映画『サード・パーソン』より © Corsan 2013 all rights reserved
『クラッシュ』のポール・ハギス監督の新作『サード・パーソン』が6月20日(金)より公開される。パリからローマ、ニューヨークと3つの都市で4日間にわたり繰り広げられる3組のカップルの愛と人間関係をミステリアスに描いている。
ある事件を発端に妻と別居し、若い新進作家(オリヴィア・ワイルド)と不倫をしながら新作を書きあぐねている小説家(リアム・ニーソン)の物語を拠点に、異国の地で偶然出会ったロマ族の女性(モラン・アティアス)に心惹かれ、騙されているかもしれないと疑いながら全財産をなげうとうとする怪しげなビジネスマン(エイドリアン・ブロディ)、そして息子に暴力をふるったとして親権を奪われた元女優(ミラ・クニス)と彼の夫(ジェームズ・フランコ)、最初は繋がらそうに思われる3組の人間関係が収斂されていく結末に注目してほしい。
『007 カジノ・ロワイヤル』『007 慰めの報酬』などで脚本家としても活躍し、卓越した構成力で知られるハギス監督が、この3部構成の群像劇をどのように組み立てていったのか、脚本完成までの過程やキャスティングについて語った。
50回草稿を書いた脚本
──最初に、今作制作のきっかけから教えてください。
僕と製作パートナーのマイケル・ノジックは15年来の友人であり、2007年にHWY 61という会社を設立し、2010年にはじめての映画『スリーデイズ』を作った。この『スリーデイズ』の撮影が終了して数日のうちに、この映画の制作の構想がはじまった。『クラッシュ』をもとにしたテレビシリーズに出演し、本作ではモニカを演じたモラン・アティアスから「愛と人間関係について複数のプロットを持つ映画脚本を書いてみてはどうか?」と提案を受けたんだ。
映画『サード・パーソン』のポール・ハギス監督
──3組の男女のキャスティングのうち、脚本を読んではじめに手を挙げたのはリーアム・ニーソンとオリヴィア・ワイルドだそうですね。
最初にアプローチしたのは、パリ編でピューリッツァー賞受賞作家マイケルを演じたリーアム・ニーソンだ。妻と別居中の彼と不倫している作家志望のアンナ役のオリヴィア・ワイルドも、かなり初期から考えていた。彼女とは3回仕事をしていて、僕は同じ女優と仕事するのが好きなんだ。ふたりが「イエス」と答えてくれてから、そのほかの俳優たちからも、非常にポジティブな反応が集まりはじめた。なかでもエイドリアン・ブロディは、ローマで仕事中に出会った信頼していいのかわからない女性の魔法にかかり、そして車で連れまわされることになる疑り深いアメリカ人の役だが、最高のキャスティングだったと思う。
映画『サード・パーソン』より、パリ編に出演するリーアム・ニーソン(右)とオリヴィア・ワイルド(左) © Corsan 2013 all rights reserved
──これまで書いた脚本のなかで、本作が最も難しかったと聞いています。
複雑なキャラクターたちを探求することを楽しみながらも、時間をかけてゆっくりと形にしていった。50回くらいは草稿を書いたはずだ。間違った方向に進んでは最初からやり直し、自分でこれでいいだろうと思うまでに2年半、週に6日、1日に6~8時間かけて書き直した。マイケルやモラン、そして共同プロデューサーのひとり、デボラ・レナードからたくさんのメモを受け取ったよ。いくつかは取り込み、いくつかはやってみたのちに断念し、いくつかは却下した。でもメモには理由がある。だから、僕は根気よく続けた。それにもちろん、製作中も編集中も僕は脚本にあれこれ手を加え続けた。実際、音楽を録音するまでずっとやっていたよ。
映画『サード・パーソン』より、ニューヨーク編のミラ・クニス © Corsan 2013 all rights reserved
──脚本に時間がかかった理由は何だったのでしょうか?
書き方を完全に間違えていた。反対のことをしていたんだ。僕はキャラクターたちに物語が向かう先を教えてもらおうとしたが、彼らが僕に語りかけることは少なかった。もっとひどいことに、彼らは僕にウソをついたんだ。
映画ではあまり見かけない設定だが、人はしばしば自分の要求とは正反対の行動に出ることがある。でもそれ自体にはほとんど意味がないんだ。友人を見て「どうして彼女はあんな最悪な男と一緒にいるのだろう?」と何度思うことか。その逆もしかり。時に彼らは余りにも近すぎて僕たちには火を見るより明らかなことが見えていない。僕たちに明らかなことが、彼らにはただの幻想に過ぎない。僕たちはひどい女が優しい男を利用していると思う。でも実際には、その優しい男は自分の残酷な目的を隠して利用されているだけなのかもしれないんだ。
僕は、自分には答えることのできない、人間関係についてのあらゆる種類の質問をあげてみた。「“どうしようもない”人間にどう対処するのか?」「彼らを変えることで自分の必要なものを得られるのか?」「彼らを自分が愛せないような人間に変えることはできるのか?」「あるいはもし誰かが自分にウソをついていると知った時、どういう選択をするか?」「全く信用ならない人間を信頼してしまったら、どんなことが起こるのか?」「完ぺきな信念を変えられるのか?」「人は自分にしみ込んだ美徳や罪を具現化できるのか?」「愛を諦めることが本当の勝利なのか?」「あるいは、エゴが警鐘を鳴らすように、勝利はただ残酷極まりない微笑を浮かべて歩き去るだけなのか?」「あるいは、間違った人間と恋に落ちる悪運をもつ人はどのくらいいるのか?その間違った相手が本当は正しい相手ではないのか?我々がそれを認識できないだけなのでは?」。こういう人間関係の質問に答えられる人もいるだろうが、僕はその“どうしようもない”人間の一人なのかもしれない。
映画『サード・パーソン』より、ローマ編のエイドリアン・ブロディ(中央) © Corsan 2013 all rights reserved
直感的に脚本を書いて、それうまく伝えること
──物語はパリ、ローマ、ニューヨークで展開されますが、実際にはローマだけで撮影して3都市を再現したとのことですが、その理由は?
