画当初とは変わった部分がでてきた。今回の実写版ではそこを原点に戻したかったんです。そしてアニメでは難しい人間描写をちゃんとやりたかった。

02『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第1章』より
『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第1章』より

──それは具体的には?

例えばアニメ版の太田は正義感の強い暴力警官だけど、実写版ではそれだけだとキャラクターとして成立しにくい。実写版の大田原みたいに“アル中”という側面を持たせることで暴力警官の設定に合点がいく。アニメの進士幹泰は恐妻家で家庭人だったけれど、実写での御酒屋慎司は女房に逃げられている。平たく言うと、実写版はアニメ版よりもっと大人っぽくしたかった。遊馬と野明の関係にしてもね、改めて観るとぬるいんですよ。

──人間の描写に一歩踏み込みたかったと。

アニメファンって基本的に、男と女の関係にしても“それっぽい雰囲気”が好きで、実際に恋愛に突入すると途端に嫌がる傾向があるんです。生々しいものが嫌だっていうのがアニメーションの特性なわけで。でも警察という組織の中で、はみ出した連中の話となるとやっぱりどこかで生々しくて毒っぽいものがないと、大人が見て面白いものにならない。

03『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第1章』より
『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第1章』より

形式が違えば中身も方法論も変わる


──でもそういう生々しさを目指しつつ、いきなりミュージカルシーンなどもありますが…?

それはいろんな形式を試したいという、アニメ版の原点に立ち戻ったから。オリジナルビデオ版の時も怪獣映画だったり、ホラー映画だったり、クーデターを扱った政治劇だったり。全部違う種類の映画を作る意気込みだった。

今回の実写版も1話ずつ作りから変わってます。歌って踊ってもあれば、第2話で特車二課は吹っ飛んでいるし…(笑)。ただ、人はあまり死なない。これはこのシリーズの最大の特徴でもあると思う。シリーズ7章後の長編の方はちょっと違いますけどね。長編映画はまた形式が違うので、当然中身も変わるんです。それぞれの形式に合わせて作らなければ面白さが出ないから、今回もアニメでやったことをそのまま実写にしようなんて思わなかった。唯一共通して第一優先であるのは、キャラクターの面白さなんですが、役者の肉体を使って人物を作るのと、声80%と画で見せるアニメでは方法論が違ってくるから。

04『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第2章』より
『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第2章』より

年をとって気が変わった役者が好きになった


──今までは実写を撮るときに絵コンテをきられてましたが、今回はしなかったそうですね。

以前深夜のテレビドラマを手掛けた時、もっと役者の芝居を撮らないと駄目だと気付いたんです。コンテを書くとコンテを消化することに追われるし、画をカッコ良く見せるためには役者に1センチ動かないでとか要求して演技を縛ってしまうしね。そういう風にレイアウトを優先させるとドラマがゴツゴツして動かなくなるんです。今回は特車二課の面々を描くことがテーマで、世界観はとっくの昔に出来上がっているわけだから、それなら芝居をちゃんと撮ろうと。この役者さんは何をやりたいのか、どう演じたいのか。そこを彼らに委ねるべきだと思ったんです。

──それは監督としての進化ですよね?

進化っていうより、単純に年とって気が変わった(笑)。それまでは画を作ることに80%以上の力を使っていて、極論すれば役者さんはそこに立っていればいいっていう。自分はアニメの人間だし、役者をどう使っていいかわからなかった。普通の監督の画を撮っても仕方ないんだから、それでいいと思っていたんです。今はそうではなくもっと体のある映画、お肉がちゃんとついた映画に興味が移った。60歳を過ぎてようやく役者さんが好きになってきたんです(笑)。今回はキャスティングもうまくいったし、現場で役者の芝居を見てそれに反応して演出を考えていきました。現場に入るまで何も考えない…が今回の僕のテーマでもあったんですよ。

05『THE NEXT GENERATION パトレイバー』/第3章より
『THE NEXT GENERATION パトレイバー/第3章』より

今日本の現場でできる限界に近いチャレンジ


──そんなライブ感を大切に撮られたこのシリーズの見どころはズバリ何ですか?

『CSI:科学捜査班』や『24TWENTYFOUR』とか、海外のドラマシリーズみたいなものを日本で作る。それをこの作品ではやってみたかった。海外ドラマって面白いんだもん。ハマったら抜けられなくて延々と観てしまう。めちゃくちゃお金かかってるし。『ゲーム・オブ・スローンズ』とかもすごくよくできてますよね。キャストも厚いし、表現もすごい。暴力とかエロも含めて、ここまでやってるんだと。

あれをやられちゃったら日本の映画業界はなかなか太刀打ちできない。でも今回はそれに匹敵するようなものを作りたかったんです。映画1本、2時間もので一発勝負するよりも、1時間の枠で12本作るというのは仕事としても面白いし、試してみたいと思った。そういう意味では本邦初に近い。毎回、内容の傾向が全然違うので普通のドラマシリーズとも様子が違う。今まであったタイプのどれにもはまらないんじゃないかな。実物大のレイバーも作ったし、異常にお金使っちゃったし(笑)、今日本の現場でできる限界に近い奇跡のようなシリーズだと思います。

どんどんエスカレートしていくライブ感やデタラメになっていく感覚も楽しいと思うし、デタラメで空中分解するんじゃなくて、最終的に長編劇場版に繋がるように締めています。ぜひ最後まで楽しみにして下さい。

INTERVIEW TEXT: 横森文
スターチャンネル総合プログラムガイド2014年6月号より転載



押井守 プロフィール

1951年生まれ。東京都出身。大学卒業後、タツノコプロに入社。T V アニメ『一発貫太くん』('77)で演出デビュー。'83 年『うる星やつらオンリー・ユー』と'84 年『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を監督し、『機動警察パトレイバー』ではOVA・劇場版(1&2)の監督・脚本を手掛ける。その後も『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』('95)や『イノセンス』('04)など、監督作品は国内・海外にまで大きな刺激を与え続ける。




『THE NEXT GENERATION パトレイバー』
シリーズ全7章をスターチャンネル(BS10ch)にて
史上最速独占放送中!www.star-ch.jp/patlabor

全長8mもの実物大98式イングラム、リボルバーカノン、指揮車等のメカの数々やレイバードッグまで併設された二課棟をも完全実体化。最新鋭のCG/VFX技術も駆使した、“世界の押井”による未だかつて目にしたことのない新しい『パトレイバー』の物語が、いま幕を開ける。完全オリジナル新作実写版として生まれ変わった『THE NEXT GENERATION パトレイバー』シリーズ全7章は、2014年4月より全国にて順次2週間限定で劇場上映、2015年には長編作品の全国拡大ロードショーが予定されている。この超話題作を、劇場上映直後に順次、スターチャンネルで独占放送中。7/12(土)劇場上映開始の第3章を、8/2(土)に史上最速放送。以降も、第4章 9月、第5章 11月、第6章 12月、第7章 2015年1月 、スター チャンネルにて最速放送予定!

総監督:押井守
シリーズ各話監督:押井守/辻本貴則/田口清隆/湯浅弘章
脚本:押井守/山邑圭
音楽:川井憲次
原作:ヘッドギア
VFH制作:オムニバス・ジャパン
制作:東北新社
配給:松竹メディア事業部

【作品公式サイト】patlabor-nextgeneration.com/




▼「THE NEXT GENERATION パトレイバー」第3章 予告編

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