映画『革命の子どもたち』より、重信メイ(左)とベティ―ナ・ロール(右) © Transmission Films 2011
日本赤軍の最高指導者・重信房子と極左地下組織で後にドイツ赤軍となるバーダー・マインホフ・グループの創設者ウルリケ・マインホフ、ふたりの女性革命家を、重信メイとベティーナ・ロールという、ともにジャーナリストであるふたりの娘の証言から捉えたドキュメンタリー『革命の子どもたち』が7月5日(土)より公開される。激動の時代に幼少期を過ごした娘たちが母の足跡をたどり、当時のニュース映像や、パレスチナ解放闘争に参加した足立正生監督、赤軍派議長の塩見孝也らのインタビューも交え、革命家と呼ばれ、母親として生きた女性たちの生き様を追っている。シェーン・オサリバン監督は今作の日本公開にあたり「1960年代後半に日本で強まった抗議の精神について、またそのエネルギーがどこに消え去ってしまったのかを、日本の若い世代が考える助けになればと望んでいます。そして重信の物語から得られた教訓が、今日の日本に政治的能動主義の新たな波を引き起こしてくれたらと思います」とメッセージを寄せている。今回は監督が制作・撮影の経緯についてあらためて語ったインタビューを掲載する。
母娘の関係と彼女たちの声を紡ぐ
──重信房子と娘の重信メイ、そしてウルリケ・マインホフと娘のベティーナ・ロールというこの4人の女性になぜ注目したのですか?
2001年にイタリアのジェノヴァで行われたG8のサミットに反対する20万人のデモを見て、68年の運動の精神が再来したのではないかと感じました。それをきっかけに当時の運動を調べ、とくに重信房子とウルリケ・マインホフに興味を持ったのです。なぜなら、二人はともに女性のリーダーであり、それぞれに娘を持つ母親だったからです。また、日本とドイツを対比させたらおもしろいなと思いました。
個人的も興味はもちろんありますが、ジェノヴァでの反G8のデモを体験して、今でも資本主義というのは貧富の差をどんどん拡大させていくにすぎず、それを変えなければいけない。今でもアメリカは世界で戦争を起こしている。これは68年の時代と変わらないのではないでしょうか。今それを変えていこうという動きがあり、じゃあ一番近い過去で大きな社会変革があったのはいつだったのかを考えるとやはり68年でした。なので、その時代を振り返ってみようと考えました。もう一つは、当時を体験した人たちはどんどん歳を取っていくので、彼らの証言を記録としてちゃんと残さなければいけないという思いもありました。若松孝二監督も突然亡くなられたわけですし……。今となっては彼の話を聞こうと思っても、もう遅いわけですよね。
映画『革命の子どもたち』のシェーン・オサリバン監督
──日本でドイツ赤軍はあまり知られていませんが、ヨーロッパではもともと認知されていたのですか?
ヨーロッパの中ではよく知られています。ドイツではドイツ赤軍についての映像やドキュメンタリーはいくつも作られています。逆に、日本赤軍のことはあまり知られていませんが、本作を観た多くのひとが日本赤軍について興味を持ってくれました。
──日本赤軍やドイツ赤軍が起こした事件など、監督自身はどうお考えでしょうか?
日本赤軍が中東で行ってきたことは、主には戦略的なことだったと思います。刑務所から自分たちの仲間を解放するために、貧しい人からではなく政府から活動のための資金を得る。それはある意味ロビン・フッド的な方法だったと思うんですね。ロッド事件や爆発事故などの暴力的な部分を除けば、そういう戦略的な方法を政府や帝国主義に対して行うということは、私としては支持できます。ただ、この映画は自分の意見を表明するものではなく、母娘の関係であり、彼女たちの声を紡いだものなので、自分の意見とは関係ありません。
映画『革命の子どもたち』より、重信房子 © Transmission Films 2011
映画『革命の子どもたち』より、ウルリケ・マインホフ © Transmission Films 2011
──娘たちが共にジャーナリストだということは以前から知っていたのですか?
ええ。彼女たちが書いた本も事前に読んでいました。房子さんはPFLPの情報部というか、プロパガンダを外に向けて発信していくという役割だったので、ジャーナリスト的な側面があったのかなと。それをメイさんも引き継いでいるのかもしれませんね。ベティーナの場合は、私が何をこの映画に入れるかということをコントロールしようとする力が強かった。自分の母親は狂人であったと、私が持つウルリケに対してのロマンティックなイメージを彼女は変えようとしていました。……二人ともジャーナリストではあるけれど、正反対のタイプなんだなと思います。
──3.11以後、日本では原発再稼働や特定秘密保護法案などに対して若者の声が高まっていると思います。そういう日本の現状をどう捉えていますか?