もともとはニューヨーク、ロンドン、ローマで撮影する予定だった。制作が始まると、1都市で撮影を集約する方が良いことがわかった。スタッフも皆イタリアにいるし、ちょうどイタリア・パートはローマから南部へ移動するストーリーだから、景色も撮れる。都合が良かった。インディペンデントの映画ではあちこちは行っていられないから、1都市で3つを再現しようと決め、それをスタッフが実現してくれたんだ。イタリアにはフランス系の建築も見られるから、設定をロンドンからパリに変更した。ニューヨークはどうなるかと思ったけど、バックロットにセットを建設してブルックリンの町並みを作り上げたんだ。撮影は楽だったよ。
──『サード・パーソン』というタイトルにはどんな意味があるのですか?
どんな人間関係にも必ず第三者が関わる。その場にいる、いないに関わらずね。またリーアム・ニーソン演じるマイケルという人物のことでもあって、己の感情を退けるもう一人の自分がいたり、彼は実際に日記を三人称(サード・パーソン)で書いている。いろんな意味を持っているタイトルなんだ。
──この3組の男女の人間関係が錯綜する物語において、あなたが感じるいちばん重要な部分を教えてください。
僕はいつも同じことを念頭に置いている。直感的に脚本を書いて、それうまく伝えること。僕自身を悩ませ、自分も理解できない題材を描くことが好きだ。この作品では「人間関係」だね。基本的には人間関係の始まり、半ば、終末を描きたかったんだ。そしてその3つがストーリー中で絡み合うのさ。
(オフィシャル・インタビューより)
ポール・ハギス プロフィール
1953年、カナダ、オンタリオ州生まれ。脚本を担当した『ミリオンダラー・ベイビー』(04/クリント・イーストウッド監督)と自身が監督も務めた『クラッシュ』(04)が2年連続で米アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、2006年に2つの同賞最優秀作品賞受賞作を手がけた史上初の脚本家となった。『クラッシュ』では、同賞最優秀脚本賞も受賞し、さらに監督賞を含む4部門にノミネートされた。06年、脚本を手がけた作品にクリント・イーストウッド監督の2部作『父親たちの星条旗』および『硫黄島からの手紙』がある。後者の脚本では、3度目となる米アカデミー賞ノミネートを獲得した。また同年、『007/カジノ・ロワイヤル』の共同脚本も担当し、「ジェームズ・ボンド」スパイシリーズを甦らせたとして称賛を浴びた。テレビシリーズ「crash クラッシュ」シーズン1、2では 製作総指揮を務めた。
映画『サード・パーソン』より、ニューヨーク編のジェームズ・フランコ © Corsan 2013 all rights reserved
映画『サード・パーソン』
6月20日(金) TOHOシネマズ 日本橋ほか全国ロードショー
パリ。最新小説を書き終えるために、ホテルのスイートルームにこもって仕事をしている、ピューリッツァー賞受賞作家のマイケル。妻エイレンとは別居して、野心的な作家志望のアンナと不倫関係にあるが、アンナにも秘密の恋人がいる。
ローマ。いかがわしいアメリカ人ビジネスマンのスコットは、あるバーで美しいエキゾチックな女性に一瞬にして目を奪われたスコットは、彼女が娘と久しぶりに再会しようとしていることを知る。
ニューヨーク。昼メロに出演していた元女優のジュリアは、息子をめぐって現代アーティストである元夫のリックと親権争いの真っ最中だった。経済的支援をカットされ、膨大な裁判費用を抱えたジュリアは、かつては頻繁に泊まっていた高級ホテルでメイドとして働きはじめる。
監督・脚本・製作:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン、ミラ・クニス、エイドリアン・ブロディ、オリヴィア・ワイルド、ジェームズ・フランコ、モラン・アティアス
製作:マイケル・ノジック、ポール・ブルールズ
美術:ローレンス・ベネット
撮影:ジャン・フィリッポ・コルティチェッリ
衣装:ソヌ・ミシュラ
編集:ジョー・フランシス
音楽:ダリオ・マリアネッリ
2013年/カラー/シネスコ/135分/5.1chデジタル
提供:2014「サード・パーソン」フィルムパートナーズ
配給:プレシディオ/東京テアトル
公式サイト:http://third-person.jp/
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