骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-06-16 10:00


ヴィンセント・ムーンが日本の音楽を探求する映画『響・HIBIKI』クラウドファンド実施中

「インフォメーションよりイマジネーション、詩的な力を取り戻すことが必要です」
ヴィンセント・ムーンが日本の音楽を探求する映画『響・HIBIKI』クラウドファンド実施中

クラウドファンディングサイトMotionGalleryとwebDICEとの連動連載第4弾は、映像作家ヴィンセント・ムーンが日本の知られざる音楽に焦点を当て製作する長編ドキュメンタリー映画『響・HIBIKI』の撮影を実現するためのプロジェクトを紹介、来日したヴィンセント・ムーンに話を聞いた。

このプロジェクトでは、日本に存在する根源的な音を探して、アイヌのユーカラ、琉球民謡のような日本各地に伝わる伝統音楽や仏教儀式の和讃などの宗教儀式から、ノイズミュージックのような現代音楽までを縦横無尽に横断し撮影を行なう予定だという。彼の名が知られるきっかけとなった「TAKE AWAY SHOWS」をはじめ、街中で突然行われる即興演奏のように、映像も即興でカメラに収めるこという撮影スタイルにこだわり続けてきた彼が、日本でどのような撮影を準備しているのか、語ってくれた。

今回のプロジェクトでは2,000,000円を目標に、2014月10月7日23:59までクラウドファンディングを行なう。応援チケットの価格によりプレゼントが用意されており、映画鑑賞券や彼が行った世界各地でのフィールド・レコーディングを用いたオリジナル・ミックス音源のほか、30,000円以上の協力で、ヴィンセント・ムーンによる東京での二日間のワークショップに招待、200,000円以上の協力で東京でヴィンセント・ムーンとプライベートで酒を酌み交わす権利、500,000円以上の協力でヴィンセント・ムーンがあなたの家で上映会を開いてくれる権利、といった特典が用意されている。

詳細はMotionGalleryのプロジェクト・ページまで。

また下高井戸シネマでは6月21日(土)より、彼が世界を旅して撮りためた音楽フィルムをはじめ、これまで手がけたプログラムTake Away ShowsシリーズやロックフェスATPの記録フィルムなども含む特集上映が行われる。

ヴィンセント・ムーン インタビュー
「僕のアプローチは“エクスペリメンタル民俗学”」

──『響・HIBIKI』について、単に土着的な音楽を記録するのではなく、伝統音楽を若い世代がどのように再生しているのかを探る、という点が、人類学的でない視点で興味深いと思いました。これには、あなたがポップ・ミュージックのドキュメンタリーからスタートしたことと関係あるのでしょうか?

確かにそうかもしれないですね。僕にはアカデミックなバックグラウンドがありません。もちろん、民族音楽学そのものをはじめ、アラン・ローマックス[米国の音楽学者。1915-2002]の仕事を含めたフィールド・レコーディング全般に関心はありました。ただ、今はポケットにレコーダーを忍ばせるだけで、誰でもアラン・ローマックスになれる時代です。フィールド・レコーディングという方法ですべてを記録する行為は、ある意味、文化を救うカギだと思うのです。僕のアプローチはポップというより詩的であり実験的で、自分では“エクスペリメンタル民俗学”と呼んでいます。

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ヴィンセント・ムーン

僕が気がかりに感じているのは、現代の情報量の多さです。この20年で、どれだけアクセス可能な情報が増えたことか。もちろん、使い方さえ間違えなければいいのですが、あまりの情報量の多さに色んなレベルで麻痺が起きているのが現状だと思います。だから、できるかぎり詩的なアート作品を……、あまり「アート」という言葉は好きではありませんが、そうしたものを創造していくことが大切だと思います。詩的な力を取り戻すことが、言い換えれば、想像力を再び手にすることが、重要になってきているのではないでしょうか。インフォメーションがイマジネーションより勝ってしまっているので、そのバランスを正す必要があると感じるのです。

だから僕は、この情報があふれた世界に対して詩的なアプローチを試みて、情報に浸っていない、それ自身を説明しない作品を創造したいと思っています。それゆえ僕の映像作品には説明がありません。これはテレビというフォーマットにも対抗することになります。テレビの言語は説明過多で想像力を奪います。僕がこの『響・HIBIKI』プロジェクトでやりたいのは、観る人が自分で考える力や想像力を養えるような作品を創ることです。