どの時代でも政治家や大企業の人たちは自分の利益を追求していくわけなので、都合の悪いことは隠していくわけですよね。それは日本だけに限りません。だから私たちは常に政治的な意識を持っていないとそういうことは見抜けないと思います。本作を通して若い人に68年の時代を一つの教訓として、政治的な意識をより持ってもらえたらいいなと思います。
自分の子どもを置き去りにして、革命に走ることは自分だったら出来ない
──本編には若松監督の作品映像がたくさん使われています。その意図は何ですか?
例えば若松監督の『セックスジャック』(1970年)という映画の冒頭は代々木公園で起こっていたデモそのものが使われています。彼の作品を観るとフィクションでも当時の新左翼と呼ばれる人たちの動きや、若者の色々な動きがそのまま作品の中に反映されているんですね。そういうおもしろさがあるというのと、60年代の映画文化は若松監督の作品に凝縮されていて、当時の雰囲気などがとても出ているのでそのまま使いました。それに、当時のニュース映像と比べて、芸術的なものを内包しているのではないかと思います。
映画『革命の子どもたち』より © Transmission Films 2011
──若松監督の作品に出会ったきっかけを教えてください。
15年前にアメリカで販売されている2本の作品を初めて観ました。そして2002年に新宿のゴールデン街で彼にインタビューをしたのですが、そのインタビュー前に近くのビデオ屋さんで、若松監督の作品をすべて借りて観ました。それが彼との出会いです。
──ご自身でアポイントを取られたのですか?
60年代の日本のカウンターカルチャーに関する短い映像を作ったことがあり、そのドキュメンタリーを作るにあたって、とにかく自分の好きな当時の芸術家たちに日本で公衆電話から、掛けまくりました(笑)。ドナルド・リチーや麿赤兒、松本俊夫など……若松監督もそのうちの一人です。
──ご自身の子どもが生まれる前と後ではこの映画に対して想いが変わったことなどはありますか?
子どもが生まれたことによって自分の人生が180度変わりました。自分の子どもを置き去りにして、革命に走ることは自分だったら出来ない。ウルリケはベティーナが幼少の頃に母娘の関係を断って去っていくわけですよね。そうやって絆を断ち切るということは到底できないですね。子どもに関していえば、ベティーナも子どもが生まれたからこそ、自分の母親を違う目で見ることができ、過去は過去として置いて、新しい目で新しいものにエネルギーを集中できる。子どもというのはそういう力があると思う。房子さんは中東に行ってメイさんを産んだことによって、前向きな未来を考えられたのではないかなと。
──この時代を通して、私たちが学ぶべきことはなんだと思いますか。
この映画では社会運動自体の歴史を描いています。その大きな運動のなかで何ができたか、できなかったか、彼らはどんな間違いを犯したのか、どういうことが教訓として得られるのか、ということがわかると思います。それは今日起きている問題と密接に関係しているはずです。どの世代の人であっても、今の自分がいる社会と結びつけて考えられるきっかけになれば嬉しいです。
(オフィシャル・インタビューより)
シェーン・オサリバン プロフィール
1969年7月12日生まれ。ロンドンを拠点に活躍するアイルランド人のドキュメンタリー映画作家。これまで『RFKマスト・ダイ』(原題)(08)、『革命の子どもたち』(11) 、『キリング・オズワルド』(原題)(13)という政治史に焦点をあてた3作の長編ドキュメンタリーを製作している。また、ポル・ポトとジャン=リュック・ゴダールを扱ったテレビドキュメンタリー番組や『セカンド・ジェネレーション』(原題)という長編劇映画も監督している。2008年には、『Who Killed Bobby? The Unsolved Murder of Robert F. Kennedy』(誰がボビーを殺したか?未解決のロバート・F・ケネディ殺人事件)という本を執筆しており、最近ではローハンプトン大学で映画学の博士号を取得した。大学を卒業したのち2年間日本に住んでいたが、その時、ビースティ・ボーイズのライブで知り合った日本人女性と結婚し、現在は妻と娘と共にロンドンで暮らしている。
映画『革命の子どもたち』より © Transmission Films 2011
映画『革命の子どもたち』
7月5日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
監督・プロデューサー: シェーン・オサリバン
出演:重信房子、重信メイ、ウルリケ・マインホフ、ベティ―ナ・ロール、足立正生、塩見孝也、大谷恭子 他
Special Thanks:若松プロダクション
配給・宣伝:太秦
2011年/イギリス/カラー/HD/88分
© Transmission Films 2011
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