『リアリティのダンス』より
チリの映画作家アレハンドロ・ホドロフスキー監督(85歳)の23年ぶりとなる新作『リアリティのダンス』が7月12日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開される。映画のみならず、絵画、漫画原作、そしてタロットなど幅広いジャンルで活躍するホドロフスキー監督だが、今回は評論家の小野耕世氏、そして名古屋外国語大学教授・ラテンアメリカ文学翻訳家の野谷文昭氏に、コミックそして文学の角度から、ホドロフスキー監督の魅力について綴ってもらった。
また、渋谷松濤のアートスペース、アツコバルー arts drinks talkでは7月17日(木)より、妻であり『リアリティのダンス』の衣装も担当したパスカル・モンタンドン=ホドロフスキーとの共作ドローイング展も開催される。
『リアリティのダンス』より
ホドロフスキーとコミック
無敵なBD作家の想像力
文:小野耕世(評論家)
ホドロフスキーは少年時代、ジュール・ヴェルヌの全作品を読み、奇想に根ざしたアメリカ映画に熱中し、生活の細部に目にするあらゆるものから想像をどこまでもひろげていくトレーニングに没頭することで、過酷な日常を生きのびた。そして成長してからは、自分の見る夢の内容と方向性をコントロールする意識を鍛えていった。彼は、夢を見るちからを、広範囲にわたる自分の創作活動に活かしていったのだった。ホドロフスキーとは、想像力の拡張により、絶えず自己改革を進めてきたアーティストなのである。
彼のコミックスの分野へのかかわりは、1966年にさかのぼるから、最初に映画を監督するより一年早い。そのイマジネーションのひろがりは、優れた画家と組むことで、どんな幻想世界の視覚化も可能になった。例えばメビウスとの共作の長編『アンカル』の場合、その製作過程で、ホドロフスキーが開発した精神療法で苦境のメビウスを助け、この画家の潜在能力をいっきに爆発させたと言えよう。
『メタ・バロンの一族』など、他のアーティストと組んだ場合も同様で、60冊ものBDアルバムを通じて、ホドロフスキーは、どんなファンタジーをも自在に構想することが出来ることを証明してきた。彼の空想は、太陽系をつらぬく光芒となって全宇宙にのびていく。それほど自由な意識と感覚の持ち主である彼は、おそらくいま最も無敵なBD作家と言ってもいいのではないか。
『リアリティのダンス』より
ホドロフスキーと文学
チリ文学との繋がりに見るホドロフスキーの反逆性
文:野谷文昭
(名古屋外国語大学教授・ラテンアメリカ文学翻訳家)
映画と詩は同じであるというホドロフスキーの多面性を統合しているのは、詩人という側面だろう。生国チリとフランスの国籍を持ちながらも精神的ディアスポラの彼は、ネルーダに次ぐメジャー詩人ニカノル・パーラを「師と仰ぎ」、自伝で語っているように、短くも濃密なボヘミアン的青春時代を共有した友人のエンリケ・リーンとともに16歳のころに詩人として出発している。このこと自体が〈詩人の国〉チリの人間らしいが、彼は典型に収まらない。
彼は〈1950年の世代〉の一人と見なされることがある。チリの文学を支配してきた土着主義に反旗を翻した一群の作家・詩人である。文学、宗教、政治についての考え方は異なるが、外国文学を受け入れ、前世代に懐疑的で、伝統を乗り越えようとする反逆性を共有し、名前は1950年に刊行された短篇集に由来する。このグループに、リーンや後に『夜のみだらな鳥』を書くドノソ、ノンフィクション『ペルソナ・ノングラタ』で知られるエドワーズらがいる。
ホドロフスキーは1953年に国を出るが、この世代と交流があった。興味深いのは、前世代に対する懐疑や反逆性、パーラやリーンへの親近感を、後にロベルト・ボラーニョが示していることだ。ホドロフスキーはスペインでボラーニョに会っている。印象を訊くと、「作品の中で作家や作品の良し悪しを批評するのが彼の特徴だね」と答えた。『リアリティのダンス』同様、小説『アメリカ大陸のナチ文学』で、ナチ崇拝という現象を扱ったボラーニョには、どこかホドロフスキーに通じるところがある。
(『ホドロフスキー新聞 VOL.3より)
『愛は死より強し』 ©Alejandro Jodorwsky, Pascale Montandon Jodorwsky
二人のホドロフスキー 愛の結晶
アレハンドロ・ホドロフスキー/パスカル・モンタンドン=ホドロフスキー
共作ドローイング展
2014年7月17日(木)~ 9月21日(日)
会場:アツコバルー arts drinks talk
〒150-0046 渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル5F
tel:03-6427-8048
http://l-amusee.com/atsukobarouh/
映画『リアリティのダンス』より
『リアリティのダンス』
2014年7月12日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、キネカ大森ほか、全国順次公開
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』)、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー
音楽:アダン・ホドロフスキー
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)
原題:La Danza de la Realidad(The Dance Of Reality)
(2013年/チリ・フランス/130分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dance/
『ホドロフスキーのDUNE』より
『ホドロフスキーのDUNE』
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、キネカ大森ほかにて上映中、全国順次公開
監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H.R.ギーガー、クリス・フォス、ニコラス・ウィンディング・レフン
(2013年/アメリカ/90分/英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語/カラー/16:9/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dune/