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『Take Away Show #104 _ TOMI LEBRERO』より

──3月のアップルストア銀座でのトークで、ボアダムスと山塚アイ氏の音楽を知ったのが日本の音楽のシャーマニックな部分に触れるきっかけだと話していましたが、彼の音楽に対する印象を教えてください。

彼の音楽は定義を広げるものであるというか、ジャンルやカテゴリーを超えていますね。そして現代的な手法で、古代音楽に通じる何かに触れていると思います。いまやシャーマニズムは多くの新しい形態にとってかわっていますが、中でも実験音楽はかなりシャーマニックです。そして僕には日本古来の音楽と、ボアダムスの音楽との間には、とても近いつながりがあるように思えます。

──具体的に今後どのような取材・撮影・発表のスケジュールを考えていますか?

今はリサーチしている段階で、撮影は2015年から2016年にかけて3ヵ月ほどかけて行うつもりです。撮影は、沖縄から出発して北海道に行こうと考えています。できるだけいろんな場所に行って、地元に伝わる音楽を探究したいと思っています。作品の公開については、撮影終了後1年以内の完成を目指しています。上映時期も方法もまったく未定ですが、いろんな可能性があると思うので今からワクワクしています。僕はこれまでもずっと、一般的な方法では映像作品を公開してきていません。別のやり方はいくらでもあるということを提示したいからです。いつも人々とシェアできたり交流できるようなかたちで映像を発表しています。たとえば、デンマークのバンド、エフタークラングのドキュメンタリー『AN ISLAND』は、観たい人がウェブから申し込んで上映を企画する自主上映(“プライベート・パブリック・スクリーニング”)にしましたが、とても成功しました。

──その『AN ISLAND』を自主上映方式で発表したのは、バンド側からの希望だったのですか?

彼らと一緒に話している中でメンバーの一人から提案があって、「それはいいね」ということで決まりました。とてもくつろいだ、親密な雰囲気の上映会になりました。他の作品についても、広い場所ではなく小さな空間で、なんとなくお互いの近さを感じる中で観てもらう方が、自分としては嬉しいです。

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エフタークラング『AN ISLAND』より © Antje Taiga Jandrig

──デジタル時代の上映方法として、これから実験してみたいことはありますか?

『響・HIBIKI』プロジェクトでやってみたいと思っているのは、屋外での上映です。プロジェクターとスピーカーを持っていって、訪れた土地で道ばたの塀などに映写するのです。移動サーカスのように毎晩、たどり着いた町で、「素敵な映画を上映していますよ、観に来てください!」と呼び込みをして。道ばたなど公共の場を今の時代にどう使えるかは、日頃から考えています。

──あなたの作品は、画面が動いているのに、音はぶれずにしっかり聞こえますが、どのように録音されているのですか?撮影クルーは、いつも何名くらいなのですか?

基本的に僕一人で、通訳してくれる人やマイクを持ってくれる人もいますが、クルーはいません。あとは地元の人たちがいるだけです。いつも2~3つの小さいズームマイクを使っています。カメラを回す前に、サウンドチェックして正しい位置にマイクをセットします。ちゃんと音が拾えているか確認できれば、あとはカメラだけに集中できるので。たいてい自分一人で全部やります。

──日本で映像作家を目指す多くの若いクリエイターが、どのように制作テーマを見つけるか、そしてどのように被写体に向き合うべきか、そしてどのように発表、上映をしたらいいか悩んでいます。彼らになにかアドバイスがあればお願いします。

僕の場合は、いつも地域に根ざしたやり方で、地元の人たちと一緒にDIY的に作っています。テーマも即興的で、自分が何がやりたいかといえば、とにかく撮影がしたい。だから考える前に撮り、撮影後なぜこれを撮ったのか考えます。それと、若い人はお金がないことをプラスにすべきです。「どうやったら映画を安く作れるか」を考えるのは非常に楽しいことです。最新機材がなくたって、iPhoneやICレコーダーだけでも何かできます。可能性がありすぎても、逆にやりたいことが見えなくなるので、制限された中でできることを考えるといいのではないでしょうか。

──今回の来日では、日本の若いミュージシャンと知り合う機会はありましたか?もし「あなたに撮ってほしい」という意欲的な若いミュージシャンが名乗り出たらどうしますか?

