映画『女の穴』より、©ふみふみこ/徳間書店・2014映画「女の穴」製作委員会
漫画家・ふみふみこの原作を実写化した映画『女の穴』が6月28日(土)より公開される。監督を務めたのは『ユリ子のアロマ』『オチキ』『うそつきパラドクス』などで飄々としたなかに人間ののっぴきならないエゴイズムとエロティシズムを描いてきた吉田浩太。女子高生の姿で「子どもを作りたい」と男性教師に迫る宇宙人を描く「女の穴」、そしてゲイの中年教師の弱みを握り偏愛し続ける優等生の物語「女の豚」というふたつのエピソードを、暴走する登場人物たちの性への欲望や虚無を軸にユーモア溢れるエイターテイメントとして仕上げている。浅野いにおや曽我部恵一といったクリエイターからも賛辞を寄せられる、ふみふみこの原作をどのようなアプローチで映画化を試みたのか、吉田監督が語った。
女性が見てほどよいエロスを目指した
──まず、原作「女の穴」との出会いから聞かせてください。
僕は、今までの作品でちょっとエロティックなというか、性を題材にした作品が多くて。最初に単行本の表紙とタイトルに反応してしまったんですね。本を読んでみたら、反応したのは間違いなかったと感じました。描かれているものがエロティックなものだけではなくて、マイノリティの話であるとか、今までの自分の作品に近しいものを感じて、ぜひやりたいと制作会社に持ち込んだのがきっかけです。発売されてすぐのことでした。
やはり最初はタイトルですね。ストレートなタイトルが好きなんですが、「女の穴」はやはりインパクトがありました。ふみふみこ先生の漫画では、「ぼくらのへんたい」、このタイトルも非常にすばらしいと思っています。
映画『女の穴』の吉田浩太監督
──これまでも性に対して抱え込んだ人たちを描いた吉田監督が映画化されると聞いたときは、腑に落ちるものがありました。漫画の実写化に対しては、どのようなアプローチを試みようと思いましたか?
原作の「女の穴」には単行本のなかに3つのエピソードがあって、死んだ兄が女子高生の頭の後ろに取り憑いてしまう「女の頭」はちょっと映像的に難しいのかなと。CGだと予算の兼ね合いなどでチャチくなってしまいそうですし。お兄ちゃんにバックで攻められるというシーンはすごくやりたかったんですけども(笑)。それよりも「女の穴」「女の豚」のエピソードで詰めていこうと作っていきました。
──ふみふみこさんの原作はかわいらしいタッチとえぐい話の絶妙なバランスも大きいですが、実写でやるにあたってはそのバランスというのは難しかったのでは?
うーん、そこまで考えてなかったですけど、たしかに実写にすると生々しいものが映ってしまうというのはありますが、普段僕が濡れ場のシーンとか撮ってもそこまで生々しくならないんですよね。なんでだろうなぁ、自分でも不思議なんですけど。それで、そのスタンスでいけば大丈夫なんじゃないかなと思っていました。あと今回はエロティックな描写よりもドラマの部分で見せていきたいなと思っていました。
ふみふみこによる漫画『女の穴』(リュウコミックス)
──デビューから一貫してエロティックだけれど切ない作品にこだわるわけとは?
セックスというのが、僕の大きなテーマなんだと思います。僕は童貞を捨てるのが遅くて、24歳だったんですね。セックスがなかなかうまくいかなくて、そこをなんとかしたというものが、多分作品に表れちゃうんですね。
これまで自主映画やワークショップの映画などいろいろ手がけてきた中で、エロくなくていいのにエロくなっちゃうんですよ。そんなシーン作らなくていいのに、そういうシーン入れたら大変になるに決まってるのに、でも手コキにいく、みたいになっちゃう(笑)。
──『女の穴』はエロよりも男性のロマンティシズムだったり、かわいらしいほうが印象として残りますね。だからこそ「そんなにエロくない」という表現になるのかもしれないです。
女性に見てもらいたいなと思って作ったんですよね。女性が見てほどよいエロスを目指しました。
映画『女の穴』より、福田先生(小林ユウキチ)と幸子(市橋直歩) ©ふみふみこ/徳間書店・2014映画「女の穴」製作委員会
想いの届かない「広域な他者」がテーマ
──俳優さんについてはどのような演出を?
女優さんを演出するとき、必要な時には追いつめます。女優さんのほうが追いつめた時になにか表れる瞬間というのがたくさんあって、それは俳優より女優のほうが圧倒的にあるんです。何かを超えた瞬間のパワーというのはすごいので、その瞬間を狙わなくてはいけないシーンがたくさんあると大変です。
男優さんについては、原作の「女の穴」では男性がすごくドライに描かれているんですが、今回は小林ユウキチくんがそのドライな部分をリアリティをもって具現化してくれているんじゃないでしょうか。僕はとにかく「だらしなく立ってくれ」しか言ってないんで(笑)。
──監督は今回どのキャラクターに一番共感しましたか?