これからですね。ただ、単に意欲的な人というだけでは撮りません。僕が気に入る音楽を奏でている人であれば、考えたいと思います。

──このクラウドファンディングのプロジェクトでは、あなたとプライベートで酒を酌み交わす権利や、ファンドをしてくれた人の家で上映会を開いてくれる権利など、協力してくれる人たちと密に交流できる機会が設けられていますね。

いいアイディアでしょう?(笑)僕は日本の人々と一緒に日本の音楽について考えてみたい。そのために、知人友人を集めて一緒にお酒を飲んだり、たくさん話をしながら作り上げていきたいと思っているんです。

(2014年3月29日、渋谷アップリンクにて 取材・文:駒井憲嗣 通訳:隅井直子)

ブラジル/ベレンのファベーラ出身。テクノ・ブレーガ系女性シンガー、ガビ・アマラントスの裏路地でのライブ
日本/『TAKE AWAY SHOW』より、友川カズキを撮ったフッテージ



ヴィンセント・ムーン プロフィール

パリ出身。フランス発の音楽情報サイトLa Blogothequeのためにシネマ・ヴェリテの手法(作り手の存在が映画から排除される虚構上のトリックを排し、映像の作り手が被写体の人々と関わる行為そのものをも記録し、映画をより真実に近づけようとする手法)によって制作された作品の数々でその名を知られるようになる。2006年以来、R.E.M、シガー・ロス、アーケイドファイアなど著名なミュージシャンの即興パフォーマンスを記録した音楽映像ウェブ配信シリーズTake Away Showsや、アーティストの長編ポートレイト映画など、膨大な数の音楽ドキュメンタリーを制作。2009年11月、コペンハーゲンドキュメンタリー国際映画祭で、ワールドプレミアとして上映された日本のフォーク歌手、友川カズキのドキュメンタリー映画『花々の過失』は「音と映像部門」最優秀賞を受賞し、大きな話題を呼んだ。2008年からは遊牧民のごとくカメラひとつで世界を旅し、現地の伝統音楽から宗教的な儀式、新しい実験音楽までを幅広く探求し映像を制作。オルタナティブなインディーズ・ミュージックシーンの撮影から始まったこれらの旅の記録映像は、彼の生涯をかけたノマディック・フィルムメイキングプロジェクトとしてウェブ上で公開され、また世界各地でフィールド録音された音源は、自身のレーベルであるCollection Petites Planetesより配信されている。
公式ウェブサイト:http://www.vincentmoon.com/
Collection Petites Planetes:http://petitesplanetes.bandcamp.com/




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『collection petites planètes • volume 12 • THALMA & LAÉRCIO DE FREITAS』より

『旅する映像詩人 ヴィンセント・ムーンの世界』
Nomadic Filmmaker - The World of VINCENT MOON
下高井戸シネマにて
2014年6月21日(土)~27日(金)上映

プログラム:
21(土)「ウクライナ・クリミア・コーカサス(ウクライナ、クリミア、チェチェン、アルメニア、アゼルバイジャン、アブハジア、グルジア)」Ukraine・Crimea・Armenia・Azerbaijan・Abkhazia・Georgia 民族が複雑に入り組む地に響き渡るハーモニー、郷愁
22(日)「地中海~アフリカ(フランス、スペイン、サルデーニャ、トルコ、エジプト、タンザニア、エチオピア)」France・Spain・Sardinia・Turkey・Egypt・Tanzania・Ethiopia
多様な文化の入り混じる土地で生まれた、生活と祈りの音楽
23(月)「ブラジル」Brazil
音楽の生まれた街、音楽が育った路地裏
24(火)「南米(アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビア)」Argentina・Chile・Peru・Colombia アンデスから海岸へ、南米ニューエイジのモダンフォルクローレ
25(水)「アジア(インドネシア、フィリピン、香港、大阪)」Indonesia・Philippines・Hong Kong・Osaka 失われつつある民族文化と、街の雑踏に灯る音楽の力
26(木)「ヨーロッパ(フランス、チェコ、ドイツ)」France・Czech・Germany
痛切なまでに美しい音楽家の肖像
27(金)「ロックフェスATPのドキュメンタリーフィルムとTake Away Shows 傑作選」
連日19:00より一回上映
料金:1,000円均一

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