やっぱり小林ユウキチ演じる福田先生ですかね。福田に感情移入して描いていました。僕も早漏なんで(笑)、福田が幸子に支配されすぐにイってしまうのは、非常に共感します。早漏を克服しようとする男を題材にした『ソーローなんてくだらない』という作品も撮っていますし、自分のアイデンティティは早漏しかないので……すいません。
映画『女の穴』より、小鳩(石川優実)と村田先生(酒井敏也) ©ふみふみこ/徳間書店・2014映画「女の穴」製作委員会
──原作から引き継いだ設定で、一番大事にされた点は?
原作を読んで、ふみふみこ先生は「視点」の方だなと思ったんです。それぞれの想いが一方通行の片思いであって、それは必ずしも相手には届かない、それが特徴だと思いました。映画の「女の穴」でもそれを実践しました。映画的には視線を合わせないのが大事だと思っていて、視線を合わせない立ち方と、視線を合わせたときには、カットバックで視線を合わせないようにイマジナリーラインを超えた映画表現を意識しました。だから「女の豚」の小鳩(石川優実)と村田先生(酒井敏也)は、ほとんど視線が交わっていないんです。
映画化するときには、原作にとらわれすぎない方がいいとは思うんです。原作を脚本化したときに、元の本が必要としているものを、映画の中でオリジナルとして作っていく作業をするようにしています。
──では最後に、タイトルにもある「穴」が象徴するものとはなんでしょうか?
他者との関係かなと思ったんですね。それはやっぱり自分の想いが届かないという他者への想いが、深くてミステリアスな部分まで行ってしまう気がして。「女の穴」だけでなく「女の豚」でもやっぱり相手のことがわからないというところがテーマとしては繋がっているなと思ったんです。それは異性に限らず、他者という広域なテーマなんだと思います。
(6月7日新宿ロフトプラスワンにて行われた『女の穴』公開記念トーク・イベントより)
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吉田浩太 プロフィール
1978年生まれ、東京都出身。ENBUゼミナールにて篠原哲雄監督・豊島圭介監督に師事。『お姉ちゃん、弟といく』(2006)が国内外の映画祭で注目を集める。その後、若年性脳梗塞による闘病生活を経て『ユリ子のアロマ』(2010)で復帰。その他の監督作に『ソーローなんてくだらない』(2011)『オチキ』(2012)『きたなくて、めんどくさい、あなたに』(2012)『うそつきパラドクス』(2013)などがある。
映画『女の穴』より©ふみふみこ/徳間書店・2014映画「女の穴」製作委員会
映画『女の穴』
6月28日(土)より渋谷ユーロスペース他全国ロードショー
高校卒業も迫る冬。生徒たちが集まり、卒業アルバム製作委員会が開かれる。生徒の中には鈴木幸子、まじめな萩本小鳩、イケメンの取手衛らがいる。委員長の幸子は担当教諭の福田に「私と子供を作ってくれませんか?」と持ちかける。宇宙人で、地球人との子供を作るよう命じられているという。初めて交わった福田は穴に落ちるような不思議な感覚にとらわれ……。一方、男子生徒・取手に想いを寄せる村田は、夜の教室で彼の机を愛でるのが日課。しかしそれを萩本小鳩に見つかり、以来彼女の豚として調教されるのだった。そんな毎日に耐えかねた村田は小鳩を拒否するが、彼女の村田への狂おしいまでの想いは、鬼となって、暴走を始めていた……。
監督:吉田浩太
出演:市橋直歩、石川優実、小林ユウキチ、布施紀行、青木佳音/酒井敏也
製作:バップ、アイエス・フィールド、徳間書店、ダブ
製作プロダクション:ダブ
配給・宣伝:アイエス・フィールド/アルゴ・ピクチャーズ
2014/95分/カラー/ビスタビジョン/R-15
公式サイト:http://onnanoana.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/onnanoana
公式Twitter:https://twitter.com/onna_no_ana
【舞台あいさつ】
6月28日(土)18:00~
横浜・シネマ・ジャック&ベティ
登壇者=市橋直歩、石川優実、吉田浩太監督 MC:ジェントル
6月28日(土)21:00~
東京・渋谷ユーロスペース
登壇者=市橋直歩、石川優実、青木佳音、小林ユウキチ、布施紀行(予定)、吉田浩太監督 MC:ジェントル
6月29日(日)18:15~
名古屋・シネマスコーレ(052-452-6036)
登壇者:市橋直歩、石川優実
【イベント】
7月2日(水)※全メディア同時公開日<上映後>
市橋直歩×石川優実×青木佳音×吉田浩太監督ほか予定 MC:ジェントル
7月3日(木)【男の穴デー】<上映後>
真山明大×吉田浩太監督×大森氏勝(角川書店)×行実良(VAP) MC:ジェントル
7月7日(月)<上映後>
市橋直歩×佐々木心音(ゲスト)×吉田浩太監督 MC:ジェントル
7月11日(金)<上映後>
石川優実×森下くるみ(ゲスト)×吉田浩太監督 MC:ジェントル
※全て東京・渋谷ユーロスペースにて開催
http://www.eurospace.co.jp/detail.html?no=568